今日は「1 身近に起こる創発現象」について説明する。
これまで何度も創発の概念に言及してきたが、この節では日常出会われる身近な現象から創発の概念の理解の鍵が得られるような話をしている。
まず北京オリンピックにおけるウサイン・ボルトの驚異的新記録の出現であり、つぎに短距離陸上競走に弱い日本チームによる4×100mリレーによるメダル獲得という快挙である。
これらは創発現象であり、未来に向けて希望を抱かせる突発的出来事である。
ボルトの記録は本人の資質とともに、対抗馬との「競合的協働現象」が深く関わっている。
これをよく理解してほしい。
次に日本チームの快挙には要素の総和を全体性が乗り越えるという創発現象の一面を示唆している。
このこともよく理解してほしい。
必ずしも1+1=2にならないのが「現実世界」であり、そうなるのは主に算数の教科書内である。
また(a+b)²の解はa²+b²ではなくて、a²+2ab+b²である。
我々は物事を考える際、あるいは現象を解釈する際、ついこの「2ab」の存在を忘れてしまう。
そうならないように注意しよう。
次にA子とB男が出合い、恋に落ち、結婚に至る過程に遺伝子決定論は通用するか、という話が出てくる。
一時期軽薄に一世を風靡した遺伝子決定論だが、その後エピジェネティクスによって大幅に修正された。
言うまでもなく、ある男性と女性が出合い、恋に落ち、結婚に至るのは、偶然であり、遺伝子決定論などで説明できない。
そのためには創発的社会生物学の観点が必要となる。
問題は、なぜ我々が遺伝子決定論のようなものにハマってしまうか、ということである。
それは、物質や生理の世界も創発的要素が多いのに、簡単に割り切ろうとする軽薄な思考に人はハマりやすいからである。
君もそうだろう。
A子とB男が出合い、恋に落ち、結婚に至ることは、今のところ還元的遺伝生物学が未熟だからであり、それが完熟すれば遺伝子決定論で説明になるはずだ!!
という反論が予想される。
君もそう言いたくならないか?
創発の現象を理解できない人、あるいは誤魔化し的説明だと受け取る人は、だいたいが以上のような短絡的思考にハマって、簡単に物事を済ませたがる。
創発の哲学と科学は、神秘主義的なものなどではなく、より高次の現実把握を目指す、自然主義的なものなのである。
これによって「事実は小説より奇なり」という場合の「事実」が真に合理的な、あるいは柔軟に合理的な思考によって捉えられることになる。
実は、それを君たちは日常頻繁に実践しているのだ!!
してしまっていて、忘れているのだ!!
にゃー(翻訳すると ひゃー)