東大や京大の工学部、あるいは東工大を目指している受験生がそれらに落ちた場合、行先は滑り止めないし併願校の定番・早慶理工となる。
早稲田の理工と慶應の理工は私立の工学部の頂点であり、それなりの価値を有し、国立の上位校と比べても何ら遜色ない。
伝統と実績では早稲田に軍配が上がり、慶應は最近のし上がってきた感がある。
今から20年以上前では早稲田理工は慶応工に大差をつけて、私立工学部の頂点に立っていた。
しかし、その後慶応工学部は理工学部に改編され、次第に実力と実績を増し、慶應ブラントを最大限に引き出しつつ、ついに偏差値で早稲田理工を超えることになる。
偏差値というのは水物で真価を計る絶対的指標たりえないが、一応の目安にはなる。
この偏差値で慶應理工は、先進理工以外の早稲田理工系のみならず、東工大をも超え、京大に追い付く勢いなのである。
しかし、工学系で国立上位と私立の間には壁がある。
設備と研究力が違うからである。
特に旧帝上位と東工大が相手だと慶應理工はかなり分が悪い。
そこで、東大・京大・東工大を目指していても夢かなわず、浪人してもまたしても失敗し、やまなく慶應理工に入学するはめになる。
そのときのガッカリ感は半端ない。
旧帝中位以下だとそこまで落ち込まないし、研究志向でないならば、就職と出世に有利な慶應で満足するであろう。
その他筑波・千葉・神戸・横国あたりだと、まず落ち込まない。
それどころか、それらを蹴って慶應理工を選ぶであろう。
しかし、東大や京大が相手だとガッカリなのである。
ここには私立理工系の悲哀がある。
ただし、同じ私立理系でも医学部となると話は違ってくる。
慶應の医学部は理工学部とは格が違い、上位旧帝の医学部とタメをはれる威光をもっている。
かつて、慶應医学部は東大理Ⅲとともに受験界の頂点に立っており(京大医より毎年上だった)、今でも医学(医療)界において東大とともに全国レベルでトップに立っている。
そこで、東大理Ⅲないし京大医学部を目指しつつ、それがかなわず併願校の慶應に受かった場合、理工の場合とは違って「ガッカリ」というのはまずない。
特に京大や阪大や東北大の場合、それらを蹴ってでも慶應医を選ぶ強者がいるのだ。
かつて日本医師会会長の武見太郎の威光に後押しされていた時は、東大理Ⅲを蹴って慶應医に来る者もいた。
当時の慶應医の学費は初年度300万。次年度から140万。つまり、年間学費140万だったのである。
この学費は私立としてはだんとつに安く、今の理工学部と変わらない(貨幣価値の変動を顧慮しても大した差ではない)。
今でも旧帝医蹴りは一定数おり、2012年には開成から東大理Ⅲ蹴り慶應医進学が出た。
ある人は「東大理Ⅲ(ないし京大医)落ち慶應医は最高の銀メダルだよ」と言っていた。
まさにその通り。
高くなった慶應医の学費が苦にならない者は、あたかも金メダルは逃したが銀メダルをもらったかのように満足できるのである。
たとえば、早慶にほとんど関心のない灘高校でも慶應医だけは尊敬しており、毎年一定数の合格者を出している。
今年度は10人であった(筑駒、開成に続いて第3位)。
医科歯科に見向きもしないで、関東では慶應医だけ受け、2-3人だが入学するのである。
これも「最高の銀メダル」の証である。