先日、天野篤さんの『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)と和田秀樹さんの『東大の大罪』(朝日新書)を買った。
天野さんは埼玉県立浦和高校→3浪→日大医学部→亀田総合病院→新東京病院→昭和大学循環器センター長・教授→順天堂大学医学部心臓血管外科教授→天皇陛下心臓バイパス手術大成功→国民的英雄→順天堂大学医学部付属病院(順天堂医院)院長
和田さんは灘高校→現役で東大理科Ⅲ類合格→東大医学部卒業→東北大学医学部大学院修了(精神医学で博士号)→精神科クリニックと受験指導ゼミナールを経営、国際医療福祉大学大学院教授→2chなどで批判の対象
この経歴を比べると、大学卒業までは和田さんの方がエリートコースまっしぐらという感じである。
しかし、卒業後は天野さんの方が一気に上昇していった。
日大卒の天野さんと東大卒の和田さんはどこで差がついたのであろうか。
普通、日大と東大というと、東大>>>>明治>>日大という格差観が定着している。
しかし、日大でも医学部は別格である。
そこで、日大医学部と東大を比べると、東大理Ⅲ・医学部>>慈恵医大=東大理Ⅱ・理学部>日大医学部>早慶理工=東大文Ⅲ>>>>明治>>日大、となる。
それゆえ天野さんの「非エリート」というマスコミ的レッテルは信用できない。
そもそも天野さんは埼玉県トップの埼大付属中→県立浦和高に410中60位で合格である。
そのころの浦和高校は東大に毎年70人前後の合格者を出していたから、これで天野さんの地頭の良さが分かると思う。
とはいえ、和田さんはもっとすごい。
日本一の進学校・灘高校から日本一の難関・東大理Ⅲに現役合格である。
この時点で偏差値的には、和田さん>>>天野さんである。
天野さんだって、順調にいけば、一浪ぐらいで群馬大医学部とか秋田大医学部、二浪で医科歯科や千葉大医学部に入れたであろう。
浦和高校に60位で入学ならそれは普通である。
少し高校や受験の勉強を手抜きしても一浪で都内私大医学部には入れたであろう(当時、私大医入学にはコネが必要だったが)。
しかし、天野さんは高校入試の結果がよかったことに安心して、高校時代スキーなどに熱中して、あまり勉強せず、どんどん成績が落ちて行った。
また浪人時代も受験勉強に集中できず、パチンコや麻雀に熱中する始末。
しかし、浪人を繰り返すうちに、何としても次は医学部に入ろうと思い、三浪して日大医学部に合格、というか引っかかった。
ここで「落ちこぼれ意識」が天野さんの頭に刷り込まれたが、医学の専門の勉強が始まると一念発起、猛烈に勉強し始めた。
卒後も心臓外科の手術の訓練に明け暮れた。
そうこうしているうちに、国内でナンバー1の心臓外科医になっていたのである。
そして今の名声である。
それに対して、天下の灘校からこれまた天下の東大理Ⅲ・医学部へと順調に進んだ和田さんは、精神医学を専攻したが、そのうちでもマイナーな精神分析系を専門としたので、医学部精神科の主流から外れ、よくある文筆業兼任のクリニック医者になった。
テレビにもよく出演しているが、医者(精神科医)としての評価はあまり高くない。
むしろ、彼には灘校→東大医学部卒という学歴を売り物にするタレント精神科医というイメージがぴったりである。
結論として、人間としての偉大さ、人生の勝利者度、医者としての格は、天野さん>>>和田さんである。
私も、高校を中退して(中退前の志望は東北大理ないし筑波大自然学類)、21歳で偏差値が中位の私大文学部に入ったが、哲学の専門の勉強は死に物狂いでやった。
そして現在、非常勤講師ながら、著書11冊(専門学術書である)で、自慢ではなく客観的に見ても日本トップクラスである。
それゆえ、私は天野さんのほうに共感する。
しかし、和田さんの今回の本を読んで、和田さんを見直した。
東大と東大教授を完膚なきまでこき下ろす毒舌も面白かったが、新著のp.154-158ページにかけて、「同期で一番バカが教授になる法則」と「自分より劣った人材を教授に推薦」ということが語られている。
そのなかで「かつて私大の万年助教授だった学者(ものすごい業績の人です)は「うちの大学では一番出来の悪い奴から順番に教授になる」とぼやいていた」と回想している箇所に思わず吸い込まれた。
まさにそのとおり。
日本は和田さん大先輩・土居健郎が言ったように「甘えの構造」に支配されているのだ。
この事を顧慮すると、天野さんの逆転的成功も和田さんの姿勢もどっちも面白いものとなる。


*付記 和田秀樹さんは東大理Ⅲに入学し医学部に進級した学生時代、授業にほとんと゜出席せず、趣味の映画撮影や受験塾の経営やタレントのおっかけに熱中して、医学の勉強をおろそかにしていました。それに対して天野篤さんは日大医学部で専門の医学を猛勉強しました。結果は歴然ですね。つまり、大学序列を打ち破る逆転劇です。こうした例はごまんとあります。