(1)山口県阿武町で起きた町役所がコロナ対策給付金4630万円全額を誤って名簿リスト最上位の住民に振り込まれた事件は、コンピューター処理だから起きた事件で安全確認システムが欠如していた。
PCは通常はキータッチひとつで取り返しのつかない誤作動が勝手に動き出す決定力があり、たとえば手作業手続き処理で行うものであれば故意、意図的でなければ「絶対」に起きない誤りだ。
(2)これまでも自治体でこうした誤作動による送金業務で問題が起きた事例はあり、安全確認システムの構築は必要だった。ただ、自治体としてもあきらかに誤って送金したものは本来受け取るはずのない住民が返金することを前提として考えているので(多分)、その後の対応には町長が言うように「油断」があった。
(3)受け取った住民にも本来受け取るべき金額でもなく、それを故意に利得、隠蔽すれば事件当事者となることは明白なもので、今回冒頭例では送金額を全額他の口座に移し替えて海外オンラインカジノで使ったと犯罪性を自覚し、証言している。
入金から不正使用までエビデンス(evidence)がそろっている事件を起こして、当の住民はいいのがれもできずに人生自暴自棄で大阪で起きたクリニック放火事件の精神構図に似ている。
(4)ところが、誤入金された現金を引き出す行為については、刑事と民事裁判で正反対の判例がみられる。最高裁の刑事裁判では不当利得として詐欺罪と同じ10年以下の懲役刑判例があり、同民事裁判では誤入金でも正当な取引として扱い、現金を引き出す行為を認める(返還を求める権利は認める)判例がある。
(5)現在当の住民は電子計算機使用詐欺容疑で逮捕されており、刑事事件として扱われている。誤送金でも正当な取引として扱う判例は手続論、形式論重視で、自ら要請したわけでもなく勝手に送金、振り込みされた受け取り側の「迷惑利益」を守る判断であり、口座金額から「どれにあたる」カネを引き出したのかわからない場合もあり、「善意の第三者」の立場を守る法理論もある。
(6)自治体の給付金となれば国民投資(税負担)が原資であり、誤送金で受け取るはずがない人が受け取るということがあれば国民投資(税負担)が不利益を受けることであり、返還義務は当然の論理だ。
(7)コンピューターが社会規律をつくっているわけではなく、間違いを起こす人間がつくるパラダイム(paradigm)社会となれば安全確認システム(本当に実行していいですか)の構築は必要だ。