旅限無(りょげむ)

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中華数千年の残影 其の参

2007-04-07 18:50:59 | 歴史

世界的な富豪で、10日間のアジア歴訪で3つのホテルを買収したサウジアラビアのアルワリード王子は5日、ロイターとのインタビューで、中国の消費・エネルギーセクターへの投資についても検討していることを明らかにした。サウジアラビアの投資資金はこれまでも中国に流入してきたが、銀行およびホテルセクターに限られてきた。王子は「中国には潜在的な顧客が13億人いる。数年前は1人当たりの国内総生産(GDP)が数百ドルだったが、現在は毎年増加している」とし、「彼らは車やクオリティーの高い食べ物を求めている。消費財に関連するものならすべてが重要だ」と語った。

■インド洋を制したかつてのアラビア商人達とは違って、オイル・マネーを投資して利潤を上げようとするアラブの王族がやって来るとは、明代に大艦隊を率いて国威発揚に貢献した鄭和が聞いたら、どんな感想を持つでしょう?鄭和自身が南部出身のイスラム教徒で、メッカ巡礼という個人的には宿願を持っていたのは有名な話で、インド洋沿岸の華僑とイスラム商人のネット・ワークを巧みに利用してアラビア半島からアフリカの東岸まで到達した歴史が、こうしたアラブとの縁を結ぶ遠因になっているのかも知れませんなあ。

■アラビア商人はグローバル化の先駆者で、うっかりヴァスコ・ダ・ガマという1人の欧州人に南回りでインド洋に出られる航路を教えたばかりに、全アジアが互恵関係の商業圏ではなく、一方的な収奪を目的とする植民地になってしまったのでした。因みに、ヴァスコ・ダ・ガマはポルトガル人で、欲張りな王様の命令でイスラム商人の裏を掻いてインドから香辛料を仕入れる航路を見つけようと、アフリカ大陸南端に辿り着いたのは、鄭和の大艦隊がインド洋を巡った90年以上も後の話で、欧州では大西洋を南下し続けると恐ろしい怪物に食われるか、世界の果ての大きな滝から落ちてしまうぞ!と実(まこと)しやかに噂されていたそうですが、何とか辿り着いてみると、そこはアラビア商人の貿易拠点として輝いているのでした。未知のインド洋を渡れるかどうか、思案しているヴァスコ・ダ・ガマさんに「渡れるよ」と気楽に教えてしまった人の名は、アハメッド・ビン・マジッドというのだそうです。御子孫はお元気なのでしょうか?

■これからの投資活動は大歓迎でしょうが、昔、欧州人を連れ込んだように、今度はテロリストを連れ込まないようにと北京政府も願っていることでしょう。


王子のアジア歴訪中に、王子が率いる投資会社キングダム・ホテル・インベストメント(KHI)はマレーシア、フィリピン、中国のホテルを買収したが、……中国が外国企業の出資をほとんど認めていないエネルギーセクターへの投資にも関心を示した。世界第2位の原油消費国である中国と、世界最大の原油輸出国であるサウジアラビアは、要人訪問や大型契約などを通じてこのところ関係を強化している。サウジアラビアの石油会社サウジ・アラムコ、中国石油化工(シノペック)、米エクソンモービル<XOM.N>は先週、製油と販売に関する合弁事業設立で合意した。……
4月6日 ロイター

■あちこちで石油採掘権を削られている日本に比べて、チャイナの石油漁りは凄まじい勢いで進められているようですなあ。でも、日本並に工業化を進め、米国並の自動車社会を本気で実現したら、世界中の石油資源が枯渇するのが先か?温暖化での滅亡が先か?という恐ろしい未来が早くやって来そうです。バイオエネルギーも開発するそうですが、その原料は家畜飼料と同じ物ですぞ!産油国と石油会社と自動車会社などは儲かるのでしょうが……。これはまったく新しい歴史の始まりですなあ。


2007年4月5日、山東省桓台県で、100人近い偽僧侶が逮捕された。彼らは少林寺の名前を騙り、高額の精力剤を売りつけていた。5日午前、桓台県の市街地に100人近い僧服姿の男たちが現れた。彼らは3~5人ほどのグループに分かれ、家々をまわった。自らを少林寺の僧侶だと名乗り、武術の演舞と寺への寄付を募りにやって来たのだと自己紹介した。その後、「少林寺秘蔵の精力剤」を販売していると騙り、高値で売りつけていた。相手にあわせて60元(約900円)から330元(約4950円)の値をつけていたという。

■さてさて、少林寺です。日本でも『少林寺』ブランドのカンフー映画が大流行しましたし、日本人の宗道臣さんが始めた格闘技の名前でも有名ですが、それぞれ別物です。達磨大師が修行したと言う伝承を独占している河南省嵩山少林寺は、大唐帝国2代皇帝太宗を助けた武勲を誇る古いお寺で、支店ブログ『五劫の切れ端』で断続的に連載中の三蔵法師玄奘さんが、インドから戻って最初に翻訳場にしたい、と願い出た山奥の静かな御寺です。それとは別に、多くのカンフー映画の題材に使われた神秘的な拳法を作ったと言われているのは福建省の伝説めいた寺の事で、日本で生まれた少林寺拳法の名前の由来となると開祖の自伝しか資料が無いので、何とも言えない模様です。まあ、どれも歴史好きには楽しい伝説がたくさん詰まっているという点では共通しているようです。つまり、詐欺師にとっても便利な名前という事ですなあ。ご用心、ご用心。


市民からの通報を受け、警察はこの偽僧侶たちを逮捕した。ある偽僧侶の供述によると、彼らはみな河南省の出身。この男は4日前に友人の紹介でこの組織に加わったという。僧服と商品の薬は組織が提供したもの。組織は偽僧侶たちに住居と食事を保証した上、毎日15元(約225円)の給料を与えたという。国際的な知名度を誇る少林寺だけに、その名を騙る偽僧侶は後を絶たないが、一度に100人もの偽僧侶が捕まったのは前代未聞だと注目を集めている。
2007年4月6日 レコード・チャイナ

■宗教と詐欺犯罪とを明確に分けるのは至難の業とも言われていますから、日本でも怪しげな集団がアルバイトを雇って托鉢僧侶に仕立て上げて荒稼ぎした事件が起こっていますし、妙な健康法やら占いやら、危ない話はいくらでも有ります。本来は煩悩を絶つ修行に明け暮れる御寺で、どうして「少林寺秘蔵の精力薬」などが開発されるのでしょう?それでは煩悩の炎が燃え上がってお坊さん達はますます苦しむでしょうに!?これはまったく「正しい歴史認識」では御座いませんなあ。お仕舞い。

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中華数千年の残影 其の弐

2007-04-07 18:50:34 | 歴史

開発業者の万福稜園開発有限公司は墓地の各区画を「転売が可能で、購入から1年経過後には自社が時価で買い取ることもできる」と宣伝していたが、買い取りに応じないケースが発覚。業者の経営責任者らは行方をくらましており、開発に便宜を図った衝陽市も事態の収拾に力を注いでいる。業者は政府の規定に沿わない墓地を販売していたという。区画は29タイプで、販売価格は8000-25万元(約12万-380万円)。

■祖先崇拝の伝統を共有しているところに、「土地投機」が起これば住宅や商業地に加えて墓地の転売で一儲けしようとする人が現れるのも当然でしょうなあ。そこに目を付けて、日本の「原野商法」みたいな詐欺を考える悪い奴も出て来るというわけです。


販売開始から1年余りで6500区画が売れたが、実際に使用しているのは296区画のみ。販売総額は1.2億元に上る。開発業者が設けた問い合わせセンターには846件の苦情が寄せられている。計2003万元の返金などを求めるもので、これまでに448件について1078万元が返金された。
4月5日 サーチナ・中国情報局(

■日本のお墓にも多くの問題が有るようですが、「墓転がし」の詐欺騒動はあまり耳にしませんから、複雑な信仰文化を抱え込みつつも何とか折り合いを付けて過ごしているのでしょうなあ。あちらでは墓地の詐欺ですが、こちらにはメイド・イン・チャイナの怪しげな墓石を高値で売り付ける困った業者が暗躍しているとか……。


2007年4月5日、新疆ウイグル自治区の渉外運輸管理事務所が明らかにしたところによると、近隣諸国との貿易が年々活発化するのを受けて、今後、中央アジア諸国と中国を結ぶ12の国際道路を建設する計画だ。同自治区は8か国と接し、国境線総延長が中国国内で最も長いため、客運と貨物運輸の中心になる条件が整っているといわれる。

■紛れも無くこれは「シルクロード」の復活そのものです。かつてはソグド人やペルシア人が活躍した大陸交易を、北京政府が復活させようとしているわけですなあ。NHKが日中国交正常化を記念して『シルクロード』特集を制作して大評判になった頃とは隔世の感が有ります。


計画では中国からロシア、ハザクスタン、タジキスタン、パキスタンなどへ続く国際道路の中国領内部分を建設する予定で、最も長いものはウルムチを出発し、タシケント、マシュハド、テヘラン、イスタンブール、そして欧州へとつながる。同自治区内だけでも全長1680kmに上り、2010年の完成を目指す。

■西や北からエネルギー資源や鉱物資源を大量に輸入して、雑貨や工業製品を輸出する計画でしょうが、この新しいネットワークに乗って漢民族の拡散が進むのでしょうなあ。大唐帝国の復活とも思えますが、「白村江の戦い」の再現は御免蒙りたいものです。


現在、すでに開通している国際道路は101ルート、通行許可を持つ車が自治区内に1500台登録されている。道路が完成すれば国境貿易が一層活発になり、最も外国へ開けたエリアとして繁栄していくことが期待される。
4月6日 レコード・チャイナ

■新疆ウイグル地区で燻(くすぶ)る独立運動が、国境を越えて同じトルコ系民族と結び付く危険を覚悟で貿易に活路を見出そうとする大計画のようですから、ウイグル族の今後には注目しておかねばなりません。同系の民族関係以上に、この国際道路が「イスラムの道」として発展するのは北京政府の望むことではないでしょうからなあ。


2007年4月2日、ウラジオストックで「中華人民共和国とロシア連邦の国境確定に関する協定」が結ばれた。40年以上にもわたり、交渉が続いてきた中ロの国境紛争だが、今回の協定でついに決着を迎えた。この協定により、中ロの最後の紛争地・大ウスリー島とボリショイ島が中国に返還されることとなった。遅々として進まなかった国境紛争交渉だが、プーチン大統領は昨年10月の訪中を期に、ロシア全体の利益に合致するとして、返還に合意したという。両国議会の承認をえて、今回の協定締結を迎えた。

■真冬には一面銀世界となって大河も結氷するややこしい場所ですから、密貿易も横行しますし、ちょっとした国家間の緊張が起こると、すぐに誤射事件が起こる物騒な場所だったようです。これで清朝時代から続いたロシアとの国境争いが、一応、決着したというわけです。お互いに国境警備の軍事費が節約できるようになるのでしょうなあ。敵対関係を解消して、互いに商売に専心することになりそうです。


現在、黒竜江省政府は大ウスリー島の開発計画を策定中で、貿易港・貨物基地が建設される予定。今後、中ロ貿易の中継地として発展が予想される。また今回の中ロの国境確定交渉が、日ロの北方四島返還交渉にどのような影響を与えるのか、注目される。
4月6日 中国情報局

■北方領土の場合は、軍事的な意味と共に水産資源の分配の問題も有りますから、中ロ国境交渉と同列には扱えないかも知れません。敗戦のどさくさ紛れに旧ソ連が占領したのは事実ですが、ロマノフ王朝の東進政策の延長とも言えますし、日露戦争での屈辱をスターリンが晴らした歴史的遺産とも言える「戦利品」ですから、スターリンの業績とロマノフ王朝の栄光を同時に否定して日本と交渉を進められるかどうか、ロシアが求める見返りを日本政府が国民世論の反発を呼ばない方法で用意できるかどうかが鍵となりそうです。

中華数千年の残影 其の壱

2007-04-07 18:50:06 | 歴史
■いよいよ7年ぶりにチャイナの首相が来日し、22年ぶりに国会で演説までする日が目前となりました。「正しい歴史認識」を突きつけられる日本が、どんな「熱烈歓迎」を用意しているのか?相手は「新幹線には乗らん」などと、非常に分かり易いメッセージを次々と投げ込んで、来日直前まで日本政府に対する「圧力」を、陰に陽に与え続けるでしょう。ここで、最近のニュースを材料に、「正しい歴史認識」の復習?をしておきましょう。

2007年4月5日、この日は中国のお盆と呼ばれる墓参りの祭日・清明節だが、陝西省西安市で、中華民族の始祖と呼ばれる黄帝を祀る盛大な儀式が挙行された。会場は陝西省黄陵県橋山にある黄帝廟前の広場。国内外から集まった1万人もの中国人により壮大な儀式が挙行された。全国人民大会常委会李鉄映(リ・ティエイン)副委員長、全国人民大会常委会・蒋正華(ジャン・ジェンホア)副委員長、中国人民政治協商会議・張思卿(ジャン・スーチン)副主席ら多くの要人も出席した。

■「黄帝」と聞いて、何だか効きそうな栄養ドリンクを思い浮かべる日本人も多いのでしょうが、どうして栄養ドリンクにこの名前が付いているかと言うと、『黄帝内経』という古代の医学書を書いた人とされているからです。謎めいた言葉で鍼灸術から占いまで、生き延びる知恵を並べて教えてくれる有り難い書物です。『傷寒論』という古い伝染病を中心とした病理学を解説した書物と共に、今も研究され続けている有名な本の著者だそうです。「正しい歴史認識」に含まれるかどうか、ちょっと微妙ですが、三皇五帝と呼ばれる神話時代の支配者からチャイナの歴史は説き起こされる事が多いようです。「三皇」には諸説有りますが、伏羲・女か・神農が代表的な名前で、どうもモンスターのような姿をしていたようです、神農はミノタウロスみたいに牛の頭を持っていたそうで、薬草と毒草を自分の体を使って試験したそうで、体中を薬草で編んだ服で包み、手当たり次第に植物や鉱物を口に放り込んでいたそうな……。医学の基礎と農業技術を教えて回った方だそうです。

■その後を継いだ「五帝」の筆頭が黄帝だそうで、という。蚩尤(しゆう)と言う巨大ロボットみたいな化け物を倒して中華の元となる地域を初めて統一したのだそうです。黄帝、センギョク、コク、堯、舜と続いたのが「五帝」だと司馬遷が書いています。舜から禹に位が譲られて夏(か)王朝が始まったとされていて、その後の殷(商)、周、秦、漢と王朝が続いて20世紀の辛亥革命で終わります。夏王朝の存在を示す遺跡は未発見なのに、何故かそれより古い黄帝を先祖とする人が多いのは不思議な現象ですなあ。


儀式の内容は以下の通り。1・全員起立、黙礼。2・太鼓と鐘を打ち鳴らす。3・献花。4・陝西省省長の挨拶。5・黄帝像に礼拝。6・礼楽の演奏と踊り。7・黄帝陵へ拝礼。黄帝は中華民族の始祖と呼ばれ、中国人の家系図をさかのぼると必ず黄帝に行き当たると言われている。
4月6日 レコード・チャイナ

■靖国神社の参拝も、こうした神話に基づく盛大な儀式とイメージが重なってしまうのが問題なのかも知れません。でも、こうした世界各地に残る伝説や神話を他国の人があれこれと口出しするのは遠慮しておくべきでしょうなあ。因みに日本の神社のほとんどは、死者の魂が生前の恨みや悲しみから禍を起こすのを避ける「魂鎮め」を目的として建てられています。


湖南省衝陽市で台湾系資本の開発業者が販売していた墓地「観福園」の区画が投機対象になり、購入した市民が売却しようとしたところ業者が応じなかったため、多数の購入者が代金の返還を求める騒ぎが起きている。5日付で人民日報が伝えた。

■先祖崇拝は世界各地に発展した精神文化ですが、それぞれが持つ意味には違いが有るようです。仏教が伝播した場所では土着の信仰を取り込んで釈尊の教えとは随分と違う儀式や文化が付加されていますが、元々、先祖の弔いを専門にして居た儒教集団が漢王朝の時代に国教化されてから、チャイナの精神文化は祖先崇拝を中心にして展開したと考えられます。長男が代々墓を守り、規定の儀式を執り行う独占的な権利と義務を持つとされているので、1人子政策を断行したら男女の人口比が大きく歪んでしまうのも当然とか……。

日本は歓迎準備中?

2007-04-07 01:11:14 | 外交・情勢(アジア)
■もう幾つ寝ると~♪と唄いたくなるほど、歴史的な外交イベントが近付いております。残念ながら、それは日本の安倍総理がいよいよ初めて米国を訪問するというお話ではありません。

4日付中国新聞社電によると、中国の温家宝首相は4日午前、北京・中南海の紫光閣で日本の報道機関16社の記者らと会見し、11日からの日本訪問期間中、日中の「戦略的互恵関係」の構築に向けた要望、範囲、主要任務を盛り込んだ共同文書を作成するとの見通しを明らかにした。安倍晋三首相が将来、靖国神社を参拝した場合の中国政府の対応について、温首相は「今年は中日国交正常化35周年、盧溝橋事件70周年だ。日本側が中国人民の感情を傷つけないことを望む」などと述べた。温首相は、日本との経済交流を強化したい分野について「省エネルギー、環境保護、ハイテクノロジー、中小企業、金融、情報の分野で特に協力を強化したい」と述べた。
2007年4月5日 中国情報局(

■35年前に国交正常化したのは、田中政権時代の日本と今の中華人民共和国でした。これは間違い有りません。でも、70年前の「盧溝橋事件」となると、当事者は誰だ?という問題が残されていますぞ。その場所で夜間演習をしていたのは大日本帝国陸軍と、川向こうで対峙していた中華民国陸軍でしたが、「謎の発砲」を繰り返した何者かが居たことが問題で、それが当時の大日本帝国が起こしたドンデモ謀略の一つであれば、話は随分と簡単になるでしょうが、毛沢東にイジメ殺された劉少奇という恐るべき開明派の実力者が、「謀略成功」の報告をしていたという疑惑が消えません。極東軍事裁判でも、この事件は取り上げられていないので、今でも真相が不明ということになっております。恐らくは現政権が崩壊でもしないと、貴重な資料も記録も表沙汰にはならないでしょうなあ。

■言うべきを言わず、押すべきを押さず、引かなくても良いところで引いてしまう外交を続けると、歴史は一向に解明されませんし、変な出費が嵩(かさ)んで仕方が有りません。今回の記者会見で「南京虐殺」には言及しなかったのを「武士の情け」とでも言われたら、若き頼もしいリーダーと思われて政権を獲った安倍総理は、決定的な失点をするところでしたが、その辺は阿吽の呼吸で言及しないで済まして貰えた?ようです。

■日本のマスコミは、首相が米国に行く!となれば、ぞろぞろと大挙してくっ付いて行きますし、ベテラン記者などと言われる人は首相専用機に同乗して訪米するそうですが、他の国に行く時には相手の国をバカにしているのではないか?と思えるほど手薄な取材しかしないようです。そんな事を繰り返していれば、読んだり観たりしている国民の頭の中の世界地図は、その半分が米国になってしまうのも仕方がないでしょうなあ。残りの半分がチャイナになったら、日本の将来は有りません。


10日からの訪韓を前に温家宝首相は5日、韓国メディア19社と会見した。記者から高句麗や長白山(白頭山)をめぐる両国の認識の違いについて質問が出されたが、温首相は「中国と韓国の間には領土問題は存在しない」と述べた。また「両国間には数千年に渡る友好がある。民族や国境地帯に関する歴史を政治化すべきではない」と語った。6日付で中国新聞社が伝えた。
2007年 4月6日中国情報局

■少しばかり東アジアの歴史に興味を持って、ちょっとした読書をしている人の耳には、「数千年に亘る友好」という表現に激しい違和感を呼び起こすのではないでしょうか?半島三国時代から、一体、いつ頃に「友好」関係が有ったのでしょう?新羅の時代に苗字が激変し、純粋儒教が千年間も人々を縛り上げ、朝貢か侵略か?の二者択一を迫り続けた歴史の中に「友好」を見つけるのは難しいような気がします。半世紀の「日帝」時代よりはマシだった!という声も上がりそうですし、その300年前に行われた豊臣秀吉の「侵略」を責める声も上がりそうです。歴史的事実として、大和朝廷以来、半島は日本にとって師であり友でありました。20世紀になって対ロシア戦略に没頭する中で、まことに失礼ながら、明代の貿易利権争いと同じ構図が半島を中心にして現出してしまったのは悲劇だったと思います。長大な半島の歴史の中で、この50年は非常に短いものながら、ごく最近の出来事なので簡単に整理は出来ません。

■でも、「民族や国境地帯に関する歴史を政治化すべきではない」と言っている御本人が、広大な他民族国家を運営していた清朝を受け継いだと、自らを正当化しているのですから、西のチベット、北西のウイグルを飲み込んだ理屈を、半島にだけは適用しないと、誰が考えるでしょう?既に「脱北問題」で、旧満州には多数の朝鮮族が住んでいる事を日本の国民は改めて学びました。白頭山は、北朝鮮王朝の発祥の地とされる聖地になっていますが、昔は渤海という謎の国が栄え、その前には隋王朝の国力を消尽させた強国の高句麗が覇を唱えた場所の象徴みたいな山です。高句麗時代を懐かしむ時、白頭山は日本の富士山のような存在になるでしょうから、そこに別の名前が付いているのは気分が良くないでしょうなあ。

■「歴史問題」としてクレームを付けている韓国は立派です。長い歴史の中で、東は日本から西はカスピ海沿岸まで、朝鮮(韓)民族がさまざまな理由で散らばり、今では欧米諸国に留学や商売を目的に更に散らばっている半島の人々と日本が、この100年にも満たない短い期間に生じた摩擦を克服解消出来ることを願って止みません。日本人がすっかり忘れ、勉強もしなくなった遠い昔に起因する「歴史問題」を北京政府に対して提示する根性は見上げたものだと、日本からも応援の声を上げたいものですなあ。


中国国家海洋局は6日までに、「2006年海洋行政執法公報」を発表し、東シナ海の海洋権益を維持するため、航空機や船舶による定期監視体制を構築したと明らかにした。許可を得ずに東シナ海の大陸棚で天然ガスの資源探査活動を行ったり、中国の開発活動を妨害したりする外国船舶を監視、駆逐すると強調。公報では、中国が日中中間線で開発を進め、両国の摩擦となっている春暁(白樺)ガス田を中国側の船舶が巡航している写真も公開しており、同ガス田の権益を主張した形だ。 
4月6日 時事通信

■高句麗や白頭山に比べて、尖閣諸島に関連する日本の領海問題はここまで押し込まれています。韓国メディアに対する態度と、ほぼ同時期に日本政府に対して出されたこの「公報」との違いは何でしょう?こういう事態に対処する知恵を得るには、河野洋平衆議院議長を特使にして、現地の大使とも協力して貰い、好き放題に「融和外交」に勤(いそ)しんで頂いて、偉大なる「反面教師」の姿を国を挙げて勉強するしかないかも知れませんなあ。憲法改正以外は、何でも「先送り」している安倍内閣には、この種の劇薬が必要なのではないか?などと思ってしまう今日この頃です。

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