旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

御難続きのテレビ 

2007-04-06 19:30:17 | マスメディア
■『あるある大事典』のデータ捏造騒動が、社長の辞任と評判の悪い検証番組を放送して収まったかのようなテレビ業界は、新番組に切り替わる年に一回の大勝負?の季節だと言うのに、幸先の悪い話がぞろぞろと出ているようですなあ。NHKの「朝の連続ドラマ」が初回から史上最低の視聴率だったと報道され、年末の「紅白歌合戦」と同様に、日本人のテレビ視聴生活の質と傾向が大きく変わりつつある事を再確認したばかりです。

尾身幸次財務相は6日の閣議後会見で、レッドソックスの松坂大輔投手が公式戦初勝利を挙げたことに関連し「この種の問題を7時のNHKニュースで毎朝とりあげるのは、全体のニュースのバランスからみて問題がある」と、松坂投手の活躍に時間を割くNHKの報道に注文をつけた。……松坂投手の活躍については「経済と同様、人もグローバル化し、いい人材が新しい天地を見いだしていくことは大変いいこと」と評価したが、NHKに対しては「世界の動きをもう少し放送してくれないと、公共放送としての意味が薄れてくるのではないか」と、報道内容に疑問を呈した。
4月6日 毎日新聞。

■他の報道によりますと、「生活や経済、国際関係のニュースをバランスよく報道してほしい」と要望したのでしょうが、本音は「政治関連」の報道、それも夏の参議院買改選選挙に向かって補選も始まり、自民党はピリピリしている時期ですからなあ。東京都知事選は、とりあえず石原都政が五輪誘致抜きで続きそうですから、問題は「小泉人気」で大勝したままの参議院で、どれほど議席を減らすか?という恐ろしいものになっているでしょう。前回の衆議院解散選挙で、タイゾー君やら刺客議員やらマドンナ?議員が生まれてしまった事を、選挙民はきっと反省しているでしょうから、もしも、野党側からマトモな主張や見識が示されれば、自民党政権に対する厳しい判断が示される可能性が有りますからなあ。「夕張の恨み」がどれほど日本全土に伝染しているのか?これがまた問題です。

■小泉人気はテレビ人気と同じ物でしたから、選挙とは何の関係も無い松坂君ばかりが高視聴率のニュース番組に取り上げられているのが悔しくて仕方がない!という議員さんがたくさんいるのでしょう。変な議員宿舎は完成するし、農水大臣は変な還元水を飲んでいるし、肝腎の安倍総理の人気は下がったままですからなあ。これに加えて民放各局が、自民党独裁状態の地方議会での税金無駄遣いの徹底追及などをしているようですから、最悪の条件で選挙戦に突入することになりそうです。唯一の頼みは野党側の自滅を加速させるアクシデントが連続してくれることでしょうなあ。

■でも、NHKとて「視聴率」を稼がないと、受信料の支払い拒否の問題に発展しますから、形振り構わず民放で人気が出た番組は、後先考えずにパクってしまえ!の勢いのようです。とは言え、皆様のNHKには決して真似できない民放独自の番組というものが有るようですなあ。


TBSの番組「新SASUKE 2007」の収録で、出演したお笑いコンビ「ブラックマヨネーズ」の小杉竜一(33)が左肩を脱臼していたことが2日、分かった。ケガをしたのは3月3日、横浜市青葉区のスタジオでのこと。ロープにぶら下がり、水上の島に飛び移る競技で脱臼。警察には届けなかった。TBS広報部は「通常のケガであり、事故という認識はない。本人との間で解決している」と話している。小杉は2日、吉本興業の都内4劇場をPRする女性限定イベント「よしもと劇場4姉妹キャンペーン」にMCとして登場。「もう大丈夫ですよ。ケガした時も救急車ではなく、タクシーで病院に行きました」と話した。
4月3日 スポーツニッポン

■またまた吉本興業のゲーニン君が無茶なことをやったのか?と思ったら、この番組は一般視聴者からも参加者を募って、なかなか危ない事をやらせる企画らしく、被害は「人気のためなら命も要らぬ」?ゲーニン君だけではなかったそうですなあ。


TBS系の人気番組「新SASUKE 2007」で、タレントの男性(33)が脱臼する事故を起こしながら、TBSが警察に通報していなかった問題で、同局は6日、ほかに4人が複雑骨折などの重軽傷を負っていたことを明らかにした。いずれも警察に通報しておらず、今月3日に届けたという。……事故は「ロープグライダー」と呼ばれる競技に集中。タレントの男性以外にも一般参加の男性が右足のすねを複雑骨折し、全治6カ月の重傷を負ったほかねんざ2件、脱臼1件と計5件の事故が起こった。今月2日にタレントの事故を調べていて明らかになった。

■先の記事では「元気なゲーニン君」の話でしたから、出演料やら今後の出演依頼やら、ゲーニン君にとってはテレビ局から厚遇を受けられる条件を手に入れたようなものでしょうから、脱臼くらいは何でもないかも知れません。でも、お笑い芸人には、もっと別に努力すべき事が有るのではないでしょうか?


TBSは「安全管理体制に問題はなかったが、事故の原因や報告体制の見直し、競技の安全性などについて調べている」としている。
4月6日 産経新聞

■「全治6ヶ月」の複雑骨折と言えば、並大抵の怪我ではありません。しかも「右足のすね」というのも気になりますなあ。医療技術は進んでいるので、元通りの脚に治してもらえるのでしょうが、そこまで危険なことをやって見せないと、最近の視聴者は納得しないのでしょうか?昔、米国で毎年開催される自動車レースの生中継番組で、ゲストの永六輔さんが視聴者の願望を代表して「早く事故が起きませんかね?」と発言して騒ぎになった事が有りましたが、プロのスポーツ番組の中には大事故が起きる危険を伴う競技がたくさん有りますから、「決定的瞬間」を見てしまった視聴者は、やはり得した気分になれるのでしょうか?

■格闘技番組も随分と過激になっているようですが、テレビに出て稼ぐ人達は専門分野の区別無く、怪我や命の危険を冒して見せなければ行けない立場になっているとしたら、何とも恐ろしい話です。今回の事故を起こした番組は、「バラエティ」枠の企画だそうです。確かに、「何でも有り」の枠ですから、危険も有り、なのでしょうなあ。ところで、岩手県知事選挙に出馬するプロレスラー議員と同じ名前のTBSのこの番組は、この程度の事故では打ち切りにはならないようですが、選挙期間中は放送を自粛するのでしょうか?

■などと書いていたら、同じテレビ局が午前零時過ぎに奇妙な番組を放送していましたぞ!新聞のテレビ欄によりますと『叱って!ブロンド先生 金髪美女が国分に英語のSM調教』という名前の番組です。英語に堪能な筑紫哲也さんのニュース・ショーの直後に放送されています。衆知の名のように「国分」と言われても誰のことやらさっぱり分かりませんが、英語に堪能ではない芸人さんを「金髪美女」と絡ませて笑おうという企画と思われます。これを1箇月前に企画していたとしたら、千葉県行徳の英会話講師殺人事件を予告していたようなものですが、それを遺族が来日して大使までが記者会見を開き、犯人が逃亡している時期にそのまま放送するという視聴率のためならオウムの味方にさえなってしまう根性は、今でも健在ということなのかも知れませんなあ。

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対話と圧力 其の弐

2007-04-06 16:33:36 | 外交・世界情勢全般

米国防総省は5日、イラン沖のペルシャ湾に展開していたニミッツ級原子力空母「ジョン・C・ステニス」が4日、同湾を離れ、アラビア海の北部海域に戻ったことを明らかにした。これにより、ペルシャ湾の米空母戦闘群は当面、「ドワイト・D・アイゼンハワー」の1隻態勢に縮小されたことになる。「ステニス」がペルシャ湾を離れた4日は、イランに拘束されていた英兵15人の解放が発表された日と重なっている。
4月6日 時事通信

■こういう記事を目にしますと、イランが米軍の大演習を非常に気にしていて、15人の兵士を利用して米軍の兵力削減を求めていたようにも見えてきますが、もしも、「現在、ペルシャ湾を遊弋している米空母を減らせ」という条件が出されていたとしたら、条件の中に明確な日時や期間が入っていない盲点を利用して、米軍がトリックを使った可能性も考えられそうです。
 

米海軍は3日、ペルシャ湾に空母ニミッツを派遣したと発表した。ペルシャ湾に展開している空母ドワイト・アイゼンハワーと交代し、先月末に同湾入りした空母ジョン・ステニスと合流する。中東をにらんでペルシャ湾に空母2隻態勢を堅持するブッシュ政権の方針を示し、イランに対する軍事圧力を維持する形となった。
4月5日 毎日新聞

■空母が交代する期間だけは、ペルシア湾内の米空母が1隻だけになる計算ですから、もしもイランから空母の削減を要求されていたにしても、兵士の解放に合わせて1隻減るという約束は出来たことになります。米軍としては演習が終わった空母を休ませたり整備したりする必要が有ったのかも知れませんし、新たに空母ニミッツを投入して次の大演習を試みるつもりかも知れませんなあ。
 

ゲーツ米国防長官は5日、イランによる英兵15人解放の見返りに、米軍がイラク北部で拘束したイラン人5人を釈放する可能性を否定した。イラン人5人は、米軍が1月にイラク北部アルビルで拘束した。米政府は、5人がイラン革命防衛隊「アルクッズ(エルサレム)部隊」の要員であり、イラクの反米武装勢力に対する高性能爆弾の供給にかかわっていると主張している。 
4月6日 時事通信

■飽くまでも、今回の問題は英国とイランとの間の問題ですから、米国が付き合って何らかの取り引きをする義理は無い!というのが「表」向きの話で、イランとしては米軍の軍事的圧力を一時的にでも減らしたという実績と欧州諸国との交渉のパイプが得られたわけですから、一応の成果を得たという計算でしょうなあ。


米保守系紙ワシントン・タイムズは5日、6か国協議にかかわる各国外交官が、4月14日ごろとされる北朝鮮による核施設の停止・封印の期限を延長することを検討している、と報じた。……マカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)にある北朝鮮関連資金の返還をめぐる問題の長期化により、寧辺(ヨンビョン)の核施設の停止・封印や国際原子力機関(IAEA)要員による監視再開など核放棄に向けた「初期段階の措置」の実施準備が本格的に始まっていない。このため、2月13日合意から「60日以内」と定められている初期段階措置の実施期限の延長が、協議担当外交官の間で私的に話し合われているという。ただし、延長期間についてはまだ合意がないとしている。
4月6日 読売新聞

■北朝鮮の核開発問題に関しては、経済制裁の「圧力」を米国が一方的に解除してしまったばかりに、「対話」さえも出来なくなってしまったようです。イランは今回の交渉で大いに時間を稼ぎ、外交的な得点も上げられましたが、今度は北朝鮮問題がブッシュ政権の悩みのタネになってしまいそうですなあ。米国は「嘘ツキだ」という汚名を雪ぐために軍事行動には訴えられませんから、次の暴発を待って「圧力」を強める考えかも知れません。そんな時期に、突如として30年以上も前の「拉致事件」が公表され、毎日のように詳しい背景が報道されまして、あれよあれよと思う間に、国際指名手配まで事態が急展開しています。米国が失った「圧力」を、日本が補おうとしているかのように……。

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対話と圧力 其の壱

2007-04-06 16:33:10 | 外交・世界情勢全般
■3月23日に発生したイラク駐留の英国軍兵15人の拿捕事件は、2週間で全員の無事帰還という形で決着を見ました。丁度、日本では英会話講師の英国人女性が日本人青年に殺害された事件が発生して大騒ぎしている時期と重なっていましたが、あちらは解決で、こちらは未解決であります。航空自衛隊の駐留延長問題も起きていたと言うのに、何故か日本での報道では詳しい事がまったく伝えられていませんでしたなあ。「表」の各種マスコミを使ったリーク合戦と、どうやら米国が暗躍したとしか思えない「裏」の交渉とが組んづ解れつしながら、ほぼ10日間の攻防が、表面的には外交分野だけで解決したようです。

■拿捕された兵士の中に女性が1人含まれていた事が、欧州とイランとの間で微妙な違いを見せて事態は動き続けました。地元の習慣に従ってスカーフで髪を隠してのインタヴューに始まり、直筆の手紙が2通書かれたり、途中では彼女だけを解放するという案が出たり消えたり、男の兵士からは「領海侵犯」を認める発言が有ったとか無かったとか、そんなニュースが流れる中で、ペルシア湾で大規模な演習をしていた米軍が、いよいよイラン攻撃を開始するのではないか?という憶測記事も飛び交いましたなあ。


イランに2週間にわたり拘束され解放された英兵士15人が5日、英国に到着し家族と対面した。今回の事件がイランの核開発問題に、どのような影響を及ぼすかに焦点は移った。イラン最高指導者ハメネイ師の国際問題に関する諮問役を務めるアリ・アクバル・ベラヤティ氏は5日、ブレア英首相が今回の事件について個人的に謝罪した書簡を送ったことから、英兵を解放するに至ったと述べた。英首相官邸はこれを明確に否定した。

■日本でも訪米を前にした安倍総理に「河野談話」という難題が再燃しているように、国家として「謝罪」するというのは大変なことです。相手が怒っているから、相手を宥めるために、などと簡単に考えて、うっかり相手とヒューマニズムを共有していると幻想を持つと、相手は「水に流す」どころか石に刻んで延々と利用し続けるのが外交というものです。ですから、領海侵犯は無かった!と主張し続ける英国政府としては、明確な「謝罪」を意味する文言などを使うはずはなく、イラン側がそう解釈出来るかも知れない、という程度の表現に留めているでしょう。

■ブレア首相は「謝罪」の代わりに「今後の約束」を伝えることで難しい交渉をまとめ上げたようです。イラン側も「贈り物」として兵士を解放すると言っているのですから、「謝罪」の有無を蒸し返すような事はしないでしょう。嗚呼、日本ももっと早く拉致犯罪の調査を始めて国中が大騒ぎしていれば、平壌での会議で「贈り物」が貰えたかも知れないのに……。


ブレア首相は、外交努力と強い国際的な支援が実を結んだとの見方を示すとともに、今回の事件がイランとの新たな対話のルートを開いたとし、今後も同国とのルートを維持することは理にかなっていると指摘した。そのうえで「ただ核開発問題あるいはイラン政権のテロ活動への支援問題に関して、国際社会は、意思を実行していく確固たる姿勢を堅持しなければならない」と述べた。……

■「国際的支援」とは言っても、米軍の「圧力」とは言わないのが外交の妙味と言えましょうなあ。米軍の「圧力」頼みの日本とは随分と違う味付けのようです。


……アナリストは、ブレア首相の外交政策顧問であるナイジェル・セインウォルド氏が、イランの核問題をめぐる協議でイランの首席代表を務めるラリジャニ最高安全保障委員会事務局長と直接対話したことは好ましいとみている。英国際戦略研究所のマーク・フィッツパトリック上級研究員は「ラリジャニ事務局長は穏健派ではないが現実主義者」として、ウラン濃縮の停止に向けて事務局長がイランの体面を保ちながら何らかの合意に達する方策をとることが期待されると述べた。
2007年4月6日 ロイター

■交渉は15人の奪還だけを扱っていたのではない事がよく分かりますなあ。米国が逮捕したイラン人外交官とのバーター取引という話も出ていたようですが、米英共に今回の問題とテロ支援活動の疑惑とを明確に切り離して交渉するという方針は揺るがなったようです。但し、核開発問題を外交交渉によって解決するパイプ作りには大いに利用したようです。すっかり暗礁に乗り上げてしまっているイランの核開発問題が、これを期に「対話」の英国と「圧力」の米国という役割分担が確立する可能性が出て来ました。