昨年の暮れに届いたフレッド・ハーシュの新作は彼のトリオとパーカションのゲストRogerio Boccatoに弦楽四重奏を加えたものTHEだった。なお言えばかれが日ごろ行う瞑想の中で生まれた8曲を「The Sati suite」という組曲として録音している。(最後にシューマンへのオマージュ曲が演奏される。)
1曲目、弦楽四重奏がピアノのバックとしてハーモニーを奏でるというよりかはピアノとの駆け引きで曲を作っていくような形で始まる。2曲目”悟った心”では、まさに悟りを開いたような落ち着いたピアノソロの最後にストリングスが答えるという形。そして3曲目Drew Gressのピッチカートにストリングスが参加するとGressのソロ、ハーシュがハーモニーとつけていくという、1曲目からの瞑想の中で進んでいるよう流れ、Crosby Street String Quartetという四重奏団の響きも大変美しい。
曲調が変わる4ッ曲目”Monkey Mind”は瞑想は夢の中にいるのではなく、その中で心がざわついたりすることがあるという、四重奏団のピチカートが揺らぐ曲。次の曲は今度は心の揺らぐ様を表す”Rising, Falling”まさに一連の曲を組曲として聞いて瞑想への参加をハーシュが呼びかけている。
この作品で弦楽四重奏と共演することに、ハーシュ自身がアルバムに書いている。
「シンシナティのうら若き音楽家として、弦楽四重奏を聞きながら育った。ピアノの先生が名高いラサール弦楽四重奏団のチェリストの婦人だったため、小学生の頃からその家の居間で絨毯に寝そべりながら、~そして8歳で作曲の勉強を始めてからは、作曲した楽曲の殆どは4声の旋律部に焦点がおかれていた。弦楽四重奏は僕にとって自然な音楽構成なのである。」
そう思うと、まさにこのアルバム、ピアノのハーシュのほかにストリングスというハーシュが対等にあって互いを曳きあう。
エピローグとしての9曲目、瞑想の後の奏者全員の穏やかの安らぎが、ハーシュが望むようにある。
本年、静かな日常が戻っている。
ハーシュの弦楽四重奏団のアレンジが素晴らしいので、弦楽四重奏と一緒に演奏しているものがあったか探してみた。
ハーシュ名義のアルバムは見つからない。ハーシュ名義ではないのだけれど、ハーシュの棚のところに置いてあった1枚があった。とても古い録音で、ニューヨーク・ストリング・カルテットという四重奏団のアルバム。なんと日本企画のアルバムです。
ニューヨークにちなんだスタンダードをストリングス・カルテットが演奏するもので、バックにハーシュの当時のトリオと川崎燎が参加している。(日本企画らしい)10曲中8曲はロバート・リヴィングストンという人がアレンジしているが、2曲”ニュヨークの秋”と”マンハッタン”はハーシュがアレンジを担当している。
新しいアルバムでハーシュが書いているのを読んだ後だからではあるが、この2曲がほかの8曲と比較して魅力的で、違いがあると思うのは間違いないと思う。ということで今年3っ目のアルバムは地味さがあって偏るけれど、ことし何度か聞いてゆく幅広なアルバムのような気がします。
おまけ
「ニューヨークの子守歌」ニューヨーク・ストリングス・カルテットの解説ではフレッド・ハーシュはまだ大きくは書かれていない。この録音1988年8月の録音でダウンビート誌が「才能豊かでイキなピアニスト」と評していると書いてある。
そこでハーシュの古いのを棚から持ってきた。
私が持っているので一番古いのが「horizons」でたぶんリダー・デヴュー作だったと思う。1984年10月の録音。
ハーシュの初録音は、それよりか1カ月前、1984年9月、Jane Ira Bloomというソプラノ・サックスの人のアルバムではないかと思う。(これは持っていない。
ニューヨーク・ストリングスは1988年の8月録音だけれど、その年の3月に「horizons」に続く2作目「ETC」は同じトリオメンバーだった。
BREATH BY BREATH / FRED HERSCH
Fred Hersch (piano)
Drew Gress (bass)
Jochen Rueckert (drums)
Rogerio Boccato (percussion)*Track 6
with
Crosby Street String Quartet
Joyce Hammann & Laura Seaton (violins) Lois Martin (viola)
Jody Redhage Ferber (cello)
2021年8月24,25日 NY
1.Begin Again
2.Awakened Heart
3.Breath by Breath
4.Monkey Mind
5.Rising, Falling
6.Mara
7.Know That You Are
8.Worldly Winds
9.Pastorale (homage a Robert Schumann)