JAZZ最中

考えてみればJAZZばかり聞いてきた。いまもJAZZ最中。

船に乗れ!ⅠⅡⅢ 藤谷治 著

2011-07-17 17:33:20 | 


以前話題になって、図書館で借りたけど、時間がなかったので、途中でアウトしていた本が文庫で並んでいたので、読むことにしました。内容は解りませんが、学校のオーケストラの話でしょうか。
ⅠからⅢまでの3冊で、Ⅰが「合奏と協奏」Ⅱが「独奏」Ⅲが「合奏協奏曲」となっています。
溝口にある3流音楽校が舞台だそうで、もちろん今は3流ではないでしょうが、あの学園がモデルです。
芸大付属の受験に落ちて、おじいさんが学園長を務めるこの学校にきた、ですから自分では学校1のチェリストだとおもってしまうサトル君が主人公の小説です。
1冊目が1年生、2冊目が2年生、2冊目まで読み終わりました。
サトル君の独白で語られる文章を2冊続けざまに読むもんですから、どうやらそのサトル君の語り方に影響を受けってしまっています。
入学したばかりのサトル君が注目を集めながら、秋のオーケストラ公演をこえて、同級生の彼女が出来ていく様が、音楽の練習場面をつうじて、描かれていくのは、そんな現場をまるで知らないわけではないので、かなり楽しい。
2冊目の2年生が、鼻もちならない男子学生みたいなところと、ポリシーのない女子学生みたいな話になってしまうので、1冊目のほうがずっと生き生きしてよかった。
ということで、とても気に入った部分の抜粋です。
2冊目はそのような場面はなかったので、次の3年生に期待して、まずはかなりのテクを持ったサトル君と彼女とピアノの先生で松野学園長やお客の前での演奏することになった部分です。
その演奏についての打合せ部分。

「そうだ」のど自慢大会で思い出した。「松野先生からいわれたんだ」
「なんて?」南と先生が同時に訊いてきた。
「サロン・ミュージックみたいに演るなよ、って」
「うわー」といったのも、ふたり同時だった。
「よし」南が静かにいった。「決めた。がつんと行こう」
「俺も」僕も南を見据えた。「ケンカする」
北島先生がうなずいた。
「一楽章でケンカして、二楽章で仲直りしましょう」
「はい」僕たちはそう答えて、もうあとはめいめいの楽器や楽譜の準備に専念した。
それ以上いわなくても、お互いの気持ちがわかったのだ。


そして実際の演奏の場面(ちょっと長いけどすみません。)

どんなだらけた練習中にも出さなかったような、情けないラの音が出た。次のレもひどくかすれた。ピアノは静かに、しかし決然と鳴っている。くそっ。ケンカするんじゃなかったのか?八小節弾いて四分休符のあと、前後のバランスなど考えずに、思い切って弓を使った。南がはいってきた。いきなりしっかりした音をだしている。畜生、もう一度最初からやり直させてくれ!でももう音楽は始まってしまった。ここから挽回してしかなかった。だけど気持ちが完全に落ち着くには、第二主題までかかった。

3冊目、3年生になったサトル君は大きく変わっていくけれど、2冊目で起こったこともまあ落ち着くべくように、それなりに落ち着きました。
「船にのれ」完とあった後に加えられている“再会”という駄目だしみたいな部分がどうかは別にして、3冊目から音楽に関わる気に入ったところを抜粋します。

サトル君の最期の演奏会での演奏場面

僕たちが全速力で演奏しているあいだ、客席は静かにしていた。けれども僕はもう判っていた。音楽で一番大切なこと。それは演奏する人間と、それを聴く人間が、同じ場所に同時にいるということなのだ。僕たちがこんなに愉快に演奏できているのは、プログラムを消化して気が緩んでいるからではなく、さっきのやり直しをしているからでもなかった。僕たちが演奏しているときに、それを聴いている人たちがいて、彼らが僕たちの演奏を楽しんでくれたからなのだ。それが僕たちに伝わっているからなのだ。

「再会」の部分におまけがありました。
「懐かしかった」という言葉が、素直に出た。「ヴィヴァルディはジェームス・ムーディかと思っちゃったけどね」
コメント
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