伝統の現在NEXT2 『海神別荘 ~夢幻能形式による鏡花Ⅱ~』
2005年12月21日~24日 紀伊国屋ホール
そこにチラシと同じ世界があった…
海底の琅玗(ろうかん/半透明で暗緑色・青碧色の美しい宝石)殿
ノンストップの1時間30分。
”能”役者(シテ方観世流・味方玄)の大きな存在感に、
飲み込まれない技量があるのは、
さすが”狂言”師(大蔵流・茂山逸平。和泉流・石田幸雄)。
この2つの調和で、完璧な世界を構築することに成功!
4人のコロスを花組芝居の俳優達が担当。
ちょっと心配したけど…ごめんなさい。そりゃ御無用~だ~ね~。
こちらもさすが”ネオ歌舞伎”
紅花と松葉。左右異なる色の裃を着け、
きりきりしゃんと様々な情景を体現しちゃう。
小道具も時として白い扇だったり!あっぱれじゃ!
衣装は加納幸和!ますますあっぱれ!
ビンテージワインにスパークリングワインの
爽やかさを加味することに大成功ー!(飲んだらどんな味かいなぁ~)
おっと、どんな物語か。ね。泉鏡花の『海神別荘』でございます。
原作には無いオープニング。
とある海岸で、旅の美学生が老人から「村の娘が海底にさらわれた話」を聞く。
この学生、京都から来たー。言うて関西弁。
のっけから茂山逸平色出しますな~。
老人は、「貧乏になってもいいから娘を返して欲しい…。イイヤ、貧しい暮らしはいやだ!」
海に向かって悲痛な言葉を投げかけている…。
海底に住む海神の公子が、美しい人間の娘を見初め、
父親は、これでもか~ッ!っつーありとあらゆる財宝と引き換えに、
娘を海底に沈めるんだなー。
いや、結婚するんだから嫁がせるんだわさ。
僧都 「あれの父親は白砂に領伏(ひれふ)し、波の裾を吸いました。
あわれ竜神、一命も捧げ奉ると、
御恩のほど有難ふがりましたのでござります。」
公子 「(微笑す)親仁の命などは御免だな。そんな魂を引取ると、
海月(くらげ)が殖(ふ)えて、迷惑をするよ。」
侍女 「あんな事をおっしゃいます」
一同笑う。
公子役は逸平。今度はきちんと標準語。髪もビシッと決めて金粉振ってんのね。
貴公子然とした態度ヨ!
逸平君、大人になったねぇ。喜ぶ母の心境…あ、姉(ってことにしてくれ~)
なんだかジ~ン…。
暗黒の中、波の音…、生演奏は能管。
録音でしっとりとしたピアノや弦楽器(byバルトークなど)。
和と洋がつかず離れず。
美女の道中の様子を見る公子。
こっからサブタイトルどおり『夢幻能形式』!!
今まで能面は無表情にしか見えなかったけど、ウワッッ~。
彼女の悲しみと不安がバリバリ出てるヨ。
こんなに近距離で観るの初めてだから、そう感じるのかな。
美女 「でも、貴方、雲が見えます、雪のような、空が見えます、
瑠璃色の。そして、真白な絹糸のような光が射します。
女房 「その雲は波、空は水。一輪の月と見えますのは、
これから貴方がお出遊ばす、海の御殿でございます。
あれへ、お迎え申すので。」
美女 「そして、参って、私の身体は、どうなるのでございましょうねえ。」
女房 「ほほほ、(笑う)何事も申しますまい。ただお嬉しい事なのです。
おめでとう存じます。」
美女 「あの、捨小舟に流されて、海の贄に取られて行く、あの、(眗/みまわす)
これが、嬉しい事なのでしょうか。めでたい事なのでしょうかねえ。」
海の中は美しいばかりではなく、黒鰐、赤鮫、
そして腥(なまぐさ)い香をはなちながら、人間の魂が!
これが海月なんだって!フワフワァ~
そいつらが襲ってこようとする。
深海は暗いー。音もないー。冷たくてー淋しそー。
海の底で待っていたのは鎧姿の公子。
驚きはしたものの気丈夫な美女を、
公子はおおいに気に入って酒を勧めちゃう。
2人の距離は急速に接近~。
死んではいない、この姿を、一目父親に見せたいと言い出した美女。
公子 「人は自己、自分で満足せねばならん。
人に価値をつけさせて、それに従うできものじゃない。(近寄る)
人は自分で活きれば可い、生命を保てば可い。
しかも愛するものとともに活きれば、少しも不足はなかろうと思う。
宝玉とてもその通り、手箱にこそ蔵すれば、
宝玉そのものだけの価値を保つ。
人に与うる時、十倍の光を放つ。ただ、人に見せびらかす時、
その艶は黒くなし、その質は醜くなる。」
ひるまない美女はとうとう故郷へ…。
でも公子の言ったとおり、人間に美女の姿は怖ろしいヘビにしか見えず、泣き伏す。
一方、美女に失望した公子は、彼女を殺そうとする…。
ラストは舞台中央に扇が重なり合う。
そこにピンスポが当ってEND。(幕ないんで)
おったまゲッゲッげげげのゲーッッ!!
”幽玄”と泉鏡花&演出の加納幸和をシャッフルしたら、こうなるんだ!
eプラスで割引発見したときゃ、
こんな組み合わせだと人目惹かないんだ…。
ちょっとヘコんだんだけど。
そのおかげでチケット買った人が沢山いれば嬉しいなー。
アンコールで、美女に公子がそ~っと寄り添って退場。
現実は面で前が見難いからサポート。ってことかも…。
でも、それこそが物語りの真の終わりを告げているようで、
人間と、人間でないものを超越した2つの姿が、美しくて♪ボクは泣いちっち~♪
玉三郎が描いたゴージャスな世界(いつだったか日生劇場で)と、
対極にある”清閑の地”を築くには、紀伊国屋ホールの空間がちょーどイイ。
劇場入り口に佇んでた加納幸和~。
花組芝居とは毛色の変わった、
こんなグッとくるもん観せられちゃったら、『真夏の夜の夢』(2006年3月)も
気になってくるでしょー。もー。
伝統の現在NEXT3 2006年8月10日~13日 紀伊国屋サザンシアター