哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『人は死ぬから生きられる』(新潮新書)

2009-05-05 14:10:10 | 時事
 表題の本は、脳科学者の茂木健一郎氏と禅僧という南直哉氏の対談を新書にしたもので、あまり期待せずに読み始めたのだが、意外にも池田晶子ファンにもお薦めの本であった。

 茂木氏はテレビなどのマスメディアでの露出が多く、あまりいい印象を持っていなかったが、面白いことに、茂木氏はこの本では最初から科学の限界を認めており、南氏は茂木氏の卓見に賛意を表している。例えば次のような茂木氏の発言だ。

「近代科学の痛恨事は、人間がよりよく生きるとか、人間がいかに幸せになるかという問題について全く何の答えもないことです。」

 茂木氏は小林秀雄氏にも傾倒しているそうであるから、その意味でも池田さんに近いものがあるのかもしれない。ただこの本全体では話をリードしているのは南氏の方で、さすが禅僧らしく、池田晶子ファンにとっても首肯しやすい話が多くあった。例えば次のような言葉だ。

「私は自由というのは「航海する人」だと思う。「航海する人」は目的地を自分で決め、そこから逆算して航路が生じる。そして自分が今どこにいるか、現在地を知っている。「目的地・航路・現在地」、この三つを知っている人が、自分の力で海を渡って行ける人です。ところが、この三つのどれかを欠くと漂流してしまう。」

 自由と漂流とは異なる、自由とはどうにでもできるということではない。これは、倫理とはどういうものかを定義して示した池田さんの話に通じると思う。