秋の気配はあるけど、なんだかむっしっとする宵。
隣のアパートに住む吉田順一さんが晩ごはんに
やってきた。
こんなに近くなのに、初めてだよなあ。
常連の弘子さんもやってきて、賑やかな食事のあと。
「そうそう順ちゃんがうすかわ饅頭もってきてくれた」と
小浪。
「四日市にお弁当の営業に行ってきたんだ」
順ちゃんはおふくろさん弁当屋の営業をしている。
「なんか老舗の感じがする饅頭屋があって、入ったんだよね。
主人に”いままで続けてくるには、いろいろあったでしょうが、
どんな感じでしたか”って、聞いてみたんだ」
「へえ、そんなこと聞いたの?ご主人には、いい質問じゃ
ないの?」とぼく。
「うん、商いとかいって、飽きないというようなこと話していた。
すごいよね」
「・・・・」
「今晩、小浪さんに夕食をおよばれしているし、うすかわ
饅頭を買ったんだ」
「それで、弁当のほうは?」
「いや、そっちは話しなかった。また、今度でもいいかなって
思ってね」
「・・・」
順ちゃんのもってきてくれた、そんなうすかわ饅頭。
「なつかしい味がするうすかわ饅頭」というキャッチ・コピー。
たしかに、そんな味がする。
秋の宵、緑茶をすする。