”温泉”と聞くと、心が動く。
この間、市川さんと話していたら、湯の山の方にある温泉に行って
来たという。
聞いていると、どうも菰野の方の山ん中にあるようだ。
若い夫婦がオーナーとも聞く。
こんど、10月14日、鈴鹿カルチャーステーションで、波多野毅さんの
講演会があり、鶴島夕子さんが、その若夫婦と知り合いなので、
講演会のチラシを持って、話をしてきたということだった。
「そこに行くのに大変な山道を登る。運転に注意しないと、谷に
落ちてしまうくらい」と聞いた。
イメージが、ぼくのなかで出来てきてしまった。
怖いけど、なおさら行ってみたい。
ネットで調べると、「三休(さんきゅう)の湯ーー朝明渓谷 癒しとカフェ」と
出てきた。
三休の湯 朝明渓谷癒しとカフェ
http://33thank-you.com/
写真を見ると、湯船は小さいけど、外に森の風景が見える。
カフェは、手打ちそばもメニューにある。食べるスペースでは、ゴロンと
横になることも、出来そう。これは、いいと思った。
先週の土曜日、妻といっしょに行ってきた。
朝、わが家を出るときは曇りだったけど、国道306号から菰野市役所を
過ぎて、朝明渓谷に向かって左折したころから、雨が降り始めた。
鈴鹿山脈の麓に向かう山道は杉林に挟まれて、鬱蒼としてしていた。
曲がりくねった細道を登って行く道すがら、心細い気持ちにもなった。
手書きの案内看板の方へ曲がって、しばらく登って行くと、”三休の湯”
の下の広場に着いたらしい。
市川さんから、そこからの山道が難儀すると聞いていたので、運転を
妻と代わった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/1f/41/d8515b02beb2884632f456a804b23872_s.jpg)
登ってみたら、その坂道はジャリ道で、雨水で削られてデコボコしていたけど、
危険な感じはないし、第一20メートルほどの道で、あっという間に、
三休の湯に着いてしまった。
周囲、森に囲まれた小高い山の頂上を平らにしてあった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/0a/47/0ab165c2ef87a1e781a869dfef02ddad_s.jpg)
雨は、強くなりそうだった。
妻は、ネットの案内をよく読んでいる。
「おそばを、湯に入る前に注文しておくと、出てから食べられる、って」
若い男性が応対してくれた。
とりあえず湯へ。
わが家にもお風呂がある。
周囲、壁で、湯船も足を伸ばせない。
息苦しい感じで、ゆっくり入る気持ちにはなりにくい。
子ども時分は、商店街の中にあった自宅の前に、銭湯があった。
ほとんど、わが家のお風呂のように思っていた。
いま、思えば、そこは、ぼくにとってなくてはならない場所だった。
大きな富士山の絵があり、湯船があり、裸のおっさんたちで
混んでいた。
入る前はめんどくさいと思うけど、湯上りの心地よさは格別だった。
銭湯の風景や人と人との感触が今でも染み付いているんだろうな。
さて、三休の湯。
入り口や更衣室は、清潔さを感じた。
湯殿の戸を開けると、お年寄り(ぼくもその一人だけど)二人が、
湯に足だけ浸かりながら湯船の縁に座っていた。
ぼくが、湯船に入ると、知らん顔がしにくい距離感で、かといって
すぐ何か話しかけるかどうかと思っているうち、ぼくと同い年ぐらい
の血色も体格もいいおっさんが「どこからお出でかな?」と
声をかけてくれた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/2f/a1/9513d754ef558e330d5bb51d42e64def_s.jpg)
お二人は四日市から、おい出たと聞いた。
「ここの湯は放射能があるけえのう」
「はっ」
「ガンに効くんやわな」と若い方の人が言った。
もう一人の人は85歳で、抗がん剤を飲みながら治療していると
聞いた。
「ここは、10年ほど前に出来て、今のオーナーで三代目だよ」
と教えてくれた。
はじめにつくった人は湯治客もおもっていたらしい。
「ここは、出たあと身体がぐったりするかもしれんよ、放射能の湯
だけんね」
後で、この温泉は「ラジウム温泉」と聞いて、そういうことかと妙に
安心した。
しばらく話ているうち、お二人は洗い場で身体を洗って、出て
行った。
湯船に一人になった。すこし、のぼせ気味だった。
外の風景が眺められるよう、二枚の窓がいっぺんに開かれる
ようになっている。
全開して、外を眺める。雨は本格的になっている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/68/a1/e305628af39c069ce73ddb2e7a42c001_s.jpg)
靄がでて遠景は見えない。冷気がときに、入ってくる。
ボーッと湯船に浸かっていると、こんどは一人、やはり同年代ぐらいの
年寄りが入ってきた。
「窓、開けていますが、いいですか」ぼくは尋ねた。
「ああ、いいですよ」とその人。
それから、三休の湯のこれまでの10年の顛末記を語ってくれた。
十分にのぼせ上がった。
カフェスペースは、囲炉裏端と座卓と座布団が置かれたお食事処に
なっている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/76/3a/54ebfd32ffe86b3888c1d60b4c9231a3_s.jpg)
先に出た老人たちは、囲炉裏端に陣取っている。
座卓のところには、若いお母さんと小学生、幼年ぐらいの男の子、
奥には若い女性が二人、もう座っていた。
繁盛しているのかなと思った。
小浪も上がってきて、ざるそばが運ばれてくるのを待つ。
身体がヨレヨレ「になったようで、心地がいいのか、だるいのか。
しばし待つ。
親子のところに、そばが届いてから、もうしばらく待っていた。
そばが運ばれてきた。
そばは、手打ちのようで、素人っぽさも感じたけど、美味しかった。
妻が、カレーもというので、一つ注文して、二人で分けて食べた。
美味しかったけど、そのころは、もう朦朧としはじめて、ガマンできず、
座卓のところに横になり、座布団枕に眼を閉じた。
雨音が聞こえてくる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/52/85/7c8410cde3f49838d38a9cd8971d06a7_s.jpg)
何か、山の冷気を感じながら、うつうつと寝そべっていた。
こういうのを湯あたりというのかも。
幸いお客さんがそのとき座卓のところには居なかった。
心行くまで、うつうつとしていた。
こういうのも、悪くないなあ。
囲炉裏端の老人たちは、いつまでもおしゃべりをしている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/2b/27/dca6a44c983089a2923a8e530c2a6069_s.jpg)
眼を覚ますと、すこしクラクラした感じがなくなっていた。
すこし、冷えたのでもう一度、湯に浸かった。
釈ガ岳から下山してきた若者がずぶ濡れのヤッケで更衣室に入って
来た。この湯は、そういう場所でもあったんだ。
帰りがけ、若いオーナーに声かけた。
「先日、チラシもって、男の人と女の人がきましたよね」
「・・・・」
「アズワンから・・・」
「ああ、そうです、来ました」
「米田量くんも、知っています」
「ああ、そうですか。よく、知っています。彼とは京都で知り合いました」
若いオーナー夫妻は、京都でカフェをやっていた。
昨年、父の知人から、この温泉の経営を引き継いだと聞かせてもらった。
ご主人は、京都造形芸術大学で彫刻を専攻してきた。
卒業して、個展など開いて来た。
「個展で売れるものを創ると、商品になってしまうんですね。自分の
創作にすると、売れにくいんですね。彫刻で、暮らしていくのは
あきらめました」
入り口に、木の作品がいくつかひっそり置いてあった。
そのなかに、丸い球体があった。
「あっ、これぼくがぼくの作品です。桜の木でつくりました」
それは足下の床にあった。あまりにも、さりげなくそこにあった。
「この木の棒ですがね、これ笛なんです。オーストラリアのアボリジニの
人たちの楽器なんです」
オーナーはそれを吹いてくれた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/3c/f9/3551e88b2a0a37e5d9a98eeaf7cdd4ab_s.jpg)
吹くと言うより、何か息を吹き込むとその笛が何かを語りだすといった
印象をもった。
若い奥さんが、6ヶ月の男の子を抱っこして出てきてくれた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/73/f1/ea9667a398e0e189ae2b921d50b77bbf_s.jpg)
言い漏らしていたけど、この温泉、土日と祝日だけオープン。
今日は、けっこう繁盛しているようだけど、あとでそれで暮らして
いけるのか、気になった。
「アズワンでは、お金を介在しないで暮らす試みもしてるんですよ」
と話の流れでしゃべったら、そこからお二人身を乗り出した。
「この近くに、鹿肉料理を出しているマイ・ハウスというところあるの
しっていますか。そこでは、ぶつぶつ市(?)やっているんです。
その市には、自分が手がけているもので、これなら市にに出して
みようかなというもの、なんでもいいんです、持ち寄って交換する
んです。ぼくは、温泉のお湯を持っていったりします。
最近は、ここの温泉で市をやるときもあります。その時、ぼくの
持ち寄るのは、温泉に入ってもらうということです」
MY HAUSE 山と麓と喫茶
https://www.facebook.com/myhouse.cafe.zakka/about/?entry_point=page_nav_about_item&tab=overview
若いオーナー夫妻の交友範囲は全国に及んでいるらしい。
三休の湯主催のマルシェのときは、関東からもコーヒーを淹れに
きたり、楽器演奏に馳せ参じる人もいるらしい。
それぞれの人に場がある。場があって、その人がみんなの中で、その
人らしく浮き彫りになっていくのかも。
市とか、マルシェに若い人たちが寄ってくるのは、彼らなりの願いが
あり、目指す暮らしがあるんだろうな、と思った。
大企業や中央の官僚組織などのヒエラルヒーから醸し出される社会の
気風に本能的に乗れない若者の横に手をつなぐネットワークが、いろいろな
分野に、きっとあるんだろうな。
若いオーナーからは、当たり前にそういう場つくっている人たちを紹介
してくれた。
若者たちの人間回復の一端を垣間見た感じがした。
<例えば>
滋賀 どっぽ村
http://doppo.jpn.org/link.html
夕方、雨ほ殆ど止んでいた。
若いオーナー夫妻から、にこやかに見送られながら、山間の温泉を
後にした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/02/a0/80e6eb17812bc194254dbfcccb7df87d_s.jpg)