おんぶに抱っこの二泊二日の旅だった。
湯治のおもいつきは、じぶん。昨年末から、わが病身の付き添い、
妻小浪の気分をかえることができたらなあ、と。
自炊の湯治場探し・予約、越前ガニの調達、食材用意はすべて妻。
車の運転は息子。ぼくはといえば、どてらとサンダルばきの格好で
後部座席でふんぞり返る。
福井県福井市、三國に近い佐野温泉。2月23日夜、投宿。
二泊して、たっぷり温泉に浸かった。
カニは、金沢の近江市場に買い出しに行く。
友人が懇意にしている店に来てくれて、口添えをしてくれた。
金沢の帰りは、日本海の海岸に沿って、東尋坊まで。
海の向こうから雪まじりの烈風が陸に向かってふきつける。
波は荒々しくうねり、岩にぶつかって、砕け、飛沫をあげる。
どてらの上に防寒着をはおり、妻と波うつ岩場に立つ。
深い亀裂の岩場で、おもいかけず波飛沫を全身に浴びた。
爽快だった。妻も風に煽られながら、愉快そうだった。
海岸に面した喫茶店にも寄った。
火鉢があって、土鍋の水が無くなりかけていた。
「水無くなりますよ」とマスターに声をかけたら、「無くして
いるんです」と。海水から塩を採っているのだった。
湯治館で、カニを茹でた。
モクモクとカニを彫じて、食べた。鍋もして、雑炊にした。満喫。
翌日は、恐竜博物館へ行く。
雪が降っていた。銀世界を堪能した。
恐竜の骨格や復元図や映像は迫力あった。
それ以上に、生命の誕生、生物が光合成をはじめた痕跡、
40億年の記憶が今、じぶんの目の前に見えることの不思議。
妻は、変成岩や隕石に感じいっていた。
運転は、息子任せ。とくにスケジュールもたてていない。
息子が小さいときは、じぶんが運転して、あちこち行っていた。
息子とは、湯に浸かりながら、こころゆくまで、話ができた
満ち足りた気持ち。
<付け足し>
佐野温泉の周辺。
帰ってから高見順の生家があると知った。出生とその後の顛末。
東尋坊の脇に、文学碑あるという。
死の淵より 荒磯
・・・・・
おれは荒磯の生れなのだ
おれが生れた冬の朝
黒い日本海ははげしく荒れてゐたのだ
怒涛に雪が横なぐりに吹きつけてゐたのだ
おれが死ぬときもきっと
どどんどどんととどろく波音が
おれの誕生のときと同じやうに
おれの枕もとを訪れてくれるのだ
また、来ることになるかも。
もう、一人では来れないかも。