野球ファンは、今頃は待ちに待ったペナントレースに熱狂するところだが、私は今なおMLBが提供する無料のYouTube動画でWBCが繰り広げた感動の余韻に浸っている(苦笑)。今さらではあるが、準決勝と決勝の印象を書き留めておきたい。
あの日、打合せから席に戻って、やおらYahoo!のSports naviを開けて見ると、点差は1点に縮まったもののリードを保ち、一球速報に目を移すと、2アウト・ランナー無し(果物チームの梨ではない 笑)で大谷が投げ、バッターにマイク・トラウトを迎えていた。エンゼルスの同僚で、MLBを代表する二人が、この期に及んで日・米それぞれのチーム主将として直接対決するという、なんという巡り合わせだろう。痺れる場面で結果を待つ。3-2のフルカウントの末、三振を奪う。大谷はきっと吠えているだろう。観客は大盛り上がりだろう。その姿を、声援を、思い浮かべながら、オフィスの片隅で音のない静かなゲームセットに、思わず右手拳を突き上げていた・・・。
野球の醍醐味は、チームプレイを基本としながら、西部劇のガンマンの対決よろしく、個と個がぶつかり合うところにある。最後にこのような対決を用意するとは、野球の神様は実に心憎い演出をされたことだろう。
いやこの決勝だけではない。準決勝メキシコ戦でも、7回裏に吉田正尚が起死回生の同点3ランを放ち、突き放されてなお、8回裏に山川穂高が犠牲フライで1点を返し、9回裏、大谷翔平が二塁打を放ってベース上でベンチに向かって吠えて士気を鼓舞すると、しぶとく四球を選んだ吉田正尚に続いて、村上宗隆が逆転サヨナラ二塁打を放つという、日本の球史に残るドラマティックな逆転劇を演出された。決勝のアメリカ戦では、8回をダルビッシュが、9回を大谷が締めるという、豪華リレーが見られた。いやそれは栗山監督の采配だろうと言われるかも知れないが、いくら栗山監督が準備していても、最後を大谷が締める展開にならなければ大谷は登板しなかったはずだ(この大会のDHは、投手として登板すると以後、打者としては出られなくなるのだ)。大谷はこの決勝の登板のために、エンゼルスの監督とGMに事前に相談し、快諾を得ていたらしい。大谷と首脳陣の信頼を、つまりは大谷の人柄を感じさせるエピソードであり、かつWBCの知名度が上がりつつある証拠でもあろう。
野球は筋書きのないドラマだと言われるし、今回は漫画のようだとも言われ、実際に大谷が二刀流の活躍でMVPを獲得するとは漫画のような展開なのだが、本人たちはさながら甲子園で頂点を目指す野球少年に戻って、今日負ければ明日はないという今日を戦って来ただけではないだろうか。そんな彼らに野球の神様が微笑んでくれたのだろう。
因みに大谷は、30日のメジャー開幕戦に先発し、6回を2安打無失点、10奪三振3四球と好投しながら、後続が打たれて勝ちを逃してしまった。エンゼルスではなくもっと強いチームにいたらもっと数字が積みあがっていただろうとは言うまい。しかし、(ワールドシリーズのように)短期決戦で負けたら終わる、痺れるような緊張感の中で頂点を目指す快感を求めていたのは確かだろう。残念ながらエンゼルスにいたら今年も詮無い夢かもしれない。
大谷だけではなく、他の選手も、2006年や2009年のWBC制覇のときとは一味違うチームの雰囲気に包まれていたように思われる。それは日本のアスリートが五輪や世界大会のような檜舞台で日の丸を背負ってガチガチに緊張しがちなのとは些か違う戦いぶりだった。野球少年のように緊張しながらも、(ダルビッシュが言うように)「楽しんで」いたようだった。2009年のWBC決勝・韓国戦で同点の10回、ランナー二・三塁でイチローが勝ち越しのツーベースを放ったときの、緊張に包まれつつクールを装っていたのとは対照的だった。チームプレイでありながら、個の実力が世界レベルに近づいているからこその余裕の心境なのかも知れない。
吉井理人氏は最近の野球事情について次のように述べておられる。
(引用はじめ)
今は飛び抜けたスーパースターはほとんどいないが、すべての選手のレベルが昔に比べて格段に上がっている。コンディションを整えて最高のパフォーマンスを発揮しないと、通用しなくなっている。
レベルが上がった要因は、一つには情報が集めやすくなり、練習方法やコンディショニングの知識が成熟してきたからだ。技術の向上はもちろん、選手の体格も変わってきている。それに加え、野球人口が減ってきているので、幼少期から教育の専門化が始まっている点が考えられる。それらの要因によって平均的に上がったレベルを超える優れたパフォーマンスを発揮しなければ、プロ野球選手として生き残っていけない。
(引用おわり)
そんなプロ選手の中から選りすぐりの逸材を集めたチームが覇を競う中で、個性をぶつけ合い、しかもそれが国別対抗戦だから、WBCが面白くないはずはない。世界的にはサッカー人気にまだまだ及ばないし、アメリカでもバスケやフットボールの人気にまだまだ及ばないが、アメリカが本気になって、今回だってもっと実力ある投手が出場してくれれば、WBCはもっと盛り上がることだろう。それを見た野球少年たちが、次こそは自分が、と技量を磨いて世界の頂点を目指すのを見てみたい。あの日のイチローを見た野球少年たちが躍動した此度のWBCのように。野球はやっぱり面白いのだ。
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