風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

皇室の魚外交

2023-07-02 10:56:48 | 時事放談

 外交と題して、印象深く思い出すのは、間もなく一周忌を迎える故・安倍さんの外交である。かねて安倍外交には敬意を払ったものだが、それは政治家としての確固たる信念に裏打ちされていたからだった。今さら日本をどこまで強くすることが出来るかはさておき、今や一国で出来ることが限られているのはアメリカでさえもそうであり、与えられた諸条件のもとで、日本に好ましい安全保障環境を形成するために、インド太平洋構想を打ち出し、アメリカやオーストラリアやインドまで巻き込み、あの習近平氏をして一目置かしめ、帝国然とする中国と対等に渡り合ったのだった。ともすれば一国平和主義に陥りがちな島国・日本が、「点」ではなく、地域との共生という「面」の外交を推し進めるという画期でもあった。それに引き換え、岸田さんの言動には、申し訳ないが政治家の本懐といったものが感じられず、心許なさが漂う。勿体付けた喋りには、如何にも自分の言葉で喋っていない、端的に心が籠っていない、と思わせて、損をしている。聞くところによると、かつて首相になったら人事をやりたいと、のたもうたそうな。事実かどうか知らないし、どのような文脈の語りの部分を切り取ったものか知らないが、さもありなんと思わせるところが彼らしさを表しているように思えて、残念でならない。いや、人事は、例えば企業社会にあっては与えられた陣容を総とっかえすることは難しいが、内閣人事であれば可能であり、面白いには違いない。しかし、内閣の仕事としてやりたいことが先にあってこそ、それを実現するための手段としての組織・人事であろう。そう言えば、バイデン大統領は2019年春に大統領選に立候補表明した際に、「私は組合員だ」と言及したそうだ。こちらは明らかに選挙対策のポジション・トークだが、彼にも強烈な個性を感じさせないのは、あちらの国では社会の分断が激しく、なかなか政治家の本懐を語るのは難しい政治状況のせいでもあろう。

 そんな中で、こういう外交もあるのかと思わせたのが、天皇・皇后両陛下のインドネシア訪問だった。

 6月29日の日経新聞によると、かつて上皇さまは1962年の皇太子時代に初代大統領スカルノとの会見のため訪れたボゴールの大統領宮殿で、池の見事なコイに感銘を受けられ、スカルノ氏からコイを贈られたそうだ。そして上皇さまが天皇即位後の1991年に同国を再訪したときには、自らの発案で国産とインドネシア産のコイを掛け合わせて生まれたヒレナガニシキゴイ50匹を贈られたそうだ。それから再び30年が経ち、ジョコ大統領は天皇・皇后両陛下を招待した大統領宮殿内の水槽で泳ぐ高級魚「スーパーレッドアロワナ」を紹介し、プレゼントする意向を伝えたそうだ。今、体長60センチのアロワナの日本への輸送手続きを巡って両政府間で調整が続いているというが、事務方は大変だなあと、また、30年後に掛け合わせの魚を返礼で贈るのは大変だなあと、気遣うのは小心者の庶民の余計なお世話だろう。

 もとより皇室外交は政治とは距離を置く。そして30年もの歳月を一区切りにして、その間、政治情勢は変転することがあっても、国と国との間の息の長い友好を続ける。今回、両陛下がとりわけ若い人たちとの交流を深められたのは、30年後には彼らが次の友好を担ってくれることを期待してのことだろう。細い絆ではあるが、強くて長い絆である。欧州の王室や、以前にも触れたアラブの王室との外交を持ち出すまでもなく、政治から一歩離れた皇室外交を持ち得るのは、日本の誇りであり強みであろう。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO72313760Z20C23A6EA1000/

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