風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

スガ内閣の船出

2020-09-22 11:29:39 | 時事放談
 菅内閣と漢字で書くと、紛らわしくて、なんとなく心がザワつく(笑)。
 日本経済新聞や読売新聞の世論調査によると、内閣支持率は74%もの高率を叩き出した(なお、朝日新聞や毎日新聞では65%や64%)。前回調査(8月の安倍内閣)からは20ポイント近い上昇となるようだ。その支持理由として日経調査では「人柄が信頼できる」(46%)や「安定感」(39%)が、読売調査では「他によい人がいない」(30%)はともかくとして(苦笑)、「政策に期待できる」(25%)、「首相が信頼できる」(19%)が挙げられた。安倍政権ではだいたい評価が低かったところなので、先ずはお手並み拝見のご祝儀相場と言えるが、スガ首相ご本人によるイメージ戦略が功を奏したことは間違いない。雪深い秋田の農家の長男として生まれ、地方議員などを経て国政入りしたという生い立ちは、もはや多くの国民に記憶され、叩き上げの苦労人という形容がすっかり定着した。無派閥で非世襲の首相は自民党政権としては事実上初めてということと相俟って、これまでの首相にはない何かを期待させる。
 その答えは恐らく内閣の陣容に表れているのだろう。総裁選で自民党所属議員の7割を占める5派閥の支持を受けたことから、党内基盤は安定しているが、党役員や閣僚の人事は派閥バランスに配慮したものとなったのは、無派閥ゆえの処世でもあろう。しかし、顔触れを見ると、安倍内閣から麻生さんや茂木さんなど8人が再任され、加藤さんや河野さんなど3人が横滑りし、田村さんや上川さんなど4人が再登板するなど、恐らくスガさん好みの、経験や実績を重視した実務家揃いになっている。代わり映えしないと言えなくもないが、安倍政権の継承を掲げるのは、何より想定外の安倍さん辞任で時間がなかったからであろうし、政策の方向性自体に国民の支持が得られていることは明らかなので、そこに安倍政権には足りなかった実行力(とりわけ、かねて物足りなく思っている三本目の矢)が加われば、安定した政権運営が出来ると踏んでいるのではなかろうか。私自身、当初は、来年9月の総裁選までの中継ぎに過ぎないと思っていたが、評価は一変した。なかなかどうして、このまま安全運転し、再選を果たした末には、スガ色を全面に出した本格政権を狙っているのではないかと思わせる。スガさんのスゴ味である(笑)
 その意味で、就任記者会見で、「国民のために働く内閣」と命名されたのは、本心だろう。じゃあ、それまでは仕事していなかったのかと、ビートたけしさんは揶揄されたし(笑)、たけしさんじゃなくとも、一見、何じゃそれ!?と訝しく思った人が多いと思う。スガさんの真骨頂は「絶対に諦めない」ことだと言う人がいるし、スガさんと親しいベテラン議員によると、「あんな頑固な奴はいない。絶対に降りない。その代わり、頼んだことは必ずやる。それも、すぐに」ということだそうで、やはりスガさんの本心を吐露されたものだろう。どちらかと言うと「よきに計らえ」式にお殿様っぽかった安倍さんに対して、スガさんは汗をかいて「働く」ことを意図しているように思われるし、どちらかと言うと「国家」のために働いた印象が強い安倍さんは実際に諸外国の評価が頗る高かったのに対して、スガさんは「国民のため」に力点を置いているように思われる。
 閣僚人事では、個人的に三つのポストに注目している。先ずは、新たに創設されたデジタル改革担当大臣ポストだ。コロナ禍の惨状でIT後進国ぶりが露呈したことから、絶妙のタイミングで国民の不満を上手く救い上げたとも言え、ITに明るい平井卓也さんが抜擢された。二つ目は、スガさん自ら目玉閣僚と位置付ける行革・規制改革担当大臣の河野太郎さんだ。安倍内閣の防衛大臣として、既定方針だったイージスアショア(陸上配備型迎撃ミサイルシステム)の調達・配備中止を、事前の根回し抜きに発表し、政府・与党内に軋轢を生んだが、伝統的な自民党政治家にはない突破力は見事で、期待させる。以上は、安倍政権では成長戦略(Growth Strategy)と言われ、海外では構造改革(Sructural Reform)と受け止められた、三本目の矢に相当する。三つ目は、防衛大臣の岸信夫さんだ。安倍さんの実弟で、福田内閣や麻生内閣で防衛大臣政務官を、安倍内閣で外務副大臣や衆議院安全保障委員長を務められた。安倍さんは隠れ台湾シンパだったが、首相として表に出るわけには行かなかったので、親台団体である日華議員懇談会の幹事長を務める岸さんが、裏で台湾をケアする役割分担になっていた、などと言われる。急速に台湾への傾斜を強めるトランプ政権に寄り添う、明確なメッセージとなり、習近平国家主席としては、パンダ・ハガーの二階さんが自民党幹事長に留任したとは言っても、安心していられないことだろう。
 自民党総裁候補の中で、影が薄い(でも人は好さそうな)岸田さんや、人望がない(でも国民には人気の)石破さんに対して、スガさんはどうしても華がない(でもしぶとい仕事師の)印象が拭えなくて、三人ともネガティヴなイメージが付きまとい、読売の世論調査で「他によい人がいない」(30%)という支持理由に見られるように、いわば消去法からスタートしたとも言えるスガ内閣だが、期待値が高いのは、コロナ疲れと長期政権疲れから、国民が清新さを求めている証しだろうと思う。気紛れな世論の波にうまく乗って安定すれば、それだけでメディアの嫉妬を買うような、なかなか難しい時代だが、コロナ禍で沈滞気味の日本に、特に外交面で顕著だった安倍政権の上げ相場を利用し、内政面の充実に繋げることが出来れば、良い取り合わせとして、良い選択をしたと思われるようになるかも知れない。スガさんの粘り腰に期待したい。
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