風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

コロナ禍⑮政治的

2020-04-18 20:17:24 | 時事放談
 日本政府が緊急事態宣言の対象を全国に拡大したことについて、海外メディアは相変わらず厳しい目を向けている。「他国の厳格な都市封鎖に比べて非常に弱い」(AFP通信)、「(安倍氏の打ち出す措置は)余りに小さく、余りにも遅いため、有権者の支持を失っている」(ロイター)、「(大規模なウイルス検査を実施した韓国と比べて)日本はいまだに人口のほんの僅かな割合しか検査していない」(BBC)といった調子で、お説ごもっともなのだが、以前、ブログに書いたように、やっかみ半分のニオイは拭えない(笑)。そのユルイ対応の日本で、死亡者数や感染者数が欧米諸国と比べて圧倒的に少なくて持ちこたえているように見えるのが不思議でならないのだろうが、このうち、死亡者数が少ないのは動かしようがないにしても、感染者数が少ないのは検査数が少ないためで、検査が少なければ感染を知らずに広げかねないとご親切にも忠告されるわけだ。感染者数は感染(確認)数に過ぎなくて、検査が少ない以上、潜在的な感染者が多いのはもはや自明のことで、誰もが感染している可能性があることを前提にそれなりに自制した行動がとれる国(日本)では、検査数を徒に増やすことにそれほど意味があるとは思えない。だからと言って、日本だけ特別だと思っていても苦境を脱することはできそうにないのが悩ましい。
 ついでに、欧米メディアがなにかと持ち上げる韓国は、大規模な検査を実施しながら(という意味では欧米基準に沿って)死亡者数や感染者数を相対的に抑えている顕著な例として、日本を批判するための格好の比較対象に祭り上げられているに過ぎないのではないかと疑っている(笑)。実際、韓国の検査数50数万件は日本の5倍、人口を加味すれば実質10倍だが、二都市の巨大クラスター潰しのために検査を強化したもので、その後の増加はさほどではなく、微細クラスター潰しを繰り返してきた日本と、やっていることは本質的に変わらないのではないかと思う。ただ、真の意味で(朝鮮戦争という)戦時下にある国らしく、またSARSやMERSの苦い経験を生かして、中国やシンガポールなどの監視国家並みにスマホの位置情報で人の動きを徹底追跡し、軍や卒業前の医学生を強制動員するなど、有事の行動が国民に受け入れられ評価されていることは間違いない(真似したいとは思わないが、報道の通りだとすれば見事だ)。そして欧米が称賛していることを喧伝して、国民をすっかりその気にさせ、先の総選挙で与党圧勝を実現した。ムードというのは恐ろしいものである。韓国の左派・独裁ともいえる現政権は、実際には経済運営に失敗し、米・中・日との外交関係は停滞し、北との接近も空回りして、成果らしい成果は殆ど無いと言われるにも関わらず、コロナ禍への対応という一点で、1~3月の(惨憺たる?)経済統計が出る後よりその前に総選挙を実施してしまおうとした文大統領の政治決断が結果的に奏功したのだ。この点で、大統領選挙を意識して、経済活動の再開を早めようと焦るトランプ大統領には、新型コロナ対応での危うさを感じる。
 ことほどさように、政治的な要素はある程度やむを得ないのが現実であるにしても、ちょっと懸念されることでもある。日本の政府の専門家会議と言えば感染症の専門家ばかりで、免疫学者や心理学者や精神科医が呼ばれていないと、精神科医がぼやくのを目にしたことがあるが(笑)、実際のところ、感染症学だけじゃなく免疫学やその他の医療の専門家、心理学、(行動)経済学、社会学など様々な分野の専門家の知見を総合した上で、政治が最終判断すべきものだと思いたいところだ。ところが、目玉政策の一つ、減収世帯への30万円給付が一人一律10万円にひっくり返ったのを見ると、支持者からの圧力を受けた公明党が支持率低下を懸念して連立離脱をちらつかせながら安倍さんに翻意を迫ったからだとか、そこには安倍さんとその周辺だけで決める官邸主導への反発があったとか、自民党で一度決まったことが覆るようでは、自民党が得意としてきた党内ガバナンスが危ういとか、聞こえてくるのは政策ではなくお決まりの政局の話ばかりである(まあ、皆さんそういうのが好きなのだが)。さらに官邸主導の政策決定にスピード感が欠けるのは、前例踏襲を旨とする官僚が壁になっているからだとする解説もある。たとえば、安倍さんは世論に押されて検査能力の引き上げを指示してきたが、厚労省は軽症者の入院が増えて重症者支援が遅れれば医療崩壊を起こすと難色を示してきたとか、治療薬として期待されるアビガンの承認手続きやオンライン診療でも、副作用への懸念から、医師免許を持つ幹部職員らが「立ちはだかった」(政府関係者)とされる。そして検査を増やすべきだとか、より強硬な措置に踏み切るべきだとの主張に、外国メディアや外国にいる日本人の声を利用しているのではないかと疑われる事態すら見受けられる。
 そもそもPCR検査を増やすべきなのか、そうでもないのか、この命題自体が政治利用されてきた。検査数が少な過ぎるという声に対して、陽性率は10%程度なので(昨日12時の厚労省データによると、PCR検査陽性者9,167人、検査実施人数106,372)、これだけみると気軽に検査して外し続けている印象だと述べる専門家がいるが、それは措いておく。検査を多くするほど致死率が正確になり全体図が完成できると述べる外国の専門家がいて、それ自体は良く分かるが、隔離や行動自粛など目ぼしい対策がない中で、感染の実態を知ることと感染を予防することとの関係は今一つはっきりしない。また、検査で陽性反応が出れば行動が制約されるので、知らずに感染を拡大する事態を予防できるとする議論があるが、既に行動を最大限抑制することが推奨されている状況にある。検査をしなければ不安になるのは確かだが、検温と同じで、定期的に検査しなければ不安はおさまらないだろう。その意味で、日本感染症学会と日本感染環境学会が、感染症診療のあり方を変えていく必要があるとして、診療に携わる臨床現場などに向けて「新型コロナウイルス感染症に対する臨床対応の考え方」を発表し、軽症の患者に対してはPCR検査を勧めておらず、医療崩壊を防ぐために重症患者の治療に特化することを提言していることには、やはり留意すべきなのだろう。厚労省の意に沿うものだが(笑)、現実のリソースの制約を優先考慮すべきなのだろう。PCR検査は精度管理がとても難しい手法であり、質の高い検査を実施しないと意味が無い、十分な知識と経験を積んだ遺伝子検査に精通する臨床検査技師がいないことには成り立たない、といった立論から、「数」議論ばかりが増幅しすぎていると苦言を呈する専門家がいて、やはり傾聴に値する。
 今回のコロナ禍は、客観的なデータで捉えるのがなかなか難しいために、実相の理解が進まないところが実に悩ましい。それこそ無作為抽出で検査して感染率を定点観測すれば、動向を把握出来るのだろうが、今はそんな悠長なことをやっている場合ではないだろう。そこで、前々回ブログで死亡率、前回ブログで検査数と感染者数について取り上げたのだが、今回は、検査を増やさない中でも感染状況を想像するために、致死率(=死亡者数÷感染者数)について見てみたい。
 最新の厚労省データ(昨日12時時点)によれば、死亡者148(都道府県の公表数185)と、先ほどの陽性者数から、致死率は1.6%(同2.1%)となる。他方、世界全体では6.8%、主要国について単純計算してみると以下の通りとなる。
   フランス    16.5%
   ベルギー    14.0%
   イギリス    13.3%
   イタリア    13.1%
   スウェーデン  10.6%
   スペイン    10.5%
   アメリカ     4.9%
   デンマーク    4.4%
   スイス      3.8%
   ドイツ      2.9%
   オーストリア   2.8%
   韓国       2.2%
   フィンランド   2.1%
   ノルウェー    1.9%
   日本       1.6%
   台湾       1.5%
   オーストラリア  1.0%
   ニュージーランド 0.6%
   アイスランド  0.5%
   シンガポール   0.2%
 あらためて日本は、検査数を絞っているので致死率は相応に高くなることが予想されるのに、そうなっていないことに驚かされる。日本の医療システム(や日本の公衆衛生習慣)はまさに世界一と言ってもよいのだろう。新型コロナ肺炎の診断にはCT(Computed Tomography)が有用と言われ、日本には1万人につき1台ものCTが普及していること(G7では4万人につき1台)も一因だろう。多少なりとも都市封鎖している国が軒並み10%を超えるのはともかくとして、日本の医療制度と比肩し得るドイツや、検査数が多いと称賛される韓国、北欧の優等生フィンランドに至るまで日本を超えており、すっかり裏切られてしまった。日本より低いのは、コロナ禍対応の優等生・台湾や、有袋類が生息し検疫に極端に厳しい絶海の孤島オーストラリアや、極端に死亡者が少ない都市国家シンガポールなどに限られる。実はドイツあたりの致死率を当てはめて感染者数を逆算・概算しようと思っていたのだが、すっかりアテが外れてしまった。そこで、言葉は悪いが他から隔絶されてコロナ禍の格好の実験室と言われた大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号のケースを紐解くと、乗員・乗客3,711人中、感染者(陽性反応)712人、死者10人で、致死率1.4%、しかし高齢者が多かったことを考慮し(ワールドメーターによるとコロナによる死者の92%は60歳以上)、日本全体に当てはめるとすれば、1.4%よりも遥かに低くなることが容易に想像される。一般に実際の感染者は2倍、日本の場合、検査数が少ないため数倍、多くてもシンガポールやダイヤモンド・プリンセス号のケースを当てはめて10倍といったところが妥当なレベルではないだろうか。
 週末の気安さもあって、だらだら長々と書いてきたが、結局、最近の日本医師会の会見で言われたように、今は、医療機関で感染拡大を防ぐ防護服やマスクが不足している事態こそが医療崩壊を招きかねない切迫した状況なのだろうと思われる。これまでブログで見て来たデータから日本が世界の趨勢とかけ離れて異常に頑張っている状況が見て取れるが、世界最高レベルを誇る医療現場を支えるために、私たち一人ひとりが引き続き我慢すべきときだと思う。
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