風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

米中の田舎芝居

2019-07-11 01:34:08 | 時事放談
 G20で、貿易協議を巡る米中の攻防が中国ペースになってきたと言う人がいるが、果たしてそうだろうか。確かにトランプ大統領が、(最後の)第四弾の関税引き上げの対象として残していたのは米国の景気減速に繋がりそうな品目であって、ご本人の頭の中が大統領選で一杯だとすれば、これ以上の景気減速は望まず、関税引き上げをやりたくないのが本音、というのは確かだろう。
 日本総合研究所理事の呉軍華さんもその一人で、数日前の日経で、来年の大統領選を控えて経済界と支持基盤の農業州に配慮しなければならないから、農産品の輸入拡大という中国側のかねてのオファーに、敢えてファーウェイ・カードを切ってまで合意に漕ぎ着けたのだという。その限りではその通りなのだが、トランプ大統領は大きな決断をするときに、それほど大きく的を外さないし、ちょっと外しても事務方がきっちり修正する(トランプ大統領が言い過ぎたとすれば、事務方はその限りでサボタージュする)。そのため、今のところファーウェイの制裁解除は極めて限定的で、事務方によるとEntity List掲載を変えるつもりすらないようだ。
 さらに、呉軍華さんは、同じ日経記事で、経済のみのグローバル化のもとで、民主的な国よりも開発志向の強い非民主的な国の方がより経済効率を高められる、と主張される。民主的な…とは、自由競争は…という意味だろうと察するが、ある程度のムダ(あるいは所謂「遊び」)を前提としているのは事実だろう。センミツ(モノになるのは千に三つ、すなわち0.3%)とまでは言わないまでも、例えば日本の国家予算では省益なり前例踏襲なりで2割方はムダではないかと(自らのビジネス経験に照らして)邪推するように、人のやることなすこと、所詮はそんなものだと割り切るしかない。他方、確かに人智は万能ではないにしても、対象領域を絞るならば、リターンを極大化させることは可能だろう(例えば、シンガポールを想像するならば、限定された領域での実現可能性は高いだろう)。
 さはさりながら…である。非民主的な国の方が経済効率を高められるとは、中国に限ると、ちょっと楽観的に過ぎやしないかと思わざるを得ない。確かに、最近の中国は、AI分野で特許出願件数や論文発表数が多く、アメリカにキャッチアップしつつあると、まことしやかに囁かれる。他方で、中国が出願する特許の技術者の中に日本人の名前があったり、政策あれば対策ありで、ノルマ達成やカネ目当てのために補助金申請が杜撰だったり・・・といった話には枚挙に暇がない。中国の民間企業の平均寿命が3年未満とされるのは、一体、何を意味するだろうか。「国退民進」を目指すと言われながら、結局は「国進民退」すなわち国営企業にしか資金が回らなくて、民間企業の活力が減殺されているのではないかと想像するが、そんな社会で、果たして効率的な経済運営が持続可能だろうか。
 そもそも中国人は、技術を日本人のように地道に育てるほど悠長な性格ではなく、とっとと技術を盗んで来るか、盗むのが難しくなればさっさと金で解決するか、買うのが難しくなれば、さてどうするか・・・というのが昨今の状況であろう。逆に効率が良いとすれば、盗むか買うかして時間を稼ぐからに過ぎないのではないか、との疑念が浮かぶ。それで昨今、はやりの「持続可能」と言えるのかどうか。
 中国の技術力向上を認めないわけではない。実際、アップルのiPhoneよりサムスンや華為のスマホの方がよほど性能が良いのに価格は安いからコスパが良いと、話には聞く。その限りではその通りだろう。AIに関して言うならば、確かに軍事転用など対米競争力向上で、アメリカが神経質になるのはよく分かるが、一歩退いて冷静に眺めるならば、10年後あるいは15年もすれば、人口動態の予測によれば中国は人口減少社会に突入し、それに備えて今、出来ることはやっておこうと焦っている、という解説は、なるほどと大いに頷ける。
 さて、本ブログのタイトルに戻って、G20は結局、米中協議が世界の耳目を集めるばかりに、米中お互いの立場を尊重し、メンツを立てて、結果として田舎芝居で、その実、何も進展はなかった、というのが素直な見立てだろう。現に、中国が米国産の穀物輸入を再開すると明言しながら、いつまでに、という期限は中国政府から何ら示されていない。結局、米中対立は、①貿易収支の側面(トランプ大統領は、1980~90年代の頃のマインドセットから抜け出せていないか、あるいは他を理解するつもりはないか)、②構造協議の側面(1990年代の日米構造協議を思い出せば分かるように、中国をWTOに加盟させても、結局20年近く経って、中国は飽くまで伝統的な中華であって、西欧的に民主化するという期待は無残にも裏切られた)、③米中覇権の側面(技術覇権も含む)という、三つのレベルの話が錯綜している、というのが世間一般のコンセンサスだろう。①は、アメリカ大統領選を睨んで短期的な解決が(プラグマティックと言われようが)可能だが、②や③は中国の核心的利益(中国共産党統治の正当性)に関わる根本問題であり、こればかりは悲観せざるを得ず、中・長期で身構えるほかない。
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