風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

朝鮮半島の安全保障

2017-03-12 21:52:03 | 時事放談
 極東の地図を見れば明らかなように、朝鮮半島は日本列島の脇腹に突き刺さる刃のように位置している。古来、島国・日本にとって、朝鮮半島は文化の通り道であるとともに、元寇や秀吉の朝鮮征伐に見られるように、大陸との間の軍隊の通り道でもあった。江戸末に開国し、帝国主義の世界に放り込まれた日本が恐れたのは、朝鮮半島を経由して大国・清やロシアが圧力をかけて来ることだった。朝鮮半島には緩衝地帯になって欲しい、そのために朝鮮には独立した国家として屹立して欲しい、という思いもむなしく、日清、日露の二度の戦いの末に、日本は朝鮮半島を直接統治せざるを得ない状況に追い込まれた。そこから更に満州経営へと生存圏を拡張したのは余計だったかも知れない。欧米諸国の疑念を呼び、利害の衝突が深刻化する。
 戦後間もなくの朝鮮半島は、ドイツと並ぶ東西冷戦の火薬庫のような緊張感に満ちていた。そのため北朝鮮は、当初は旧・ソ連と、後には中国と、在韓米軍との間の緩衝地帯として温存された。その北朝鮮では、金正男氏殺害で神経剤VXが使われたことから、化学兵器を開発している疑いが濃厚である。3月6日のミサイル発射では、在日米軍を狙った実験だと公言して、弾道ミサイルを4発同時に発射して見せたのは、同時に着弾させたことに意味があって、ミサイル防衛を攪乱する能力があることを示そうとしたと見られている。3月7日には、毒殺された金正男氏の長男キム・ハンソル氏を名乗る男の動画が公開された。身柄が安全に保護されていることを示そうとする脱北者の気紛れか、裏でアメリカや中国が動いているのか。他方、南の韓国では相変わらず法よりも情に流されて大統領の罷免、更には次の大統領は反日・親北に傾くことが予想され、朝鮮半島はかつてなく動揺している。
 オバマ前大統領からトランプ現大統領への引き継ぎの中では、「北朝鮮問題が最も深刻かつ政権が真っ先に取り組む問題」と伝えられたらしい。戦略的忍耐という名の無為無策を続けたリベラルなオバマ政権下でも、北朝鮮の核施設をサイバー攻撃する準備を整えていたというが、トランプ政権に至っては「あらゆる選択肢を考慮する」方針に転換している。マティス国防長官は初の外遊で2月初に韓国と日本を訪問し、その翌週には安倍首相が訪米してトランプ大統領と濃密な時間を過ごし、来週には、ティラーソン国務長官が日・韓・中を訪問する。かつてこれほど頻繁に日・米・韓首脳が行き交うことがあっただろうか。昨年の米・韓合同軍事演習では金正恩氏「斬首作戦」と呼ばれる「作戦計画5015」がテーマだった。北朝鮮の核・軍事施設など約700ヶ所をピンポイント爆撃し、同時に、米海軍特殊部隊(ネービーシールズ)などが金正恩氏を強襲・排除するものだ。その後、新・作戦計画が準備されているという。国際テロ組織アルカーイダの最高指導者ウサマ・ビンラーディン殺害時と同じような特殊部隊の単独作戦だそうだ。まさに今、米・韓合同軍事演習が繰り広げられている。朝鮮半島はかつてないほどキナ臭い。
 そんな状況の中でのミサイル発射に、安倍首相は「脅威は新しい段階にある」と述べた。なんとなく雰囲気は伝わるが、その実体が明らかにされることはなかった。因みに、南スーダンからの自衛隊撤退も、表向きはともかく、真の理由がありそうなところ、明らかにされることはなかった。これでは日本人の安全保障認識はなかなか成長しないのではないか。自民党は不毛な安保法制論議に懲りていないのだろうか。そして今回も国会では、朝鮮半島を巡る安全保障問題ではなく、森友学園問題が議論されている。折しも日本では大ヒットの「シン・ゴジラ」が、欧州での売上は僅か91万円だったと報じられた。「今作は、日本の国防をテーマにしたとてもドメスティックな作品。会話も多く翻訳もし辛かっただろうし、それだけに海外でウケるかどうか半信半疑だった人も多かった。それでもゴジラの知名度と海外でも人気の『エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督ということもあり、海外配給も順調にいったと聞いていたが‥‥」(映画専門誌ライター)、「国防を怪獣を使ってでしか説明できないのは幼稚」など、欧米では辛辣な意見も少なくなかったようで、やはりテーマがウケなかったのだろうと結論づけられている。これでは相変わらずのガラパゴスそのものではないか。
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