風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

アジア点描・対中

2014-11-15 22:46:53 | 永遠の旅人
 一週間、日本を離れている間に起こったことで驚いたことが二つありました。一つは、衆議院解散・総選挙が既成事実化されていたこと。政局の観点から見れば、これから国論の割れる政策課題に挑み支持を落とすかも知れない自民党にとって、2年後の選挙に挑むより、安定的な支持を得ている今の内に選挙をこなして4年の時間を稼ぐことに意義を見出すのは、当然の発想なのでしょう。しかし私たち国民には明らかな争点が見えない上、総選挙一回で800億円もの血税が投入されると知れば、何ら大義がないことに憤りを隠せないのもまた当然の発想です。もう一つは、事前予想を大幅に超える25分に及んだ約3年振りの日・中首脳会談です。正式な首脳会談を開くために、中国側は、領土問題(尖閣諸島を巡る領土問題が日・中に存在することを日本側が認めること)と歴史問題(安倍首相が今後靖国神社を参拝しないことを表明すること)の2つの条件を提示したそうですが、以前から条件をつけないと公言していた安倍首相は、いずれをも呑むことはありませんでした。そのため、習近平総書記は、ロシアのプーチン大統領や韓国の朴槿惠大統領を国賓として迎え、公式の首脳会談としながら、安倍首相との会談で撮影された写真には両国の国旗を映さず、単にAPEC主催国の首脳とAPEC出席国の首脳との非公式会談に格下げし、ぎこちない笑みを浮かべて歩み寄る安倍首相に目を合わせることなく仏頂面で応じました。まるで未熟な子供の喧嘩ですね。世界第二の経済大国の首脳たるものが、なんと料簡の狭いことでしょう。テレビのニュース映像を見ていて可笑しくなりました。これこそ、中国側が如何に国内の反発をおそれ、神経質になっているかの証左と言えましょう。日本側では日中歩み寄りの第一歩と好意的に受け止められていますが、何のその。実際に、当日夜のCCTV(中国国営中央テレビ)は、習近平総書記と外国要人の会談の様子を延々報じた後、安倍首相との会談はパプアニューギニアに続く7ヶ国目に、ほんの数秒間、握手の場面を放映しただけだったようです。挙句に、事前に発表された4項目の合意文書の英語版は共同で作成せれず、それぞれ勝手に作成して別々に発信されました。因みに、領土に関わる項目3を、日本側では“Both sides recognized that they had different views as to the emergence of tense situations in recent years in the waters of the East China Sea, including those around the Senkaku Islands…”と訳したのに対し、中国側では“The two sides have acknowledged that different positions exist between them regarding the tensions which have emerged in recent years over the Diaoyu Islands and some waters in the East China Sea…”と訳しました。お分かりの通り日本は領土問題で「異なる見解」(different views)と述べた(つまり日本は領土問題を認めていない)のに対し、中国は「異なる立場」(different positions)と、さも領土問題が存在するかのように言い、日本は「尖閣諸島を含む東シナ海における緊張」と述べたのに対し、中国は「東シナ海の尖閣諸島を巡る緊張」と名指しするなど、お互いに都合の良い言い方を貫きました。
 前置きが長くなりました。今回、出張で訪れたフリピンにしてもベトナムにしても、中国を仮想敵国として(と言うと言い過ぎかな)、防衛装備や海上監視の装備を着々と整え、しかもこれらの分野では日本企業に期待を寄せています。
 ちょっと古いデータですが、アウンコンサルティングが2年前にアジア10ヶ国で実施した親日度調査によると(http://www.auncon.co.jp/corporate/2012/2012110602.pdf)、フィリピンは日本という国が「大好き」「好き」合わせて94%(各67%、27%)、ベトナム97%(各34%、52%)に達し、中国55%(各14%、41%)や韓国36%(各8%、28%)と対照をなしました。実は東南アジアのどの国も大同小異で、タイ93%(各58%、35%)、インドネシア91%(各41%、50%)、シンガポール90%(各66%、24%)、マレーシア86%(各41%、45%)といった塩梅です。ついでながら同調査で、台湾84%(各49%、35%)、香港84%(各46%、38%)となっており、中国と韓国の異常さが際立ちます。
 だからと言って、戦前の大日本帝国による侵略の歴史が全て許されていると考えるのは早計でしょう。しかし、東南アジア諸国は、中国や韓国と違って、自らの統治の正統性を主張する契機に乏しく、過去に拘るより未来を見ていることは確かで、しかも大東亜共栄圏というコンセプトに似て、「敵の敵は味方」という(蛇足ですが、当時の敵は西欧植民地帝国であり、また今の敵は中国であり、敵の敵はいずれも日本と位置づけられます)、冷徹な国際政治の現実感覚から、日本に好意を寄せているに過ぎないとも言えます。勿論、戦後70年にわたり日本が平和勢力として台頭した国のありようが評価されていることは間違いありません。日本は、ODAなどの経済援助にあたって、中国のように美味しいところを全て自国・自国民でかっさらうような品性下劣なところはありませんし、何か自国に有利なように条件をつけることもありませんから・・・。
 フィリピンのアキノ大統領は、今月4日、マラカニアン宮殿(大統領府)で日本記者クラブ取材団と会見し、「集団的自衛権行使を容認するための日本の憲法解釈変更を改めて歓迎、南シナ海や東シナ海での中国の台頭を念頭にフィリピン軍と自衛隊の『合同演習ができればよい』と述べ、防衛協力の段階的深化に期待を示」すとともに、「領有権問題で国際社会が中国の強硬姿勢を前に沈黙すれば、この問題に『関心がないような印象を与え、(中国を)さらに増長させてしまう』と警鐘を鳴らし、国際規範を守るよう圧力をかけ続ける必要を訴え」ました(産経Web)。さらに今年2月4日の米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)とのインタビューでは、「過ちだと信じていることをそのまま認めてしまえば、(中国の)誤った意思が一線を越えかねないと指摘」し、「世界は中国に『いいかげんにしろ』と言うべきだと、国際社会に警鐘を鳴らし」ました。その上で「1938年に当時のチェコスロバキアのズデーテン地方がナチス・ドイツに併合された歴史を挙げ、『ヒトラーをなだめて大戦を防ごうと割譲されたことを忘れたか』とし、融和策の危険性を訴え」ました(いずれも産経Web)。フィリピンは、中国との間でスプラトリー諸島(南沙諸島)の領有権を巡る対立で、2012年春、中国から「嫌がらせ」の一環でフィリピン・バナナの輸入制限が始まり、日本へのバナナ輸出が増えたこと(そのためバナナの価格が下がっていること)が報じられたことがありましたが、多分、状況は変わっていないことでしょう。
 ベトナムもまた、中国との間でパラセル諸島(西沙諸島)の領有権を巡って緊張を高めたこと、しかも小国でありながら果敢に中国に立ち向かったことは記憶に新しいところです。中国が5月にこの海域で石油掘削リグを設置したことが知れると、ベトナムが抗議し、海上で両国漁船が衝突したり、ベトナムの工業団地で反中暴動が起きて死者が出たりするなどし、中国は7月に係争海域からリグを撤去しました。
 日本としては、あくまで平和国家としての原則を崩すことなく、一方で、これら東南アジア諸国との間で、甘い幻想に浸ることなく、過去を真摯に反省しつつ、信頼を醸成しながら、他方で、冷徹な国際政治の現実感覚をもって、粛々と連携を進めるべきだと思います。
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