風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

Status quo(上)北朝鮮情勢

2011-12-23 01:00:30 | 時事放談
 年末のこの時期に飛び込んで来た金正日総書記死亡のニュースには驚かされました。何しろ謎のベールに包まれたかの国のことですから、識者と呼ばれる人たちが入れ替わり立ち代わり、学者やジャーナリストだけでなく、金正日氏が贔屓にしていたとされるプリンセス天功や、アントニオ猪木まで、それぞれの立場からいろいろ語るのが物珍しく、ここ数日間は俄か北朝鮮ウォッチャーになっていました。
 ようやく落ち着いて、ふと心に浮かんだのが、タイトルの“Status quo”という言葉でした。
 16~17世紀、啓蒙時代の文人たちが、“粗野な”英語の水準を高めようと、ラテン語、ギリシャ語を借用したため、学術用語を中心に数百ものラテン語が定着した(Wikipedia)そうで、この“Status quo”もラテン語の成句の一つです。Webで辞書を引くと「現状」と訳されます。私は、この言葉を、大学時代の外国書購読の授業で国際政治に関する論文を読んだ時に覚えました。今は、政権がスムーズに金正恩氏に継承されるのかどうか、世間は固唾を呑んで見守っているわけですが、心のどこかで破局を見てみたいという怖いもの見たさの好奇心がないわけではない一方、だからと言って権力の空白が出来て国内に動乱が起こることも軍が暴走してミサイルのボタンを押すような挑発行為も、また体制が崩壊して難民が中国国境や38度線や日本海をわたって日本に押し寄せることも、状況がドラスティックに変わることは誰も望まない、つまり朝鮮半島においてStatus quoを維持したいと誰もが思っている、という状況です。
 若すぎる後継者・金正恩氏はまだ28歳で、報道を見ていると、指導力不足を懸念する声ばかりが聞こえてくるのはやむを得ません。亡くなった金正日氏が後継者に内定したのは1974年(32歳)、公式デビューは1980年の党大会(38歳)、金日成氏が死亡したのは1994年(52歳)、3年の喪に服した後、党総書記に就任するというように、十分過ぎるほどの助走期間をおきました。それに引き換え、金正恩氏が後継者に内定したのは僅か二年半前の2009年6月(26歳)、その三か月後に公式の場に登場し、「党中央軍事委員会副委員長」「人民軍大将」として指導部入りしたばかりです。
 しかし、金正恩氏が、金正日氏の遺体が安置された平壌の錦繍山記念宮殿を訪れ、哀悼の意を表したとき、党や軍幹部を従える形をとっており、序列1位となったことが判明したほか、金総書記の死後、金正恩氏は“不世出の統帥者”(朝鮮中央通信)と呼ばれるなど、後継者であることの既成事実化が着々と進められ、北朝鮮が19日に公表した「国家葬儀委員会」名簿では、正恩氏を筆頭に、金総書記の妹・敬姫氏と夫で実質的なナンバー2とされる張成沢氏の名前が上位に並び、正恩氏を張氏夫妻が支える「ロイヤルファミリー体制」を印象付けていると言え、さらに韓国メディアは、政府筋の話として、金正恩氏は金総書記死亡発表の前に全軍に「金正恩大将命令第1号」を発令し、冬季演習の中止と部隊での弔旗掲揚を緊急指示したと伝え、事実ならば“有事対応”として正恩氏はすでに軍の最高統帥権を実質的に行使していたことになる(いずれも産経新聞)と報じられました。
 短期的には、権限移譲は順調に進んでいるように見えます。
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