風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

角界の大器晩成

2011-12-02 22:49:27 | スポーツ・芸能好き
 相撲中継を見なくなって久しかったのは、日本人力士で見るべき人がいなくなったからです。しかし、最近また、相撲中継を見るようになりました。きっかけは、2006年の九州場所で、朝青龍から、立ち会いで横綱としては異例のけたぐりを見舞われ、翌2007年春場所では、また朝青龍から、送り投げで投げられて倒れた後に軽く膝蹴りを受け、2009年初場所では、やはり朝青龍から寄り切られた後、ダメ押しの二発を見舞われるというように、暴れん坊・朝青龍から目の敵にされる日本人力士が同じ名前なのを知ったからでした。気性の激しい横綱というだけで初めから勝負にならない力士が多い中で、朝青龍をその気にさせたというのは、それだけで凄いことです。決定的だったのは、昨年の九州場所二日目に、63連勝中の白鵬を寄り切りで破って連勝記録を止めたこと、更に今年の初場所11日目には、23連勝中だった白鵬を再び押し出しで破るというように、またしても横綱に絡む星の巡りあわせにも、運命的なものを感じます。本名・萩原寛、今場所、三役通過に22場所も要し(大麒麟と並び史上4位タイという不名誉な記録)、新入幕から数えて42場所もかかるスロー出世(これもまた史上5位)で、晴れて大関に昇進した稀勢の里です。
 注目するようになったのは最近のことなので、若い頃はどうだったか、いろいろ調べてみると、十両昇進は貴乃花に次ぐ年少2番目の記録(17歳9ヶ月)、新入幕も貴乃花に次ぐ年少2番目の記録(18歳3ヶ月)、三役昇進は、貴乃花、北の湖、白鵬に次ぐ史上4番目の年少記録(19歳11ヶ月)と、スピード出世で早くから好角家の期待を集めており、北の富士からは、日本人で最も期待できると言われたことがあるそうです。それがここに来てもたついたのは、土俵際で逆転を許す詰めの甘さや、格下相手の取りこぼしが目立ち、6勝、7勝、8勝あたりをうろつくことが多かったからです。負けん気の強さや漲る闘志が時に空回りし、出世を阻んできたとも言われます。
 組んだら終わりということはなく、左を差して右上手を引いた時の攻めの形がよく、圧倒的な強さを見せ、そこが、一足先に大関になった琴奨菊とは一味違うところです。しかし持ち味はやはり左のおっつけから馬力を生かして前に出る相撲です。筋肉がゴムのように柔らかい恵まれた体格だそうですが、腰、膝、足腰が硬く、四つ相撲では怪我の心配があるという事情もあります。そして何より、切れ長でいい目をしていますね。負けん気の強さがそのまま表情に出ていて、八百長問題で揺れた角界にあって、「ケレン味のない、真っ向勝負の相撲」(貴乃花審判部長)が好ましく受け止められています。
 大器晩成という言葉は、高校一年の時、中間・期末考査のクラス平均が学年平均をなかなか超えることがなく低迷していた私たちのことを気遣って、半ば叱咤激励のために、半ば皮肉を込めて、担任の教諭が使ったものでした。「老子」の41章に「大方無隅、大器晩成」とあり、鐘や鼎のような大きな器は簡単に出来上がらず、完成するまでに時間がかかることから、真に偉大な人物も大成するのが遅いとか、大人物は遅れて頭角を現すという意味で使われます。まさに稀勢の里には、大関にとどまらないで、更にその上を目指して欲しい、それを大いに期待させる日本人の逸材が、ようやく出て来てくれたという感じです。
コメント
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