風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

茹で蛙

2010-02-11 10:24:37 | 日々の生活
 先々週くらいに日経新聞に載った記事なので、ちょっと旧聞に属しますが、欧州ビジネス協会会長トミー・クルバーグ氏、否、むしろイケア日本法人社長と言った方が通りが良いでしょう、彼の目に映る日本のことが、経済観測というコラムに掲載されていました。曰く・・・
 「主婦を対象に市場調査したところ、日々の生活についての暗い発言が多くて驚いた。住宅ローンや職場のストレス、親の介護、家庭を顧みない夫への不満などだ。人生を楽しむ感覚を忘れ、常に何かを心配したがっているようにも思えた。」「幸せな気分こそが消費の土台となる。日本経済を元気にするには、まず日本人が笑顔を取り戻さなければ。個人が社会から切り離されて孤立している印象だ。新政権の政治指導者には、失敗した過去を語るのではなく、未来志向で希望ある日本社会の姿を描いて欲しい。」
 その市場調査とやらが何たるかを知りませんが、同じ調査を欧米人に実施すれば、随分、違う結果になるであろうことは想像に難くありません。それは、現在、置かれている経済や社会環境の違い以上に、日本人の民族としての性格の違いが反映されたものだろうと思います。端的に、欧米人は、何故あれほどあっけらかんと前向きに人生を楽しめるのか羨ましくもあり疑問に感じます。そう思うこと自体が日本人である所以なのですが(笑)、それくらい日本人は、一般的に、欧米人に比べて悲観的に映ります。これは飽くまで表現上の問題、姿勢やポーズ、心の持ちようであって、謙虚でつましいと言えばそうなのでしょうが、例えばそれが実際の消費行動にストレートに影響するかと言うと、そうとも思えません。続いて・・・
 「日本列島が世界地図から消えてしまった。欧州のレーダーには日本が映っていない。中国やインド、ブラジルの姿は見えているのに、日本での事業展開をあきらめる欧州企業が多い。これでは対日投資は伸びず、競争も活発化しない。」「日本への直接投資額は米国や欧州各国、中国より少なく、トルコと同水準だ。アジアの経済ブームで投資機会は豊富にある。日本は世界第二の経済大国であり、国民の所得も大きいのに、成長する市場と見なされていない。この状況を政策の力で変える必要がある。」
 こちらに関しては、返す言葉が見つかりません。バブル以後の日本経済の20年間にわたる停滞は、素直に欧州人の心に反射しています。由々しき事態ですが、仮に鳩山政権の面々に問い質したところで、国会答弁であれば、間違いなく、今の日本の凋落は長い自民党政権のせいだと逃げを打つことでしょう。しかし、いったん政権与党として選ばれた以上、この答弁は禁じ手で、国民は誰もそんな言い訳を聞くために一票を投じたのではありません。
 韓国人は、所謂リーマン・ショック後も、それほど消費行動が衰えていないと言われます。それに引き換え、日本人は元気がない。日本人は蓄えがあるのに、なかなか消費に繋がらない理由を、鳩山政権は真面目に分析する必要があると思います。そうである以上、「コンクリートから人へ」という政策転換を評価する声が(とりわけ御用学者と思われる人々の間で)高いわけですが、ナントカ手当てと称して国民の手に直接金を掴ませても、所詮は濡れ手で粟で、それが消費に繋がるかどうかは疑問です。
 日本人は、歴史を振り返れば分かるように、自らの手で未来に投資しようという性向を余り持たない民族だと思います。気が付けば、国土は、他から孤立してそこにあった。大陸から流れ込んだ人々もいましたが、随分前に大きな流れは止まり、その後は国を閉ざしがちだったこともあって、こぢんまりと纏まりました。移民国家のように、人が増えてパイを増やすためにフロンティアを求めるようなことはありませんでしたし、将来に向かって国を造り変えようという契機もありませんでした。その領土の中で、「和を以って尊しとなす」精神で、肩を触れ合いながら仲良く暮らして来ました。例外は、秀吉の朝鮮出兵と、明治以後の帝国主義の時代でしょう。とりわけ第一次大戦のドイツの敗北に総力戦と経済封鎖の原因を認め、日本はその轍を踏むまいと大陸進出を目指しましたが、見事に欧米に叩かれてしまいました。今はまた巣ごもり状態に戻ったところです。
 政治は民度を映す鑑だと思いますが、日本においては、かかる素直な国民性のため、政治のリーダーシップに期待せざるを得ないところがあります。しかしその同じ国民性によって、余程の危機にない限りは、リーダーシップを発揮できないジレンマを抱えます。今はまさにその危機にあると思うのですが、どうにも茹で蛙状態・・・今の温度にいきなり放り込まれれば、熱さで飛び出すほどの熱湯の中にいると思うのですが、ぬるま湯に浸かったまま徐々に温度があがって来れば、それと気がつかないまま、いずれのぼせて果ててしまう運命にあるのでしょうか。
コメント
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