私を見て、「なんか年取ったね」とカミさんが言う。自分では変わっていないつもりでいたが、鏡の中の自分を見て、確かに年老いたと思った。退院以来の閉じ籠り生活で、顔は洗っても髭を剃ることを忘れていたり、長い間床屋にも行っていないから、髪も伸びてだらしない風貌になっている。
頭の中央はますます薄くなっているし、伸びた左右の髪が貧相さを強調している。身体を心配してくれた先輩が、「歩かないとそのうち歩けなくなるぞ。階段の上り下りが無理なら、せめて歩くことだ」と言ってくれたことを思い出し、娘たちが来る前に床屋へ行ってこようと外に出た。
何となく足取りがおぼつかないが、慣れてきたら周囲の様子もよく見える。大学がある街だが、夏休みなので女子大生を見かけることは無い。いやそもそも、暑さの中を歩いている人はめったにいない。床屋も客はいなくて、カミさんが女子ゴルフを見ていた。床屋のダンナとは同年で、保育園の会長同士で知り合ったが、何年か前にガンで亡くなった。
店はカミさんと息子夫婦で続けているが、息子は母親を残して出かけていた。「私も歳だからすぐ疲れるので、代わって欲しいのに、何でも私に押し付けてくるの。お父さんのお墓の掃除も、お盆の準備も、みんな私がしなくちゃーいけない。文句を言うとケンカになるので黙ってやってはいるけど」と愚痴を零す。
「息子さんにしてみれば、仕事を取ったら老け込んじゃうと心配しているんだよ」と励ますが、どこの家も同じだ。夫婦でも親子でも、お互いにいたわっているつもりなのに、なかなか相手には伝わらない。家族というのはそういうものなんだと思うしかない。我が家も、娘たちの家族が15日にやってくるので、カミさんはその準備で張り切っている。