彼女は家のリビングにいた。どうしてここにいるのか、彼女には分からない。家族(かぞく)はちょうど朝食(ちょうしょく)を取っていた。彼女は話しかけるが、誰(だれ)も返事(へんじ)をしないし、こっちを見てもくれなかった。彼女がいくら叫(さけ)んでも無駄(むだ)だった。母親(ははおや)が言った。
「奈央(なお)ちゃん、お姉(ねえ)ちゃんを起こしてきて。遅刻(ちこく)しちゃうわ」
食べ終わった彼女の妹(いもうと)が、いやいや姉(あね)の部屋(へや)へ向かった。彼女は、妹と一緒(いっしょ)にリビングを出ようとした。しかしどういう訳(わけ)か、彼女だけリビングに戻(もど)ってしまう。彼女は、
「どういうことよ。どうして出られないの? もう、どうなってるのよ」
彼女がどんなに騒(さわ)いでも、家族は誰も気づかないようだ。彼女のことが見えないのかもしれない。彼女は思った。きっと、これは夢(ゆめ)よ。あたし、まだ寝(ね)てるんだわ。
妹が戻ってくると、「お姉ちゃんいないよ。鞄(かばん)もないし、もう出かけたんじゃない」
母親は、「あら、そう? 気づかなかったわね。いつの間(ま)に…」
父親は、「昨夜(ゆうべ)、遅(おそ)かったよなぁ。仕事(しごと)、忙(いそが)しいのかな?」
「あの娘(こ)、何も話してくれないのよ。どうしちゃったのかしら? 心配(しんぱい)だわ」
彼女は必死(ひっし)に考えた。あたし、どこへ行ったのよ。えっと、仕事なんて忙しくないし…。朝早く出かけるなんてあり得(え)ないわ。捜(さが)さなきゃ。あたしの身体(からだ)…見つけないと。
そんな時、電話(でんわ)がけたたましく鳴(な)った。その音は、目覚(めざ)まし時計(どけい)の音に――。
<つぶやき>やっぱり夢だったのでしょうか? それとも別の世界(せかい)の扉(とびら)が開いたのかも。
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