みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0941「何の顔?」

2020-08-20 17:58:16 | ブログ短編

 山本(やまもと)は同僚(どうりょう)の吉田(よしだ)を空(あ)いている会議室(かいぎしつ)に引っぱり込んだ。山本は何かに怯(おび)えているのか、かなり挙動不審(きょどうふしん)になっている。吉田は心配(しんぱい)して訊(き)いてみた。
「どうしたんだ? 何か、あったのか? 俺(おれ)でよかったら――」
 山本は、両手で吉田の腕(うで)を強く握(にぎ)りしめて言った。「ぼ、僕(ぼく)、おかしくなったかも…」
 山本が語(かた)ったところによると、人の顔が動物(どうぶつ)の顔に見えるらしい。さらには昆虫(こんちゅう)や魚だったりもするようだ。吉田は信じられなかったが、誰(だれ)がどんな顔に見えるのか訊いてみた。
「そうだなぁ…。例(たと)えば、杉本(すぎもと)さやかは…トラになってたし…」
「ああ、杉本かぁ。あいつ、あっちこっちで男を漁(あさ)ってるらしいからなぁ。俺も、あやうく喰(く)われそうになったことあるんだよ。お前も、あいつには気をつけろよ」
「そ、そうなのか…? あとは…、係長(かかりちょう)は、白いウサギだった」
「係長なぁ。あの人は噂(うわさ)話が好きだから。仕事(しごと)してるふりして聞き耳(みみ)立ててるみたいだぞ」
「そ、そうなんだ。僕、どうしたらいいんだろう? 病院(びょういん)に行った方が…」
「まあ落ち着けって。ひょっとすると、お前は人の内面(ないめん)が見えてるのかもしれないな。これは仕事に役立(やくだ)つかも…。俺と組(く)めば、営業成績(えいぎょうせいせき)もあがるかもしれんぞ」
「えっ、そんなの無理(むり)だよ。だって、相手(あいて)の顔を直視(ちょくし)できないんだ」
「ちなみに、俺の顔は何に見えるんだ? 教えろよ」
「そ、それは……。カイ…。アサリか、シジミだと思うんだけど…」
<つぶやき>貝(かい)だったから、山本さんも相談(そうだん)できたのかもしれませんね。貝って、微妙(びみょう)…。
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0940「しずく103~事情」

2020-08-18 17:56:25 | ブログ連載~しずく

「あなたたち、どうしてここに?」柊(ひいらぎ)あずみは驚(おどろ)いて言った。
 ハルはアキの腕(うで)をつかまえて、
「あのお姉(ねえ)さんが、ここにおばさんがいるからって」
「おばさんって…」水木涼(みずきりょう)は吹(ふ)き出しそうになるのをグッとこらえた。
 あずみは涼を睨(にら)みつけておいて、優(やさ)しくハルに訊(き)き返した。
「しずくは…、お姉さんは一緒(いっしょ)じゃないの? こっちへ来てるんでしょ」
 アキが口を挟(はさ)んだ。「それがね、どっかに寄(よ)ることろがあるんだって。ねぇ、おばさん。あたし、お腹(なか)すいちゃった。なんか、美味(おい)しいもの食べたいなぁ」
 ハルがたしなめるように、「アキ、そんなこと言って…。迷惑(めいわく)かけちゃダメでしょ」
「だって、夕飯(ゆうはん)、食べてないじゃない。ハルだって、お腹すいてるはずよ」
 ここぞとばかりに涼が、「私も、お腹すいちゃったなぁ。ねぇ、先生。お願い」
「あなたまで…」あずみはため息(いき)をついて、「分かったわよ。じゃあ、いつもの定食(ていしょく)で…」
「えーっ、また?」涼はからかうように言った。「もっと高級(こうきゅう)なとこがいいなぁ」
「なに言ってるのよ。給料日(きゅうりょうび)前なの。仕方(しかた)ないでしょ」あずみは涼に呟(つぶや)くと、ハルたちを促(うなが)して、「さぁ、行きましょ。定食だけど、とっても美味しいわよ。それと…、私のこと〈おばさん〉じゃなくて、〈お姉さん〉って呼んでいいのよ。分かったぁ?」
<つぶやき>大人(おとな)にはいろんな事情(じじょう)があるのです。そこんとこ、よろしくお願いします。
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0939「出会い」

2020-08-16 18:05:23 | ブログ短編

 出会(であ)いによって幸(しあわ)せをつかむことってありますよね。まさに幸運(こううん)な出会い…。でも、彼女にとっては、それが不安(ふあん)の種(たね)になっているようです。
「どうして、あたしなんかに優(やさ)しくするんですか? あたし、そういうの慣(な)れてなくて…」
 彼女はうつむきながら呟(つぶや)いた。彼は微笑(ほほえ)みながら答(こた)えた。
「それは、君(きみ)のことが好きになっちゃったからだよ。君は、とっても可愛(かわい)いと思います」
「な、何を言ってるんですか…。あ、あたしなんか…、とんでもないことです」
「そうだ。おしゃれとかしませんか? 僕(ぼく)の知り合いに、お店(みせ)をやってる人がいるんです」
 彼女は言われるままに、彼の知り合いのお店に来てしまった。ブティックっていうのか、とっても素敵(すてき)なお店。彼は先(さき)にお店に入って行った。彼女は入口(いりぐち)で立ち止まり――。
 彼は、お店の人と言葉(ことば)を交(か)わす。とってもきれいな女性(ひと)…。この人のお店なんだろう。彼はとっても楽(たの)しそうに笑(わら)っている。あたしといるときより、嬉(うれ)しそうだ。彼女はお店に入ることができなくなった。ここは、彼女にとって場違(ばちが)いなところと思ってしまったのだ。
 彼女は、気づかれないようにお店を後(あと)にして、足早(あしばや)に歩(ある)き出した。しばらくして、彼女のスマホが鳴(な)り出した。彼からの電話…。彼女は立ち止まり電話に出た。
「ご、ごめんなさい。何だか気分(きぶん)が悪(わる)くなって……。でも、大丈夫(だいじょうぶ)です。ほんとに、ごめんなさい。じゃあ、また……」
<つぶやき>彼女は幸せをつかむことができるのか? すべては彼女次第(しだい)なのですが…。
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0938「密談」

2020-08-14 18:14:50 | ブログ短編

「どうだろう…、今度(こんど)の休(やす)みはパパが提案(ていあん)した場所(ばしょ)にお出かけしよう。賛成(さんせい)してくれるね」
 子供(こども)たちはお菓子(かし)の箱(はこ)を開(あ)けながら答(こた)えた。「分かったわ。パパに一票(いっぴょう)ね」
「僕(ぼく)も、そうする。任(まか)せてよ。すっごく楽(たの)しみだなぁ」
 パパは満足(まんぞく)げに微笑(ほほえ)んだ。そして、「このことはママには内証(ないしょ)だよ。しゃべったら…」
 ――翌日(よくじつ)。子供たちが学校から帰ってくると、ママが子供たちを座(すわ)らせて言った。
「ねぇ、どうだった? 昨夜(ゆうべ)、パパ、何か言ってた?」
 姉(あね)がそれに答えて、「パパってまったく分かってないわ。あたしたちがお菓子なんかで味方(みかた)になるなんて、今どきあり得(え)ないでしょ」
 弟(おとうと)が驚(おどろ)いたように、「えっ、そうなの? でも、僕は行ってもいいかなって…」
「あんた、なに言ってるのよ」姉は呆(あき)れたように、「パパが行きたい場所よ。あたしたちが楽しめるようなところじゃないわ。あんただって分かってるでしょ?」
 ママはうなずいて、「そうねぇ。もし行ったら、私たちのことほっといて一人で楽しんじゃうかもね。そうならないためにも、今度のお休みは…分かってるわね」
 姉は即座(そくざ)に答えた。「もちろん、分かってるわよ。あたしはママの味方よ」
 弟は困(こま)った顔をして、「えっ、そうなの? 昨夜はパパに――」
 姉は弟を睨(にら)みつけて、「あんたも賛成よね。ママの提案の方が良いに決まってるじゃない」
<つぶやき>子供は、ときに残酷(ざんこく)なことをすることがあるようで…。怒(おこ)らないで下さいね。
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0937「妊夫」

2020-08-12 18:04:49 | ブログ短編

 産婦人科(さんふじんか)の病院(びょういん)。待合室(まちあいしつ)にいるのは女性ばかりで、付き添(そ)いの男性は数人程度(ていど)。これはいつもの光景(こうけい)だ。でも、今日は場違(ばちが)いな男性が…。彼は、誰(だれ)かの付き添いというわけでもないようだ。一人でぽつんと座っていた。看護師(かんごし)に呼(よ)ばれた彼は診察室(しんさつしつ)へ入って行った。
 ――診察を終えた医師(いし)は彼に言った。「おめでとうございます。四ヶ月ですね」
 彼は訊(き)き返した。「えっ、四ヶ月? でも、僕(ぼく)は、お、おとこですよ。妊娠(にんしん)なんて…」
「最近(さいきん)、増(ふ)えてるんですよ。そういう方が…。でも、心配(しんぱい)いりませんよ。大丈夫(だいじょうぶ)です」
「ちょ、ちょっと待って下さい。このお腹(なか)は、ただ太(ふと)ってるだけで…。そんな…」
「でも良かったです。早く来ていただいて。産(う)み月(づき)になるまで気づかない方もいますから」
「そ、そんなバカな…。男が妊娠なんて…。会社(かいしゃ)には何て説明(せつめい)すれば…」
「ああ、それは診断書(しんだんしょ)を書きますので。でも、よく気づかれましたねぇ」
「いや、あの、妻(つま)が、そうじゃないかなって…。このお腹を見て…」
「奥(おく)さんは、出産(しゅっさん)されたことあるんですか?」
「娘(むすめ)がいます。今日は、PTAの集まりがありまして。一緒(いっしょ)に来るはずだったんですが…」
「そうですか。初めてだと何かと不安(ふあん)になりますが、奥さんがいれば安心(あんしん)できますね」
「あの…、これからどうしたらいいんでしょうか? 出産なんて想像(そうぞう)したことも…」
「大丈夫ですよ。一般的(いっぱんてき)に男性の方が安産(あんざん)みたいですから」
<つぶやき>男女同権(どうけん)なんていいますが、もしこんな世界(せかい)になったら…。どうしますか?
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