僕(ぼく)は不思議(ふしぎ)なことに気がついた。いつも通学(つうがく)のときに乗(の)る電車(でんしゃ)。その車窓(しゃそう)から見える看板(かんばん)が…、何だか少しずつ動いているような…。看板はお菓子(かし)メーカーのもので、可愛(かわい)い女の子がお菓子を持って微笑(ほほえ)んでいる。その表情(ひょうじょう)が、まるで僕を見つめているようで――。
それからというもの、僕はその看板から目が離(はな)せなくなった。
ある日のこと、僕は驚愕(きょうがく)してのけぞった。看板の女の子がウインクをしているのだ。隣(となり)にいた友だちが、話しかけてきた。
「あっ、お前も気づいちゃった。あの看板の娘(こ)、可愛いよなぁ」
僕は動揺(どうよう)を隠(かく)すように答(こた)えた。「えっ、ああ…。そ、そうだな。うん…」
看板の女の子は、はるか後方(こうほう)へ消(き)えてしまった。友だちは僕のことはお構(かま)いなしに、
「あの娘(こ)、春奈(はるな)っていうんだ。まだ新人(しんじん)のモデルなんだけど、いま注目(ちゅうもく)されてて…。俺(おれ)、一度でいいから生(なま)で見てみたいよ。お前、信じられるか? あんな可愛い娘(こ)が、この日本のどっかにいるんだぞ。あっ、でも…。生で見ちゃったら、うちのクラスの女子なんかみんなブスにしか見えなくなるかもなぁ。こりゃ、まいったなぁ――」
次の日は休日(きゅうじつ)だった。僕は、昨日(きのう)のことが気になって電車に乗った。本当(ほんとう)にウインクをしていたのか、確(たし)かめなくては――。でも、看板の女の子は両眼(りょうめ)を開けて微笑んでいた。僕は何だか気が抜(ぬ)けて車内(しゃない)へ目をうつした。その時、目の前にいた女の子が、僕を見てウインクしてきた。その女の子は、あの看板の娘(こ)とそっくりだった。これは、いったい…!
<つぶやき>まさか、生(なま)春奈なんですか? こんなことって、奇蹟(きせき)としか言えないでしょ。
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