みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0934「心残り」

2020-08-06 18:00:30 | ブログ短編

 病院(びょういん)のベッドで息(いき)を引き取ろうとしている男。そこへ、女が駆(か)け込んで来て叫(さけ)んだ。
「先生(せんせい)! ダメですよ。先生には、まだやりたいことがあるんでしょ!」
 男はビクッとして目を開けた。そして女を見つめると、「何だ。君(きみ)か…。相変(あいかわ)わらずうるさいやつだ。ああ、君ほど騒(さわ)がしい助手(じょしゅ)は初めてだ。おかげで、三途(さんず)の川を渡(わた)りそこねた」
「もう、やめて下さい。先生がいなくなったら、私はどうすればいいんですか?」
「他の教授(きょうじゅ)につけばいいじゃないか…。そうだ、また冒険(ぼうけん)の旅(たび)に出たいなぁ」
「分かりました。すぐに準備(じゅんび)します。先生の病気(びょうき)がよくなって――」
「ああ、あの人たちに会いたい。あの人たちに看取(みと)られて…。君は知らないか…。そうだなぁ、何十年も前の話だから。あんなに純朴(じゅんぼく)な人たちは初めてだった」
「そうですか? ただの田舎(いなか)もんだと思いますけど」
「君は、何てことを言うんだ。あの人たちは、そりゃ親切(しんせつ)で……」
「親切だったのかもしれませんけど、現実(げんじつ)はそんなんじゃないですよ。私、先生のことは両親(りょうしん)からずいぶん聞かされましたから。金払(ばら)いの良い人だったって」
「き、君は、あの村(むら)の出身(しゅっしん)だったのか? 何でだ…? そ、その変わり様(よう)は…」
「先生、あの時と同じ暮(く)らししてるわけないでしょ。時代(じだい)は変わっていくんです」
「そ、そんな…。じゃあ、私は…私は…。ああああっ……」
<つぶやき>先生は、穏(おだ)やかな顔で旅立(たびだ)ちました。最後に何を言い残(のこ)したかったのでしょ。
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