社会生活(しゃかいせいかつ)の中で、順番(じゅんばん)というものはとても大切(たいせつ)なものだ。もし、それがなくなってしまったら、この社会は大混乱(だいこんらん)に陥(おちい)ってしまうだろう。それは、家の中でも同じこと――。
「お兄(にい)ちゃん。それ、あたしが食べようと思ってたのに」
「何だよ。お前は妹(いもうと)なんだから、俺(おれ)が先(さき)に選(えら)ぶのは当(あ)たり前だろ」
「ずるい。おかあさん! お兄ちゃん、ひどいんだよ。ねえ、聞いてよ…」
これは何時(いつ)ものことだ。妹は、すぐに母親に泣(な)きつくのだ。そうすれば、何でも思い通りになると思っている。だが、甘(あま)い! 世の中、そんな甘くはないのだ。
母親のところへ行った妹が戻(もど)って来た。だが、妙(みょう)に上機嫌(じょうきげん)である。俺の顔を見て、つんとすまして言った。「あたし、これから出かけてくるわ。お兄ちゃんは、お留守番(るすばん)ね」
「何だよ。どこへ行くんだ?」
「おかあさんとお買い物よ。それで、あたしの欲(ほ)しいもの買ってくれるんだって」
「ちょっと待(ま)てよ。お前だけなんてずるいだろ。俺も行く。留守番なんて――」
「あら、ダメよ。今日はおかあさんと二人でお買い物なの。これは、おかあさんが決(き)めたことよ。お兄ちゃんが何を言ってもムダなの」
俺は母親のところへ行って掛(か)け合った。すると母親は嬉(うれ)しそうな顔をして答えた。
「助(たす)かるわぁ。今日はいっぱいお買い物があるのよ。荷物運(にもつはこ)び、してちょうだいね」
しまった――。俺は、何時もの父親の姿(すがた)が頭に浮(う)かんだ。
<つぶやき>家族(かぞく)の中の役割分担(やくわりぶんたん)って、暗黙(あんもく)の中(うち)に決(き)まっちゃうものなのかもしれません。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。