千鶴(ちづる)は怪訝(けげん)そうな面持(おもも)ちで言った。「処理(しょり)するとは、どういうことですか?」
紳士(しんし)はしずくの首(くび)に手を当てて、まるで絞(し)め殺(ころ)すみたいにして答えた。
「そんなに驚(おどろ)くようなことではないだろう。この世界(せかい)から消(き)えてもらうんだ」
「ちょっと待って下さい。それは、上からの命令(めいれい)ですか?」
紳士は手を放(はな)すと笑(わら)い声を上げた。そして、何時(いつ)もの口調(くちょう)で言った。「政府(せいふ)の役人(やくにん)にそんな決断(けつだん)ができると思うかね? あいつらは我々(われわれ)を利用(りよう)してきたと思っているようだが、そうじゃない。我々が利用してるんだ。それも、もうお終(しま)いだけどな」
千鶴には何のことだか理解(りかい)できなかった。紳士は楽しげに続けた。
「いよいよ、我々の悲願(ひがん)がかなう時が来たんだ。これまで何十年もかかったが、間もなく最終段階(さいしゅうだんかい)に入ることになる。我々の世界を創(つく)るんだ」
「我々の世界…。でも、そんなことが…」
「すでに、我々の仲間(なかま)はあらゆる場所(ばしょ)に広がっている。政府の中枢(ちゅうすう)にも、警察(けいさつ)にも、全国のライフラインを担(にな)っている企業(きぎょう)にも入り込んでいる。私の命令(めいれい)一つでこの世界が変わるんだ。――だが、それを実現(じつげん)させるためにも、今は騒(さわ)ぎが起きるのは望(のぞ)ましくはない。不安要素(ふあんようそ)はすべて排除(はいじょ)する必要(ひつよう)があるんだ。君(きみ)のお友だちにも、しばらくおとなしくしてもらわないとな。邪魔(じゃま)されては折角(せっかく)の計画(けいかく)が台無(だいな)しだ」
紳士は男たちに合図(あいず)をして言った。「部屋を汚(よご)すんじゃないぞ。静かに逝(い)かせてやれ」
<つぶやき>しずくが殺されたら、このお話も終わってしまいます。それはダメでしょ。
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