僕(ぼく)は小学生ながら変なこだわりを持っている。少々の雨なら傘(かさ)なんて使わない。それが男だ。僕はいつも格好(かっこ)いい男でいたいのだ。ママには、何で傘を差(さ)さないのって言われるけど、これだけは絶対(ぜったい)に譲(ゆず)れない。
そんなある日。僕はいつものように小雨(こさめ)の中を歩いていた。すると、誰(だれ)かが僕に傘を差し掛(か)けてきた。ふっと横(よこ)を見る。すると、そこには彼女(かのじょ)が…。
僕の胸(むね)は高鳴(たかな)った。だって、彼女は僕たちのあこがれの響子(きようこ)ちゃん。僕のすぐ横を歩いている。これは、まさに奇跡(きせき)に近いことだ。――ダメだ。こんなことで動揺(どうよう)してどうする。ここは、クールに決(き)めないと。男の美学(びがく)だ。
「何だよ」僕はそっけなく言ってしまった。
「濡(ぬ)れちゃうよ。近くまで一緒(いっしょ)に帰ろ」彼女は優(やさ)しく微笑(ほほえ)んだ。
「別にいいよ。ほっとけよ」
何でだ。心ではそんなこと思ってないのに、勝手(かって)に口から飛び出してしまった。
「もう、そんなこと言って」彼女はちょっと怒(おこ)った顔をする。それも、また可愛(かわい)い。
響子ちゃんは、何にも言わずに一緒に歩いてくれた。ずっと傘を僕の方に傾(かたむ)けて。僕は、誰かに見られやしないかとドキドキだ。でも、ずっとこのままでいたいと願(ねが)ってる。
<つぶやき>小学生でも大人と変わらない。美しいものに憧(あこが)れ、恋が芽生(めば)えていくのです。
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