みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0193「花見の宴」

2018-04-06 18:53:50 | ブログ短編

 この会社(かいしゃ)では、社員(しゃいん)そろっての花見(はなみ)の宴(うたげ)が毎月開かれることになっていた。会社設立(せつりつ)からの行事(ぎょうじ)で、社員の親睦(しんぼく)を深めるために始まったようだ。この宴の幹事(かんじ)を任(まか)されるのは新入社員(しんにゅうしゃいん)の二人。スーツ姿(すがた)もまだぎこちなく、初々(ういうい)しい感じである。
 今日は朝から宴の準備(じゅんび)を調(ととの)えて、場所(ばしょ)取りに来ていた。あとは、お昼(ひる)の時間にみんながそろうのを待つだけである。ここまで来ると、二人の距離(きょり)もだいぶ縮(ちぢ)まってきていた。
「俺(おれ)たち、場所取りする意味(いみ)あるのかな? まわり誰(だれ)もいないし」
「桜(さくら)じゃないからね。でも、この花きれいよ。赤くて、ほんとブラシみたい」
「ブラシの木なんて、誰も知らないんじゃないかなぁ」
「ほんと。あたしも全然(ぜんぜん)知らなかった」彼女はぎこちなく笑(わら)って、「みんな、遅(おそ)いわね」
「ああ…、もう来るんじゃないかな」彼は腕時計(うでどけい)で時間を確認(かくにん)。しばしの沈黙(ちんもく)――。
「ねえ、ちょっと遅すぎない?」彼女は不安気(ふあんげ)な顔で、「ちゃんと、ここの場所分かるよね」
「大丈夫(だいじょうぶ)だろ。掲示板(けいじばん)にちゃんと…」そこで彼は突然(とつぜん)立ち上がり叫(さけ)んだ。「忘(わす)れてた!」
「なに? どうしたのよ?」
「俺、掲示板に地図貼(は)るの…。どうしよう。そうだ、電話(でんわ)して…」彼はポケットを探(さぐ)ってみるが携帯電話が見つからない。ますます彼は慌(あわ)てだした。それを見て彼女は、
「もう、落ち着いて下さい。あたしがかけますから」平然(へいぜん)と携帯電話を取りだした。
<つぶやき>女は度胸(どきょう)なんです。最後の詰(つ)めが甘(あま)いと、これから頭が上がらなくなるかも。
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