ちょっとてこずりましたが、トマ・ピケティの『ユーロをめぐる戦い(Die Schlacht um den Euro)』を完読しました。ピケティーの著書ですので原文は当然フランス語ですが、私はそのドイツ語訳を読みました。フランス語のオリジナルは一冊の本ではなく、2冊、『Peut-on sauver l'Europe? Chroniques 2004-2012(ヨーロッパを救えるか?編年史2004-2012年)』及び 『Chroniques 2012-2015(編年史2012-2015年)』に分かれていますが、ドイツ語翻訳では合本されています。
内容はピケティーが仏紙『リベラシオン』に発表した金融危機・ユーロ危機に関する論説を集めたもので、3部に分かれています:
第1部『数兆ドル(2008-2009)』、
第2部『ヨーロッパ対市場(2010-2011)』、
第3部『市民たちよ、投票に行こう!(2012-2015)』。
著者は日本でも有名になった著作『資本』でも唱えているように、資本の利回りが労働収入の成長率よりも常に高いことを指摘し、資本に累進課税しない限り富の集約が進み、不平等がより大きくなることに警告を発しています。近年の富の集中の度合いはブルボン王朝時代やベル・エポックと呼ばれた時代のレベルに近くなってきており、そうした不平等を失くそうと革命を起こし、『自由、平等、博愛』を唱えてきた国の結末として実に皮肉な状況になっている、と言います。原因は国際的な自由化で、富が増長する一方、その富の再配分をするための税制それ自体が国際的自由競争にさらされているため、巨大な富に累進課税することが叶わず、むしろ減税措置を取ってきたことにあります。
富の再配分を実現するためには、資産収入の透明性を高めると同時に国際的な税制の均一化を進め、タックスヘイブンを根絶する必要があります。そしてまずはユーロ圏内のタックスヘイブン(例えばルクセンブルクなど)を失くすべきだ、と著者は提案しています。そして1929年の国際的経済危機の後ルーズベルト米大統領が累進課税を断行し、高収入及び大きな遺産相続に最高80-90%の税をかけ、以降約50年それが維持されたことを見習い、再びそのような累進課税を導入する必要がある、とも説いています。一国がそのような増税をすれば、そこから資本がより税の低い方へ逃げていくため、その逃亡ができないようにするための透明性であり、税の均一化であるわけです。
またユーロ導入によって加盟各国は自国貨幣という経済制御手段を失ったのに、借金をするときだけ独自の利率でしなければならないのは最悪の状況で、そのことがギリシャ、スペイン、イタリアなどの財政危機を招いている、と著者は指摘しています。ドイツやフランスは国債発行の際かなりの低利率ですが、南欧諸国は4-5%の高利率でしか国債発行できず、イタリアなどはプライマリー収支では黒字なのに、高い利子を払わなければならないことで財政赤字に転落しています。だから各国のBIPの60%を超える分の借金はユーロ加盟国全体で共有すべきであり、新債権を共同の利率で発行できるようにすべきだというドイツの経済識者会議が出した提案は評価されるべきで、何も提案しないフランスは自らを恥ずべきだ、と手厳しく自国を批判しています。
『パナマ文書』が公になり、この頃とみに租税回避行動に注目が集まっており、資金の動きの透明性を高めるための自動情報交換などが進みつつありますので、少なくとも透明性を高める、という点に関しては前進していると見做すことができるのではないでしょうか。しかしながら税制の均一化や、財産への累進課税などの実現は遠い道のりですね。『ユーロ圏共同債』のようなものも、提案に終わってしまっているような感じなので、残念な限りです。