徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:奥田英朗著、『ララピポ』(幻冬舎文庫)

2016年08月17日 | 書評ー小説:作者ア行

奥田英朗の『伊良部シリーズ』以外の作品を読むのは『ララピポ』が2作目。煽りを見ると、「下流文学の白眉!!」なんて書いてあるのですが、さて【下流文学】とは何だろう?と違和感を覚えつつ一気に325p読み切ってしまいました。全部で6話あり、主人公はそれぞれ違っていて独立性があるのですが、それでも関連性があり、視点を変えて同じ出来事を見るようで、その中にまた違ったドラマが展開されていたりして、群像劇の面白さが発揮されています。

主人公たちはどの人も世間一般には【負け組】で、社会の底辺でもがいている人たち。自分のコンプレックスと戦い、折り合いをつけつつも人前では見栄・虚勢を張って墓穴を掘ってしまったり、欲求不満のはけ口を見つけて暴走してしまったり。。。

以下あらすじ。

第1話 WHAT A FOOL BELIEVES

第1話の主人公はフリーターに限りなく近いフリーライターの杉山博(32)。若者向けの情報誌の新製品紹介ページを受け持ち、月2回原稿を書いて14万4千円を稼ぐ以外はやることも収入もないうだつの上がらない男。対人恐怖症のため取材を必要とする原稿は自ら断るという引きこもり。現在はわずかな原稿料と貯金を切り崩しながら生活している。彼の住む1LDKのアパートは欠陥住宅で、隣のテレビの音も上の足音やシャワーの音などがよく聞こえてしまう。新しく上に入居した栗野健治というホスト風の男はほぼ毎晩のように違う女を部屋に連れ込み、性行に勤しんで(?)いることに興奮を覚えた杉山博は上の音をもっとよく聞こえるようにと最初はコップを天井に当てて耳を澄まし、そのうち盗聴器まで買い。。。とエスカレートしていく。毎朝部屋を一人で去っていく女の顔を駅に先回りして確認し、尾行する衝動を抑えたり。。。何やってんだか、と呆れるしかない日常生活。彼は原稿を書かないときは昼間図書館を巡って暇を潰すが、その図書館でよく見かける太った女・玉木小百合と関係を持つようになるが。。。

第2話 GET UP, STAND UP

第2話の主人公は、第1話で盗み聞ぎされていたホスト風の男・栗野健治(23)。彼の仕事はホストではなくキャバクラ嬢のスカウトマン。若い女性をスカウトしてキャバクラやその他の風俗店、女性の同意があればAV女優としてAVプロダクションに斡旋し、彼女たちの稼ぎの5%を懐に収めて生計を立てている。因みに彼の事務所の取り分も5%。スカウトした女性たちの面倒をまめに見ないとすぐに止めてしまったりして彼の減収になるので、まめまめしく彼女たちを代わる代わる気遣い、部屋に招いて食事を振る舞い、ベッドの相手もしている。彼は収入を上げるためにAVに回せる女性を探している。新しくスカウトした女性・トモコはデパート勤めの押しに弱い普通の女性だが、会話が苦手とかで、会話が少なくギャラの高い風俗へ。健治は同時に事務所の上司から中年女性・ヨシエ(43)のマネージメントを押し付けられてしまう。彼女は一度AVに出演してから火がついてしまったらしく、かなりの淫乱になったというのだが。。。

第3話 LICHT MY FIRE

第3話の主人公は第2話で登場した中年女性・ヨシエこと佐藤良枝(43)。彼女の自堕落でメッシーな日常生活が描かれています。夫はサラリーマンで終電にならないと帰宅しない。娘は成人していて、同居はしているがほとんど会話なし。食事は自分の分だけなので、かなりテキトー。掃除もしなければゴミ捨てもしない。近所からはゴミ屋敷と言われている。彼女はただひたすら消臭剤を廊下や2階へ続く階段に投げつけるように撒く。2階は使用されていない。階段はゴミだらけで誰も上に上がれない。それには秘密があって…

また彼女はお向かいの金持ちの家の郵便物を盗み見るのを趣味としていた。ある日郵便物の中に「犬がうるさい」という匿名の近所からの苦情が混じっていた。。。

第4話 GIMMIE SHELTER

第4話の主人公はカラオケボックス店員・青柳光一(26)。ノーと言えないたちで、新聞は何紙も購読、押し売りから高いものをかわされること数知れず。ある日同僚がカラオケの個室で手コキをやる女子高生を発見し、ちょっと脅して自分も安くサービスを受け、更に光一もサービスを受けられるように話をつけた、と言う。彼は断り切れずにサービスを受けてしまうが、それが原因で女子高生たちの元締め・ポン引きの通称「ポンちゃん」に場所の提供を要求される。光一に断れるはずもなく、カラオケボックスは店長のいない昼間ほとんど風俗店と化してしまっていた。中にはほぼ連日通って来る自称作家・西郷寺敬次郎もおり、次第にエスカレートしていく模様。

一方自宅では、隣の老女のテレビの音と近所の金持ちの家の犬(第3話に登場)の鳴き声に悩まされ、隣とはいざこざを起こしたくないので老女には文句を言わないものの、犬を飼う家にはほぼ連日脅迫状に近い苦情を送っていた。。。

第5話 I SHALL BE RELEASED

第5話の主人公は第4話で登場した西郷寺敬次郎(52)。自称ではなく本当に作家で、純文学出身ではあるが、出した小説は1冊のみで、後は官能小説でずっと生計を立てている。高収入ではあるが、本人的に純文学出身のプライドがあるため、【文壇】として認められないことを不満に思っている。妻にはかなりないがしろにされており、もう何年もセックスレス。ある日録音原稿を出版社に届けに行った帰りに取材も兼ねて渋谷に立ち寄り、女子高生たちの派手さに度肝を抜かれた。しばらく呆然と彼女たちを眺めているとポン引きに「手コキ1回1万円。場所はそこのカラオケボックスだから金もかからないし、怪しまれない」と声をかけられる。逡巡するが、好奇心が勝ってしまい、紹介された女子高生と共にカラオケボックスへ。最初は手持ちが少なかったので、手コキと上半身裸にさせただけだったが、次はお金を用意して、お触りも加え、その次は本番も、その次は3Pとどんどんエスカレート。。。

彼の女子高生との体験は即座に作品に反映される。

第6話 GOOD VIBRATIONS

最終話の主人公は第1話に登場した太った女・玉木小百合(28)。彼女は口述テープの原稿起こしをするテープリライターで、よく西郷寺敬次郎のテープを原稿起こししていた。しかし彼女はその傍らでさえない男たちを自室に引き入れ、彼らとの情事を盗撮し、アダルトショップに裏DVDとして買い取らせていた。。。いかにも負け組な男たちといかにも持てそうにない太った女との情事はマニアックな人気があり、彼女はビデオ1本で50万円も受け取る。第1話の博との情事は『ヒロシ・シリーズ』という人気の裏DVDとなっていた。

小百合は幼少時から太っていたため散々「デブ」といじめられていたので、友人も殆ど無く、まともな恋愛経験もなく、しかし冴えない男なら彼女の誘惑に引っかかることを学び、それで「自分でも求められる」とある種の満足感を得、アダルトショップでVIP扱いされることにも気分の高揚を感じていた。。。

 

と、あらすじを書きだしてみて、改めてどうしようもない人生を生きる人々に何とも言えないやるせなさを感じてしまいますね。全く別世界で、共感もほとんどできないのですが、こういう人生を送っている人たちは決して少なくないのだろうな、と妙に納得してしまったり、【下流文学】とは下流、すなわち社会の底辺で生きる人々を描いた文学なのだな、と合点がいったり、底辺で生きることと性風俗は切っても切り離せない関係なのだろうかと疑問に思ったり。。。第5話の西郷寺敬次郎だけは底辺の人ではないのだけど、ネタバレになりますが、底辺に落ちていく話です。

『ララピポ』は感動こそしませんが、「人生ってなんだろう?」と思わず考えさせられる作品ですね。

因みに『ララピポ』は第6話の主人公が外人の"a lot of people"の発音をそのように聞き取ったことから来ています。確かに多種多様な人たちの物語なので、タイトルに相応しいと言えます。

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