白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(417) 岸田國士「チロルの秋」その他

2022-11-13 11:16:41 | 観劇

「チロルの秋」その他

 今月は図らずにも観劇月間となってしまった 先週の紅、南条二人芝居に続いて今週は大阪放送劇団の公演だ 昨年末劇団創立80周年記念とかで岸田國士を取り上げた( 「留守」、「秘密の代償」)ところ評判がよく(未見)今回も短編戯曲を3本取り上げた 客席には永遠の演劇青年の楠年明さんや多賀勝一さんがいた

岸田國士は岸田今日子、岸田衿子の父親として有名だが日本現代演劇の父と呼ばれ新人劇作家の登竜門として「岸田戯曲賞」としてその名を残している この「チロルの秋」はフランス留学時代に書いた処女作「古い玩具」に続く2作目で大正13年9月に発表され同年秋新劇協会の手で帝国ホテルの演芸場で初演、その「「チロルの秋」上演当時の思ひ出」によると

「正直に云へば私は自分の処女上演について余り香しい思ひ出を懐いていないので、なるならば語りたくない気持が非常に強い、と云ふのは私はそこで作家としてずいぶん大きな失望を感じたからである 自分の作品を舞台のものとして観てゐるに耐えられなくなって劇の半で席を立って外へ出てしまった程であった 少し強く云へば あの場合周囲の見物達に全然関わらないで「幕を閉めてしまへ!」と舞台に向かって怒鳴ることが出来たらと思ったものである」

と書いているように本人は詩劇として書いているのに新劇協会はリアリズム劇として上演したためチグハグで無残な仕上がりになってしまった

脚本(岩波書店版岸田國士集第一巻)を読んでいると数々の疑問が出てくる 

ステラは何故喪服を着て誰の為に喪に服しているのか 絶えず読んでいる本は何なのか ステラが「私のお母さん長崎で生まれたの ハマって云う名」と言ったときアマノの驚きぶりは何故か ここから二人は異父兄妹説が生まれる そもそも二人は何故流浪の旅をしているのか 

全て疑問だ 答えは脚本には書かれてはいない 僕だったらこんな作品の演出はやらない ステラ役の増田久美子は相変わらず熱橋本店好演、アマノ役には客演の関西芸術座の多々納斉 嫌みなく二枚目を好演

それにしても「チロルの秋」タイトルは上手い もう一本の「葉桜」も二人の結婚が満開の桜をイメージさせて上手い

各作品における音楽の使い方はいい 作者は「ぶらんこ」の付記に次のような注文を書いている

この戯曲の上演には開演前より閉幕後に亘って間然なく演奏される音楽が欲しいと思ひます 特にこの戯曲の為に作曲されたものであることを望みます 例へばビゼエの「ラルレジェンヌ」のような

こんな作者の細やかな望みを無視してるところがいい

外に出ると今日までの雲一つない青空が千里の空に広がっていた


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