いまはいない彫刻家の ギリシャ神話につ
いて かんがえていると 足音をひきずる男
が一日に四回 五回と 部屋をたずねてくる
ようになった ハーケンを右手にもち 一つ
一つの岩間にうちつけて 海岸線を 星座の
ように見わたす この地上まであがってくる
ことが どれほど 骨のおれる仕事であるか
を とはずがたりにしゃべりだす
英雄ペルセウスのように 西へ 東へ 南
のはてへ 死者のむらにたちより 骨をつぎ
たし 毒蛇をのみこみ 歩きつかれる道のり
こそは くもが糸をはきつづけるよりも 人
間が眠れぬ夜をかさねるよりも 実に たい
へん偉大である そのうえ 岩は 底なし岩
で ハーケンを 沈みこむ寸前にひきあげて
つぎの岩にうつさなければならない この緊
張の連続は プロメテウスの苦痛よりも イ
エス・キリストの受難よりも はるかに尊く
感謝されるに値する
あいている片方の手には バーベルをもち
上下運動をくりかえしては たえまなく腕の
筋肉を強化して 咳きこみながら 古いアル
ファベットの変形語を ならべかえる
ところで、ビールを一杯、もらえないだろ
うか。
私の見知らぬ記憶の分子は 体内をあわた
だしくかけだし 森の老婆が通りぬけるよう
に 声帯を奇妙な音色にふるわす
あいにくだね。
ここには、おいてないんだよ。
深夜 アフロディーテの出現を夢みつつ
白く泡立つコップの底を 手のなかにつつみ
こんでいると そのたびに 私の耳のあたり
には 竹の子の頭のような花が咲きだして
窓ガラスにうつってはきえていく
詩集「月がまるみをおびる地点まで」より
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いて かんがえていると 足音をひきずる男
が一日に四回 五回と 部屋をたずねてくる
ようになった ハーケンを右手にもち 一つ
一つの岩間にうちつけて 海岸線を 星座の
ように見わたす この地上まであがってくる
ことが どれほど 骨のおれる仕事であるか
を とはずがたりにしゃべりだす
英雄ペルセウスのように 西へ 東へ 南
のはてへ 死者のむらにたちより 骨をつぎ
たし 毒蛇をのみこみ 歩きつかれる道のり
こそは くもが糸をはきつづけるよりも 人
間が眠れぬ夜をかさねるよりも 実に たい
へん偉大である そのうえ 岩は 底なし岩
で ハーケンを 沈みこむ寸前にひきあげて
つぎの岩にうつさなければならない この緊
張の連続は プロメテウスの苦痛よりも イ
エス・キリストの受難よりも はるかに尊く
感謝されるに値する
あいている片方の手には バーベルをもち
上下運動をくりかえしては たえまなく腕の
筋肉を強化して 咳きこみながら 古いアル
ファベットの変形語を ならべかえる
ところで、ビールを一杯、もらえないだろ
うか。
私の見知らぬ記憶の分子は 体内をあわた
だしくかけだし 森の老婆が通りぬけるよう
に 声帯を奇妙な音色にふるわす
あいにくだね。
ここには、おいてないんだよ。
深夜 アフロディーテの出現を夢みつつ
白く泡立つコップの底を 手のなかにつつみ
こんでいると そのたびに 私の耳のあたり
には 竹の子の頭のような花が咲きだして
窓ガラスにうつってはきえていく
詩集「月がまるみをおびる地点まで」より
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