宮城県角田市在住堀米薫さんの新刊です。(つい最近別のノンフィクションを出されたばかりなのに、すごいです)
長谷川ゆきさんは「家庭文庫」開設を夢見ていたが、東日本大震災で約八百冊の絵本を失ってしまう。
その後、多くの人の助けや支援をえて「うみべの文庫」を開いたゆきさんは、託された思いを胸に、絵本と人、人と人の心をつなぎ、芽吹かせてきた。
ゆきさんを突き動かした絵本の力、言葉の力とは…… (文研出版サイトより)
冒頭で、堀米さんがこの文庫を訪れたときに目にした賢治の『注文の多い料理店』の序が書かれています。
わたしたちは、氷砂糖をほしいくらゐもたないでも、きれいにすきとほつた風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗らしやや、宝石いりのきものに、かはつてゐるのをたびたび見ました。
わたくしは、さういふきれいなたべものやきものをすきです。
これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹にじや月あかりからもらつてきたのです。
ほんたうに、かしはばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかつたり、十一月の山の風のなかに、ふるへながら立つたりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんたうにもう、どうしてもこんなことがあるやうでしかたないといふことを、わたくしはそのとほり書いたまでです。
ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでせうし、ただそれつきりのところもあるでせうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでせうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません。
大正十二年十二月二十日
宮沢賢治
書く側、読む立場、どちらにとってもこの言葉は水のように心にしみこんできます。この序を読んでから物語を読むと、そして原稿用紙に向かうと心構えが違ってきます。そして堀米さんの書かれたこのノンフィクションも。
震災という大きな事件が、長谷川さんにふりかかりますが、この本で最も伝わってくるのは、本への愛。子供達に目に見えない栄養を与えたいという純粋な気持ちです。
私も子供に本を読むことをしたくて、本当は読み聞かせの会などに入って活動をしたいのですが、今の時点で、何かを定期的にすることは無理。でも全国でこのような活動をしてくださっている方がいます。その方達に感謝。