石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BPエネルギー統計2020年版解説シリーズ天然ガス篇 (19)

2020-08-26 | BP統計
(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で一括してご覧いただけます。 http://mylibrary.maeda1.jp/0511BpGas2020.pdf

BPが毎年恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2020」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量、貿易量及び価格のデータを抜粋して解説したものである。
 *BPホームページ:
http://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html

7.天然ガスの価格
(安定する米国、乱高下する日本!)
(1)2000年~2019年の天然ガス価格の推移
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-5-G01.pdf 参照)
 天然ガスの取引価格には通常US$ per million BTU(百万BTU当たりのドル価格)と呼ばれる単位が使われている。BTUとはBritish Thermal Unitの略であり、およそ252カロリー、天然ガス25㎥に相当する 。

 市場の自由取引にゆだねられた商品は一般的には価格が一本化されるが(一物一価の法則)、天然ガスについては歴史的経緯により現在大きく分けて三つの価格帯がある。LNGを輸入する日本では原油価格にスライドして決定されている。巨額の初期投資を必要とするLNG事業では販売者(カタール・オーストラリアなどのガス開発事業者)と購入者(日本の商社、電力・ガス会社などのユーザー)の間で20年以上の長期安定的な契約を締結することが普通である。この場合価格も両者間で決定されるが、その指標として原油価格が使われているのである。

 これに対してヨーロッパでは供給者(ロシア、ノルウェー、アルジェリアなど)と消費者(ヨーロッパ各国)がそれぞれ複数あり、パイプライン事業者を介して天然ガスが取引されており、EU独自の価格体系が形成されている。また完全な自由競争である米国では天然ガス価格は独立した多数の供給者と需要家が市場を介して取引をしており需給バランスにより変動する市況価格として形成される。その指標となる価格が「Henry Hub価格」と呼ばれるものである。

 ここでは日本向けLNG価格(以下日本価格)、英国Heren NBP index価格(以下ヨーロッパ価格)及び米国Henry Hub価格(以下米国価格)について2000年から2019年までの推移を比較することとする。なお参考までに百万BTU当たりに換算した原油価格も合わせて比較の対象とした。

 2000年の日本価格は4.7ドル、ヨーロッパ価格2.7ドル、米国価格4.2ドルであり、当時の原油価格は4.8ドルであった(いずれも百万BTU当たり)。ヨーロッパ価格が低く、日本価格及び米国価格及び原油価格は4ドル台で原油が最も高かった。この傾向は2002年まで続き、2003年には米国価格が一時的に原油価格、日本価格、ヨーロッパ価格のいずれをも上回った。

 2004年以降原油価格の上昇に伴い天然ガス価格もアップし、2005年の価格は米国価格8.8ドル、原油価格8.7ドル、ヨーロッパ価格7.4ドル、日本価格6.1ドルとなり、日本向け価格が最も安くなった。2009年から原油価格は再び急上昇したが、この時3地域の天然ガス価格は明暗を分けた。日本価格は原油価格に連動して上昇の一途をたどったのに比べヨーロッパ価格は緩やかな上昇にとどまった。そして米国価格は逆に下落した。この結果2012年は日本価格16.8ドルに対し米国価格は2.8ドルとなり、日本価格は実に米国価格の6倍を超えたのである。

 2014年から2016年にかけては原油価格が暴落したため、2016年のガス価格は3地域とも大幅に下落した。中でも原油価格にリンクした日本向け価格は大きく下がり、2016年は6.94ドルと対前年の3分の2になった。2017年、18年と原油価格は連続して上昇、日本向け価格は10ドル、ヨーロッパ価格も8.1ドルに上昇したが、米国価格はほぼ横ばいの3.1ドルであった。この結果、米国と日本の価格差は3.2倍になっている。

 2019年には原油価格が下落した(百万BTU換算で10.8ドル)。この時ヨーロッパ価格は大幅に下落したが(同4.5ドル)、原油価格を後追いする日本価格はほぼ横ばいに推移し(同9.9ドル)、米国価格は原油価格にスライドして下落している(同2.5ドル)。この結果、2019年は日本価格と米国およびヨーロッパ価格の格差は大きく開いた。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする