石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

石油と中東のニュース(3月21日)

2019-03-21 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・需要減退予測で原油価格下落。Brent $67.55, WTI $58.92

・米Permian盆地のシェールオイル生産、2023年には450万B/Dに。中小を圧倒するメジャー

・カタール、100億ドルのイスラム金融型エネルギー基金設立を表明

(中東関連ニュース)

・米国務長官、中東歴訪でクウェイト訪問、カタール制裁問題解決でクウェイトに期待

・Pumpeo米国務長官、イスラエル訪問

・「世界幸福度ランキング」、MENAではイスラエル、UAEが上位

・リヤドに世界最大級の運動パーク型都市公園建設。NYセントラルパークの4倍規模



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(再録)現代中東の王家シリーズ:サウジアラビア・サウド家(19)

2019-03-19 | 今日のニュース

 

初出:2007.9.7

再録:2019.3.19

(注)以下の人名、肩書はいずれも2007年当時のものです。

 

(19)サウド家の後継問題(2):皇太子選定ルールを透明化

 アブダッラー国王は皇太子にスルタン第二副首相兼国防相を指名した。第二副首相が次代の皇太子になることは、先々代のハーリド第四代国王の時代にアブダッラー自身が第二副首相に任命されて以来、サウジアラビアの慣例となっており、スルタン皇太子指名は順当なことと受けとめられた。

 アブダッラー国王は83歳、スルタン皇太子79歳といずれもかなりの高齢である。スルタンの王位継承は80歳過ぎとなる可能性が高く、スルタン政権が短期に終わることは間違いない。仮にスルタンがアブダッラーより早世したとしてもアブダッラー政権がさほど長くないことも明らかである。彼らと同じ第二世代の王族の中にはムクリン・ハイール州知事[1]のように第二次大戦後生まれの王子もいるが、大半は70歳を越えている。サウド家は世代交替の時期に入っていると言える。

 首相を兼務するアブダッラー国王は即位後の内閣改造で第二副首相を置かなかった。そのことについて内外のメディアで種々の憶測が飛び交った。もしアブダッラーが死亡若しくは退位してスルタンが第7代国王になった場合、統治基本法に従えばスルタン新国王が皇太子を指名することになる。これまでのような第二副首相がいないため、新皇太子はスルタンの胸先三寸で決まることになる。

 現在のサウド家はファハド前国王時代の名残として、スルタンを筆頭とするスデイリ・セブン一派とアブダッラー国王を中心とする反スデイリ一派の二大派閥に分かれている。穏健でコンセンサスを重視する国王が第二副首相を指名しなかったのは、二大派閥の暗闘が表面化し内外にサウド家分裂の印象を与えたくなかったためと考えられる。しかしこのまま事態が推移すると次期皇太子の決定権はスルタンが握ることになる。

 そのような中で昨年10月、アブダッラーは勅令で「忠誠委員会法」を公布し、皇太子指名のプロセスを明文化した 。忠誠委員会とは第二世代の全王族(故人や継承権放棄者についてはその子息の1人)による協議機関であり、その目的は皇太子の選定が新国王及び彼に同調する一握りの王族による密室協議で行われる不透明さを避けるためである。

このような協議機関としてはファハド前国王時代の2000年に「王室評議会」が設置されているが、両者の大きな違いは、「王室評議会」が一部の直系王族と五摂家など外戚を含む18名で構成されていたのに対して、「忠誠委員会法」では外戚をはずし第二世代及びその直系王族で固めたことにある。忠誠委員会の委員は、アブドルアジズ初代国王の息子(第二世代)及び孫(第三世代)で構成され、第二世代の最年長者が委員長とされている。

委員会の構成人数は明記されていないが、初代国王の息子は36人であるため、委員も第二世代の存命者21人及び物故した王族15人の子息から各1名ずつと見るのが順当であろう。その場合、スデイリ・セブン系統は全体の2割の7人を占める最大の派閥となり、この点では「王室評議会」とさして変わりはないように見えるが、第二世代全員を対象としたことで透明性を増したことは間違いない。

 委員会法では新国王が即位して30日以内に皇太子を指名するとされている。現在の状況を前提とするならば、アブダッラー国王が亡くなりスルタンが新国王に即位した場合と言える(但しスルタンがアブダッラーよりも先に亡くなるケースもあり得るが)。また国王或いは皇太子が重病となった時を想定して、3人の医師を含む5人の医療小委員会が設置され、国王又は皇太子が執務不能になったか否かの医学的判断を行い、忠誠委員会に報告書を提出することになっている。

 皇太子選定プロセスは、新国王が3名の候補者名簿を委員会に提出し、委員会ではその候補者の中から新皇太子を選定する。もし委員会が国王の示した候補者全員を拒否する場合は、委員会自らが独自の候補者を国王に提示する。そして国王が委員会の候補者に同意できない時は、委員会は先に国王が提示した3名の中から投票で皇太子を選出する、とされている。この間、委員は新皇太子を選出するまで退席することは許されない。このあたりはローマ法王庁で新法皇を決める際の「コンクラーベ」と同じである。

 このように皇太子指名のプロセスはこれまでよりも格段に透明化された。しかし忠誠委員会が何時開催され、そして皇太子に誰が指名されるかはまさに「神のみぞ知る(インシャッラー)」である。

(続く)

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

荒葉一也

Arehakazuya1@gmail.com

 

 

(再録注記)



[1] 後にサルマン国王即位時の2015年1月に皇太子に指名されたが、わずか2カ月で退位した。

 

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石油と中東のニュース(3月19日)

2019-03-19 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・サウジ石油相:4月のOPEC+臨時閣僚会合開催は不要

・OPEC減産モニター会議開催、2月達成率90%、4月OPEC臨時会合中止を勧告。 *

・原油価格ややダウン。Brent $67.03, WTI $58.32

(中東関連ニュース)

・UAE、アル・アイン上空に巨大な穴?雲のいたずら

・オマーンの500MW太陽光発電IPP事業、サウジ系のACWAが落札。丸紅グループ受注ならず

 ・サウジPIF(公共投資基金)、IFCのTed Chuをチーフエコノミストに。人員を700名に増員。 **


*レポート「OPEC+(プラス)協調減産の状況」参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/0460OpecPlusMar2019.pdf

**「世界の政府系ファンド(SWF)」リスト参照。

http://menadabase.maeda1.jp/1-G-2-05.pdf


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サウジ皇太子と安倍首相の電話会談が語るもの:焦るムハンマド

2019-03-18 | 中東諸国の動向

 3月7日、日本時間午後5時前にサウジアラビアのムハンマド皇太子(ムハンマド・ビン・サルマン王子、略してMbSと呼ばれる)と日本の安倍首相が約15分間にわたり電話会談を行った。外務省のプレスリリースによれば[1]、サウジと日本が締結した「日・サ・ビジョン2030」を強力に推進すること、また今年6月大阪で開催されるG20サミットとサウジがホスト国となる来年のG20について緊密に協力していくことで両者が一致したとされている。サウジのメディアも同様の内容を報じており[2]、日本では時事通信が簡単な報道を行っているが、昨年10月のカショギ事件は話題にならなかった、との外務省のコメントを捕捉した点がサウジの報道と異なる[3]

 

 電話会談がどちらからの申し出によるものか、またどのような雰囲気であったかについては不明であるが、現地紙による最近の経済・外交記事を通読すると国内外で孤立しているMbSはかなり焦っており、安倍首相との電話会談も失地回復のためと思われる節が多々ある。以下は現地紙の記事を分析した筆者の推測としてお読みいただきたい。

 

 まず会談が日サどちらの提案であるかについては、サウジ現地紙は「安倍首相から電話があり云々」と報道しており、いかにも日本側が会談を提案したかのように読み取れる。しかし安倍首相には今どうしてもサウジ首脳と打ち合わせしなければならない緊急用件があるとは思えない(外務省発表には無い極秘の用件があれば話は別だが)。一方、MbSはカショギ事件を契機に国際的に孤立無援の状態であり、以下に述べるように最近のインド・中国歴訪も目立った成果が見られない[4]。彼が広げたビジョン2030の大風呂敷も綻びが目立ち、MbSがかなり焦っていることは間違いなさそうである。従って日本の協力を仰ぐためMbSサイドから電話会談を申し入れた、と考えるのが自然であろう。

 

 現在のMbSの最大の懸案はビジョン2030であるが、その実現の道筋が見えない。それどころか当初予定したタイムテーブルがことごとく遅れている。ビジョンの資金となるはずのサウジ・アラムコのIPO(株式上場)も2年後に先送りされ[5]、それすら具体的なスケジュールは白紙状態である。さらにそれ以上に問題なのは、経済多角化、国内産業振興に欠かせない外国からの投資及び技術移転が殆ど実現していないことである。

 

外国資本がサウジ向け投資に二の足を踏む要因は二つある。一つはMbSが一昨年、汚職摘発に名を借りて政敵及び有力民間経営者を逮捕拘留したことである。これによりサウジ国内の民間経営者のほとんどがMbSに警戒心を抱き始めた。そして第二の要因が昨年秋のカショギ事件である。西欧諸国を始めとし国際世論は官民を問わずMbSの事件への関与を確信している。このため外国資本としては自国政府の意向或は株主・世論を気にしてうかつにサウジアラビアに進出できない雰囲気である。つまりサウジの国内外でMbSを敬遠する動きが加速している。

 

インド、中国訪問もビジョン2030のための資本・技術誘致という点からは失敗であったと考えられる。両国ともサウジの石油が必要であることに変わりはなく、インド及び中国で製油所合弁事業の設立に合意するなどエネルギー面では関係強化が見られた[6]。しかしMbSが期待したインドからの製造業進出、或は中国の「一帯一路」政策によるサウジ国内でのインフラ投資などは何も実現していない。またインド、中国のほか韓国或は東南アジア二カ国も歴訪する予定と報じられたが[7]、結局見送られたようである。これは具体的な成果が期待できないとMbSが判断したためと考えられる。MbSは自分の思い通りにならなければ相手の都合など考えない人物なのである。

 

政敵粛清事件、カショギ事件に見られる蛮行(疑惑?)のため、MbSは外交舞台でも存在感が無くなっている。昨年12月のブエノスアイレスG20サミットに出席したものの、西欧諸国代表との個別会談はほとんどなかったようである。また2月にエジプトのカイロで行われた初のEU-アラブサミットではサルマン国王自身が出席したが[8]、これなどはMbSが国王の名代として出席するに最もふさわしい会議だったはずである。ドイツのメルケル首相は反MbSの急先鋒でありカショギ事件の後、サウジ向け戦車など兵器輸出をストップしており、MbSと直接会談するはずもなかった。一対一の交渉を得意とするサルマン国王自身は多国間外交の国際会議が苦手であり、案の定会議ではサウジアラビアの存在感は殆ど無かった。国王はMbSを自分の名代として国際会議の晴れ舞台に立たせたかったに違いないが、如何せんMbSの評判が悪すぎたため、老骨に鞭打ってカイロに出向いたと思われる。MbSに全面的に外交を任せられないと見たサルマン国王は外相をMbS腹心のJubeirからベテランの元財務大臣Assafにすげかえた[9]。MbSは失地回復のためまずはビジョン2030のテコ入れのためインド、中国との二国間経済外交に踏み出したが、先に述べた通り両国訪問ではビジョン2030は推進力不足を露呈している。

 

結局MbSは原油のサプライヤーとしてサウジアラビアに「ノー」と言えない日本の安倍首相を頼ったと言うのが筆者の考えるシナリオである。経済面では「日・サ・ビジョン2030」で日本側の具体的な行動を促し、また外交面では来る6月の大阪G20サミットで、次期開催国として安倍首相から各国首脳に引き回してもらいたいというMbSの魂胆が透けて見えるのである。

 

以上

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

荒葉一也

Arehakazuya1@gmail.com



[1] 「安倍総理大臣とムハンマド・サウジアラビア皇太子との電話会談」3/7日外務省発表。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/me_a/me2/sa/page4_004805.html

[2] ‘Saudi crown prince receives telephone call from Japan's Shinzo Abe`, 2019/3/8, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1463766/saudi-arabia

[3] 「安倍首相、サウジ皇太子と電話会談=記者殺害には触れず」, 3/7時事オンラインニュース

https://www.jiji.com/jc/article?k=2019030701091&g=pol

[4] ‘Future opportunities between Saudi Arabia and China are very big: crown prince’ 2019/2/22, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1456356/saudi-arabia

[5] ‘Al-Falih confirms Saudi Aramco IPO expected within two years’, 2019/3/7, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1462771/business-economy

[6] ‘Saudi Aramco agrees to $10 billion joint venture deal in China’, 2019/2/22, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1456321/business-economy

[7] ‘Saudi Crown Prince starts Asia trip pledging $20b for Pakistan ’ 2019/2/18, Gulf News

https://gulfnews.com/business/saudi-crown-prince-starts-asia-trip-pledging-20b-for-pakistan-1.62146620

[8] ‘Arab, European leaders vow new era of cooperation’, 2019’, 2019/2/26, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1458161/middle-east

[9] 「サウジアラビア閣僚名簿(2019年2月24日現在)」参照。

http://menadabase.maeda1.jp/4-1-1SaudiCabinet.pdf 

 

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石油と中東のニュース(3月17日)

2019-03-17 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

(中東関連ニュース)

・ニュージーランドでモスク銃撃事件発生、少なくとも49人死亡

 ・イエメン反政府派、リヤド、アブダビへのミサイル攻撃を公言

・17-19日、サウジ水フォーラム開催、日本の貢献をレビュー

・トヨタ車のUAE代理店が模造部品摘発運動強化。昨年45万点、2,068万Dh摘発



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石油と中東のニュース(3月15日)

2019-03-15 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・OPEC月例レポート:2月生産量3,055万B/D、前月比22万B/D。 *, **

・イラク、生産量350万B/Dに削減

(中東関連ニュース)

・カタール、外国人も不動産取得可能に

・ドバイDP World、利益前年比10%増、売り上げは20%増

・アブダビEtihad航空、3年連続で大幅欠損。昨年は-12.8億ドル

・サウジで女性活動家、1年経ってやっと裁判。傍聴は家族のみ、メディアは排除

・オマーンに中東最大の水族館近くオープン


*「OPEC+(プラス)協調減産の状況」(3/11付け)参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/0460OpecPlusMar2019.pdf

**「OPEC + non OPEC減産協調国の自主減産量及びOPEC14カ国原油生産量の推移」参照。

http://menadabase.maeda1.jp/1-D-2-35.pdf


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(再録)現代中東の王家シリーズ:サウジアラビア・サウド家(18)

2019-03-13 | 中東諸国の動向

 

初出:2007.9.5

再録:2019.3.13

(注)以下の人名、肩書はいずれも2007年当時のものです。

 

(18)サウド家の後継者問題(1):長子相続制を採らなかった理由

 アブドルアジズ初代国王が建国したサウジアラビア王国は、その後第二代国王サウドからファイサル、ハーリド、ファハドそしてアブダッラー現国王まで、アブドルアジズの息子達が王位を継承してきた。そして次期国王であるスルタン皇太子もアブドルアジズの息子である。

 立憲君主制であれ絶対王制であれ王位の後継者は殆どの場合、国王(あるいは女王)の長男である。つまり英国、日本など象徴君主制の国を含めて長子相続制が採られている。サウド家のように兄弟間で王位が承継されることは現代社会では極めて珍しい。

 ただしベドウィンの部族社会を歴史的に見ると必ずしも長子相続が承継ルールとなっていない。ベドウィン社会では後継者はマジュリスと呼ばれる部族の長老会議で決められた。マジュリスで部族のリーダーとして最も相応しい人物が族長に選ばれるのである。過酷な自然の中、常に他の部族との闘争に晒されているベドウィンにとって、単に族長の長男と言うだけで彼に運命を委ねれば一族滅亡の危険に晒されかねない。従ってマジュリスと言う合議体が勇猛果敢な、しかも仲間に一目置かれる人物をリーダーに選ぶことがむしろ理に適っているのである。

 アブドルアジズは早世した長男のトルキ王子に代わり次男のサウド王子を皇太子としたが、彼にはサウドのほかに20数人の息子があり、サウド王子以降も長子相続とすることは問題をはらんでいた。つまり国内の統治基盤も固まっていないまま長子相続をルール化してサウド皇太子の未成年の息子(つまりアブドルアジズの直系の孫)にサウド家の未来を託することはリスクが大き過ぎた。父とともにサウジアラビア建国に尽くした他の息子達も長子相続制は容認し難かったであろう。サウド第二代国王の場合は濫費で国の財政を破綻させたため、長老会議は彼を退位させ、弟のファイサル皇太子を第三代国王とした。こうして兄弟間で王位を継承するという暗黙のルールが生まれた。

ファイサルが暗殺され5男のハーリドが新国王に即位した時、それまで兄弟の年齢順に指名されていた皇太子は4人の王子を差し置いて10男のファハドが指名された。それはまさにサウド家内部でのスデイリ・セブンの台頭を示すものであった。しかしそれは、王位継承は兄弟の長幼の序列に従わない、と言う前例を作ったことになる。長子相続制には長子の君主としての適格性の問題は残るもののルールとしては非常に解りやすい。それに比べて兄弟間の継承順位はお家騒動と言う内紛に繋がりやすい。サウド家のように多数の異母兄弟がいる場合は特に問題である。そのためには新国王が皇太子指名と同時に、更にその次の皇太子候補を明らかにして内紛の芽を摘む必要があった。

その結果生まれたのが第二副首相の指名である。サウジアラビアでは建国以来国王が首相、皇太子が副首相を務めている。そこに第二副首相のポストを設けたのである。第二副首相に指名されることは次期皇太子として暗黙の承認を与えられたことになる。こうしてハーリド国王、ファハド皇太子時代にアブダッラー王子が第二副首相に指名された。そしてファハドが国王に即位するとアブダッラーは皇太子となり、同時に第二副首相にスルタン王子が指名された。こうして現在のアブダッラー国王・スルタン皇太子の体制に至っている[1]

そして第5代ファハド国王の時代、1992年に「国家基本法」が制定され、また2000年に「王室評議会」が発足した。ファハド国王の意図は、サウジアラビアにおけるサウド家の統治の正統性を内外に明文規定として宣言することであり、同時に長老が次々と亡くなり形骸化したマジュリスを新しい組織に作り変えることであった。

「国家基本法」はサウド家がサウジアラビアの国王として行政・立法・司法の三権を掌握することを内外に宣言したものであり、(1)サウジアラビアは君主制であり、(2)アブドルアジズの子息及び孫(男子)に継承権があり国王が皇太子を指名すること、(3)立法、司法、行政の三権の拠り所は国王にあること、(4)国王は首相となり閣僚を任免すること、など絶対的な君主制を宣言している。「王室評議会」はサウド家の私的な合議体であり、皇太子を議長とする18名の王族で構成されている。その構成員は3分の2近い11名がアブドルアジズの直系子孫であり、残る7名はジャラウィ家など「五摂家」を含む外戚の王子が任命された。

こうして王位継承問題についてある程度の形式は整えられたが、皇太子の決定権は国王にあり、指名プロセスの不透明性が解消された訳ではなかった。それに対してアブダッラーは即位後に二つの手を打った。一つは第二副首相を指名しなかったことであり、もう一つは自分が亡き後の新国王による皇太子指名について、国王の独断専行をチェックする「忠誠委員会法」と呼ばれる組織を作ったのである[2]

(続く)

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

荒葉一也

Arehakazuya1@gmail.com

 

 

(再録注記)



[1] アブダッラー国王時代に皇太子に指名されたスルタンがアブダッラー在位中に死亡、忠誠委員会で推挙されたナイフ皇太子も死亡し、続いてサルマンが皇太子に指名された。アブダッラー没後王位に就いたサルマンはアブダッラー時代に忠誠委員会が指名した異母兄弟のムクリンを皇太子としたが、ほどなく第三世代のナイフの子息ムハンマドを皇太子に据え、自分の息子のムハンマドを副皇太子に指名したが、その後皇太子を解任、息子のムハンマドを皇太子に引上げた。これにより直系長子の王位継承制度が確立した。

[2] サルマン国王時代に入り現皇太子(子息)の選任では正式な忠誠委員会が開かれた形跡はなく、同委員会は形骸化したものと見られる。

 

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石油と中東のニュース(3月13日)

2019-03-13 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

(中東関連ニュース)

・イラン・ロウハニ大統領、イラクを公式訪問。米国を強く牽制

 ・サウジ国王、レバノン首相と会談。 *

・サウジで初の商業ヘリ運航会社設立

・UAE航空当局、エチオピア航空事故を受けてボーイング737MAXの運航停止を命令

・UAE、EUの税制非協力国指定に遺憾表明


*参考レポート:暗転するサウジ外交(2018年3月)

http://mylibrary.maeda1.jp/0434Ksa2018-3ForeignPolicy.pdf


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「OPEC+(プラス)」協調減産の状況

2019-03-11 | OPECの動向

 昨年12月6日の第175回OPEC総会とその翌7日開かれた第5回OPEC・非OPEC閣僚会合においてOPEC11カ国及び非OPEC10カ国が2017年1月以降に実施してきた協調減産[1]を今年1月以降も継続することが決定された。

 

 OPEC加盟国は現在14か国であるが[2]、このうち米国の経済制裁を受けているイラン、内戦状態で石油生産が減少しているリビア並びに米国の経済制裁及び内政の混乱で生産が極度に落ち込んでいるベネズエラは今回の協調減産の対象外とされた。加盟全14か国の昨年11月の生産量は3,230万B/Dに達していた。

 

 一方、非OPEC協調減産国は世界最大の産油国の一つであるロシアを中心に、メキシコ、カザフスタン、オマーン、アゼルバイジャン、マレーシア等の10カ国から成り[3]、合計生産量は約1,800万B/Dである。OPEC14か国と合わせると生産量は5千万B/Dを超え、全世界の50%強を占め、原油価格を左右する影響力がある。因みに協調減産体制を組むOPEC・非OPECの21カ国は通常「OPEC+(プラス)」と呼ばれている(以下「OPEC+」と記する)。

 

 昨年末の会議でOPEC+は今年1月以降合計で120万B/Dを減産することを決定、1月に21カ国の国別減産割当量がOPEC事務局から発表された[4]。減産の基準となる生産量(Reference Production)は2018年10月の各国の生産量が基準とされ(クウェイトなど一部を除く)、減産量はOPEC11カ国812千B/D、非OPEC10カ国383千B/Dの合計1,195千B/Dとされた。国別ではサウジアラビアが322千B/D(基準生産量10,633千B/D、自発的生産レベル10,311千B/D)と最も多く、次いでロシアが230千B/D(同11,421千B/D、11,191千B/D)である。両国の減産量は全体の46%を占めており、OPEC、非OPEC別に見ると、サウジアラビアはOPEC全体の40%、またロシアは非OPEC全体の60%を背負っている[5]

 

 OPEC月例レポート2月号によれば新しい協調減産方式が始まった今年1月のOPECの生産量は30,809千B/Dであり、前月(2018年12月)比795千B/D減であった。OPEC最大の産油国サウジアラビアの生産量は10,213千B/Dで、同国に課された自発的生産レベル(目標値)10,311千B/Dを超える減産を行っている。

 

 サウジアラビア、ロシア及び米国の生産量を直近の報道で見ると、サウジアラビアの2月の生産量は10,136千B/Dであり1月をさらに下回っている[6]。さらに同国石油相によれば3月及び4月の生産量は980万B/Dの見込みで1千万B/Dを切ることは確実のようである[7]。一方ロシアの1月生産量は11,380千B/Dであり、自主目標の11,191千B/Dを達成していない[8]。これについて同国石油相は、油田が極寒地帯にあるため急激な減産が不可能であり、5月迄協調減産枠を達成することは困難であると釈明している。ところが米国は原油価格の高値安定を反映してシェールオイルの大幅な増産が続いており、2月の生産量は1,210万B/Dに達し、世界最大の産油国になっている[9]

 

 原油価格は昨年末から上昇に転じ、英Brent原油は65ドル、米WTI原油は56ドルと堅調な推移を示している。OPEC+の協調減産は価格の下落を食い止めることが最大の目標であり、その点では現在のところシナリオ通りに進んでいる。しかしサウジアラビア、ロシア及び米国の世界三大石油生産国について見ると現状はサウジアラビア一国だけが重荷を負い、ロシアはこれまでの生産水準を大きく下げることなく、米国に至っては増産により漁夫の利を得ている有様である。

 

 世界の景気に目を転じると需要面では中国の景気後退或は環境問題にからむ石油から天然ガスへの転換など石油の需要に先行き不安があり、サウジアラビアが期待する需要の増加(または現状維持)は難しい情勢である。勿論価格が下落すれば米国のシェールオイル生産が真っ先に減少し、サウジアラビアの減産に歯止めがかかる可能性もあるが、価格下落のもとでの増産ではサウジアラビアにとって実質的な収入増加に結び付かず虻蜂(あぶはち)取らずになる。

 

 OPEC+は4月に再度会議を開き、協調減産の効果を見極めたうえで5月以降の方針を検討するとしているが、このままではサウジアラビアが貧乏くじを引く結果になりかねない。直近の報道によれば、サウジ石油相は4月25-26日の臨時会合における減産方針見直しは時期尚早であり、6月26-26日の会合で検討すべきであると述べている[10]。盟友のUAE及びクウェイト両国の石油相も同様の趣旨の発言を行いサウジ石油相をバックアップしている[11]。サウジアラビアのムハンマド皇太子は脱石油を目指しVision 2030の実現に必死であるが、石油収入が不足すれば経済不安を助長しかねない。サウジアラビアは正念場にあると言えよう。

 

以上

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

前田 高行

maeda1@jcom.home.ne.jp



[1] レポート「OPEC減産合意の経緯」(2017年2月3日)及び「OPEC・非OPEC22カ国が協調減産を来年末まで延長」(2017年12月10日)参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/0397OpecProductionCut.pdf 

http://mylibrary.maeda1.jp/0428OpecMeetingNov2017.pdf 

[2] OPEC加盟国(1月生産量の多い順):

サウジアラビア、イラク、UAE、イラン、クウェイト、ナイジェリア、アンゴラ、ベネズエラ、アルジェリア、リビア、エクアドル、コンゴ、ガボン、エクアトール・ギニア

ちなみにOPEC創設期からの加盟国であったカタールは昨年末にOPECを脱退している。

[3] 非OPEC協調減産国(昨年10月生産量の多い順):

ロシア、メキシコ、カザフスタン、オマーン、アゼルバイジャン、マレーシア、バハレーン、南スーダン、ブルネイ、スーダン

[4] 2019/1/18付けOPEC Press Release参照。

 https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/5357.htm 

[6] ‘Saudi February crude oil output fell to 10.136m bpd’ on 2019/3/8, Gulf News

https://gulfnews.com/business/saudi-february-crude-oil-output-fell-to-10136m-bpd-1.62536964

[7] ‘Saudi Arabia’s energy minister Al-Falih says no OPEC+ output policy change until June’ , 2019/3/10,  Arab News

http://www.arabnews.com/node/1464666/business-economy

[8] ‘Russian oil output down in January, misses global deal target’ on 2019/2/2, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1445731/business-economy

[9] ‘Oil drops 1 pct as economic outlook weakens, US supply surges’. 2019/3/8, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1463846/business-economy

[10] ‘Saudi Arabia’s energy minister Al-Falih says no OPEC+ output policy change until June’,

2019/3/10, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1464666/business-economy

[11] ‘UAE to continue to cut output to help markets rebalance’, 2019/3/10, Gulf News

https://gulfnews.com/business/energy/uae-to-continue-to-cut-output-to-help-markets-rebalance-1.62571920

及び

‘Kuwait oil minister: Oil prices are good for producers, consumers’, 20193/10, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1464411/business-economy

 

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石油と中東のニュース(3月11日)

2019-03-11 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・サウジエネルギー相:OPEC+の協調減産、4月に見直しの必要無し

・オマーン、2023年にも天然ガスが原油生産を上回る見込み

(中東関連ニュース)

・サウジ、4週間の中国語教育を実施

・2009年倒産のサウジSaadグループ、新破産法の第一号処理案件に決定。  *

・アブダビ最高評議会、新メンバーで発足。 **

・エジプト、2月のインフレ年率14.4%に上昇

 ・パレスチナ自治政府首相にAbbas大統領の盟友。Hamas抜きのFatah主導内閣に

・クウェイト、学卒者急増で若年失業者が問題に

・FIFAワールドカップ2020、出場国数増加決定すればオマーン、クウェイトで分散開催の可能性も


*「破たんしたサウジアラビアの大富豪と名門財閥」(2009年6月)参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/A37AlsaneaAlgosaibi.pdf

**「アブダビ最高評議会メンバー表」(2019年1月21日)

http://menadabase.maeda1.jp/4-5-2.pdf

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