石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

  見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(4)

2023-05-31 | 中東諸国の動向

2023年5月

 

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

プロローグ(4)

 

004.ヨーロッパとアジアをつなぐ中東(2/3)

 ただ彼らが「アジア」と名付けた地域はユーラシア大陸の大きな部分を占めている。緯度で言えば西経10度(ポルトガル)からベーリング海峡の東経180度まで地球を半周するユーラシア大陸のうち、ヨーロッパの東端イスタンブールは東経30度である。つまりユーラシア大陸の6分の5はアジアであり、ヨーロッパはわずか6分の1にすぎないのである。

 

 したがってヨーロッパ人自身もアジアを一括りにできずいくつかの地域に分けた。それは彼らから見た地理上の遠近というごく単純かつ一方的な区分であった。ヨーロッパから近い順に近東(Near East)、中東(Middle East)、南アジア(South Asia、インド亜大陸)、東南アジア(South East Asia)そして極東(Far East)と名付けたのである。極東(Far East)とは「東の果て」のことであり、聞きようによっては極東の人々に対してずいぶん失礼な言い方ともいえる。(仮に立場が逆になっていれば、英国、フランス等は西の果て「極西諸国」と呼ばれていたかもしれない!)

 

ともかくボスポラス海峡を渡ってすぐが「近東」。現在のアナトリア半島一帯であり、さらに東のレバント(現在のシリア、レバノン)及びイスラエル、イラク、イランあたりまでが「中東」である。但し近代史では「近東」と「中東」が一体化して「中近東」と呼ばれ、さらに現代では単に「中東」の呼称が一般化している。そして中東の向こうにあるのがインド、パキスタンの南アジアである。

 

(続く)

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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原油高値と円安で拡大する国際石油企業と日系企業の格差:2022年(度)業績比較 (5)

2023-05-31 | 海外・国内石油企業の業績

2.売上高 (続き)

(原油価格とほぼ連動するメジャーズ、影響の薄いENEOS/出光!)

(2)2018年(度)~22年(度)年間売上高の推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-12.pdf 参照)

 2018年(度)から2022年(度)までの5年間の年間売上高の推移を見ると、まず目につくのは原油価格との連動性である。メジャーズ5社は原油価格の変動との相関性が極めて高いのに比べ、邦系2社の売上高は相関性が低い。ENEOSと出光の変動が少ない理由は本稿の冒頭でも触れた通り原油価格の変動をほぼ自動的に製品価格に転嫁できる制度に助けられていることが主因である。と同時に国内の石油市場が成熟しており需要が好不況に左右されにくいためであると考えられる。

 

 具体的に年(度)の推移を見ると、2018年(度)はShellが3,884億ドルと最も多く、次いでbp2,988億ドル、ExxonMobil2,902億ドル、TotalEnergies2,094億ドルでChevronがメジャーズでは最も少ない1,589億ドルであった。これに対してENEOSは1,021億ドルと1千億ドルの大台を超えたが出光は399億ドルにとどまり、Shelの10分の1である。

 

 2018年のBrent原油年間平均価格は71ドル/バレルであったが、2019年は64ドル/バレルに下落、各社の売上も減少した(但し出光のみは売り上げがアップ)。7社の売上順位は変わらなかった。しかし2020年(度)には新型コロナ禍で世界の景気が一気に冷え込み、Brent原油価格も前年比で30%以上下落した結果、Shellの売上高は対前年比でほぼ半減1,805億ドルとなった。特にbpの落ち込みは激しく前年の2,784億ドルから1,091億ドルに激減している。一方、ENEOSは前年比21%の下落にとどまり、売上高(722億ドル)はメジャーズで最も少ないChevron(945億ドル)の8割弱であった。

 

 2021年(度)から2022年(度)にかけては、コロナ禍の終息及びOPEC+の減産強化により原油価格は急上昇し、例えばBrent年間平均価格は42ドル→71ドル→101ドルと2年間で2.4倍に急騰した。これにつれてメジャーズ各社の売り上げも急伸、トップのExxonMobilの売上高は1,815億ドル→2,856億ドル→4,137億ドルに急増した。その他の4社も同様であり、各社とも3年間で売上高は2倍以上となっている。これに対してENEOS、出光のこの間の売上は1.5倍程度にとどまり、2020年(度)以降メジャーズとの格差は再び大きくなっている。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                              E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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石油と中東のニュース(5月30日)

2023-05-30 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・米債務問題解決の見通しで原油価格上昇。Brent $77.40, WTI $73.2

(中東関連ニュース)

・トルコ:エルドアン大統領、決選投票に勝利。低金利でインフレ乗り切り宣言

・オマーン国王、イラン最高指導者と会談。活発なオマーンの仲介外交

・イスラエル、シリア首都を空爆。シリア領攻撃は今年17回目

・エジプト:所得税法改正。課税最低限を36,000ポンドに引き上げ

・カタール:4月の貿易収支60億ドルの黒字。LNG輸出の3分の1は中国と韓国

・サウジとマレーシア、ハラール製品の相互認証協定署名

*参考「2024 年のイスラム経済規模は7兆ドル―Global Islamic Economy Report 2019/20 の概要

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原油高値と円安で拡大する国際石油企業と日系企業の格差:2022年(度)業績比較 (4)

2023-05-30 | 海外・国内石油企業の業績

2.売上高[1]

(ExxonMobilの売上高はENEOSの4倍、出光の6倍!)

(1)2022年(度)年間売上高

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-02.pdf 参照)

 ENEOSの2022年度の売上高は15兆166億円(1,112億ドル、換算レート:135円/ドル)であり、出光は9兆4,563億円(698億ドル、換算レート:135.5円/ドル)であった。一方メジャー5社の売上高はExxonMobilが4,137億ドルと最も大きく、次いでShell(3,813億ドル)であった。その他3社はそれぞれTotalEnergies 2,810億ドル、bp2,489億ドル、Chevron2,357億ドルと2千億ドル台に並んでいる。

 

ExxonMobilを100とした場合、Shellは92、TotalEnergies68であり、bp及びChevronはそれぞれ60及び57である。これに対しENEOSは27、出光は17であり、ExxonMobilの売上高はENEOSの4倍弱、出光の6倍弱に達する。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                              E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

[1] 「売上高」とは各社の決算財務諸表に示された下記の項目を言う。

ExxonMobil:Total revenues and other income

Shell:Total revenue and other income

bp:Sales and other operating revenues

Total:Sales

Chevron:Sales and other operating revenues

ENEOS: 売上高

出光:売上高

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原油高値と円安で拡大する国際石油企業と日系企業の格差:2022年(度)業績比較 (3)

2023-05-29 | 海外・国内石油企業の業績

1.純利益 (続き)

(コロナ禍からの回復目覚ましいメジャー4社、低位安定のENEOS、出光!)

(2)2018年(度)~22年(度)年間純利益の推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-11.pdf 参照)

 2018年(度)から2022年(度)までの5年間の年間純利益の推移を見ると、2018年(度)のENEOSの利益は30億ドル(3,223億円、109円/ドル)、出光は7億ドル(815億円、110.8円/ドル)であった。この時メジャーのうちShellは234億ドル、ExxonMobilは208億ドルと200億ドル超の利益を達成し、Chevronの利益は148億ドルであった。これに続きTotalEnergiesとbpが100億ドル前後の利益を計上しており、ExxonMobil/ShellとENEOS/出光との間ではほぼ200億ドルの大きな格差があった。

 

 2019年(度)は邦系2社が赤字に陥り(ENEOS▲17億ドル、出光▲2億ドル)、メジャー5社は前年度を下回ったものの黒字を確保した。ところが2020年(度)になると状況が一変、メジャーズ各社はコロナ禍と油価の下落により業績が急落、全社一斉に赤字欠損となった。特にExxonMobil、Shell、bpの3社は▲200億ドル超の赤字を記録、TotalEnergiesとChevronも▲60~70億ドルのマイナスとなった。このような中でENEOSと出光はそれぞれ11億ドル及び3億ドルの利益を出し、メジャーズを上回る決算となった。

 

 2021年(度)は景気回復の兆候が見え、同時にOPEC+の生産調整措置により原油価格が上昇したことによりメジャーズ各社は(bpを除き)160億ドルから230億ドル程度の利益を獲得した。またENEOS(48億ドル)、出光(25億ドル)も黒字決算となり、メジャーズと邦系2社の利益は2018年(度)と同等またはそれ以上の水準に達している。

 

 2022年(度)はこの傾向がさらに広がり、特別損失を計上したbpを除き、メジャー4社はExxonMobilの557億ドルを筆頭に、Shell423億ドル、Chevron355億ドル、TotalEnergies205億ドルと各社いずれも巨額の利益を計上している。これに対し、ENEOSと出光2社は損益の変動幅が小さい。これは2社の事業規模が小さいことに加え、下流部門(石油精製)が事業の中心であるため生産コストの大半を占める原油価格の高騰で採算性が低下したためである。なお両社の場合、原油輸入価格が上昇しても、それを自動的に製品価格に反映させる政府のエネルギー政策のおかげで少ないながらも利益を確保したものと見られ、政府の支えが無ければ大幅な赤字になっていたものと思われる。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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石油と中東のニュース(5月28日)

2023-05-28 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

 

(中東関連ニュース)

・イラン/アフガニスタン国境で衝突、水利問題巡る紛争

・イランとベルギー、オマーンの仲介で服役囚交換

・サウジ政府系ファンドPIF、イラクに30億ドルの投資会社設立。 *

*一覧表「世界の政府系ファンド(SWF)」参照。

 

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今週の各社プレスリリースから(5/21-5/27)

2023-05-27 | 今週のエネルギー関連新聞発表

5/19 INPEX

ノルウェー王国スノーレ油田生産プロジェクトへの 浮体式洋上風力発電施設からの電力供給開始について

https://www.inpex.co.jp/news/2023/20230519.html

5/22 chevron

chevron announces agreement to acquire PDC energy

https://www.chevron.com/newsroom/2023/q2/chevron-announces-agreement-to-acquire-pdc-energy

 

5/22 OPEC

OPEC Secretary General: Energy transition must be fair and inclusive

https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/7148.htm

 

5/23 出光興産

人事異動に関するお知らせ

https://www.idemitsu.com/jp/content/100042676.pdf

 

5/23 コスモエネルギーホールディングス

取締役候補者の決定に関するお知らせ

https://www.cosmo-energy.co.jp/ja/information/press/pdf/230523jp_04.html

 

5/23 コスモエネルギーホールディングス

当社定時株主総会に係る株主提案に対する 当社取締役会の反対意見に関するお知らせ

https://www.cosmo-energy.co.jp/ja/information/press/pdf/230523jp_02.html

 

5/25 石油連盟

木藤 石油連盟会長定例記者会見 発言要旨・配布資料

https://www.paj.gr.jp/index.php/news/686

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石油と中東のニュース(5月26日)

2023-05-26 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

 

(中東関連ニュース)

・トルコ、シリア国内に24万戸の難民帰還住宅建設

・サウジ、5年ぶりにカナダと外交関係復活

・イラン外相:アフガニスタン・タリバン政権を認めず

・イラン、駐サウジ大使に前駐クウェイト大使を任命

・イラン、射程2,000KMの新型弾道ミサイル試射

・エジプト税制変更、出国税100ポンド、外国人観光客は50ポンド。免税品も3%

・エジプト:中国企業2社がスエズ運河経済特区で鉄鋼プラント建設申請

 

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原油高値と円安で拡大する国際石油企業と日系企業の格差:2022年(度)業績比較 (2)

2023-05-26 | 海外・国内石油企業の業績

1. 純利益 

(ENEOSはExxonMobilの50分の1、出光は30分の1!)

(1)2022年(度)年間純利益[1]

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-01.pdf 参照)

 ENEOSの2022年度(2022年4月~2023年3月)の純利益は1,438億円であり、これを同社の決算レート(135円/ドル)で換算すると11億ドルとなる。同様に出光の利益は2,536億円、19億ドル(決算レート135.5円/ドル)である。一方メジャー5社は最も高いExxonMobilの557億ドルを筆頭に、Shellは423億ドル、これに次ぐChevron及びTotalEnergiesの利益はそれぞれ355億ドル及び205億ドルである。bpはメジャー5社の中で唯一欠損(▲25億ドル)であった。

 

ExxonMobilを100とした場合、Shellは4分の3であり、Chevronは6割、TotalEnergiesは4割にとどまっている。これに対してENEOSはExxonMobilの利益の50分の1、出光は30分の1にとどまっている。欠損のbpより良かったものの、メジャーズとENEOS、出光の収益格差は非常に大きい。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

[1] 「純利益」とは各社の決算財務諸表に示された下記の項目を言う。

ExxonMobil:Net income attributable to ExxonMobil (U.S. GAAP)

Shell:Incom/loss attributabel to shareholders

bp:Profit (loss) for the period; Attributable to BP shareholders

Total:Consolidated net income (Group share)

Chevron Net income

ENEOS: 親会社の所有者に帰属する 四半期純利益、為替換算レートは決算説明資料による。

出光:親会社株主に帰属する 四半期純利益、為替換算レートは決算説明資料による。

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  見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(3)

2023-05-25 | その他

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

プロローグ(3)

 

003.ヨーロッパとアジアをつなぐ中東(1/3)

 

 世界六大陸の中で最大のユーラシア大陸(Eurasia)はその英語名が示す通りヨーロッパ(Euro)とアジア(Asia)を合成した言葉である。それではヨーロッパとアジアの境界がどこかと言えば、境界線の一つが現在のトルコのボスポラス海峡であるとするのがほぼ常識的な見方であろう。ボスポラス海峡の西側がイスタンブールであり、海峡の対岸にあるウスクダラはアジアの入り口となる。日本が建設したボスポラス大橋は、まさにヨーロッパとアジアを結ぶ架け橋なのである。そしてウスクダラからトルコの首都アンカラのあるアナトリア高原一帯は「小アジア」と呼ばれている。

 

 アジアの呼称は15世紀に始まる「大航海時代」に当時のスペイン、ポルトガル、オランダそしてイギリスの各国が使い始めたものである。これらヨーロッパ諸国は、現在のインドからインドネシアに至る広大な海域で互いに貿易の覇権を競い植民地支配を強めていくが、この過程でアジアという地理的概念が確立されていった。それはヨーロッパ側からの一方的な決めつけであり、彼らがアジアと一括りにした広大な地域の住民は自分たちが一つのアジアであると認識していたわけではない。早い話、日本人の全てがイスラムを信奉するアラブ人を同じアジアの人間と考えているとはとても思えない。

 

ところが中東の人々は日本も自分たちと同じアジアとみなしている。中東の人々が極東の国々を同じアジアとみなすのは、近代になりヨーロッパあるいはその流れをくむアメリカによって世界秩序が形成される過程で彼らの定義を押し付けられ刷り込まれた結果であることは間違いない。各種スポーツ競技の世界予選の区分けを見れば一目瞭然である。サッカー・ワールドカップの「アジア地区予選」は極東の日本から中東各国までまたがっている。つまりヨーロッパ人は自分たちが「ヨーロッパ」と決めた地域以外は十把一絡げに「アジア」と決めつけたのである。

 

(続く)

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

 

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