6月12日、BPは毎年恒例の「BP Statistical Report of World Energy 2007」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。
石油篇(4):世界の石油精製能力
(1)2006年の地域別精製能力
2006年の世界の石油精製能力は8,724万バレル(以下B/D)であった(*)。これを地域別でみると最も大きいのは欧州・ユーラシアの2,517万B/Dで全世界に占める割合は29%である。アジア・大洋州の2,394万B/D(27%)及び北米2,089万B/D(24%)がこれに続いている。一方、石油消費量では北米、アジア・大洋州、欧州・ユーラシアの順であり(前章「世界の石油消費量」参照)、北米と欧州・ユーラシアの順位が逆転している。このことから欧州・ユーラシアは精製能力過剰の状態にあり、北米は反対に精製能力不足の状態にあることが推定される。
(*)詳細は「世界の石油精製能力(1965-2006)」参照
(2)1965~2006年の地域別精製能力の推移
上図は1965年から2006年までの地域別の精製能力の推移である。欧州・ヨーロッパ及び北米の先進工業地域は1965年以降オイルショック直前まで精製能力が大幅に増大している。オイルショック前は石油価格が低く抑えられて石油需要が急伸したため、各国は将来を見越して製油所の新増設を盛んに行ったのである。しかし二度(1973年及び1979年)にわたるオイルショックを経て1980年代に入ると石油の需要が急減したため、日米欧の各国とも過剰な精製能力を削減せざるを得なかったのである。特に欧州・ヨーロッパでは1979年に33百万B/Dあった精製能力が1990年代前半には18百万B/Dにまで削減されその後現在まで横這い状態を続けている。
これに対してアジア・大洋州では日本で欧米同様の精製能力の削減が行われたものの、地域全体としては中国、東南アジアなどの需要が拡大し、石油精製設備の新増設が活発に行われた。この結果オイルショックの前後を通じてアジア・大洋州の精製能力は一貫して拡大しており、1965年にわずか360万B/Dであった精製能力は2006年には6.7倍の2,394万B/Dに達しているのである。
(3)米国、日本及び中国の精製設備稼働率(1981~2006年)
精製能力に対して実際に処理された原油の量(通油量:Refinery throughputs、*)で割ったものが設備の稼働率である。BP資料をもとに全世界平均及び米国、日本、中国の3カ国の1981年以降2006年までの5年ごとの精製設備稼働率をまとめたものが下表である。
1981 1986 1991 1996 2001 2006
全世界 72% 79% 83% 84% 84% 86%
米国 70% 82% 85% 92% 90% 87%
日本 64% 65% 81% 83% 87% 89%
中国 79% 85% 79% 67% 75% 88%
*詳細は「石油精製設備通油量(1965-2006)」参照
1981年の全世界の平均稼働率は72%であり低い水準であった。米国は世界平均を少し下回る稼働率(70%)であるが、日本は特に低く64%に過ぎなかった。これはオイルショック前に将来の石油需要の増加を見越して製油所を新増設したが、その後需要が急減したためである。中国の場合は元来石油需要が小さかったため、このような時期でも稼働率を8割弱(79%)に維持できたと考えられる。
その後80年代後半から2006年にかけて需要が回復したため稼働率は上昇しており、世界平均では80%台半ばを維持している。米国の場合は世界平均を上回る高い稼働率であり、最近では90%前後に達している。米国ではここ20年近く新しい精製設備は建設されず精製能力が横這いであるにもかかわらず、好景気で石油の需要が増加している。このため高い稼働率を示しているのである。
2006年は米国、日本、中国のいずれもが90%近い稼働率を示している。3カ国の稼働率が同じような水準にあることは過去20年間では見られない現象である。最近の石油価格上昇の一因として精製設備(特に米国の)の不足が指摘されている。世界的規模で精製設備の新増設が必要な状況にあると言えよう。
(石油篇第4回完)
(これまでの内容)
(前田 高行)
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