石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(ニュース解説)周辺国との石油関連ビジネスに活路を求めるイラク

2006-08-18 | OPECの動向

  イラクの国内テロは沈静化の目処が立たない。そのため同国の石油生産はイラク戦争後も低迷したままである。サウジアラビア、イランに次ぐ世界第3位の石油埋蔵量を誇るイラクにとって、経済復興のためには石油の増産が至上命題である。そして油田の開発及び生産には外国、特に欧米石油企業による資金・技術面における協力が不可欠であり、シャハリスタニ石油相はエクソン・モービルなどに強力な働きかけを行っている。しかし、イラクの国内テロ及び反米感情を恐れて欧米企業の腰は重い。このためイラクは当面の対応としてイラン、ヨルダンなど周辺国にアプローチして石油輸出の拡大に取り組んでいる。

未だに戦争前を下回る石油の生産量と輸出量

 シャハリスタニ石油相は8月の記者会見の席上、7月の輸出量は161万B/Dと徐々に上向いており、また将来の生産量の見通しとして、今後4年以内に430万B/D、2015年までには600-800万B/Dを目指す、と述べた(8/4 Arab Times)。しかし現在は戦争前の生産量250万B/D、輸出量170万B/Dに達していない。輸出については、石油パイプラインがテロで爆破されてトルコ方面への輸出ができないため、南部のバスラ港からのみとなっている。

腰の重い石油大企業

 イラクが石油を増産するには新しい油田の開発と老朽化或いは破壊された生産・パイプライン施設の復旧が課題である。そしてこれらの課題を解決するためには欧米の石油企業による資金及び技術全般にわたる支援が不可欠である。

  このためシャハリスタニ石油相は、4月にカタルで開催されたIEAドーハ会議に乗り込み、エクソン・モービル及びシェブロンのトップと会談、自国への投資参入を求めた(4/21 Gulf Daily News)。さらに石油相は7月にマリキ首相に同行して米国を訪問、そこでも石油メジャー各社と面談したが、同相は各社から前向きの感触を得た、と述べている(同上8/4 Arab Times)。

 外国企業によるイラクでの石油開発は、クルド地方でノルウェーの独立系石油企業DNO社が手を付けており、可採埋蔵量1億バレルの油田を発見、2007年から生産を開始する、と報じられている(6/13 Arab Times)。

周辺国との石油関連ビジネスに活路を求める

 欧米企業の腰が重いため、イラクは周辺国との石油ビジネスに当面の活路を求めたようである。8月に入りシャハリスタニ石油相はイランを訪問したが、イランの国営放送(IRNA)は、両国がイラク原油とイランの石油製品の交換取引に合意した、と報じている(8/12 Khaleej Times)。

 また同じ8月、ヨルダン首相がバグダッドを訪問、両国間にパイプラインを新設しヨルダンに特別有利な価格で石油を供給する旨のMoUが締結された(詳細は不明)(8/15 Khaleej Times)。 

 そのほか4月にクルド自治区のZakhoで石油が発見され、レバノン企業が25万B/Dの製油所を建設する、と報道されており(7/9 Gulf Daily News)、またマリキ首相が7月にサウジアラビア、クウェイト、UAEを歴訪し、イラクへのオイルマネーの投資を勧誘している。

周辺国との石油ビジネス拡大は欧米企業の呼び水となるか

 イラクは周辺国との石油関連ビジネスの拡大に熱心に取り組んでいる。しかし報道される内容は詳細が不明であったり、実現のためには解決すべき問題点が残されているものもある。

 例えばクルド地方の石油開発について言えば、クルド地方は治安が良く外国企業が進出しやすいのは確かであるが、契約の相手方はクルド自治政府であり、これに対してバグダッド中央政府が石油の一元的な管理を主張しており、両者の調整がついていない。

 またイランとの原油と製品の交換取引についても、現在のイランは製油所能力の不足のため周辺国からガソリンなどの石油製品を輸入しているのが現状であり(これにはガソリン価格を低く抑えるために過度の補助金が注入され国家財政の大きな負担となっている、と言う別の問題がある)、このことを考えると現時点での実現性はかなり疑わしい。 

 このように見ると、周辺国との石油関連ビジネス拡大は、イラクへの進出をためらう欧米企業に対する「今がビジネスチャンスである」というイラク側の強いメッセージと解するのが正しいのかもしれない。とにもかくにも日本を含めた欧米企業が安心してイラクに進出するためには、治安の回復が先決問題であろう。

以上

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