石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

他を圧する三大産油国 米・露・サウジ:BPエネルギー統計2020年版解説シリーズ石油篇(5)

2020-06-30 | BP統計
BPが恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2020」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。
 *BPホームページ:
https://www.bp.com/en/global/corporate/news-and-insights/press-releases/bp-statistical-review-of-world-energy-2020-published.html

2.世界の石油生産量(続き)
(米国の増産でシェアが長期低落傾向のOPEC!)
(2) 世界の石油生産量とOPECシェアの推移(1970年~2019年)
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-2-G02.pdf参照。)
1970年の世界の石油生産量は4,807万B/Dであったが、その後1979年の第二次オイルショックまで生産は大きく増加、1980年には6,294万B/Dに達した。その後価格の高騰により石油の消費が減少した結果、1985年の生産量は5,734万B/Dにとどまった。1980年代は石油の生産が歴史上初めて長期にわたり減退した時期であった。

1990年代に入ると石油生産は再び右肩上がりに増加し始めた。そして1995年(6,784万B/D)以降急激に伸び2000年に7,472万B/D、2005年は8千万B/Dを突破して8,195万B/Dに達している。これは中国、インドなど新興経済国の消費量が急増したことが主たる要因である。その後2000年代後半は原油価格の急騰とそれに続く景気後退で石油生産の増加は一時的に鈍化したが、2010年代は再び増勢に転じ、2015年には9千万B/Dを突破、2019年の生産量は9,519万B/Dに達している。

 地域毎のシェアの変化を見ると、1970年は中東の生産量が29%でもっとも多く、北米28%、ロシア・中央アジア15%、アフリカ13%、中南米10%と続き、アジア・大洋州(4%)と欧州(2%)のシェアは小さい。その後アフリカ、中南米のシェアが低落する一方、中東及びアジア・大洋州の生産が伸び、現在(2019年)では中東のシェアが32%と引き続き世界のトップである。北米は2000年代にはシェアは17%まで落ち込んだが、その後シェール・オイルの生産が急増したことにより2019年のシェアは26%に高まり、1970年初頭の水準に近づいている。

 石油生産に占めるOPEC加盟国のシェアの推移を見ると、1970年は47%であり、世界の石油生産のほぼ半分を占めた。しかし1970年代後半からシェアは下落し85年には30%を切った。その後80年代後半からシェアは回復し、1995年以降は40%台のシェアを維持してきた。しかし2005年の42%をピークに下落傾向に歯止めがかからず2019年のシェアは37%に下がり、1990年代始めの水準に戻っている。

2014年後半から石油価格が急落する中でOPECは価格よりもシェアを重視する方針を打ち出したが、OPECのシェアは思ったほど伸びなかった。その背景にあったのは近年急激に生産を拡大し価格競争力をつけてきた米国のシェール・オイルであった。シェール・オイルの追い落とし策としてOPECが掲げた低価格政策は2016年半ばに行き詰まりを見せた。

このためOPECはロシアなど非OPEC産油国を巻き込んでOPEC・非OPECの協調減産体制(いわゆるOPEC+体制)を作り上げ、2017年1月から180万B/Dの減産体制をとり、2019年は120万B/Dの減産を継続した。周知のとおり2019年末に世界でコロナウィルス禍が発生し、今年(2020年)前半は価格生産量とも大幅に落ち込んでいる。しかしながら2019年に限ってみれば、OPEC+の減産と米国のシェール・オイル増産がバランスし、全世界の石油生産量は前年度横ばいの9,500万B/Dとわずかな落ち込みにとどまっている。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
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石油と中東のニュース(6月30日)

2020-06-30 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(コロナウィルス問題関連ニュース)
・UAE、連邦政府公務員の7/5から通常勤務に。在宅勤務終了
(石油関連ニュース)
・米シェールガス開発のパイオニアChesapeake社が破産申請
・Bofa-ML銀行アナリスト:経済回復で今年のBrent 平均価格を43.7ドルに上方修正。来年は50ドル
(中東関連ニュース)
・Forbes ME:中東のファミリー財閥100社公表。エジプトMansourグループがトップ
・サウジ、23億ドルのイスラム国債発行。償還期限は2027年、2030年及び2035年
・サウジ、外国のネットショップ購入品に通常の3倍のVAT15%を賦課

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UNCTAD「世界投資レポート2020年版」(3)

2020-06-29 | その他
(世界ランクシリーズ その9 2020年版)

1. FDI インバウンド(FDI Inflows, 直接投資流入額) (続き)
(増勢を示す日本、凋落傾向のサウジアラビア!)
(2) 2012-2019年のFDI Inflows(FDI インバウンド)の推移
(図http://rank.maeda1.jp/9-G01.pdf参照)
2012年から2019年までの世界と中東主要国のFDI Inflowsの推移を示したのが図9-G01である(単位億ドル、対数目盛)。

2012年の全世界のFDI Inflowsの総額は1兆4,900億ドルであった。その後2年間はわずかに減少したが、2015年は前年比1.5倍の2兆ドルに達した。但しその後は再び減少し、2019年のFDI Inflowsは1兆5,400億ドルでほぼ2012年のレベルに戻っている。

世界最大の投資流入国である米国は、2012年の1,990億ドルから2015,16年には4,700億ドルに膨らんだが、その後再び2千億ドル台に戻っている。2019年は2,500億ドルで2012年の1.2倍であった。米国に次ぐ中国は2012年の1,211億ドルから2019年には1,412億ドルと1.2倍弱に増加している。この間、ほぼ毎年2~5%の安定した成長を遂げている。

インドと日本を比べると2012年の流入額は日本が17億ドル、インドは242億ドルであった。その後、インドのFDI Inflowsは中国を上回るペースで拡大しており、2019年の流入額は2012年を2倍強上回る506億ドルを記録している。日本も全期間を通じてみれば増加傾向にあるが、23億ドル(13年)→120億ドル(14年)→30億ドル(15年)→194億ドル(16年)→110億ドル(17年)→99億ドル(18年)→146億ドル(19年)と各年の変動幅が大きい。

トルコ、サウジアラビア、UAEの中東3カ国の2012年のFDI Inflowsはそれぞれ137億ドル、122億ドル及び96億ドルであり、3カ国に大きな差はなかった。しかしその後、UAEは増加傾向を示し2019年には138憶ドルの投資を呼び込んでいる。トルコも2018年までは毎年100億ドル以上の投資が流入しており常に3か国の中ではトップを維持してきた(2019年のみUAEがトップ)。サウジアラビアは2013年以降毎年投資流入額が減少しており、特に2017年は14億ドルまで落ち込んでいる。2018,19年は少し持ち直しているがそれでも40億ドル台にとどまっており、トルコあるいはUAEの2分の1乃至3分の1にとどまっている。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
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石油と中東のニュース(6月28日)

2020-06-28 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(石油関連ニュース)
・中国、5月のサウジ原油輸入量は前年同月の2倍、216万B/Dに
(中東関連ニュース)
・経済危機のレバノン、通貨及び食料品価格安定策を発表。インフレは年率57%


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今週の各社プレスリリースから(6/21-6/27)

2020-06-27 | 今週のエネルギー関連新聞発表
6/22 OPEC
GECF and OPEC hold first Technical Meeting via videoconference

https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/6015.htm


6/25 Total
ALGERIA: TOTAL AND SONATRACH EXTEND THEIR PARTNERSHIP IN LIQUEFIED NATURAL GAS

https://www.total.com/media/news/actualites/algeria-total-and-sonatrach-extend-their-partnership-in-liquefied-natural-gas


6/26 ENEOSホールディングス
社長就任挨拶について(要旨)

https://www.hd.eneos.co.jp/newsrelease/20200626_01_01_1080071.pdf


6/26 Total
BRAZIL: PRODUCTION RAMP-UP ON IARA WITH THE START-UP OF THE SECOND FPSO

https://www.total.com/media/news/communiques/brazil-production-ramp-up-on-iara-with-the-start-up-of-the-second-fpso
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見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(38)

2020-06-27 | その他
(英語版)
(アラビア語版)

第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)


2.ヒジュラ暦1400年(西暦1980年)前後
 西暦622年7月16日に始まったヒジュラ暦は西暦1979年11月21日にヒジュラ1400年1月(ムハッラム月)1日を迎えた。ヒジュラ暦14世紀最後の年である。ヒジュラの14世紀は西暦1883年に始まっている。前回説明した通りヒジュラ暦の1年は西暦より11日前後短いから1世紀の長さも西暦に比べ4年ほど短いことになる。

 19世紀以前キリスト信仰が篤かった西欧諸国では1世紀の終焉に対する畏怖心、恐怖心が様々な迷信を呼び起こしたが、20世紀近代科学の時代になるとさすがにそのようなことは無くなり、西暦1999年から2000年に暦が変わる時にコンピューターの「2000年問題」が騒がれた程度である。

 ムスリムもヒジュラ暦1400年についてとやかく騒いだ訳ではない。そもそも彼らはラマダンやハジ(大巡礼)のような月々の行事には敏感であったが、年の移り変わりには余り頓着しない。従ってヒジュラ暦1400年(西暦1979-1980年)をことさら強調するのは避けるべきかもしれない。しかしこの年の前後に中東イスラーム諸国で相次いで大きな出来事が発生したことは歴史的な事実である。

 例えばヒジュラ1399年(西暦1978-1979年)にはエジプトのサダト大統領とイスラエルのベギン首相が米国大統領の仲介で歴史的なキャンプデービッド会談を行い、二人はその年のノーベル平和賞を受賞、翌年両国の平和条約が締結された。しかしこれは他のアラブ諸国の反発を招き、エジプトはアラブ連盟から除名される。エジプトは和平の見返りとしてアラブ・イスラムの盟主の座を追われたのである。

翌1979年1月(ヒジュラ暦1399年、以下わかりやすいため西暦で表す)にイラン革命が発生、7月にはイラクのサダム・フセインが大統領に就任、エジプトに代わるアラブ盟主の座を狙う。8月にはサウジアラビアでマッカ神殿占拠事件が発生、サウド家を震撼させた。そして翌1980年9月(ヒジュラ暦1401年、すなわちヒジュラ15世紀の最初の年)にはイラン・イラク戦争が発生、イランのホメイニ師がイスラームという宗教の盟主を目指し、他方イラクのサダム・フセインはエジプトに代わるアラブ民族の盟主を目指して宗教と民族が地域の覇権を競う。

この時、サダム・フセインはこの戦争をイスラームのシーア派とスンニ派の争いと規定し同じスンニ派のサウジアラビアなど湾岸産油国から軍資金を引き出した。しかしサダム・フセインのイラクもサウド家のサウジアラビアなど湾岸の君主制国家も実態は世俗国家そのものである。イラン・イラク紛争は宗派間の争いではなかった。緒戦で苦戦したイランで国民の志願兵が雲霞のごとく戦場に繰り出したのは宗教的使命感に駆られたイラン国民がアラブ人の世俗国家に戦いを挑んだ「聖戦(ジハード)」と見るのが正しい。

サダム・フセインはスンニ派ではあるがイラク南部には多数のシーア派住民が住んでおり、イラク全体でみてもシーア派の方が多い。サウジアラビア、クウェイト、バハレーンのスンニ派君主制国家も国内に多数のシーア派を抱えており、バハレーンは人口の大半がシーア派である。イランのホメイニ師がこれらシーア派住民に蜂起を呼びかけたことで各国は危機感を募らせた。湾岸6か国が1981年(ヒジュラ暦1402年)にGCC(湾岸協力機構)を結成したのはとりもなおさずシーア派住民が蜂起して君主体制を打倒するのではないかという恐怖心に駆られたからに他ならない。フセインはイラン・イラク戦争に宗派対立の構図を持ち込んで湾岸産油国を戦争に巻き込んだ。GCC諸国はフセインの術策に陥ったとも言えるのである。

イラン・イラク戦争勃発と同じ1979年12月にはソ連がアフガニスタンに侵攻しアフガン戦争が勃発している。西暦1980年前後、すなわちヒジュラ暦の14世紀と15世紀wまたぐ数年間はこれら二つの戦争が続いた時代であった。

このようにヒジュラ暦という尺度で歴史的事件を並べてみると、ヒジュラ暦1400年前後は中東イスラーム世界の大きな地殻変動、パラダイムシフトの時代であったと言えよう。その原動力はイスラームという宗教である。ヒジュラ15世紀の最初の10年の間(西暦1980~1989年)にムスリムたちはイスラームの教えに反する敵対勢力、背教者たちとの闘いを開始した。最初の敵が無神論の共産主義者アフガニスタン中央政府との闘いであった。その後現在に至るヒジュラ15世紀前半は、ムスリムの戦いはスンニ派対シーア派というイスラーム二大勢力の対立からイスラーム穏健勢力と原理主義が対立する構図となり、さらにイスラム国(IS)と呼ばれるカリフ制の仮想国家が既存の世俗国家に戦いを挑んだことは周知のとおりである。

日本の一向一揆のように宗教の鎧をまとった運動は始まったが最後どんどん過激化して行くものである。現代のイスラム運動もその様相を色濃く帯びている。この運動は過激の極に達し、大衆の支持を失ったときに自滅して終焉する。仏教思想では「盛者必滅」ということになる。ただ争いがいつ終焉するかはわからない。まさに「神(アッラー)のみぞ知る」である。

(続く)

荒葉 一也
E-mail: areha_kazuya@jcom.home.ne.jp


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他を圧する三大産油国 米・露・サウジ:BPエネルギー統計2020年版解説シリーズ石油篇(4)

2020-06-26 | BP統計
BPが恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2020」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。
 *BPホームページ:
https://www.bp.com/en/global/corporate/news-and-insights/press-releases/bp-statistical-review-of-world-energy-2020-published.html

2.2019年の世界の石油生産量
(世界最大の産油国は米国!)
(1) 国別生産量
(表http://bpdatabase.maeda1.jp/1-2-T01.pdf参照)
 2019年の国別産油量で、世界最大の石油生産国は米国である。同国の2019年の生産量は1,700万B/Dであり、第2位のサウジアラビア(1,180万B/D)及び第3位ロシア(1,150万B/D)を大きく引き離している。2018年の順位と変わらないが、同年の米国及びサウジアラビアの生産量は各々1,536万B/D及び1,226万B/Dであり、両国の差は310万B/Dから520万B/Dに広がっている。

生産量が1千万B/Dを超えるのはこれら3カ国だけであり、3か国が世界に占めるシェアは43%に達する。ロシアに次ぐ生産量はカナダの565万B/Dでありロシアの半分である。5位はイラクの478万B/Dである。6位以下8位まではUAE(400万B/D)、中国(384万B/D)、イラン(354万B/D)と続き9位以下は300万B/D以下である。イランの前年の生産量は480万B/Dを超え世界5位であり、また2017年は500万B/Dでロシアに次ぐ第4位であった。米国の禁輸制裁のため2年連続で大きく減産、主要生産国の中で唯一前年を下回っている。

9位以下20位までの国とその生産量は以下の通りである。
クウェイト(299.6万B/D)、ブラジル(288万B/D)、ナイジェリア(211万B/D)、カザフスタン(193万B/D)、メキシコ(192万B/D)、カタール(188万B/D)、ノルウェー(173万B/D)、アルジェリア(149万B/D)、アンゴラ(142万B/D)、リビア(123万B/D)、英国(112万B/D)、オマーン(97万B/D)。
 
(続く)

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
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石油と中東のニュース(6月26日)

2020-06-26 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(コロナウィルス問題ニュース)
・クウェイト、6/30から夜間外出禁止を短縮、5段階の緩和プラン推進
・UAEとイスラエル4社がコロナ禍対策で共同研究
(石油関連ニュース)
・コロナ第二波を懸念し原油価格下落。WTI $37.75, Brent $40.01
・コロナ禍で豪LNGプロジェクトなど1.4億トン相当が遅延、20年代半ばにはガス不足に:豪州LNG会議でExxonMobil、千代化などが講演
(中東関連ニュース)
・米、Mobrakeh Steelなどイランの有力金属メーカー4社に経済制裁措置
・サウジのNCB銀行、SAMBAとの合併を検討。資産2,140億ドルの巨大銀行誕生。 *
・16億ドルの巨額オンライン詐欺でドバイの有名インスタグラマー逮捕
・サウジPNU女子大で中国ビジネス講座開設

*「The Middle East's Top 100 Companies 2020」参照。


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吸い上げる米国と中国、吐き出す日本:UNCTAD「世界投資レポート2020年版」(2)

2020-06-25 | その他
(世界ランクシリーズ その9 2020年版)

1. FDI インバウンド(FDI Inflows, 直接投資流入額) 
(世界の投資資金の2割を吸い上げる米国!)
(1)2019年のFDI インバウンド(FDI Inflows, 直接投資流入額)
(表http://rank.maeda1.jp/9-T01.pdf参照)
 2019年の世界のFDIインバウンド総額は1兆5,400億ドルであった。流入額が最も多かったのは米国であり、金額ベースでは2,460億ドル、世界全体の16%を占めている。米国1国だけで実に全体の2割近い投資を吸い上げている。米国に次いで流入額が多いのは中国の1,400億ドル(9%)であり、米国と中国の2カ国で世界のFDIインバウンドの4分の1を占めている。

米国、中国以外の各国は1千億ドル以下である。3位から5位までに名を連ねているのは、シンガポール(920億ドル)、オランダ(840億ドル)及びアイルランド(780億ドル)であり、その他主要な国を見ると、インドは500億ドル(世界10位)、ドイツは360億ドル(世界12位)、ロシアは320億ドル(世界17位)である。日本のFDIインバウンドは150億ドルで世界で24番目に多い。

中東各国のFDI流入額を見ると、イスラエル及びUAEはそれぞれ180億ドル及び140億ドルであり、イスラエルは日本より多く(世界22位)、UAEは日本よりやや少ない世界26位である。これら2カ国以外の中東諸国はエジプト(90億ドル)、トルコ(84億ドル)、サウジアラビア(46億ドル)のようにいずれも100億ドル以下であった。因みにイランのFDI流入額は15億ドルにとどまっており、米国の経済制裁の影響が強く表れている。

FDIインバウンドの金額及び世界ランクを前年(2018年)と比較すると、1位米国、2位中国は変わらない。但し米国は3%、金額にして74億ドル減少し、一方中国は29億ドル(2%)増加しており、両国の差は縮小している。日本の2018年流入額は99億ドルであり、今回は5割近く増え、世界ランクも31位から24位にアップしている。これに対してドイツは前年に比べ370億ドル、率にして5割と大幅に減少している。

中東諸国は2018年比でFDI流入額の増加した国と減少した国が混在している。UAEは34億ドル増加したのに対し、イスラエルは26億ドル減少している。サウジアラビアは金額ではわずかに増加しているが順位は46位から49位に下がっている。イランは2018年の24億ドルから9億ドル、4割近く減少している。またトルコも対前年比で45億ドル減少、金額、順位ともにUAEに逆転されている。
 
(続く)

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BPエネルギー統計2020年版解説シリーズ石油篇(3)

2020-06-24 | BP統計
BPが恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2020」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。

1.世界の石油の埋蔵量と可採年数(続き)
(ベネズエラとサウジが3千億バレルで拮抗!)
(3)8カ国の国別石油埋蔵量の推移(2005-2019年)
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/1-1-G03.pdf 参照)
 ここではOPEC加盟国のベネズエラ、サウジアラビア、イラン、イラク及びUAEの5カ国にロシア、米国、ブラジルを加えた計8カ国について2005年から2019年までの埋蔵量の推移を追ってみる。

ベネズエラの2019年末埋蔵量は世界一の3,038億バレルである。同国が世界一になったのは9年前の2010年からである。2005年当時の同国の埋蔵量は現在の4分の1強の800億バレルにすぎず、サウジアラビアはもとよりイラン、イラク、UAEよりも少なかった。ところが同国は2007年に埋蔵量を994億バレルに引き上げると翌2008年にはさらに2倍弱の1,723億バレルとしたのである。そして続く2009年、2010年にも連続して大幅に引き上げ、それまで世界のトップであったサウジアラビアを抜き去り石油埋蔵量世界一の国となった。

ベネズエラの埋蔵量の増加は2006年のチャベス大統領(当時)の再選と重なっており、同大統領が国威発揚を狙ったことは明らかである。即ち埋蔵量が多いことは将来の増産余力があることを示しており、同国がサウジアラビアなどの中東OPEC諸国に対抗し、さらには現在石油の生産と消費が世界一である米国を牽制する意図もうかがわれるのである。しかしながらその後の油価の低迷及び経済の混乱により現在同国は財政破綻に直面しており、米国の経済制裁も絡んで生産量そのものは大幅に落ち込んでいる。

一方サウジアラビアは1990年末に改訂して以来2016年末まで埋蔵量は2,600億バレルであり25年以上横ばい状態であった。ただし横這いと言う意味は毎年、生産量を補う埋蔵量の追加があったことを意味している。サウジアラビアの場合は1990年から2016年までの生産量は900~1,000万B/Dであり年率に換算すると33~37億バレルであったから、これと同量の埋蔵量が追加されてきたことになる。これは毎年超大型油田を発見しているのと同じことなのである。このことからサウジアラビアの埋蔵量数値はベネズエラなどに比べ信頼性が高いと評価する専門家が少なくない。しかしサウジアラビアは2017年に埋蔵量を前年の2,660億バレルから2,960億バレルとほぼベネズエラに並ぶ水準に上方修正している。これを純粋に技術的な検討結果と見ることもできるが、国営企業サウジアラムコの株式公開(IPO)を念頭にアラムコの財務評価を上げるためといううがった見方をする向きもある。

 非OPECのロシア、米国及びブラジル3カ国の2005年末と2019年末を比較するとロシアはほぼ横ばいであり、米国は2.3倍、ブラジルも1割増加している。即ち2005年末の埋蔵量はロシア1,044億バレル、米国299億バレル、ブラジル118億バレルに対し、2019年のそれはロシア1,072億バレル、米国689億バレル、ブラジル127億バレルである。特に米国の場合は2009年末までは横ばい状態を続け、2010年に350億バレルに上方修正され、以後2014年まで毎年大きく増加、さらに2017年にも大幅にアップしている。シェールオイルの開発によるものである。

(石油埋蔵量完)

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