石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

ENEOSの年間売上高をしのぐアラムコ利益:邦系2社vs IOCs/Aramco2023年(度)業績比較(8完)

2024-06-12 | 海外・国内石油企業の業績

(注)本レポートはマイライブラリーで一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0603MajorAramcoEneosIdemitsuMar2024.doc.pdf

 

6.財務キャッシュフロー 

(財務に熱心なアラムコ/メジャーズ、関心の薄い日系!)

(1) 2023年(度)財務キャッシュフロー

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-06.pdf 参照)

 2023年(度)の財務キャッシュフローを比較するとENEOSは▲3,310億円(▲23億ドル、換算レート:145円/ドル)であり、出光は▲2,805億円(19億ドル、換算レート:144.6円/ドル)であった。一方メジャー5社はShellが▲382億ドルと最も大きく、次いでExxonMobil(▲343億ドル)、Chevron(▲301億ドル)、TotalEnergies(▲297億ドル)、bp (▲134億ドル)であり、またアラムコは▲1,362億ドルであった。ExxonMobilと比べた場合、アラムコは4倍であり、一方出光は20分の1にとどまっている。

 

(極めてダイナミックなアラムコとメジャー5社の財務キャッシュフロー!)

(2) 2019年(度)~23年(度)財務キャッシュフローの推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-16.pdf 参照)

 2019年のメジャー5社の財務キャッシュフローはShellの▲352億ドルを筆頭に、ChevronはShellの6割(▲198億ドル)であった。その他3社は70億ドル前後であり、各社の財務戦略には大きな違いが見られた。同年度の日系2社のそれはENEOSが▲11億ドル、出光は15億ドルのプラスであった。またアラムコは▲653億ドルであった。アラムコの財務C/Fが飛び抜けて高く、メジャーズもその多くが300億ドル前後あるのに対して、邦系2社の財務C/Fは極めて少ない。

 

2020年(度)は世界的なコロナ禍と経済縮小の影響を受けてメジャーズ5社は財務改善に走り、ExxonMobilなど3社はプラスに転換、Shellの財務キャッシュフローも前年の5分の1の規模に縮小している。ところが2021年には一転してメジャーズ各社は積極的な財政出動を行っており、ExxonMobil(▲354億ドル)、Shell(▲347億ドル)の2社が▲300億ドルを超え、TotalEnergies、Chevronは250億ドル前後、最も少ないbpも▲181億ドルのキャッシュフローであった。これに対し日系2社は大きな変化は見られず、この傾向は2022年(度)も引き継がれた。

 

 これに対してアラムコの財務C/Fを年々増加しており2022年に千億ドルの大台を突破、2023年の財務C/Fは1,362億ドルに達している。メジャーズ5社も2021年以降年間財務C/Fはほぼ200億ドルを超える水準を維持している。アラムコとメジャーズは極めてダイナミックな財務活動を行っていると言えよう。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

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ENEOSの年間売上高をしのぐアラムコ利益:邦系2社vs IOCs/Aramco2023年(度)業績比較(7)

2024-06-11 | 海外・国内石油企業の業績

4.投資キャッシュフロー 

(▲100億ドルを超えるメジャーズ及びアラムコ!)

(1)2023年(度)投資キャッシュフロー

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-05.pdf 参照)

 2023年(度)の投資キャッシュフローを比較するとENEOSは▲2,410億円(▲17億ドル、換算レート:145円/ドル)であり、出光は▲658億円(5億ドル、換算レート:144.6円/ドル)であった。一方メジャー5社はExxonMobilが▲193億ドルと最も大きく、次いでShell(▲177億ドル)、TotalEnergies(▲165億ドル)、Chevron(▲152億ドル)、bp(▲149億ドル)であり、5社ともに投資キャッシュフローは100億ドルを超えている。アラムコの投資C/Fは▲144億ドルでありメジャー5社よりも少ない。

 

(5カ年平均▲400億ドルのアラムコ、▲170億ドルのExxonMobil、一桁台の出光!)

(2)2019年(度)~23年(度)投資キャッシュフローの推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-15.pdf 参照)

 2019年のアラムコの投資キャッシュフロー▲472億ドルである。メジャー5社はExxonMobilの▲231億ドルを筆頭にTotalEnergies及びbpが▲170億ドル強で並び、Shellは▲158億ドル、Chevronが最も少ない▲115億ドルであった。これに対してENEOSは▲34億ドル、出光は▲12億ドルであった。

 

 2020年はアラムコが▲56億ドルと大幅に減少、その他各社も前年比で減少した。続く2021~2022年はアラムコの投資C/Fは反転、2022年には1千億ドルを超えた。メジャーズ各社も増勢を示したが、日系2社は減少しており、出光の場合2022年度は5億ドルの純減となっている。2023年はアラムコが▲144億ドルとメジャーズを下回る投資C/Fとなっている。

 

 アラムコの投資C/Fは過去5年間で大きな増減を繰り返しているが、5カ年平均で見ると年間▲414億ドルである。メジャーズ5社の場合、ExxonMobilの▲172億ドルが最も多く、Chevronの▲103億ドルが最も少ない。これに対しENEOSの5カ年平均は▲24億ドルであり、出光は平均▲6億ドルとアラムコ、欧米メジャーズに比べ大きく見劣りする。

 

(続く)

 

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ENEOSの年間売上高をしのぐアラムコ利益:邦系2社vs IOCs/Aramco2023年(度)業績比較(6)

2024-06-10 | 海外・国内石油企業の業績

3.営業キャッシュフロー 

(アラムコの営業C/FはExxonMobilの2.6倍、ENEOSの20倍!)

(1) 2023年(度)営業キャッシュフロー

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-04.pdf 参照)

 2023年(度)の営業キャッシュフローを比較するとENEOSは1兆103億円(70億ドル、換算レート:145円/ドル)であり、出光は3,770億円(26億ドル、換算レート:144.6円/ドル)であった。メジャー5社はExxonMobilが554億ドルと最も大きく、次いでShell(542億ドル)、TotalEnergies(407億ドル)、Chevron(356億ドル)、bp(320億ドル)であった。一方、アラムコの営業C/Fはこれら各社を大きく上回る1,434億ドルであり、これはExxonMobilの2.6倍、ENEOSの20倍である。

 

(営業の稼ぐ力をそがれているENEOS/出光!)

(2)2019年(度)~2023年(度)営業キャッシュフローの推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-14.pdf 参照)

 2019年(度)から2023年(度)までの5年間の営業キャッシュフローの推移を見ると、アラムコ及びメジャーズと邦系2社の動きは大きく異なる。即ち、アラムコ及びメジャーズ計6社は2019年から2020年にかけて急落した後、2021年、2022年はV字回復し、2023年は減少している。これは売上高或いは原油価格の推移(前項2(2))と非常に近似している。

 

これに対してENEOS及び出光はメジャーズと全く逆に、2020年度は前年度よりキャッシュフローが増加しており、2021年度は大きく減少、2022年度は営業C/Fがマイナスであり、これはC/Fの流れとしては極めて異常と言える。

 

同年のENEOS決算説明資料を見ると、法人所得税・消費税の支払い等による資金減少要因が税引き前利益等の資本増加要因を上回ったため、としており、出光も同様の説明を行っている。政府の指導によりガソリン等の末端価格の激変緩和措置に伴い支払い消費税が増加した等の特殊要因があったためである。このような措置は原油及び製品価格の激変から消費者及び石油精製企業双方を保護しようとする政府の政策によるものであり、メジャーズと異なる極めて特殊な操業環境の結果である。両社の営業の稼ぐ力がそがれていると言えよう。

 

 年(度)別の推移を具体的に見ると、2019年はアラムコが1,111億ドルと突出して多く、メジャーズではShellの422億ドルが最も多く、他の4社が200億ドル台であった。ENEOSの営業キャッシュフローは47億ドルにとどまり、出光の場合は▲3億ドルであった。

 

2020年(度)にはアラムコ及びメジャーズ5社は大幅に減少したが、邦系2社は逆に前年度を上回るキャッシュフローを生み出している。但し金額的にはメジャーズで最も少ないChevronよりも低い水準にとどまっている。2021年、22年にかけてアラムコ及びメジャーズの営業キャッシュフローは大幅に改善し、2022年(度)のアラムコのC/Fは過去5年間で最も多い1,862億ドルに達した。メジャーズの中ではExxonMobilが768億ドルで最も多く、次いでShell(684億ドル)、Chevron(496億ドル)、TotalEnergies(474億ドル)、bp(409億ドル)であった。

 

(続く)

 

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ENEOSの年間売上高をしのぐアラムコ利益:邦系2社vs IOCs/Aramco2023年(度)業績比較(5)

2024-06-07 | 海外・国内石油企業の業績

2.売上高 (続き)

(原油価格とほぼ連動するアラムコとメジャーズ、影響の薄いENEOS/出光!)

(2)2019年(度)~23年(度)年間売上高の推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-12.pdf 参照)

 2018年(度)から2023年(度)までの5年間の年間売上高の推移を見ると、まず目につくのは原油価格との連動性である。アラムコとメジャーズ5社は原油価格の変動との相関性が極めて高いのに比べ、邦系2社の売上高は相関性が低い。ENEOSと出光の変動が少ない理由はアラムコ及びメジャーズは原油販売が大きな割合を占めるため原油価格の変動に左右されやすいのに対し、邦系2社は原油を仕入れて製品を売る精製専業であることが一因である。そして本稿の冒頭でも触れた通り原油仕入れ価格の変動をほぼ自動的に製品価格に転嫁できる制度に助けられているため原油価格の騰落は売り上げに影響されない。また国内の石油市場が成熟しており需要が好不況に左右されにくいことも売上高の変動幅が少ない一因と言えよう。

 

 具体的に各社の年(度)売上推移を見ると、2019年(度)のアラムコ売上高は3,298億ドルであった。メジャーズ5社の中ではShellが3,449億ドルとアラムコを上回り、次いでbp 2,784億ドル、ExxonMobil 2,649億ドル、TotalEnergies 2,003億ドルでChevronがメジャーズでは最も少ない1,399億ドルであった。これに対してENEOSは10兆100億円(919億ドル、換算レート109円/ドル)、出光は6兆4百億円(同556億ドル、108.7円/ドル)であった。ExxonMobilの売上高はアラムコの8割であり、ENEOSはアラムコの3割弱にとどまっている。

 

 Brent原油の年間平均価格は2019年の64ドル/バレルが翌2020年には42ドルに急落、しかし続く2年間は原油価格が急騰、2021年の71ドルから2022年には101ドルに達している。そして2023年は83ドル/バレルに再び落ち込んでいる。

 

 アラムコ及びメジャーズ5社の売上高は多少異なる様相を示しているものの、ほぼ原油価格の騰落と歩調を合わせている。例えば原油価格とアラムコ、ExxonMobil及びENEOSの対前年増減比を並べると以下のとおりでありENEOSと他の違いが明らかである。

              2020/2019年   2021/2020年   2022/2021年   2023/2022年

原油価格      ▲35% →     70%   →     43%   →     ▲18%

アラムコ      ▲30% →     74%   →     51%   →     ▲18%

ExxonMobil     ▲32% →     57%   →     45%   →     ▲17%

ENEOS         ▲21% →     35%   →     14%   →     ▲14%

 

(続く)

 

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ENEOSの年間売上高をしのぐアラムコ利益:邦系2社vs IOCs/Aramco2023年(度)業績比較(3)

2024-06-05 | 海外・国内石油企業の業績

1.純利益 (続き)

(コロナ禍からの回復目覚ましいメジャー、高水準のアラムコ、低位安定のENEOS、出光!)

(2)2019年(度)~23年(度)年間純利益の推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-11.pdf 参照)

 2019年(度)から2023年(度)までの5年間の年間純利益の推移を見ると、2019年(度)のENEOSは▲17億ドル(▲1,879億円、109円/ドル)、出光は▲2億ドル(▲229億円、108.7円/ドル)の欠損であった。この時メジャーはShellの158億ドルを筆頭に、ExxonMobil 143億ドル、TotalEnergies 113億ドル、bp 40億ドル、Chevron 29億ドルと5社いずれも黒字であった。これら純民間企業7社に対してアラムコの同年の利益は882億ドルであり圧倒的な収益力を示している。

 

 アラムコと7社との格差はその後も縮小していない。しかし2020年(度)は新型コロナ禍による世界的な景気後退の影響を受けアラムコの利益は前年の半分近い490億ドルに急落している。メジャー各社の場合は全社揃って欠損となり、特にExxonMobil、Shell及びbp3社は200億ドルを超える大幅な赤字となっている。このような中で邦系2社はむしろ前年度の赤字を脱却、ENEOSは1,140億円、出光は349億円の利益を計上している。これはBrent原油の年間平均価格が64ドル/バレルから42ドルに急落したことに加え、為替レートが円高(109円/ドル→106円/ドル)になった効果が大きい(2019~2023年の為替変動については次節売上高で触れる)。

 

 2020年から2022年にかけては景気回復による石油・ガスの需要増及びそれに付随した油価の上昇によりアラムコ及びメジャーズ5社の収益はほぼ各社で増加、2023年の利益はやや減少したものの、アラムコは1,200億ドルの利益を確保、メジャーズ各社もExxonMobilの360億ドルを筆頭にその他4社も150乃至200億ドル強の利益を計上している。

 

 これに対してENEOS及び出光の邦系2社は2020年以降共に利益を計上し続けており、メジャーズと極めて対照的な結果を示している。これは日本国内の石油需要が増加したからではなく、原油価格と為替の変動による日本の石油市場価格の急激な上昇を防ぐため、政府が価格調整金と言う名目で価格操作を行ってきたためである。このような人為的な政策のおかげで日本の石油企業は業績の急激な変動を避けることができた一方、アラムコ或いはメジャーズに比べ極めて低いレベルの利益水準にとどまっているのである。

 

(続く)

 

 

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ENEOSの年間売上高をしのぐアラムコ利益:邦系2社vs IOCs/Aramco2023年(度)業績比較(2)

2024-06-04 | 海外・国内石油企業の業績

1. 純利益 

(Aramco 1,200億ドル、ExxonMobil 360億ドル、ENEOS 20億ドル!)

(1)2023年(度)年間純利益[1]

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-01.pdf 参照)

 ENEOSの2023年度(2022年4月~2023年3月)の純利益は2,881億円であり、これを同社の決算レート(145円/ドル)で換算すると20億ドルとなる。同様に出光の利益は2,285億円、16億ドル(決算レート144.6円/ドル)である。一方メジャー5社は最も高いExxonMobilの360億ドルを筆頭に、TotalEnergies及びChevronは共に214億ドルであり、Shell、bpの利益はそれぞれ194億ドル及び152億ドルであった。アラムコはこれら7社をはるかに上回る1,213億ドルの利益を計上している。

 

 アラムコの利益はメジャートップExxonmMobilの3.4倍でありENEOSの60倍、出光の76倍である。またメジャーズと邦系2社を比べると、ExxonMobilの利益はENEOSあるいは出光の約20倍である。メジャーズ5社の中で最も利益の少ないbpですらENEOS、出光の8~9倍の利益を計上しており、彼我の収益格差は非常に大きい。

 

(続く)

 

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[1] 「純利益」とは各社の決算財務諸表に示された下記の項目を言う。

SaudiAramco: Net income by consolidated financial statement (end year)

ExxonMobil:Net income attributable to ExxonMobil (U.S. GAAP)

Shell:Incom/loss attributabel to shareholders

bp:Profit (loss) for the period; Attributable to BP shareholders

Total:Consolidated net income (Group share)

Chevron Net income

ENEOS: 親会社の所有者に帰属する 四半期純利益、為替換算レートは決算説明資料による。

出光:親会社株主に帰属する 四半期純利益、為替換算レートは決算説明資料による。

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ENEOSの年間売上高をしのぐアラムコ利益:邦系2社vs IOCs/Aramco2023年(度)業績比較(1)

2024-05-30 | 海外・国内石油企業の業績

はじめに

 国内1位、2位の石油企業ENEOSホールディングス(以下ENEOS)と出光興産(以下 出光)の2023年度決算(2023年4月~2024年3月)が相次いで発表された。国際石油企業5社(ExxonMobil, Shell, BP, Total及びChevron、以下メジャーズ)の2023年決算(2023年1月~12月)については既に「五大国際石油企業2023年業績速報」としてレポートした。本稿はこれら7社にサウジアラビアの国営石油会社SaudiAramco(以下アラムコ)を加えた8社の決算資料の中から利益、売上高、キャッシュフローを抽出、ドル建て換算で比較したものである。

8社は以下の通り決算期間、業態及び規模、決済通貨等が異なり単純に比較することの意味は少ないが、そのことを踏まえたうえで本レポートをお読みいただきたい。

 

(1)決算期間の違い

メジャーズ及びアラムコは四半期決算をメインとし3カ月ごとの数値を公表、第4四半期(10-12月)の決算資料で年間の業績を提示している。これに対してENEOS及び出光の決算期は4月から翌年3月までであり、3カ月ごとに期初(4月)からの累計額を表示している(例えば9月末は4-9月の6か月間、12月末は4-12月の9か月間の累積値である)。このように決算期間が3か月ずれているため景気或いは原油価格の変動が及ぼす影響にタイムラグがあらわれる。

 

(2)業態及び規模の違い

 アラムコは原油の開発生産を主力事業としており、その販売量は世界一である。メジャーズは原油の開発生産及び石油製品の販売の双方で世界規模の事業を展開しており、最近では天然ガスの生産増強に加え太陽光など非化石エネルギーの生産販売にも注力している。これに対して邦系2社は石油精製による製品販売を事業の中核とし、しかも日本国内市場を対象としており規模が小さい。

 

(3)決済通貨の違い

 アラムコ及びメジャーズの決算はドル建てであり(但しTotalEnergiesはユーロ建てとドル建ての併記)、一方邦系2社は円建てである。本稿では比較のため2社の決算説明資料に明記された各社の換算レートを用いてドル建てに換算し比較している。従って例えば円安であればメジャーズ及びアラムコとの見かけ上の格差が拡大し、一方円高であれば格差は縮小することになる。因みに今期(2023年度)の為替レートはENEOS145.0円/ドル、出光144.6円/ドルである。

 

アラムコ、メジャー五社、ENEOS及び出光興産の決算ホームページは下記のとおり。

 

Aramco:

https://www.aramco.com/-/media/publications/corporate-reports/reports-and-presentations/2023/fy/saudi-aramco-fy-2023-full-financials-english.pdf

ExxonMobil:

https://corporate.exxonmobil.com/news/news-releases/2024/0202_exxonmobil-announces-2023-results

Shell:

https://www.shell.com/media/news-and-media-releases/2024/fourth-quarter-2023-results-announcement.html

BP:

https://www.bp.com/en/global/corporate/news-and-insights/press-releases/fourth-quarter-2023-results.html

Total:

https://totalenergies.com/media/news/press-releases/fourth-quarter-and-full-year-2023-results

Chevron:

https://www.chevron.com/newsroom/2024/q1/chevron-reports-4q-2023-results

ENEOSホールディングス:

https://www.hd.eneos.co.jp/ir/library/statement/

出光興産:

https://ssl4.eir-parts.net/doc/5019/tdnet/2439015/00.pdf

 

(続く)

 

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利益は前年同期比減、前期比増:2024年1-3月期五大国際石油企業決算速報 (10完)

2024-05-24 | 海外・国内石油企業の業績

III. 過去2年間の四半期業績推移(続き)

(原油価格との連動が薄れてきた売上高!)

2.売上高の推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-61.pdf 参照)

 2022年4-6月期から今期(2024年1-3月期)まで過去2年間8四半期の売上高の推移を見ると、2022年4-6月期はExxonMobilが1,157億ドル、Shellは1,001億ドルであり、この2社が売上高1千億ドルを超えている。両社に次ぐのがTotalEnergies748億ドル、bp695億ドルであり、最も少ないChevronの売上高は654億ドルであった。因みに同期間のBrent原油平均価格は113.93ドル/バレルで、2024年1-3月期までの8四半期の中では最も高かった。

 

 原油価格は続く7-9月期も100ドルを超えたが、10-12月期には89ドルに下落、2023年4-6月期には78ドルまで大幅に下落した。その後は80ドル台に持ち直したが、今期は83ドルにとどまっている。

 

原油価格の変動と各社の売上高の相関関係を見ると、ExxonMobil、TotalEnergies及びChevronは下記の通り原油価格と売上高がかなり相似している。(単位:Brent原油 $/bbls, 売上高 億ドル)

 

            2022年               2023年                      2024年

            4-6月  7-9月  10-12月 1-3月  4-6月  7-9月  10-12月 1-3月

Brent($/bbls)114    101    89     81     78     87     84     83

 

ExxonMobil   1,157  1,121  954    866    829    954    843    831

TotalEnergies  748    690  686    626    563    590    592    563

Chevron       654    635  545    488    472    545    489    466

 

 これに対してShellは原油価格が下落した2022年10-12月期及び2023年10-12月期には逆に売上高が伸びている。その一方、今期は原油価格が前期に比べ▲1.4%の小幅な下落だったのに対し売上高は▲8%も減少しており、売上高と原油価格の相関関係が乏しい。bpも同様の傾向が見られる。

 

 因みにShell及びbpは原油・天然ガスの合計生産量が5社の中で最も少ない。このことから両社は石油・天然ガス以外の非化石エネルギー(太陽光、風力発電など)の開発生産販売あるいは非エネルギー分野にシフトしつつあると考えられる。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

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利益は前年同期比減、前期比増:2024年1-3月期五大国際石油企業決算速報 (8)

2024-05-22 | 海外・国内石油企業の業績

II. 五社の業績比較(続き)

(ExxonMobil、トップの58億ドル、増減著しいTotalEnergies!)

5.設備投資[1]

(図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-54.pdf 参照)

 国際石油企業の1-3月期設備投資は、ExxonMobilが58億ドルと最も多く、次いでbp43億ドル、Chevron 41億ドル、Shell40億ドルであり、TotalEnergiesは5社で最も少ない36億ドルであった。TotalEnergiesは前期が7億ドル、前年同期は64億ドルであり増減が著しい。その他の4社はいずれも今期が前期より減少している。

 

(生産量が多いExxonMobil、Chevronの米系2社、少ない欧州系3社!)

6.石油及び天然ガス生産量

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-55.pdf 参照)

(1)原油生産量[2]

 2024年1-3月期の原油生産量が最も多かったのはExxonMobilの2,557千B/Dであり、5社の中でただ一社2百万B/Dを超えている。ExxonMobilに次いで生産量が多いのはChevron(1,968千B/D)でExxonMobilの9割である。第3、4位はTotalEnergies(1,482千B/D)、Shell(1,331千B/D)、bpは最も少ない1,056千B/Dであった。

 

(2)天然ガス生産量[3]

 天然ガスの生産量が最も多いのはChevronの日産83億立方フィートで石油に換算すると1,378千B/Dであった。2位以下はExxonMobilの74億立方フィート(石油換算1,227千B/D )、TotalEnergies 52億立方フィート(石油換算979千B/D )と続き、第4位はShellの31億立方フィート(石油換算541千B/D )であり、最も少ないのはbpの24億立方フィート(石油換算407千B/D )であった。

 

(3)石油・天然ガス合計生産量[4]

 石油と天然ガスの合計生産量が最も多いのはExxonMobilであり石油換算で3,784千B/Dである。同社に次いでChevron(3,346千B/D、)、TotalEnergies(2,462千B/D)と並んでいる。Shell及びbpはそれぞれ1,872千B/D及び1,463千B/Dであった。ExxonMobilの生産量を100とした場合、他の4社はChevron 88、TotalEnergies 65、Shell 49、bpは39であり、Shellの生産量はExxonMobilの2分の1である。

 

 各社の石油と天然ガスの比率を見ると、ExxonMobilは石油68%、天然ガス32%であり、その他の4社はShell(石油71%:天然ガス29%)、bp(石油72%:天然ガス28%)、TotalEnergies(石油60%:天然ガス40%) 、Chevron(石油59%:天然ガス41%)である。5社いずれも石油の比率が天然ガスを上回っているが、石油の比率が最も高いのはbp(72%)で、逆に最も低いのはChevron(59%)である。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

 

 

[1]  「設備投資」は各社資料から下記項目を抽出した。

ExxonMobil:Capital and Exploration Expenditures

Shell:Capital expenditure, Consolidated Statement of Cash Flow

bp:Capital expenditure

TotalEnergies:12. Net investments

[2] 「原油生産量」は各社資料から下記項目を抽出した。

ExxonMobil:Net production of crude oil, natural gas liquid, bitumen and tsynthetic oil

Shell:Liquid production available for sale

bp:Production (net of royalties), Liquids

TotalEnergies:

Chevron:Net liquid production

[3] 「天然ガス生産量」は各社資料から下記項目を抽出した。

ExxonMobil:Natural gas production available for sale

Shell:Natural gas production available for sale

bp:Production (net of royalities), Natural gas

TotalEnergies:Hydrocarbon production, Gas

Chevron:Net natural gas production, Worldwide

[4] 「石油・天然ガス合計生産量」は各社資料から下記項目を抽出した。

ExxonMobil:                     

Shell:Total production in barrels of oil equivalent    

bp:Production (net of royalities), Total hydrocarbons             

TotalEnergies:

Chevron:Total net oil-eqivalent production 

 

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利益は前年同期比減、前期比増:2024年1-3月期五大国際石油企業決算速報 (7)

2024-05-21 | 海外・国内石油企業の業績

II. 五社の業績比較(続き)

4.キャッシュフロー[1]

(ExxonMobilとTotalEnergiesの営業C/Fに7倍の開き!)

(1)営業キャッシュフロー(以下C/F)[2] (図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-56a.pdf参照)

 今期の5社の営業C/Fが最も多かったのはExxonMobilの147億ドルで、次いでShellの133億ドルである。2社のC/Fと他の3社の格差は大きく、Chevronは68億ドルとExxonMobilの2分の1以下であり、bpは50億ドル、最も少ないのはTotalEnergiesの22億ドルである。ExxonMobilとTotalEnergies の格差はほぼ7倍である。

 

(格差が少ない投資C/F、トップはExxonMobilの▲46億ドル!)

(2)投資C/F[3] (図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-56b.pdf参照)

 投資C/Fによるキャッシュの流出はExxonMobilが最も多い▲46億ドルであり、他の4社はそれぞれChevron▲40億ドル、bp▲38億ドル、ShellとTotalEnergiesは共に▲35億ドルであった。5社の格差は小さいい。

 

(高い水準のShellとExxonMobil、極めて低いTotalEnergies!)

(3)財務C/F[4] (図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-56d.pdf参照)

財務C/Fの収支はShell及びExxonMobilが▲82億ドル及び▲80億ドルで並んでいる。Chevronは両社のほぼ6割(▲49億ドル)であり、bpも▲24億ドルの水準にとどまっている。TotalEnergiesの今期財務C/Fは特に少なく2億ドルである。同社は新規借り入れが少なかったか既存借入の返済が多かったと考えられる。

 

(Shellの残高は399億ドル!)

(4)C/F期末残高[5] (図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-56e.pdf参照)

 3月末キャッシュフロー残高を比較する。なおChevronは資料に残高が明記されていないためここでは4社を比較する。

 

 残高が最も多いのはShellの399億ドルである。ExxonMobil及びbpの残高はそれぞれ333億ドル、315億ドルで、残高が最も少ないのはTotalEnergies の256億ドルである。

 

(続く)

 

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     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

 

 

[1] キャッシュ・フロー(cash flow、現金流量)とは、現金の流れを意味し、主に、企業活動や財務活動によって実際に得られた収入から、外部への支出を差し引いて手元に残る資金の流れのことをいう。欧米では古くからキャッシュ・フロー会計にもとづくキャッシュ・フロー計算書(Cash flow statement, C/F)の作成が企業に義務付けられており、日本でも1999年度から上場企業は財務諸表の一つとしてキャッシュ・フロー計算書を作成することが法律上義務付けられている。

 キャッシュ・フローは(1)営業キャッシュ・フロー(日常的な、生産・営業活動によって稼得する現金と、それに要する現金コストの収支)、(2)投資キャッシュ・フロー(工場新設やビル建設・トラック購入などの設備投資・有価証券投資に要する現金支払いと資産売却による収入)及び(3)財務キャッシュ・フロー(財務活動による現金の収支)の3種類があり、これらの総合収支が会計期間内の現金収支であり、期首(前期末)の現金(及び現金相当物)の残高に期間内の収支を加えたものが当期末の現金(及び現金相当物)となる。(Wikipediaより)

[2] 「営業キャッシュ・フロー」は各社資料から下記項目を抽出した。

ExxonMobil:Cash Flow form Operating Activities (U.S. GAAP) / Net cash provided by operating activities (U.S. GAAP)

Shell:Cash flow from operating activities

bp:Net cash provided by operating activities, Condensed group cash flow statement

TotalEnergies:Cash flow from operating activities, TotalEnergies financial statements

Chevron:Net cash provided by Operating Activities, Summerrized Statement of Cash Flow (Preliminary)

[3]「投資キャッシュ・フロー」は各社資料から下記項目を抽出した。

Shell:Cash flow from investing activities

bp:Net cash used in investing activities

TotalEnergies:Cash flow used in investing activities, TotalEnergie financial statement

Chevron:Net cash Used for Investing Activities, Summerrized Statement of Cash Flow (Preliminary)

[4]「財務キャッシュ・フロー」は各社資料から下記項目を抽出した。

Shell:Cash flow from financing activities

bp:Net cash provided by (used in) financing activities

TotalEnergies:Cash flow from (used in) financing activities, Total financial statement

Chevron:Net cash provided by (Used for) Financing Activities, Summerrized Statement of Cash Flow (Preliminary)

[5] 「キャッシュフロー期末残高」は各社資料から下記項目を抽出した。なおChevronは資料に明記されていない。

ExxonMobil:Cash and cash equivalent at end of period

Shell:Cash and cash equivalent at end of period

bp:Cash and cash equivalent at the end of the period

TotalEnergies:Cash and cash equivalent at end of period, TotalEnergies financial statement

 

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