石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

北欧が上位を独占、アラブ諸国はすべて100位以下:報道の自由度 (中)

2020-07-31 | その他
(世界ランクシリーズ その10 2020年版)

(世界180か国中で日本は66位、上位は北欧諸国が独占!)
2.2020年の世界ランク及び2019年との比較
(表http://rank.maeda1.jp/10-T01.pdf参照)
 2020年の報道の自由度世界1位はノルウェーである。これに続く世界5位までにはフィンランド、デンマーク、スウェーデン及びオランダが入っている。いずれも北欧諸国であり、ノルウェーとフィンランドの世界順位は昨年と変わらない。またデンマーク、スウェーデン及びオランダも昨年はそれぞれ世界5位、3位及び4位であり、トップ5にランク付けされている。

 日本を含む主要な国々の世界ランクを見ると、米国はスコア23.85で世界45位である。日本は米国よりもランクが低くスコア28.86で世界66位である。両国のスコアと順位を昨年と比較すると、米国はスコアが1.84改善し、3ランクアップしている。日本はスコアが0.5改善され、順位は1ランク上がっている。日本以外のG7の国々はドイツ(11位)、カナダ(16位)、フランス(34位)、英国(35位)、イタリア(41位)、米国(45位)といずれも日本より報道の自由度が高いとされている。またBRICs諸国はいずれも世界100位以下にとどまっており、ブラジル(107位)、インド(142位)、ロシア(149位)、中国(177位)である。特に中国は調査対象国180カ国中でほぼ最低レベルに評価されている。

 中東諸国を見ると、トップはイスラエルで同国の世界順位は88位と世界のほぼ中位である。しかし同国以外の中東各国はいずれも100位以下であり、その中で比較的高い国は世界102位のレバノン、及び同109位のクウェイトである。クウェイト以外のGCC諸国はカタールが129位、UAEが131位であり、サウジアラビアは世界180カ国中のほぼ最低ラインの170位にとどまっている。カタールはアラビア語圏ではもっとも人気の高いアル・ジャジーラ放送の拠点であり、欧米諸国からは国際報道姿勢を高く評価されているが、同国自身にかかわる取材は他のGCC諸国と同様強く規制されているようであり、報道の自由度としての同国の評価は必ずしも高くない。

中東の主要国であるトルコ、エジプト及びイランの世界ランクはそれぞれトルコ154位、エジプト166位、イラン173位でありいずれも自由度の評価は低い。3か国のスコアを前年の2019年と比較すると、トルコは52.81→50.02と3ポイント近く改善しているが、エジプトとイランはポイントが0.4程度悪化しており、世界順位も3ランクダウンしている。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-Mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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BPエネルギー統計2020年版解説シリーズ天然ガス篇 (6)

2020-07-30 | BP統計
BPが毎年恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2020」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量、貿易量及び価格のデータを抜粋して解説したものである。
 *BPホームページ:
http://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html

2.世界の天然ガスの生産量(続き)
(縮まるカタールとオーストラリアの差!)
(3)主な国の生産量の推移(2009~2018年)
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-2-G03.pdf 参照)
 2019年の天然ガス生産量が多い5カ国(米国、ロシア、イラン、カタール及びオーストラリア)について2010年から2019年までの過去10年間の生産量の推移を追ってみる。

 2010年の生産量はロシアが最も多く5,984億㎥であり、これに次ぐのが米国の5,752億㎥であった。しかし2011年にはトップが入れ替わり、以後米国の生産量はロシアをしのいでいる。しかも両国の差は2017年以降拡大しており、2019年の米国の生産量はロシアの1.4倍の9,209億㎥である。

ロシアの天然ガスはパイプラインで西ヨーロッパに輸出されており、備蓄が効かないパイプライン輸送は西ヨーロッパの好不況に左右されやすいと言える。このためロシアはシベリアから中国へのパイプライン輸出に力を入れ、また北極圏ヤマルから北極海を経由した極東あるいは西ヨーロッパへのLNG輸出を目指している。一方米国はシェールガス増産により輸出余力が生まれており、アジア、欧州向けのLNG輸出を模索している。今後しばらくは天然ガス輸出による米露両国のトップ争いが続きそうである。

 イランとカタールとオーストラリアの2019年の天然ガス生産量はいずれも2010年を上回っており、各国の増加率はそれぞれ1.7倍、1.5倍、2.8倍であるが、そこには各国特有の事情が見られる。イランの場合は経済制裁の為海外輸出が制約され、国内消費に向けられている。2010年以降の生産増は発電用燃料、自家消費などの増加によるものと考えられる。これに対してカタールはLNGの輸出国であり、早くにLNG年間77百万トンの輸出体制を整えたが、2005年にはLNG生産能力凍結(モラトリアム)を宣言している。この結果、2010年代のLNGの需要増に対応できずオーストラリアなど新たに天然ガス田を開発し、LNG輸出能力を高めた国に市場を奪われシェアは減少傾向にある(詳しくは後述する第4章天然ガス貿易を参照)。なおカタールは2017年にモラトリアム宣言を撤回、生産能力の増強に舵を切っており、LNG年産1.2億トン体制を目指している。

 オーストラリアは近年ガス田開発と液化設備の建設を積極的に行っている。2010年の生産量は540億㎥であったが、2017年にはついに1千億㎥を突破して2019年の生産量は1,535億㎥に達している。日本などとの長期契約によりLNGの販売体制を確立、LNGの生産出荷施設も相次いで建設されており今後生産量はさらに増加するものと考えられる。

 カタールとオーストラリアの格差はここ数年急速に縮まっており、2015年にはカタールの生産量はオーストラリアの2.3倍であったが、2019年の格差は1.2倍である。オーストラリアのLNG設備が続々と稼働し始めたため、今後数年で両国の生産量が逆転する可能性は高い。但しカタールも設備増強に着手しており、米、露、イランに次ぐ生産量4,5位争いは激しくなりそうである。

(天然ガス篇生産量 完)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601 
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maecda1@jcom.home.ne.jp
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石油と中東のニュース(7月30日)

2020-07-30 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(石油関連ニュース)
・米原油在庫増で原油価格上昇。Brent $43.36, WTI $41.06

(中東関連ニュース)
・マッカ巡礼、規模大幅に縮小して開始。マスクを着け距離をあけて大神殿を拝礼

・イエメン:南部独立派、独立断念しアデン政府に合流。30日以内に新内閣組閣目指す
・サウジSABIC、スペインに世界初の太陽光発電による石化プラント、2024年稼働目指し建設

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石油と中東のニュース(7月28日)

2020-07-28 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(コロナウィルス関連ニュース)
・サウジアラビア・マッカ巡礼:昨年の250万人が今年はわずか1万人に。オンラインのくじ引きで許可証はプラチナ・チケット

(石油関連ニュース)
米中関係緊張で石油価格上がる。Brent $43.66, WTI $41.62
・アブダビ:下部ザクム油田の中国CNPC権益、CNOOCが取得

(中東関連ニュース)
・イランのアハマドネジャド前大統領がサウジ皇太子に書簡でイエメン停戦提案:NYタイムズ報道
・レバノン国境でイスラエルとヒズボッラーが交戦。シリアでのシーア派殺りくに対する報復か
・オマーンのEid休暇、7/30から8/6までに延長変更
・ドバイ:港湾運営企業DP World、韓国の物流企業Unico株60%取得


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BPエネルギー統計2020年版解説シリーズ天然ガス篇 (5)

2020-07-28 | BP統計
BPが毎年恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2020」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量、貿易量及び価格のデータを抜粋して解説したものである。
 *BPホームページ:
http://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html

2.世界の天然ガスの生産量(続き)
(半世紀弱で世界の生産量は4倍に!)
(2)地域別生産量の推移(1970~2019年)
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-2-G02.pdf 参照)
 1970年に1兆㎥弱であった天然ガスの生産量はその後一貫して上昇を続け、1992年に2兆㎥、そして2008年には3兆㎥を突破し、2019年の生産量は約4.0兆㎥を記録した。1兆㎥から2兆㎥になるまでは20余年かかったが、次の3兆㎥に達するには16年、さらに2019年に4兆㎥弱になるまでは11年であり、生産量増加のピッチは速まっている。(注、厳密には昨年は4兆㎥に達しておらず、今年はコロナ禍の影響で消費量が前年を下回る可能性が高いため、生産量が4兆㎥を超えるのは来年以降と思われる。)

このように天然ガスの生産は近年飛躍的に増加しているのである。石油の場合、第二次オイルショック後しばらく需要が前年を下回りオイルショック前の水準に戻るまで10年以上の歳月を要していることと比べ(前章石油篇「生産量の推移」参照)天然ガスの生産拡大には目を見張るものがある。

 地域毎の生産量の推移にはいくつかの大きな特徴が見られる。1970年の世界の天然ガス生産は北米、ロシア・中央アジア及び欧州の三つの地域で全世界の95%を占めており、残る5%をアジア・大洋州、中東、中南米及びアフリカで分け合っていた。しかし北米は1970年に6,370億㎥であった生産量がその後は微増にとどまり、世界に占めるシェアも65%(1970年)から28%(2019年)に低下している。ロシア・中央アジア地域の生産量は1970年の1,880億㎥から急速に伸び、1980年代に北米を追い抜き、1990年には全世界の生産量の4割近くを占めるまでになった。しかし同地域の生産量も90年代以降伸び悩んでおり、2019年の世界シェアは21%にとどまっている。現在も北米とロシア・中央アジアの二地域が世界の天然ガスの主要生産地であることに変わりは無いが、その合計シェアは49%であり、1970年の84%から大きく後退している。
 
 この二地域に代わりシェアを伸ばしているのがアジア・大洋州と中東である。アジア・大洋州の場合、1970年の生産量は150億㎥でシェアもわずか2%しかなかったが、2019年の生産量は45倍の6,720億㎥に増加、シェアも17%に上昇している。また中東も生産量は1970年の103億㎥から2019年には70倍弱の6,950億㎥、シェアは17%に上がっている。アジア・大洋州或いは中東の生産量は1990年以降急速に増大しているが、特に中東ではここ数年加速された感がある。その理由としては生活水準の向上により地域内で発電用或いは家庭用燃料の需要が増加したことに加え、これまで先進国市場から遠いため困難であった輸出が、液化天然ガス(LNG)として市場を獲得しつつあることをあげることができる。

 過去半世紀近くの伸び率で言えばアフリカ地域が最も大きい。同地域の1970年の生産量は30億㎥に過ぎず世界の生産量に占める比率は1%以下であったが、1990年代には1千億㎥を突破、2019年の生産量は1970年の80倍弱の2,380億㎥に達し、全世界に占める比率も6%に拡大している。

天然ガス生産の年間増加率は平均2.9%であり石油生産の伸び率を上回り、石油から天然ガスへのシフトが進んでいる。天然ガスは石油よりもCO2の排出量が少なく地球温暖化対策に適うものと言えよう。この点では今後クリーンエネルギーである原子力或いは再生エネルギーとの競合が厳しくなると考えられる。但し原子力は安全性の問題を抱え、再生エネルギーもコストと安定供給が弱点である。その意味で天然ガスは今後世界のエネルギー市場でますます重要な地位を占めるものと考えられる。


(続く)

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北欧が上位を独占、中東アラブ諸国はすべて100位以下:報道の自由度 (上)

2020-07-27 | その他
(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0510WorldRank10.pdf

(世界ランクシリーズ その10 2020年版)

  国連などの国際機関あるいは世界の著名な研究機関により各国の経済・社会に関するランク付け調査が行われている。これらの調査について日米中など世界の主要国及びトルコ、エジプト、イランなど中東の主要国のランクを取り上げて解説するのが「世界ランクシリーズ」である。

 第10回の世界ランクは、ジャーナリストのNGO団体「国境なきレポーター(Reporters Without Borders)」(略称RSF)が発表した「報道の自由度2020 (Press Freedom Index 2020)」をとりあげて比較しました。

RSFホームページ:https://rsf.org/en/ranking

1.「World Press Freedom Index」について
 「国境なきレポーター(Reporters Without Borders)」は、1948年の世界人権宣言、及びこれに続く1950年の「人権と基本的自由の保護に関する会議」などで採択された、いくつかの憲章や宣言に触発され、各国の報道関係者が自発的に結成した非政府組織(NGO)である。フランスのジャーナリストが中心となって設立されたため、正式の組織名はReporters Sans Frontieresであり、その頭文字をとってRSFと略称され、本部はパリにある。

 RSFは、世界各国で取材妨害を受け、時には生命の危険に晒されているジャーナリストを保護し、その障害を取り除く活動を行っており、その一環として2002年から毎年、報道の自由度に関する各国のランク「報道の自由の指標(Press Freedom Index)」を公表してきた。この指標はRSFが作成したアンケートに対して、世界各地の表現の自由のための擁護組織団体及び多数のジャーナリストが回答した結果を集計したものである。

 2020年版Press Freedom Indexは世界180カ国の報道の自由度を指標化し、ジャーナリストに対する各国の対応ぶりを評価したものである。今回のアンケートではメディアの独立性、政府機関の透明性など7つのカテゴリーにわたる87の設問に対し、130カ国のジャーナリストが回答したものを統計処理し、各国毎に0点から100点の得点が付けられている。最も自由度が高い場合が0点であり、最悪の評価が100点である。

なおアンケートは毎年行われるため、直近に報道の規制または記者の逮捕などの政府の取材妨害があった国、或いはジャーナリストが誘拐・殺害に遭った国についてはその年のランクが低くなる傾向がある。RSF自身は、このランクは「報道の質」の良否を示すものではない、と断っている。

RSFのレポートでは点数(ポイント)に応じて各国の自由度を下記の5つに分類し色分けをした世界地図を掲載している。

(1)白(薄黄)色:0~14ポイント(Good situation)
(2)黄色:15~24ポイント(Satisfactory situation)
(3)橙色:25~34ポイント(Noticeable problems)
(4)赤色:35~54ポイント(Difficult situation)
(5)黒色:55~100ポイント(Very serious situation)

(続く)

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(42)

2020-07-27 | その他
(英語版)
(アラビア語版)

第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)

6.二度にわたりノーベル平和賞を受賞したイスラエルの首相

 世界平和に貢献した者に対して授与される賞は国連平和賞、フィリピンのマグサイサイ賞などいくつかあるが、知名度の高さ或いは歴史の長さなどの点でノーベル平和賞に適うものはないであろう。第1回のノーベル平和賞は1901年、赤十字社を創設したスイス人アンリ・デュナンが受賞、最近では2019年にエチオピアのアビー首相が受賞している。

 この名誉あるノーベル平和賞に二度にわたりイスラエルの首相が受賞している。最初は1978年のメナハム・ベギンであり、この時はエジプトのサダト大統領との共同受賞であった。二人は1973年の第四次中東戦争後、周囲の反対を押し切って和平に踏み切ったことが評価されたのである。二度目は1994年のイツハク・ラビンとシモン・ペレスであり、当時ラビンは首相、ペレスは外務大臣(後に首相)であった。そして彼らと共同受賞したのがPLO(パレスチナ解放機構)のアラファト議長である。湾岸戦争後のこの時、イスラエル・パレスチナ間に対話の機運が生まれ、ノルウェーの調停により両者の間にいわゆる「オスロ合意」が締結された。イスラエルとPLOが相互に承認するという歴史的な出来事がノーベル平和賞の受賞理由となったのである。

 歴代のノーベル平和賞受賞者を見ると個人と団体がほぼ半々である。そして個人では平和運動家や哲学家などの民間人が殆どであり、政治家は多くない。まして一国のトップは2019年のエチオピア首相を含めてもわずかである。さらにトップと言っても日本の佐藤栄作元首相のように受賞時はすでに現役を引退している者が大半である。加えてこれら一国トップの受賞者を国別にみるとセオドア・ルーズベルト(1906年)、ウッドロー・ウィルソン(1919年)、ジミー・カーター(2002年)、バラク・オバマ(2009年)など歴代大統領が並ぶ米国を別格として一国で政治家が複数回受賞した例は極めてまれである。

 そのような中でイスラエルのトップが1978年と1994年の二度にわたりノーベル平和賞を受賞したことは驚嘆すべきことと言えよう。さらに驚くべきことは受賞者たちのその後の暗転の歴史である。1978年にベギンと共同受賞したエジプトのサダト大統領は3年後に暗殺されている。そして1994年の受賞者であるラビン首相も2年後に同じく暗殺されている。共に現職の国家元首のまま和平に反対する自国の軍人或いは反対派の青年に狙撃されている。

 そもそもノーベル賞の創設者アルフレッド・ノーベルは遺言で、平和賞を「国家間の友好関係、軍備の消滅・廃止、及び平和会議の開催・推進のために最大・最善の貢献をした人物・団体」に授与すべしとしている。そしてスウェーデンとノルウェー両国の和解と平和を願って「平和賞」の授与はノルウェーで行うことになっている。この結果物理学、化学、生理学・医学、文学、経済の5分野のノーベル賞はスウェーデンのストックホルムで授与されるのに対して、平和賞だけはノルウェーのオスロで授与式が行われている。

 イスラエルとパレスチナの中東和平に与えられたノーベル平和賞とは一体何だったのであろうか。「中東に和平を築く努力に対して」というのが彼らの受賞理由である。イスラエルの政治家3人が国内の根強い反対の中でパレスチナとの和平に大変な努力をしたことは間違いなく、それがノーベル平和賞に値するとの選考委員の判断に異論をはさむつもりは毛頭ない。

 しかし第二次大戦後の中東の平和問題がイスラエルとパレスチナの関係に限定されてよいものであろうか。戦後の欧米の中東論は中東和平即ちイスラエルとパレスチナ(およびアラブ諸国)の和平という視点が強すぎ、そのような中でイスラエルが四度の戦争に勝った事実を事後承認する形で中東の平和が語られている。そこにはパレスチナでのユダヤ人のホームランド建設(イスラエル建国)の結果、中東に四度もの紛争を引き起こした問題を「中東和平」という形に変え、それをノーベル平和賞でオブラートに包もうとした西ヨーロッパ諸国の意図が見透かされる。また1994年の受賞のきっかけとなったのがノルウェーの調停であり、そのノルウェーがノーベル平和賞を与える立場にあったことも何やら自画自賛の匂いすら感じられる。

 確かに第四次中東戦争、そして二度にわたるノーベル平和賞の授与以降、イスラエルとパレスチナ及びアラブ諸国との戦争は無くなった。それでは地域に平和が訪れたかと言えば否というほかない。ラビン首相暗殺以降も中東の平和は悪化の一途をたどっていると言えよう。

(続く)

荒葉 一也
E-mail: areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

ホームページ:OCININITIATIVE 
(目次)
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BPエネルギー統計2020年版解説シリーズ天然ガス篇 (4)

2020-07-26 | BP統計
BPが毎年恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2020」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量、貿易量及び価格のデータを抜粋して解説したものである。
 *BPホームページ:
http://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html

2.世界の天然ガスの生産量
(他を圧倒する米国とロシアの生産量!)
(1)国別生産量
(表http://bpdatabase.maeda1.jp/2-2-T01.pdf 参照)
 天然ガス生産量第1位は米国の9,209億㎥/年(891億立法フィート/日)で全世界の生産量に占める割合は23%である。第2位はロシア(6,790億㎥、シェア17%)であり、両国の生産量が飛び抜けて多く、2カ国だけで世界の4割を占めている。

米露に続くのがイラン(2,442億㎥)で、カタール(1,781億㎥)、中国(1,776億㎥)及びカナダ(1,731億㎥)が僅差で並んでいる。これら3か国の生産量は米国の5分の1である。7位から9位はオーストラリア (1,535億㎥)、ノルウェー(1,144億㎥)、サウジアラビア(1,136億㎥)で、以上9カ国が年間生産量1千億㎥を超えている。10位はアルジェリア(862億㎥)である。

 これら上位各国の生産量を前年と比較するとオーストラリアが対前年比18%と顕著な増加を示している。同国は近年大型のLNGプロジェクトが次々と稼働を始めており、近い将来現在のカタールをしのぐ世界最大のLNG輸出国になると予測されている。米国も前年比10%の増加であり、シェールガスの生産が拡大していることをうかがわせる。中国も対前年比9.9%増加している。因みに2019年の全世界の生産量は2018年の3.8兆㎥から3.4%増加している。

 これに対してロシアの伸び率は1.5%にとどまっており、カタールの場合は0.9%増とほとんど増加していない。カタールは増産を久しく凍結していたが、この間も天然ガスの需要は着実に増加しており(次章「消費量」参照)、オーストラリア等の新興勢力が追い上げている。このためカタールは最近増産凍結(モラトリアム)を撤回、年間生産能力を現行の7,800万トンから1.2億トンに引き上げるプロジェクトに着手したばかりである。

一方上位10か国の中でカナダ、ノルウェー及びアルジェリアの3か国の生産量は前年を下回っている。カナダは対前年比3.3%減である。同国は生産量のかなりの部分を米国にパイプラインで輸出しているが、米国内のシェールガスの生産が急増した結果、対米輸出が減少したためとみられる。ノルウェー及びアルジェリアの減少幅はそれぞれ▲5.7%、▲8.1%である。ノルウェーは北海ガス田の生産が減退し、またアルジェリアは政情不安定によるなどそれぞれの国内事情があると考えられるが、ロシア・ドイツ間のバルト海パイプラインが本格稼働するなどロシアの西欧向け輸出圧力にさらされていることも一因であろう。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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埋蔵量が増えても可採年数は減少:BPエネルギー統計2020年版解説シリーズ天然ガス篇 (3)

2020-07-24 | BP統計
BPが毎年恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2019」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量、貿易量及び価格のデータを抜粋して解説したものである。
 *BPホームページ:
http://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html

1. 世界の天然ガスの埋蔵量と可採年数(続き)
(埋蔵量を食いつぶすカタール、20年間で6倍以上増えた中国とトルクメニスタンの埋蔵量!)
(5)主な天然ガス資源国の2000年以降の埋蔵量の変化
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-1-G04.pdf 参照)
 2019年末の天然ガス埋蔵量上位7カ国(ロシア、イラン、カタール、トルクメニスタン、米国、中国及びベネズエラ)について2000年~2019年までの埋蔵量の推移を見ると、ロシアは2000年の埋蔵量は33tcm(兆立方メートル)であり、2008年には34tcmを突破、2019年末の埋蔵量は38tcmに達しており、19年間を通じて埋蔵量を着実に増加させるとともに世界一の座を保っている。イランの場合2009年までは埋蔵量20tcm台にとどまっていたが、2010年以降は30tcmを超える水準を維持しており2019年末の埋蔵量は32tcmである。

世界第3位の埋蔵量を誇るカタールは2001年に埋蔵量を15tcmから27tcmに大幅に上方修正したが、その後、新規開発を凍結するモラトリアム宣言を行った。その結果、2002年以降は年々減少し2019年の埋蔵量は25tcmまで下落している。危機感を抱いた同国は2017年4月にノース・ガス田の開発再開を宣言している。

ロシア、イラン、カタール3カ国の埋蔵量はその他の国を圧倒しているが、近年トルクメニスタンの伸長が著しい。同国の2000年末の埋蔵量は2.6tcmであり、当時は世界12位であったが、2008年には8.2tcm、更に2011年には19.5tcmと2000年に比べ7.5倍に増え、2019年もその水準を維持している。

 イランとトルクメニスタンは2007年以降共に埋蔵量が増加している。しかしイランは米国の経済制裁により国際石油企業との合弁事業が進まず自前の技術で探鉱開発を行っており同国の技術が時代遅れのものであることは周知の事実である。このような状況下で埋蔵量が増加しているのは石油篇で述べたと同様、イラン政府が意図的に埋蔵量の水増しを行っている可能性が否定できない。これに対してトルクメニスタンの場合は外国民間企業との全面的なタイアップにより国内で探鉱作業を行った成果であり埋蔵量の数値は信頼性が高いと考えられる。

 米国も2006年以降埋蔵量が増加する傾向にあり2011年には2006年比1.4倍の9.1tcmに達し、2014年は10.0tcmを突破した。その後2015年、16年は8tcmに落ち込んだが、2019年末は過去最高の12.9tcmの埋蔵量を誇っている。

(天然ガス篇埋蔵量完)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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石油と中東のニュース(7月24日)

2020-07-24 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(コロナウィルス関連ニュース)
・サウジ、3/7日以来閉鎖中のUAE,バハレーン、クウェイトとの陸上国境検問所を再開
(石油関連ニュース)
(中東関連ニュース)
・シリア上空で米軍戦闘機がベイルート行きイランMahan航空機の飛行を妨害。乗客パニックに
・エジプト、戒厳令を再延長。2017年以来3カ月ごとに更新
・ヨルダン国王、アブダビ訪問。皇太子とパレスチナ問題などで意見交換
・サウジ国王、胆のうを摘出。術後は良好
・トランプ大統領、サウジ国王の容態について皇太子に電話
・クウェイト・サバーハ首長、手術後のチェックのため米国入り。昨年8-10月にも滞米
・米露両大統領が電話会談。イラン核問題等について意見交換
・サウジ政府筋:所得税導入の予定はないと言明
・サウジ、Yanbu港に年間取扱量500万トンの穀物ターミナル建設
・UAE:公共・民間部門のEid休暇は7/30日から8/2日までの4日間
・オマーン:公共・民間部門のEid休暇は7/30日から8/3日まで



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