石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

OPEC+(プラス)の協調減産を分析する(4完)

2024-06-20 | OPECの動向

4.減産反対派の造反及びOPECプラス外部環境の変化

OPECプラスの2大産油国サウジアラビア及びロシアは1年足らずの間に3回の減産を主導した。これに対して他の加盟国が唯々諾々として従った訳ではない。最初の減産(2022年11月)ではOPECプラスの全対象国が足並みを揃えたものの、2回目(2023年4月)及び3回目(同年6月)の減産は一部加盟国の自主減産にとどまったことがそのことを証明している。

 

因みに2回目及び3回目の自主減産に同調しなかった国はOPEC加盟国ではアンゴラ、コンゴ、エクアトール・ギニア、ナイジェリアの5か国であり、非OPECではアゼルバイジャン、バハレーン、ブルネイ、マレーシア、メキシコ、スーダン及び南スーダンの7カ国である。

 

一見してわかる通りOPEC加盟の5か国はいずれもサブサハラ(アフリカサハラ砂漠以南)の国々である。これら5カ国が閣僚級会合で協調減産や自主減産に反対し続けたことはメディアでもたびたび報道され、OPECの不協和音が高まっていることを推測させた。それを象徴する出来事がアンゴラのOPEC脱退であった。

 

OPEC内部では更に別の造反の動きが表面化した。UAEによる増産要求である。近年、世界では石油のような化石エネルギーから太陽光、風力などの自然再生エネルギー或いは原子力への移行が叫ばれてきた。しかし最近では経済性或いは効率性などの面から石油の時代がまだしばらく続くとの考えが支配的になっている。その結果、石油の新規開発または増産投資に目が向けられ始めた。石油の増産余力を持っているUAEはOPECプラス諸国に自国の増産要求を突き付けたのである。

 

UAEが増産要求するもう一つの隠れた理由は、協調減産の枠外にあるイラン或いはベネズエラの原油生産が増産傾向にあることにもありそうだ。さらに米国がシェールオイル・ガスを含めた世界一のエネルギー生産国としての覇権を唱えていることもUAEを刺激しているであろう。UAEは今回(6月)の会合で来年1月から9月までの間30万B/D増産することが認められた。一方、ロシアは欧米諸国の禁輸制裁に対して中国やインドなどへの抜け道輸出でウクライナ戦争の戦費獲得に余念がない。OPECプラスの盟主とは言えロシアがいつサウジアラビアと袂を分かつかわからない。

 

今やサウジアラビアはOPECプラスの中で孤立状態にある。全体の減産量586万B/Dのうち3分の1に相当する203万B/Dの減産を背負い込み貧乏くじを引いているのが現在のサウジアラビアの姿である[1]。同国のやせ我慢がいつまで続くのか状況を注視する必要がある。

以上

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行    〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

[1] 図「サウジアラビア原油生産量の推移(2023.1-2024.5月)」参照。

 

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OPEC+(プラス)の協調減産を分析する(3)

2024-06-18 | OPECの動向

3.原油価格の推移(2022年夏~2024年現在) (図2-D-2-02参照)

OPECプラスの協調減産の見直しに最も大きな影響力を与えるのは石油価格の動向である。米国EIAの月別統計で見ると、2022年1月に87ドル/バレルであったBrent原油価格は3月に100ドルを突破、6月には123ドルまで高騰したが、その後急速に下落、9月には90ドルと年初の水準に逆戻りした。

 

OPECプラス最大の産油国であるサウジアラビアは財政が均衡する原油価格は85.8ドルと言われ価格の下落に敏感である。またウクライナとの戦争で戦費調達に頭を悩ませるロシアも原油価格の下落を見逃すことはできなかった。

 

そこで両国はOPECプラスの全加盟国に呼びかけ11月以降2百万B/Dの協調減産を行うこととした。しかしその後も原油価格は下げ止まらず同年12月にはついに81ドルまで下がった。減収分を増産で補おうとする一部加盟国の議論を抑え、ロシアとサウジアラビアは更なる減産による価格アップを狙った。その結果が2023年5月からの9カ国による166万B/D自主減産である。これにより原油価格は幾分上向き始めた。そこでサウジアラビアは更なる追加措置として100万B/D自主減産を率先して実施、他国にも呼びかけ、2022年6月、8カ国による220万B/Dの追加減産を推進した。

 

3度にわたる合計586万B/Dの減産により今年4月に原油価格は90ドル/バレルまで戻ったものの現在は一進一退を繰り返している状況である。このことはOPECプラスの価格支配力が低下していることを意味している。かつて1970年代の二度にわたる石油ショックの頃、OPECは世界のエネルギー市場を意のままに操っていたが、現代ではOPECの原油供給シェアが低下しただけでなく、原油から天然ガス、さらには自然エネルギーなどエネルギー市場を取り巻く環境が変化し、OPECプラスの神通力も衰えた。このことが次項に述べる通りOPECプラス自身の結束力を弱めているように見受けられる。

 

(続く)

 

 

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OPEC+(プラス)の協調減産を分析する(2)

2024-06-17 | OPECの動向

2.来年の生産レベル(今回決定事項)と今年5月の各国生産量(OPEC月報)の比較(表1-D-2-37参照)

6月2日のOPECプラス閣僚会合(OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting, 略称ONOMM)では減産幅を縮小することが合意された。同時に来年のOPECプラスの生産量を3,973万B/Dとし、各国毎の望ましい生産水準(Required Production Level for 2025)も公表された[1]。(注、OPEC加盟国のうちイラン、リビア、ベネズエラは協調減産の対象外、アンゴラは昨年OPEC脱退)

 

3,973万B/Dの国別内訳を見ると、最も多いのはサウジアラビアの1,048万B/Dで、ロシアの995万B/Dがこれに続いており、両国だけで全体の49%を占めている。3位以下の主な国とその生産量は、イラク(4,431千B/D)、UAE(3,519千B/D)、クウェイト(2,676千B/D)、メキシコ(1,753千B/D)、カザフスタン(1,628千B/D)、ナイジェリア(1,500千B/D)、アルジェリア(1,007千B/D)などである。

 

6月11日にはOPEC事務局から月例レポートが刊行された。レポートではOPECプラスの全対象国、即ちOPEC12カ国及び非OPEC10カ国の3,4及び5月まで3カ月の月間生産量が公表されている。因みにこのような全OPECプラスの国別生産量が公表されるようなったのは5月の月例レポートからである。

 

これによれば今年5月のOPEC・非OPEC22カ国の合計生産量は4,108万B/Dであり、内訳はOPEC(12カ国)2,663万B/D、非OPEC(10カ国)1,445万B/Dである。主な国別ではロシア918万B/D、サウジアラビア9百万B/D、イラク420万B/D、イラン323万B/D、UAE294万B/D、クウェイト242万B/D、メキシコ163万B/Dなどである。なお協調減産に加わっていないイラン(323万B/D)、リビア(117万B/D)及びベネズエラ(82万B/D)を除くと、合計生産量は3,585万B/Dであり、内訳はOPEC 9カ国が2,141万B/D、非OPEC10カ国が1,445万B/Dとなる。

 

5月の実生産量と来年の生産量(上記)を比較すると、OPECプラス19カ国全体で今後2025年12月までに生産量が387万B/D増える計算になる。OPECプラスから見ればそれだけ減産を緩和すると言うことである。国別の減産緩和量は、サウジアラビアの148万B/D(900万B/D→1,048万B/D)を筆頭に、ロシア77万B/D(918万B/D→995万B/D)、UAE 58万B/D(294万B/D→352万B/D)、クウェイト26万B/D(242万B/D→268万B/D)、イラク24万B/D(420万B/D→443万B/D)などが比較的大きな減産緩和量を確保している。特にUAEがクウェイト、イラクなど他の湾岸産油国に比べ優遇されていることが特徴的である。

 

(続く)

 

 

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     前田 高行    〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

[1] OPECプレスリリース:

https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/7337.htm

https://www.opec.org/opec_web/static_files_project/media/downloads/Production%20table%20-%2037th%20ONOMM.pdf 

 

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OPEC+(プラス)の協調減産を分析する(1)

2024-06-14 | OPECの動向

6月2日、OPECとその同調国(いわゆるOPECプラス)の閣僚級会合(略称ONOMM)が開催され、2022年11月以降、3段階にわたり実施された減産を年内まで延長すると共に、2025年に徐々に減産を緩和し各国が新しい生産水準に移行することが決められた。

 

本稿では(1)過去3度の減産量を略述し、(2)今回のONOMMで決定された来年1-12月の生産水準とOPEC6月月次レポートによる今年5月の各国の生産量を比較し、今後のOPEC+の増産の動きを検証する。さらに(3)減産体制を見直す要因となった原油価格の動向、及び(4)サウジアラビア(及びロシア)が主導する減産体制見直しに対する増産推進派の造反などOPECプラスを取り巻く環境の変化について分析を試みる。

 

なお従来OPECの構成国は13カ国であったが、イラン、リビア及びベネズエラ3カ国は協調減産に加わっておらず、またアフリカの有力産油国アンゴラは自国の割り当て生産量を不満として昨年OPECを脱退している。従ってOPECプラスの協調減産体制は以下の各国によって成り立っている。

 

OPEC9カ国:サウジアラビア、イラク、UAE、クウェイト、ナイジェリア、アルジェリア、コンゴ、エクアトール・ギニア、ガボン

非OPEC10カ国:ロシア、カザフスタン、メキシコ、オマーン、アゼルバイジャン、マレーシア、ブルネイ、バハレーン、スーダン、南スーダン

 

1.2022年10月~2023年6月協調減産の推移

現在のOPECプラス協調減産は2022年10月のONOMMで決定された。同年8月の生産量を基準にOPEC10カ国(注、その後脱退したアンゴラを含む)と非OPEC10カ国が11月以降2023年12月まで合計200万B/Dを減産することとなった。この時、サウジアラビアとロシア両国は共に526千B/Dの減産を受け入れ全体の過半を負担した[1]

 

2023年に入りロシアが50万B/Dの自主減産を打ち出した。4月の合同閣僚級モニタリング委員会(JMMC)でサウジアラビアなど8カ国もこれに追随、これら9カ国は5月以降年末まで166万B/Dの自主減産を行うことを決定した。サウジアラビア及びロシアの減産量は共に50万B/Dであり、2カ国で全体の60%を負担している[2]

 

しかし2度の減産でも石油需要は伸びず価格も低迷したため、6月にはサウジアラビア主導のもと8カ国が3度目の自主減産を実施した。全体の減産幅は220万B/Dであり、このうちサウジアラビアは100万B/D、ロシアが50万B/Dを負担し、全体の7割弱を占めている[3]

 

これら3度にわたる減産の合計量は586万B/Dに達する。このうちサウジアラビアは2,026千B/Dであり全体の3分の1を占め、ロシアは1,526千B/Dで同じく4分の1を占めている。両国を合わせると実に全体の60%をサウジアラビアとロシアが負担しているのである。因みにOPEC6月々次レポートによればサウジアラビアとロシアの生産量が22カ国の合計生産量に占める割合は44%である(詳しくは次項参照)。このことから現在のOPEC+減産体制はサウジアラビアとロシア、特にサウジアラビア一国に強く依存していることがわかる。

 

(続く)

 

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行    〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

[1] OPECプレスリリース:

https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/7021.htm

https://www.opec.org/opec_web/static_files_project/media/downloads/Production%20table%20-%2033rd%20ONOMM.pdf 

[2] OPECプレスリリース:

https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/7120.htm 

[3] OPECプレスリリース:

https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/7160.htm

https://www.opec.org/opec_web/static_files_project/media/downloads/Production%20table%20-%2035th%20ONOMM.pdf 

 

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最近のOPEC+(プラス)目標生産量と実生産量の推移(3完)

2023-06-23 | OPECの動向

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0579OilSupplyByOpecPlusJune2023.pdf

 

2.目標生産量と実生産量の乖離(続き)

(3)目標を無視する(?)ロシアの生産量(図2-D-55参照)

 昨年10月のロシアの生産量は11,050千B/Dであり目標値11,004千B/Dとほとんど差が無い。つまりロシアはOPECプラスの決定に忠実であったことがわかる。しかし、OPECプラスが11月に▲2,000千B/D減産を決定して以降、同国の石油生産量は真逆の動きを示している。即ち、11月の実生産量は目標を742千B/D上回り11,220千B/Dを記録している。その後同国は2月に▲500千B/Dの単独自主減産を打ち出したにもかかわらず11,000千B/Dを上回る生産を続けており、3月にはついに目標値を1,122千B/Dも上回る始末である。

 

 ウクライナ紛争に伴う経済制裁により同国の欧米先進国向け輸出はほぼストップしているが、世界の大半の国はロシア原油の輸入を継続しており、中国、インドなどはむしろロシア原油を買い叩き輸入量を増やしている有様である。ロシアは戦費調達のためダンピング輸出を余儀なくされているが、現在のところ輸出先に困っているようには見えない。困惑しているのはむしろ経済制裁の効果があらわれず焦っている欧米先進国の方なのかもしれない。

 

(4)スウィングプロデューサーの役割を押し付けられたサウジアラビア(図2-D-2-51参照)

 目標生産量を達成できないアフリカ産油国と目標を無視して高レベルの生産を維持するロシアに挟まれ、結局OPECプラス20カ国の中でスウィングプロデューサーの役割を押し付けられているのがサウジアラビアである。

 

 昨年10月の同国の生産量は10,861千B/Dであり、ほぼ目標生産量11,004千B/D通りである。▲2,000千B/Dの協調減産後も目標達成率は99%程度で推移しており、▲500千B/Dの自主減産を公表した5月も実生産量は目標値と全く同じ水準に抑えている。

 

 財政に余裕があり生産量の調整が容易だからこそ心ならずもスウィングプロデューサーの役割を引き受けているのが現在のサウジアラビアの姿と言えるであろう。

 

(5)将来の増産計画を認めさせたUAE(図2-D-2-54参照)

 UAEの実生産量は目標生産量のほぼ100%である。つまりUAEはOPECの盟主サウジアラビアの方針に忠実であるように見受けられる。しかし詳細に見ると毎月の生産量が当該月の目標生産量をごくわずかながら上回っていることがわかる。

 

即ち昨年10月は目標3,179千B/Dに対し実際の生産量は3,187千B/Dであり、わずかではあるが実生産量が8千B/D上回っている。しかし11月以降目標量が3,019千B/Dに下方修正されると、実生産量も下がったものの、目標に対する超過量は2万乃至3万B/Dに拡大している。

 

これは何を意味するのであろうか。現在のUAEは増産計画に熱心であり、将来の生産能力アップをアピールしている。そのために現在の目標量を上方修正したいのである。この作戦は成功したようであり、6月のOPECプラス会合でUAEの現在の生産目標量2,875千B/Dは来年1月以降344千B/D上積みされて3,219千B/Dに見直されている。

 

(6)協調減産を免れ増産に余念がないイラン、ベネズエラ、リビア

(図2-D-2-06, 2-D-2-07及び2-D-2-08参照)

 冒頭で触れたようにOPEC加盟国13カ国のうちイラン、リビア及びベネズエラの3カ国は協調減産に参加していない。米国および一部先進国による経済制裁を受けているためである。ところがイラン及びベネズエラはOPECプラス20カ国が協調減産体制に入った昨年10月以降、逆に増産を続けており、リビアも減産傾向が見られない。

 

 イランの場合、昨年10月の生産量は2,557千B/Dであり、今年1月は2,554千B/Dであったが、4月には2,619千B/D、さらに5月には2,679千B/Dに上昇している。昨年10月に比べ生産水準は10万B/D以上アップしているのである。

 

 ベネズエラもほぼ同様の傾向を示しており、681千B/D(10月)→691千B/D(1月)→726千B/D(4月)→735千B/D(5月)であり、今年5月は昨年10月に比べ5万B/Dの増産である。リビアは政府系と反政府系軍事勢力の対立で国内情勢が不安定であるが、石油生産は昨年8月以降110万B/Dを超えて安定している。

 

 3か国はいずれも欧米先進国の輸入禁止の網の目をくぐり、中国、インドなどにダンピング輸出を行っている。OPECプラス20カ国が現在野放しの3カ国を今後どのように扱うか。深刻な問題を提起していると言えよう。

 

以上

 

 

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最近のOPEC+(プラス)目標生産量と実生産量の推移(2)

2023-06-21 | OPECの動向

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0579OilSupplyByOpecPlusJune2023.pdf

 

2.目標生産量と実生産量の乖離

 目標生産量に対し実際の生産量がどうなっているか、ここではサウジアラビア、ロシア等主要な産油国についてOPEC月次レポートにより検証してみる。なおロシアは2021年末まで同国エネルギー省が公式統計を発表していたが昨年1月以降ストップしているため、ここではOPECレポート月報に明記された今年4月までの生産量を取り上げた。

 

(1)OPEC10カ国の合計生産量(図2-D-2-50参照)

 OPECプラスの協調減産体制に組み込まれているOPEC10カ国の昨年10月以降の生産目標と実生産量を比較すると、まず昨年10月は生産目標26,689千B/Dに対し実生産量は25,154千B/Dであり、差引▲1,535千B/Dの目標未達であった。

 

翌11月からOPECプラスは▲2,000千B/Dの協調減産を実施、OPEC10カ国の生産目標量も25,416千B/Dに引き下げられたが、同月の実生産量は24,487千B/Dであり▲929千B/Dの乖離が生じている。

 

 4月にサウジアラビアなどOPEC6カ国は非OPEC2か国とともに合計▲1,157千B/Dの自主減産を公表している。しかしOPEC10か国の5月の生産量は目標24,377千B/Dに対し実際には23,482千B/Dにとどまっており、なお▲900B/D近く目標未達である。

 

 このようにOPEC10カ国で目標未達が常態化しているのは次に述べるようにアンゴラ及びナイジェリアの生産量が目標を大きく下回るレベルにとどまっているためである。

 

(2)目標を大きく下回るナイジェリア及びアンゴラの生産量(図2-D-2-52 & 2-D-2-56参照)

 昨年10月のナイジェリア及びアンゴラの生産量は1,066千B/D及び1,054千B/Dであった。同月の生産目標はそれぞれ1,826千B/D及び1,525千B/Dであり、目標未達量はナイジェリア▲760千B/D、アンゴラ▲471千B/Dに達していた。ナイジェリアの生産量は目標の6割、アンゴラは7割にとどまっていたのであり、この2か国がOPEC全体の足を引っ張っていたことになる。

 

 ナイジェリアの生産量は今年に入り2月、3月には130万B/D台後半まで回復したが、その後再び低迷、5月は1,269千B/Dに落ち込んでいる。またアンゴラの生産量は100万B/D前後に停滞したままであり、これら2カ国が目標未達の主因である。

 

 両国の生産低迷はロシアやイランのような欧米の経済制裁が原因ではなく、国内の部族対立またはイスラム過激派による石油施設の破壊、或いは石油パイプラインからの原油窃盗密売などにより原油の正常な生産輸出が妨げられると言う国内事情が原因である。事態が鎮静化しないため今後とも安定的な石油操業は期待できそうにない。

 

 このため、6月のOPECプラス会合では来年1月以降の目標生産量をナイジェリアは1,742千B/Dから1,380千B/Dに、アンゴラは1,455千B/Dから1,280千B/Dに引き下げられている。伝えられるところでは会合で両国は目標の下方修正に強く抵抗したと言われるが、現状を見る限り引き下げはやむを得ないところであろう。

 

(続く)

 

 

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最近のOPEC+(プラス)生産目標量と実生産量の推移(1)

2023-06-19 | OPECの動向

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0579OilSupplyByOpecPlusJune2023.pdf

 

サウジアラビアを中心とするOPEC加盟10カ国とロシアを中心とする非OPEC産油10カ国、いわゆるOPEC+(プラス)の20カ国は最近、頻繁に生産目標量を引き下げている。それはOPECプラス閣僚会合による一斉減産あるいは複数の国による自発的な減産であったり、時にはロシアまたはサウジアラビアによる単独自主減産など種々の形態をとっている。

 

ここでは昨年9月以降、最近の6月までの公表数値に基づき来年12月末までのOPEC+全体及び主要国の生産目標量の推移を確認する。またサウジアラビア、ロシア等の主要産油国については昨年10月から今年5月(または4月)までの実生産量と生産目標量との乖離を比較する。

 

生産目標についてはOPEC資料ではRequired ProductionあるいはVoluntary Productionと表記されているが、本稿では生産目標量とした。実生産量はOPEC月報(Monthly Report)のデータを引用している。ロシアは2022年1月以降、同国エネルギー省による公式発表がないため、OPEC月報の数値を引用した。

 

なおOPEC加盟国13カ国のうちイラン、リビア及びベネズエラ3カ国は協調減産に参加していない。いずれも米国(及び一部先進国)による経済制裁措置を受けているためである。これらの国々の生産量100万B/Dを超えている。参考までにこれら各国の実生産量と共に、OPECプラスの減産方針に大きな影響を及ぼすBrent原油の国際市場価格の動向を合わせて提示する。

 

1.昨年10月以降の生産目標の推移(表1-D-2-36参照)

 昨年10月の閣僚会合でOPECプラスは▲200万B/Dの協調減産を決定した。この結果11月以降の目標生産量は41,856千B/D(OPEC10カ国 25,416千B/D、非OPEC10カ国16,440千B/D)となった。サウジアラビア及びロシアは共に10,478千B/Dで全体の丁度半分を占めている。

 

 その後今年2月にロシアは自主的に▲500千B/Dの減産を表明した。ウクライナ紛争で欧米各国の輸入制限を受けたこともあり原油価格の上昇を狙ったものと見られる。4月2日にはOPEC6カ国と非OPEC2か国がロシアに追随する形で▲1,157千B/D(内、サウジアラビア▲500千B/D)の自主減産を公表、5月以降のOPECプラス20か国の生産量は40,199千B/D(OPEC10カ国 24,377千B/D、非OPEC10カ国15,822千B/D)になった。

 

 6月14日のOPECプラス閣僚会合ではこの協調減産体制を来年末まで継続することが確認されたが、その際、来年1月以降については現在の実生産量を考慮して各国の生産目標を微調整し、OPEC+全体としては現在よりも385千B/D多い40,584千B/D(OPEC10カ国 24,994千B/D、非OPEC10カ国15,590千B/D)とされた。なおサウジアラビアは今年7月のみ▲1,000千B/Dの追加減産を表明している。

 

 これらの結果を総合すると、OPEC10カ国の目標生産量は昨年10月以前の26,689千B/Dから今年5月以降は24,377千B/Dに▲9%弱減少していることになる(7月のみはサウジアラビアの1,000千B/D自主減産により▲12%減)。また非OPEC10カ国の減産率は▲8%弱となる。因みにサウジアラビアとロシアの今年8月以降12月までの目標生産量は共に9,978千B/Dであるが、来年1月以降はサウジアラビアは昨年11月~今年4月までの水準(10,478千B/D)に復帰する一方、ロシアは9,949千B/Dとこれまででもっとも低い水準に落ち込み、サウジの目標生産量と500千B/D近い差が生じることとなった。

 

(続く)

 

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

      前田 高行      〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                      Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                      E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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OPEC+(プラス)産油国の生産動向から見た世界の石油需給の現状と見通し(下)

2022-09-10 | OPECの動向

(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で上下一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0567OilSupplyDemandSep2022.pdf

 

4.消費国の動向(米/日/EU/中国/インド)

 米国は世界最大の石油(及び天然ガス)生産国であると同時に消費国であり、エネルギーの完全自給体制を樹立している[1]。従ってほぼ完全な消費国と言えるEU或いは日本と米国を同列に論じることはできない。米国はEU、日本に対して液化天然ガス(LNG)を輸出している。またExxonMobilの4-6月四半期の利益は179億ドルに達し、これは出光興産の売上高を上回るほどである[2]。米国内にはエネルギー問題は無いと言えよう。ただ同国では一般消費者が石油価格に敏感である。バイデン大統領がサウジアラビアに乗り込み原油増産を要請したが、これは秋の中間選挙を控えたスタンドプレーと言えよう。原油価格高騰にもかかわらず米国内のシェール石油生産業者に増産気配は見えない。ロシア、イラン、ベネズエラに対する経済制裁で世界的に石油の供給がタイトになってもほとんど痛みを感じないのが今の米国である。

(2019年1月以降の米国石油生産推移図2-D-2-15参照)

 

 日本は石油を100%輸入に頼っているが、米国追随外交を強いられイランに次いでロシアからの原油輸入もストップしている。代替できるのは中東湾岸諸国だけである。その結果、7月の国別輸入シェアはUAE42%、サウジ35%はじめGCCが98%を占める状況である。幸い天然ガスについては長期契約がほとんどで当面供給不足の恐れはなさそうである。問題はエネルギー価格の上昇と為替円安により貿易収支が極めて厳しくなっていることである。

 

 日本に比べEUは深刻である。ロシアのウクライナ侵攻に抗議して露原油の輸入を年内でストップすると宣言した。本当は天然ガス輸入もストップしたいところであるが、ロシアに頼り切っていたEUは返り血を浴びる。ロシアはEUの窮地を見透かすようにNordstreamパイプラインの全面停止をちらつかせている。LNG輸入設備が比較的少ないEUではLNGには簡単に手が出ない。アルジェリア、リビアなど北アフリカ諸国と地中海海底パイプラインによる増量を画策しているが、仏とアルジェエリアは植民地時代のわだかまりが解けず、リビアは内戦状態である。EUはLNG輸入の拡大に踏み出し、これまで縁遠かった中東湾岸諸国に急接近している。環境問題に深入りし率先して脱炭化水素、再生可能エネルギー推進を進めようとしたために当面の石油・天然ガス争奪戦に明らかに乗り遅れている。

 

 間隙を縫ってしたたかに動いているのがエネルギー消費量世界2位の中国と同4位のインドである(因みに1位米国、3位ロシア)。両国は米欧日が提唱するロシアボイコットには加わらず、輸出先に苦しむロシアの足元を見て原油を買い叩いている。インドが35ドル値引きで購入したと言うニュースが流れ[3]、或いは中国の原油輸入相手国は5-7月の3か月連続でロシアがトップと報じられている[4]

 

5.今後の動向を占う

 以上述べた如く石油・天然ガスの需給は変動要因が多く、また揺れ幅も小さくない。消費国が今後とも米国主導で国際協調できるかは疑わしい。一方生産国側を見てもOPEC+が一枚岩であり続けるかはわからない。最大の不確定要因はウクライナ戦争の推移である。

 

 ロシアがウクライナから簡単に撤退するとはだれも考えていないであろう。燃料と穀物と言う二大資源を有するロシアは非常時の耐性(レジリエンス)が高い。ウクライナは欧米の軍事支援でようやく持ちこたえているが、EUには援助疲れの気配がある。この上、ロシアからの天然ガスが止まれば(たとえ巨額の国費を注ぎ込んで代替供給源を確保したとしても)一般市民の不満は大きくなるであろうことは間違いない。NATOに加盟していないウクライナの「自由と民主主義」を守るために独仏の市民がいつまでも我慢できるとは思えない。

 

 これに対してロシアは戦略的には有利な立場にある。それはプーチン大統領が圧倒的な権力を持っているためである。ロシアは当面OPEC+のイニシアティブを握り続ける。サウジアラビアの支配者(サウド家)はバイデン政権の庇護が期待できないため、ロシアに引きずられるであろう。その方が原油価格を高値に誘導できるからである。

 

 中国とインドは欧米、ロシアのいずれを支持するか明確にしないまま、ロシアの石油・天然ガスを安値ダンピングで調達し、経済回復を目指すことになる。

 

こうして米、EU、日本の先進国グループと、ロシア、インド、サウジアラビア、中国(RISC)グループの二大グループによるしのぎ合いになる、と言うのが筆者の見立てである。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行        〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

[1] 拙稿「bpエネルギー統計2022年版解説シリーズ」参照。

[2]1-D-4-26「国際石油企業(IOCs), ARAMCO, ENEOS & 出光興産の四半期業績比較(2022年4-6月)」参照

[3] 例えば2022/3/31 Arab News ‘India bought Russian oil at a discount of $35 per barrel: Bloomberg’

https://www.arabnews.com/node/2054236/business-economy

[4] Russia continues to be China’s top oil supplier for 3rd month; Saudi Arabia trails behind

https://www.arabnews.com/node/2147056/business-economy

2022/8/21 Arab News

 

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OPEC+産油国の生産動向から見た世界の石油需給の現状と見通し(上)

2022-09-08 | OPECの動向

(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で上下一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0567OilSupplyDemandSep2022.pdf

 

1. OPEC+会合の決定

9月5日、サウジなどOPEC10カ国とロシアを含む非OPEC10カ国(いわゆるOPEC+、プラス)は10月の目標生産量を10万B/D減産することを決定した[1](注、OPEC加盟13か国のうち、イラン、リビア、ベネズエラは対象外)。OPEC+は2020年に950万B/Dの大幅減産を決定、その後減産緩和(増産)に転じ、今年8月までに2020年以前の生産水準に戻している。しかし価格は依然高水準にとどまり、インフレを恐れた米国は6月に大統領がサウジを訪問、増産を強要している。

 

 8月のOPEC+会合は9月に10万B/D追加増産を決めたが、これは全世界の消費量約1億バレル/日の0.1%にとどまり、米国に義理立てしただけで市場への影響力はなかった。逆に世界各国のインフレ、中国のコロナ対策ロックダウンにより、9月7日現在ブレント原油価格は90ドル切れ目前である。石油収入に大きく依存しているロシアはウクライナ戦争の戦費調達のためにも石油を高値に維持することが不可欠である。サウジは今度はロシアに義理立てをして10万B/Dの増産に合意した。つまり10万B/D増産はわずか1カ月で反故にされたのであった。

 

 現在OPEC+が20カ国に示している目標生産量(Required Production)は43,854千B/Dであり、内訳はサウジとロシアが同じ11,004B/D、イラク4,651千B/D、UAE3,179千B/Dなどである(詳細は別表1-D-2-36参照)。

 

2. 広がる目標生産量と実生産量の格差(サウジ/UAE/イラク/ナイジェリア)

 このうちOPEC10カ国についてOPEC月次レポートにより目標生産量と実生産量を比較すると、昨年11月は目標生産量2,405万B/Dに対し実生産量は2,345万B/Dで60万B/Dが未達成であった。OPEC+は会議の都度目標達成を各国に促したが、むしろギャップは大きくなる一方であり、7月時点では目標生産量2,628万B/Dに対し実生産量は123万B/Dも少ない2,505万B/Dにとどまっている(図2-D-2-30参照)。

 

 

 これを国別に見ると、UAEは目標を100%達成、サウジも目標をわずかに下回る生産量であった。またサウジに次ぐOPEC第2位の生産国イラクは2020年夏以降着実に生産を増やしている。これに対しナイジェリアとアンゴラは目標を大幅に下回っている状況である。ナイジェリアは国内情勢が不安定でここ数年生産減退がはなはだしく7月は目標1,826千B/Dに対し実績1,183千B/Dで▲616千B/Dが未達である。

*UAE、サウジ、イラク、ナイジェリアの2019年1月以降の生産推移図:2-D-2-112-D-2-052-D-2-092-D-2-10参照。

 

3. 経済制裁・内戦で生産が減少している産油国(ロシア/イラン/ベネズエラ)

OPEC+関係国の中には欧米の経済制裁で輸出が制限され、或いは内戦により生産が不安定な国がある。ロシア、イラン、ベネズエラ(以上経済制裁)及びリビア、ナイジェリア、アンゴラ、コンゴ(以上内戦)の各国である。

 

ロシアについては今年1月以降、生産実績が公表されていない[2]。またウクライナ侵攻後の経済制裁により欧州向け輸出が停止した後は、インド、中国への輸出が増加し、生産量は大きく減少していないとの報道もあるが真相は不明である(2019年1月~2021年生産推移図2-D-2-20参照)。

 

イランはかつてイラクと並ぶ400万B/Dの生産量であったが、経済制裁の結果、現在は250万B/D程度にとどまっている。ベネズエラもイランと同様かつては300万B/Dの生産量であったが、左派政権の失政と米国の制裁が重なり、現在の生産水準は70万B/Dまで落ち込んでいる。リビア及びナイジェリアは内戦により生産水準が急激に落ち込んでいる。

(イラン、ベネズエラの2019年1月以降の生産推移図:2-D-2-062-D-2-07参照)。

 

(続く)

 

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        前田 高行        〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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[1] OPEC Press Release: https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/7002.htm

[2] https://minenergo.gov.ru/en/activity/statistic参照

 

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ロシアの天然ガスはどこに流れ、エネルギー価格はどうなるのか?(下)

2022-03-09 | OPECの動向

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

0556GasFromRussia.pdf (maeda1.jp)

4.今後の石油・天然ガス市場の動向

 天然ガスを軸としたロシアと欧州諸国の相互依存関係は非常に大きい。ロシアはパイプラインとLNGを合わせた輸出の8割を欧州に依存し、一方、欧州諸国は必要とする天然ガスの3分の1をロシアからの輸入に依存している。比率を見る限りロシアは欧州への依存率が高い。これに対して欧州は域内の生産量がかなりあり、また米国、カタールなどロシア以外からのLNG輸入を拡大しているため、ロシアへの依存度はさほど高くない。(今回の問題がなければ、Nordstream2や北極圏ヤマル・プロジェクトなどロシアからの輸入が増加し、欧州のロシア輸入依存度はさらに高くなることは間違いないであろうが。)

 但し現状で見ても8割と3分の1というそれぞれの依存度は決して小さくはない。因みに同じbp資料によれば、ロシアの石油輸出の53%は欧州向けである。今回のロシアのウクライナ侵攻により仮に石油・天然ガス貿易が中断すれば双方とも大きな犠牲を強いられるであろう。現実に民間企業ベースではShell、bp、エクソンモービルなどが早々とロシアからの撤退を表明している。

 

一方で欧米政府はロシアの大手銀行を国際決済制度(SWIFT)から排除したが、最大手のズベルバンクやガスプロム系のグループ銀行を残したことはドイツなど西欧諸国のジレンマと言えよう。またOPEC+(プラス)でロシアはサウジアラビアと共にリーダーであるが、このことがエネルギー価格の高値継続に結び付くと考えられる。最近の価格高騰に対して、米国、IEAなどは産油国に増産を促してきたが、ロシアにとって増産は敵に塩を送るだけで得るものは何もない。そしてサウジアラビアはこれまで米国や欧州諸国に配慮してOPEC+内部で増産幅の拡大(または減産幅の縮小)の音頭を取ってきたが、OPEC+の結束を維持するためには現在のところロシアに歩み寄る以外に手は無いはずである。3月2日のOPEC+閣僚会議(リモート方式)で40万B/Dの追加増産という従来方針継続にとどまったことでもそのことは明白である。高騰するエネルギー価格を冷やすために蛮勇を振るうことができる者が誰もいないのが現状である。

 

以上

 

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