石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(ニュース解説)OPEC、緊急会合で120万B/D減産―五つの疑問(最終回)

2006-11-19 | OPECの動向

(これまでの内容)

(第1回) 緊急会合の合意内容といくつかの疑問点

(第2回) 疑問1:何故緊急会合が必要だったのか?

(第3回) 疑問2:何故「生産枠の縮小」ではなく、「生産量の削減」としたのか?

(第4回) 疑問3:何故削減量を120万B/Dに決めたのか?

(第5回) 疑問4:どのような根拠で各国の削減量を決めたのか?

(最終回) 疑問5:今後の石油価格はどうなるのか? 

  WTI原油は7月中旬の1バレル78ドルの史上最高値をピークとして下げ足を強めたが、OPECの9月11日の定期会合では1年以上前に決めた2,800万B/Dの生産枠に手を付けず、次の12月の定期会合まで様子を見る姿勢を示した。しかしその後も価格は続落し10月初めには60ドル台を切ったため、やむなく生産削減のための緊急会合を開催することとなった。

  当初、100万B/D程度の削減が取り沙汰されたが、市場関係者は価格を回復させるにはそれでは不十分だと見ていた。また従来のような各国の生産枠を削減する方式では、一部加盟国が協定を破り、実効性に欠しいのではないか、との声も強かった。消費国はOPECを信頼していないのである。

 これに対してOPECは10月19日の臨時会合で、削減量を120万B/Dとし、しかも各国に対する個別具体的な削減量を決定した。この決定は、加盟各国が結束して価格下落を防ぐ大幅な生産カットを行う、と言うOPECの強いメッセージであった。OPECでは、これにより原油のOPECバスケット価格を55ドル(WTI価格に換算すれば60ドル前後)以上に維持できる、と目論んだのである。

 しかしその後も原油相場は弱含みのまま推移している。専門家はその理由を、米国の景気にかげりが見え、また今年が暖冬の見通しであることをあげている。さらに米国の中間選挙でブッシュ共和党政権が敗れたことも価格下落に拍車をかけ、ついに11月16日のWTI原油価格は55.81ドルと17ヶ月ぶりの安値を記録した 。

 このため市場関係者はもとよりOPEC内部にも、もう一段の削減が避けられない、との認識が固まりつつある。OPECの11月月例レポートは、先進工業国の原油在庫レベルが1998年11月以来の高水準にあり、米国の燃料油在庫も1年前に比べ15%高いため、OPECが現在の生産を継続すれば、消費国の在庫水準はさらに上がるであろう、と警告している 。これはOPEC自身が更なる生産削減の必要性を認めたものと言えよう。

 2000年以降のOPEC会合における生産枠の増加或いは減少の回数とその量を検証すると、2000年には3回連続して増枠(合計増産量360万B/D)した後、2001年から2002年初めにかけては一転して4回連続して500万B/Dの大幅な減産を行っている。そして2003年中に3回にわたり370万B/Dの増産を決議し、同年末から2004年央には2度にわたって190万B/Dを減産、次いで2004年4月からは5回連続して増産(合計増産量450万B/D)して、2005年7月には28百万B/Dと言う史上最高の生産枠に達したのである。

 上記でわかる通りOPECは増産、減産いずれの場合も複数回の決議を重ねているのである。従って今回の減産も先月の1回の決議にとどまらず、今後2回あるいはそれ以上の頻度で減産を決議する可能性が高いのである。即ち次回12月の定期会合で再度減産を決議し、それでも価格が下落する場合は、来年以降さらなる減産に踏み切る可能性は否定できない。

 次回のOPEC会合は12月14日にナイジェリアのアブジャで開催される。新聞報道によればOPECは、この会合で50万B/Dの追加減産を決議することにより、WTI原油の価格を55-60ドルの範囲に維持することを目指す意向のようである。これは10月の臨時会合の際に目標とした60ドルを更に下回る目標設定であり、OPECが弱気になっている証拠である。このような状況下では、投機筋がさらに売り浴びせ、原油価格はずるずると下落する恐れが無い、とは言えない。もし投機資金の一部に産油国の余剰オイル・マネーが介在しているとすれば(産油国の民間部門に流れ込んだオイル・マネーがそれである可能性は否定できない)、産油国は自らの首を絞めている、とすら言えるのではないだろうか。

(完)

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(ニュース解説)OPEC、緊急会合で120万B/D減産―五つの疑問(5)

2006-11-12 | 今週のエネルギー関連新聞発表

(これまでの内容)

(第1回) 緊急会合の合意内容といくつかの疑問点

(第2回) 疑問1:何故緊急会合が必要だったのか?

(第3回) 疑問2:何故「生産枠の縮小」ではなく、「生産量の削減」としたのか?

(第4回) 疑問3:何故削減量を120万B/Dに決めたのか?

 

(第5回) 疑問4:どのような根拠で各国の削減量を決めたのか?

  10月20日にOPECは11月1日から生産量を120万B/D削減すると発表したが、それは当初予想された100万B/Dを大幅に上回り世界を驚かせた。OPEC事務局のプレスリリースによれば、各国の削減量は以下の通りである。(単位は千B/D)

  サウジアラビア(380)、イラン(176)、ベネズエラ(138)、UAE(101)、クウェイト、ナイジェリア(各100)、リビア(72)、アルジェリア(59)、インドネシア(39)、カタル(35)

 サウジアラビアとイランの2カ国で全体の削減量120万B/Dのほぼ半分を負担する形となっている。120万B/DはOPECの生産枠(2,800万B/D)或いは9月の生産量(2,760万B/D、OPEC10月々例報告による)の4.3%に相当する。それでは各国の削減量はどのようにして合意されたのであろうか。結論を先に述べれば、各国の生産枠ではなく、9月の実際の生産量に基づいて決定されたものと考えられるのである。

 そもそもOPECが最初に国別生産枠(Quota)を決めたのは1982年のことであるが、それまではOPEC最大の生産国であるサウジアラビアが、いわゆる「スウィング・プロデューサー」として自ら需給調整の役割を果たしていた。しかし第二次オイル・ショック(1978年)以降の石油の需要減退と価格低下に耐え切れずサウジアラビアはスイング・プロデューサーの役割を放棄した。この結果、OPECは国別生産枠方式を導入したのである。その後、イラン・イラク戦争(1980~88年)、湾岸戦争(1990~01年)、イラクに対する経済制裁などにより一部加盟国が生産を停止または減産した時には、実情に応じてその他加盟国の生産枠の見直しを柔軟に行ってきた。

 しかしイラクが生産枠の対象から除外された後(1998年)、2000年6月から現在の生産枠2,800万B/Dが決定された昨年6月の会合まで、各国の生産割当は同じ比率で増加または減少されている。これは各国の利害の対立を最小限に抑えるための妥協の産物であろう。なぜなら、価格が上昇傾向にある場合、各国はできるだけ増産して石油収入を拡大したいと考えるであろうし、一方価格が下落しOPECとして価格を維持或いは反転させるために生産枠を減少させようとする場合は逆に、各国は石油収入の減少をおさえるため、自国の減産枠をできるだけ少なくしたい、と考え、加盟国の利害が対立するからである。

 生産枠のシェアが固定された結果、現在では各国の生産枠と実際の生産量とが乖離したものとなっている。例えばOPEC全体の9月の生産量は2,760万B/Dであり、生産枠(2,800万B/D)とほぼ同じ数量であるものの、各国の生産量を見ると、アルジェリアが生産枠の1.5倍に達している一方、インドネシアやベネズエラが生産枠を大幅に下回ると言う、いびつな状況になっているのである(詳しくは第3回参照)。これは言い換えると、OPEC加盟国間の生産枠のシェアは2000年以降変化していないにもかかわらず、実際の市場シェアは変動していると言うことである。現在のところアルジェリアは市場シェアを高め、インドネシアやベネズエラは市場シェアを落としている。

 このため臨時会合で全体の削減量を120万B/Dとすることは合意しても、各国別の割り振りを従来どおり生産枠のシェアとするか、或いは実際の市場シェアとするかが問題となった。大幅削減という「総論」は賛成でも、国別の削減量という「各論」になると、各国の利害が対立し容易に結論がでないのである。結局、今回の臨時会合では生産枠と市場シェアの議論を横に置いて、国別の削減量のみを決定する、という形で議論の矛を納めた模様である。しかし実際には市場シェアをベースに国別の削減量を決めたと思われる。削減量120万B/Dは9月生産量の△4.3%であるが(上述)、各国毎の削減比率も以下のようにほぼ生産量に比例していることからそのことが理解できるのである。

 アルジェリア(△4.3%)、インドネシア(△4.4%)、イラン(△4.5%)、クウェイト(△4.0%)、リビア(△4.2%)、ナイジェリア(△4.5%)、カタル(△4.2%)、サウジアラビア(△4.2%)、UAE(△3.9%)、ベネズエラ(△5.4%)

 これを見るとベネズエラが最も大きな犠牲を払っており、またナイジェリア及びイランが平均(△4.3%)を上回る削減率を受け入れている。ナイジェリアとベネズエラ両国は、今回の臨時会合を最も熱心に呼びかけたこともあり、他国を上回る削減率を受け入れたものと思われる(因みにナイジェリアはOPECの議長国である)。ただ生産枠をベースとした削減を主張していたベネズエラにとっては、138千B/Dと言う今回の削減は痛手であろう。その一方、アルジェリアは生産量が生産枠を大幅に上回っているにもかかわらず、他国並みの削減率となり、「漁夫の利」を占めた形である。

(第5回 完)

(今後の予定)

6.疑問5:今後のOPECと世界の石油市場はどうなるのか?

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(ニュース解説)OPEC、緊急会合で120万B/D減産―五つの疑問(4)

2006-11-07 | 今週のエネルギー関連新聞発表

(これまでの内容)

(第1回) 緊急会合の合意内容といくつかの疑問点

(第2回) 疑問1:何故緊急会合が必要だったのか?

(第3回) 疑問2:何故「生産枠の縮小」ではなく、「生産量の削減」としたのか?

 

4.疑問3:何故削減量を120万B/Dに決めたのか?

 米国の原油先物取引市場NYMEXの代表的な油種であるWTI(West Texas Intermediate)の価格は、7月中旬に1バレル78ドルの史上最高値をつけたが、10月初めには25%も下落し、60ドル台を切った。OPEC各国は生産を削減すべき状況であると認めざるを得なかったようである。9月11日の定期会合で生産枠の維持を決めたばかりであり、見直しは次回12月の定期会合に行う予定であったが、原油価格は日を追うごとに下がり続けた。このためOPEC内の強硬派であるナイジェリアとベネズエラは、臨時会合を開いて直ちに生産を削減すべきである、と主張したのである。

 生産削減が必要なことを加盟各国に説得し、臨時会合の開催を根回ししたのは、OPEC議長であるダウコル・ナイジェリア石油相であった。そして10月12日のAFPのインタビューで、彼は全ての加盟国が100万B/Dの削減に同意した、と答えている 。こうして19日の臨時会合が開かれる直前には、削減幅100万B/DがOPECのコンセンサスである、との報道が流れた。専門家の中には、既にOPECの実際の生産量が生産枠を下回っていることを理由に、100万B/Dの削減では価格が上昇に転ずることは難しいのではないか、と言う意見もあった。しかし米国や中国などの消費国の需要が衰えを見せず、また北半球が冬場の需要期に向かうことを考えると、100万B/Dの減産で価格が回復するであろう、との見方が一般的であった。

 ところが緊急会合では120万B/Dの削減が決定された。これは当初の予想を2割も上回るものであり、驚きをもって報道された 。クウェイトのジャラーハ石油相は、記者団に対して、タカ派の加盟国は100万B/Dの削減では不十分だと考えており、クウェイトも同じ見解である、と述べた。また会議出席者の1人は、OPECバスケット価格を55ドル以上に維持することが必要である、と語った。OPECバスケット価格はWTI価格よりほぼ6ドル程度低いことから、この発言はWTI価格が60ドル以上であることが望ましい、とするOPECの意向を示したものと考えられる 。

 120万B/Dと言う予想を上回る削減幅となった理由については、過去のOPEC会合における生産枠の増減幅がどのようなものであったかを検証することが参考になる。1982年にOPECが始めて各国別の生産枠を決めて以来、これまでに生産枠の増減が決議されたのは33回である。このうち増産を決議したのは21回であり、減産決議は12回であった。1982年3月に決定された最初の生産枠は1,715万B/Dであり、昨年7月には2,800万B/Dと言うOPEC史上最高の生産枠となっている。従って増産決議が減産決議の回数を上回るのはある意味で当然であるが、増産決議の回数が減産決議のほぼ2倍であることに注目すべきであろう。

 この事実は、OPEC総会において増産を決議する場合は小幅で段階的に引き上げ、一方、減産を決議する場合は一挙に大幅な引き下げを行っていることを示している。実際、12回の減産決議の内容を見ると、そのうち7回の減産幅は100万B/D以上である。因みに100万B/D以上の増産を決議した回数は21回中、7回にすぎない。このことからOPECは、増産は小刻みに、そして減産は大胆に行っていることがわかる。今回も減産幅が当初の予想を上回る120万B/Dとなったことは、OPEC加盟国の間で過去と同様の心理が働いたものと推測される。それでは何故このような心理が働くのであろうか。それは恐らくOPECが「生産者カルテル」であると言う理由によるものと考えられる。

 つまりOPECは原油価格の上昇局面では、更なる高値を期待して売り惜しみ(即ち小刻みな増産)の心理が働く一方、価格の下降局面では、更なる下落即ち価格の崩落に対する恐怖心が首をもたげ、大幅な減産によって価格の下落を食い止めたい、とする集団心理が働くためであろう。これはOPECに限ったことではなく、全ての「生産者カルテル」に共通した傾向ではないかと思われる。

 緊急会合後の各国のコメントを見ると、OPEC各国は予想を上回る減産決議を行ったにもかかわらず、価格の更なる下落に対する恐れを払拭できないようである。出席者の1人は、目前の12月の会合で更に50万B/Dを削減する可能性を示唆し、OPECの重鎮、サウジアラビアのナイミ石油相も、これが終わりではない、と言う意味深長な発言をしている 。そこには、現在以上の価格下落を何としても防ぎたい、とするOPEC諸国の悲痛な思いが垣間見えるのである。

(第4回 完)

(今後の予定)

5.疑問4:どのような根拠で各国の削減量を決めたのか?

6.疑問5:今後のOPECと世界の石油市場はどうなるのか?

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