石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

ニュースピックアップ:世界のメディアから(8月31日)

2016-08-31 | 今日のニュース

・イラン、9月から外国企業との石油開発契約交渉開始。トップは南アザデガン油田 10/14-21に入札予定

・メキシコ湾荒れ模様、OPECアルジェ会合期待で原油価格上昇。Brent $49.58, WTI $47.37

・Wood Mackenzie:2015年の原油発見量27億バレル。1947年以来の低水準

 

 

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見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(35)

2016-08-31 | 中東諸国の動向
第4章:中東の戦争と平和
 
7.イラン・イラク戦争:産油国と米国が味方のイラクと孤立無援のイラン
 アフガニスタンのイスラーム勢力(ムジャヒディン)はソビエトを後ろ盾とする共産主義中央政府を相手に一神論と無神論をかけた戦いを有利に展開した。そしてイランでは僧職者とバザール商人のイスラーム連合勢力がシャー(皇帝)の推進する西欧流「白色革命」を打破してイスラーム革命を成し遂げた。イスラーム復興の動きはアフガニスタンに始まり西の隣国イランに及んだ。
 
 イラン・イスラム共和国の最高指導者ホメイニ師はその動きをさらに西隣のアラブ諸国に向けた。彼はペルシャ湾を挟んだサウジアラビアなど湾岸各国のムスリムたちに君主制国家の打倒を呼びかけた。曰く、サウジアラビアのサウド家はイスラームの聖地マッカ、マディナを私物化し、さらに石油の富を自分たちだけで独占している。彼らはアラーにとって許されざる存在であり、ムスリムは王制打倒に立ち上がるべきだと説いた。ホメイニ師はさらに世俗国家イラクの市民に対しても独裁者フセインはイスラームの教えを忘れアラーに背いているとして反抗をそそのかした。ペルシャ湾沿岸やイラク南部には多くのシーア派の住民がおり、バハレーンはシーア派が国民の多数を占めているほどである。スンニ派が支配するイラクも実はシーア派が多数である。ホメイニ師はこれらシーア派住民に体制打倒を呼びかけたのである。そしてホメイニ師がさらに西の先に打倒を目指すのがイスラエルである。彼は「イスラエルを地中海に追い落とせ」とイスラーム諸国全体に呼びかける。
 
 イラクや湾岸王制国家の為政者たちはホメイニの獅子吼に震え上がった。サウジアラビアではイラン革命の年の11月、聖地マッカでマハディ(救世主)を名乗る男がカーバ神殿を占拠する事件が発生した。為政者たちはシーア派住民の締め付けを強化した。イスラームの歴史上、シーア派とスンニ派の対立が表面化したのはイスラーム帝国建国の初期以来のことである。キリスト教では対立する宗派間で教義論争が繰り広げられ、それが武力衝突に発展することは少なくなかったが、イスラーム社会では概して宗派の違いに寛容でお互いに干渉しない不文律があった。しかしイラン革命により、イスラーム社会にスンニ派対シーア派という新たな対立軸が生まれたのである。
 
 この対立を権力基盤拡大の好機と見たのがイラクのフセイン大統領であった。彼はイランに宣戦布告することにした。独裁者が国内問題から国民の目をそらせるために外国と戦争することはよくあることであり、フセイン大統領の意図もそこにあった。しかしそれ以上に彼を戦争に駆り立てたのはイランと戦争すればいくつかの外国勢力が彼に加担すると見込んだからである。彼は対イラン戦争をペルシャ人対アラブ人、シーア派対スンニ派の戦いに仕立て上げたのである。
 
 国内に多数のシーア派住民を抱えるクウェイト、サウジアラビアはひ弱で、大国イランを相手に自ら戦争の表舞台に立つことはできない。フセインはイラクが両国に代わってイランと戦うので戦費を負担せよと迫った。豊かな産油国であるクウェイト、サウジアラビアにすればカネで済むのであればむしろありがたい。彼らは進んで戦費を負担した。さらにフセインはシャー体制の転覆、テヘランの米大使館占拠事件などにより米国に反イラン感情が高まっていることも見逃さなかった。米国がイラクの独裁政権を表立って支援するとは思えないが、もしイラクがイランと開戦すれば米国がイラクの肩を持つことはほぼ間違いなかった。そして実際に戦争がはじまると米国どころかソ連もイラクを支援したのであった。
 
 1980年9月にイラクの奇襲作戦によりイラン・イラク戦争は始まった。緒戦は近代装備に優れたイラク軍がイラン領土内に攻め込んだ。しかしイラン側の抵抗も激しかった。イスラム革命を経験したばかりのイラン人義勇兵の戦意は高く、死をもいとわず勇猛果敢に戦った。恐れをなしたのはイラク側である。イラン兵は倒れても倒れても雲霞の如く戦場に現れる。なにしろイランの人口は8千万人であり義勇兵の補充に事欠かない。イラク兵は戦意を喪失した。こうして戦況は翌年5月には膠着状態に陥ったのである。ペルシャ人対アラブ人、シーア派対スンニ派のイラン・イラク戦争は消耗戦争の様相を呈した。
 
 (続く)
 
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 荒葉一也
 E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp
 Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
 
 
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天然ガスは目先買い手市場に:BPエネルギー統計2016年版解説シリーズ(天然ガス篇16)

2016-08-30 | BP統計

(3) LNG貿易

(LNG輸入大国は日本、輸出大国はカタール!)

(3-1) 2015年のLNG貿易

(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/2-4-G02.pdf 参照)

 2015年の全世界のLNG輸出入量は3,383億㎥であった。輸入を国別でみると最も多いのは日本の1,180億㎥であり輸入全体の35%を占めており、第2位韓国の434億㎥(シェア13%)の2.7倍である。因みに両国だけで世界のLNG輸入量の5割近くに達する。第3位及び第4位は中国、インドでその輸入量は各々262億㎥及び217億㎥、第5位は台湾(187億㎥)とアジア、特に極東の国々が上位を占めておりこれら5カ国のシェアを合計すると7割弱である。これらアジアの国々に次ぐのは英国(125億㎥)、スペイン(115億㎥)である。

 

 一方国別輸出量ではカタールが最も多い1,064億㎥であり、世界の総輸出量の32%を占めている。カタールに次いで輸出量が多いのはオーストラリア(398億㎥)およびマレーシア(342億㎥)であるが、カタールの3分の1の規模である。第4位以下はナイジェリア(275億㎥)、インドネシア(219億㎥)、トリニダード・トバゴ(170億㎥)、アルジェリア(162㎥)、ロシア(145億㎥)、オマーン(102㎥)と続いている。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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天然ガスは目先買い手市場に:BPエネルギー統計2016年版解説シリーズ(天然ガス篇15)

2016-08-29 | BP統計

(2000年以降の天然ガス貿易の年平均伸び率は4.7%!)

(2)天然ガスの貿易量(2000年~2015年)

(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/2-4-G01.pdf 参照)

 2015年の世界の天然ガス貿易の総量は1兆420億立法メートル(以下㎥)であり、内訳はパイプラインによるものが7,040億㎥、LNGとして取引されたものは3,380億㎥であった。パイプライン貿易が全体の3分の2を占めており、LNG貿易は3分の1である。天然ガス貿易に関与している国の数はパイプライン及びLNGを合わせ延べ50か国以上にのぼる。これらの国の中には日本のようにパイプラインによる輸入がなく全てLNG輸入に依存している国がある一方、カザフスタンのようにパイプラインによるガス輸出のみを行っている国、更には米国とカナダのようにパイプラインで相互に輸出と輸入を行っている国、あるいはカタールのようにLNG輸出から始まり今や近隣国にパイプラインによるガス輸出も行っているなど様々な形態があり、天然ガス貿易は多様化している。

 

 2000年以降の天然ガスの貿易量を見ると、2000年に5千億㎥を突破した後ほぼ2年毎に1,000億㎥ずつと言う高い伸びを示し、2011年には1兆㎥を超えている。同以降は伸びが鈍化し、2014年には1兆㎥を割ったが、2015年には再び1兆㎥を超えた。この間の年平均増加率は4.7%である。貿易に占めるパイプラインとLNGの比率は2000年にはパイプライン74%、LNG26%であったが、その後LNGの比率が徐々に増加、2010年には30%を超え、2015年はパイプライン67%、LNG33%となっている。

 

 2000年と2015年を比較するとパイプラインによる貿易量の伸びが1.8倍であったのに対してLNGの伸び率は2.5倍である。LNGは最近の伸びが特に著しく2010年には対前年比24%という高い増加率を示している。天然ガス貿易はパイプライン或いはLNG設備が完成すれば貿易量が飛躍的に伸びるという特性があるが、LNG貿易はカタールの能力増強やロシア(極東)、豪州等の設備新設により供給力が増加したことが貿易量の増大につながっている。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

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天然ガスは目先買い手市場に:BPエネルギー統計2016年版解説シリーズ(天然ガス篇14)

2016-08-28 | BP統計

4.世界の天然ガス貿易

(天然ガス貿易にはパイプラインとLNGの二つのタイプがある!)

(1)はじめに:天然ガス貿易の二つのタイプ

 天然ガスは石油と異なり大気中に拡散することを防ぐため密閉状態で搬送しなければならない。この場合輸送方法によりパイプラインで気体状のまま搬送する方法若しくは液化して特殊な船(LNGタンカー)や運搬車で搬送する二種類がある。パイプライン方式は常温で気体状のガスを生産地と消費地をパイプで直結して搬送するものであり、LNG方式は生産地で極低温で液化したガスを密閉容器で消費地に搬送するタイプである。

 

 パイプラインによる貿易は古くから行われている。但しパイプラインを敷設するためには生産地と消費地が陸続きであるか比較的浅い海底(又は湖底)であることが条件である。パイプラインによる天然ガス貿易が広く普及しているのが北米大陸の米国・カナダ間の貿易である。ヨーロッパ大陸でもオランダ産の天然ガスを各国に輸出するための天然ガスパイプライン網が発達し、同国の生産が衰退するに従い新たな供給地としてロシア及び中央アジア諸国とのパイプラインが敷設され、或いは地中海を隔てた北アフリカとの間で海底パイプラインが敷設され、現在ではこれらのパイプラインが欧州・ユーラシア地区における天然ガス貿易の中心を成している。

 

 これに対して天然ガスの生産地と消費地が離れており、しかもその間に深海の大洋がある場合は両者を結ぶパイプラインを敷設することは不可能である。そのために開発されたのが天然ガスを極低温で液化し容量を圧縮し効率よく輸出するLNG貿易である。LNGは生産現地における液化・積出設備、LNG運搬専用タンカー並びに消費地における積卸・再ガス化設備のための高度な技術と多額の設備投資が必要である。そのためにも顧客との長期的かつ安定的な販売契約が事業の成立と継続のための重要条件である。

 

 このような制約のためLNG貿易の歴史は比較的新しく本格化したのは中東のカタールと日本の間で1997年に始まった事業からである。なお最近ではLNGのスポット取引が普及しつつあるが、三国間貿易を行う国ではLNGタンカーの確保あるいは中間貯蔵・入出荷設備の建設等に原油の場合とは比較にならない多額のコストがかかることに変わりはない。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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データ更新のお知らせ

2016-08-28 | その他

OPEC年鑑2016年版(OPEC Annual Statisitcal Bulletin 2016)に基づき下記データを更新しましたのでご利用ください。

http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-D-2Oil.html

・OPEC加盟13か国の生産枠(生産目標)推移

・世界の国別原油輸出量(2011~2015年)

・OPEC加盟国の生産量(1960, 1970, 1980, 1990, 2000 & 2015年)

 

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天然ガスは目先買い手市場に:BPエネルギー統計2016年版解説シリーズ(天然ガス篇13)

2016-08-27 | BP統計

(いよいよ天然ガスの輸出国になる米国!)

(5-2)主要6カ国の天然ガス自給率

(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/2-3-G05.pdf 参照)

 現在国産の天然ガスだけでは需要に対応できず一部を輸入に頼っている国として米国、中国、UAE、英国、インド及びクウェイトの6カ国について各国の自給率[(生産量-消費量)/消費量]を見ると2005年ではUAEが114%、中国106%、クウェイトは100%でありこれら3か国は完全自給体制であった。一方英国、米国及びインドの自給率はそれぞれ93%、82%および83%であり、米国とインドは2割近くを輸入に頼っていた。

 

 有力な産油国であるクウェイトとUAEはいずれも自国に単体の(非随伴型)ガス田が無く、石油生産に伴う随伴ガスに頼ってきたが、原油生産が停滞する一方、発電・造水用燃料ガスの需要が増加し、UAEは2008年、クウェイトも2009年にはガスの自給率が100%を切っており、現在ではともに自給率8割前後にとどまっている。

 

 英国もかつては北海油田のガスで完全自給体制を維持していたが、2005年には既に自給率は93%であり、その後も年々低下し2013年には国内消費の半分程度しか賄えない自給率50%になり、2015年の自給率は58%である。

 

 中国を見ると同国の2005年の自給率は106%で完全自給体制であった。しかし2007年に100%を切り輸入を余儀なくされるようになり、以後は年々自給率が下がり2015年には70%で、消費量の3割を輸入に頼っているのが現状である。インドは2005年時点ですでに自由率が100%を切っており(83%)、2011年までは自給率70~80%台を維持していたが、それ以降は年を追うごとに自給率が急速に悪化、2015年は英国と同じ58%であり需要の4割強を輸入に頼っていることになる。

 

 これら英国、インド、中国に比べ米国の自給率の改善には目覚ましいものがある。米国の2005年の自給率は82%であり6カ国の中では最も低かったが、その後年々改善し、2006年にはインドを、また2007年には英国、2008年にはUAE、2011年には中国を追い抜いている。そして2015年の自給率は99%とほぼ自給体制を達成している。そして今や米国は天然ガスの輸出国に変化しつつあり、政府は既に天然ガス(LNG)の輸出を承認、メキシコ湾沿岸で複数のLNG輸出基地が建設され日本向けを含めた輸出が今年から始まっている。

 

(天然ガス篇消費量完)

 

 

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        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(8月26日)

2016-08-26 | 今日のニュース

・激しい中国の原油輸入シェア争い。1-7月はサウジアラビア14%、ロシア13.6%

・イラン石油相、来月のアルジェOPEC非公式会合に出席の意向表明

・サウジアラムコ、インドネシアCilacapへの出資を45%から30%に縮小

・サウジ副皇太子、来週日本と中国訪問。エネルギー・産業協力目指す

 

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天然ガスは目先買い手市場に:BPエネルギー統計2016年版解説シリーズ(天然ガス篇12)

2016-08-25 | BP統計

(5)主要6カ国の生産・消費ギャップおよび自給率

 世界の主要な天然ガスの生産国と消費国を並べると、日本やドイツを除く多くの国が天然ガスの消費国であると同時に生産国であることがわかる。例えば米国とロシアはそれぞれ世界1位と2位の生産国であり同時に消費国でもある(本稿2-(2)および3-(2)参照)。カナダは生産国としては世界5位、消費国としても世界7位であり、また中国も生産量世界6位、消費量世界3位である。中東の有力産油国であるUAEも天然ガスに関しては生産量世界15位、消費量は世界10位である。また近年天然ガス輸出国として頭角を現しているオーストラリアは生産量世界13位、消費量は世界28位である。

 ここではこれら6カ国について生産量と消費量のギャップ(需給ギャップ)の推移を見ると共に、米国、中国、UAE、英国、インド及びクウェイトの6カ国について天然ガス自給率を検証してみる。

 

(過去10年間1,800億㎥近い余裕を維持するロシア!)

(5-1)各国の生産量と消費量のギャップ

(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/2-3-G04.pdf 参照)

 6カ国のうちで2015年の生産量が消費量を上回っているのはロシア、カナダ、オーストラリアの3カ国であり、米国、中国及びUAEの3か国は消費量が生産量を上回っている。つまり前3カ国は天然ガスの輸出余力があり、後者の3カ国は天然ガスを輸入する必要があることを示している。

 

 6カ国の過去11年間(2005~2015年)の需給ギャップを見ると、2005年のロシアは生産量5,801億㎥に対し消費量は3,940億㎥であり、差し引き1,861億㎥の生産超過(輸出余力)となり、ヨーロッパ諸国に輸出されたことになる。ロシアの需給ギャップは2009年に一時1,500億㎥を割ったが、その後は再び上昇して2013年の需給ギャップは過去10年で最大の1,913億㎥に達し、2015年は1,816億㎥となっている。このことは2008年にリーマンショックのためヨーロッパの消費が一時的に減ったものの、その後の世界景気の回復と新たな国内ガス田の開発及び極東向けのLNG輸出開始により2013年には国内消費の伸びを上回る生産が行われたことを示している。しかし一昨年及び昨年は欧米先進国の経済制裁の影響により国内、輸出ともに消費量が減退したものと見られる。

 

 カナダもロシアと同様生産量が消費量を上回っているが、ロシアとは対照的に2006年以降は需給ギャップが年々縮小している。同国の2005年の生産量は1,871億㎥、消費量は978億㎥で差し引き893億㎥の余剰生産であったが、その後余剰生産量は減少し続け2015年には611億㎥になっている。2015年の国内消費量は1,025億㎥であったから10年間の消費の増加は5%に過ぎない。従って余剰生産量の減少は輸出量の減少を意味している。カナダの場合天然ガスの輸出は現在のところ米国向けに限定されるため輸出量の減少は即ち対米輸出が減ったことになる。それは次に述べるとおりとりもなおさずシェールガス革命により米国の生産量が急増したためである。

 

 2005年に米国は1,122億㎥の消費超過であった(生産5,111億㎥、消費6,234億㎥)。2007年まではほぼこのような状況が続いたが、2008年以降はギャップが急速に小さくなり、2015年のギャップは11年前の10分の1の107億㎥にまで下がっている。シェールガスによる天然ガスの供給増は目を見張るものがある。

 

 中国の場合、2005年は生産量510億㎥、消費量482億㎥で天然ガスの完全自給国であった。しかし2007年には消費量が生産量を上回るようになり、その後需給ギャップは年々大きくなっている。2015年は生産量1,380億㎥に対し消費量は1,973億㎥に達し、正味594億㎥が輸入されたことになる。この傾向は今後も続くことはほぼ間違いないであろう。

 

 オーストラリアは新規ガス田の開発により2015年の生産量は2005年の1.7倍に増加している。これに対して同じ期間の消費の伸びは1.4倍であり余剰生産量は143億㎥から327億㎥に倍増し、LNGとして輸出に回されている。UAEにおける天然ガスの用途は発電及び海水淡水化用燃料であり、かつては油田の随伴ガスで賄っていたが、電力・水の需要が急増し2008年以降は国産のガスだけでは足らなくなり、隣国のカタールからパイプラインで輸入している状況である。2015年の輸入量は134億㎥に達し既に米国の輸入量を上回っている。

 

(続く)

 

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        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(8月24日)

2016-08-24 | 今日のニュース

・イラク石油相、BPなど操業中の外国企業に生産、輸出の増加を要請

 

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