石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BP統計に見るエネルギー資源の埋蔵量・生産量・消費量(石油篇)(第2回)

2006-01-31 | その他

(BP Statistical Review of World Energy June2005)

(第2回)2004年の地域別および国別石油生産量

 

  2004年1年間の世界の石油生産量は一日平均8,026万バレル(以下B/D)であった。これを地域別に示したものが上の図である。

  中東地域が最も多く全体の30%を占めており、次いでヨーロッパ・中央アジアが22%、北米18%、アフリカ12%、アジア・大洋州10%、中南米8%となっている。 下の表は生産量百万B/D以上の産油国のリストである。

                千バレル/日   %

  1. サウジアラビア     10,584    13.2
  2. ロシア           9,285    11.6
  3. 米国            7,241     9.0
  4. イラン           4,081     5.1
  5. メキシコ          3,824    4.8
  6. 中国                         3,490        4.3
  7. ノルウェー                  3,188       4.0
  8. カナダ                       3,085       3.8
  9. ベネズエラ                 2,980       3.7
  10. UAE                          2,667       3.3
  11. ナイジェリア                2,508       3.1
  12. クウェート                   2,424       3.0
  13. 英国                         2,029        2.5
  14. イラク                        2,027        2.5
  15. アルジェリア               1,933        2.4
  16. リビア                       1,607        2.0
  17. ブラジル                    1,542        1.9
  18. カザフスタン               1,295        1.6
  19. インドネシア               1,126        1.4

  最大の石油生産国サウジアラビアは1,060万B/Dで、世界全生産量の13.2%を占めている。次いでロシアが930万B/D(11.6%)であり、この2カ国だけで全世界の石油の4分の1を産出している。以下3位から10位までは米国(720万B/D)、イラン(410万B/D)、メキシコ(380万B/D)、中国(350万B/D)、ノルウェー(320万B/D)、カナダ(310万B/D)、ベネズエラ(300万B/D)、UAE(270万B/D)と続いている。これら10カ国だけで世界全体の生産量の63%を占めており、石油の生産が一部の国に片寄っていることがわかる。因みに上位10カ国にはOPEC加盟国のうち4カ国(サウジアラビア、イラン、ベネズエラ及びUAE)が入っているが、OPEC全11カ国の2004年の生産量合計は3,290万B/D(41%)であった。

  生産上位10カ国の顔ぶれを見ると非OPECが6カ国ある。ロシア、米国、中国などは次項で見るように石油の大消費国であるが、同時に有力産油国でもあることは留意すべきであろう。なぜならこれらの国々あるいはそこで操業する国営・私営の石油企業は石油価格の高騰で豊富な超過利潤を上げており、それが国際石油市場で新たな石油権益を獲得するプレーヤーとしての資金源になっているからである。

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BP統計に見るエネルギー資源の埋蔵量・生産量・消費量(石油篇)(第1回)

2006-01-30 | その他

(注)HP「中東と石油」の「BP統計シリーズ」で2008年最新版をご覧いただけます。

(第1回)地域別および国別石油埋蔵量(2004年末)

  BP統計によれば2004年末の確認可採埋蔵量(Proved Reserve;油田の埋蔵量から既に生産したものを除き、今後採掘が可能な原油の量、以下単に「埋蔵量」と言う)は約1兆2千億バレルである。因みにこれを同年の石油生産量8,026万バレル/日で割った数値R/P(即ち現在の生産量をあと何年続けられるかと言う数値)は、40.5年である。埋蔵量はBPのほか各種調査機関が公表しており、例えばOPEC Annual Statistical Bulletin 2004によれば1兆1,400億バレル、また2003年に石油鉱業連盟が発表した「世界の石油・天然ガス等の資源に関する2000年末評価」では、9,086億バレルとされている。数値に多少のばらつきは見られるが、世界の石油埋蔵量は約1兆バレル前後と言うのがほぼ共通した見方のようである。

  地域別では中東が世界全体の62%を占め極端に集中しており、次いで欧州・中央アジア(旧ソ連圏)が12%、中南米、アフリカは共に9%、残り8%を北米とアジア・大洋州が占めている。(上図参照)

 国別に見ると埋蔵量が100億バレル以上の国は17カ国である。世界最大の埋蔵量を有するのはサウジアラビアの2,600億バレルであり、同国1国だけで世界全体の2割強を占めている。第2位はイランの1,300億バレル、次いで第3位イラク(1,150億バレル)、第4位クウェート(990億バレル)、第5位UAE(978億バレル)と続いておりこれらはいずれも中東湾岸諸国である。そのほかベネズエラ、ロシアはいずれも700億バレル以上の埋蔵量を有している。 11位、12位に米国(294億バレル)及び中国(171億バレル)が入っている。両国は石油の消費大国であるが同時に世界有数の石油資源を有していることは注目すべきである。

  1.  サウジアラビア        2,627億バレル
  2. イラン              1,325
  3. イラク              1,150
  4. クウェート              990
  5. UAE                 978
  6. ベネズエラ              772
  7. ロシア                723
  8. カザフスタン             396
  9. リビア                391
  10. ナイジェリア             353
  11. 米国                 294
  12. 中国                 171
  13. カナダ                168
  14. カタール               152
  15. メキシコ               148
  16. アルジェリア             118
  17. ブラジル               112
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活発化するインドの資源外交(サウジアラビア国王、インドを訪問)

2006-01-28 | その他

 サウジアラビアのアブダッラー国王が1/24-27までの4日間、インドを訪問した。国王は昨年8月の即位後初の外国訪問先として中国、インド、パキスタン及びマレーシアを歴訪中である。サウジ国王がインドを訪問するのは50年ぶりのことであり、インドはシン首相自らが空港に出迎え、また26日のRepublic Dayには国王を外国主賓として遇するなど最大級の歓迎の意を示した。両国は共同声明で戦略的エネルギーパートナーシップを宣言したが、サウジ国王は直前の訪問国中国でもエネルギー協力協定を結んでおり(本ブログ「深まるサウジアラビアと中国の関係」)、サウジアラビアを巡る中国とインドの積極的な資源外交が注目される。

 インドは近年目覚しい経済成長を遂げており、それに伴って石油消費量は年率5%以上の増加率を示している。全消費量の70%を輸入に頼っているが、国内生産が頭打ちのため輸入依存率は今後更に上昇すると見られている(本ブログ「インド、石油戦略備蓄を導入」参照)。サウジアラビアからの原油輸入は全体の30%を占めている。

 インドは今後激しくなることが確実な国際的な石油争奪戦の中でサウジアラビアとの関係強化をもくろんでいる。例えばインド国営石油IOCは昨年3月、サウジアラムコとR&D協力などに関するMOUを締結しているが、これはサウジ原油の長期的な確保を睨んだものであることは間違いない。またHindustan石油は、サウジアラビアARAMCOと合弁で30万B/Dの製油所建設を計画している。現在サウジアラビアには150万人の出稼ぎインド人がおりサウジアラビア経済を下支えする重要な役割を果たしているが、情報産業の振興を重点目標に置くサウジアラビアは、今後インドにその支援を期待している。技術レベルが高く、英語に堪能でなおかつ労務コストの安いインド人IT技術者は、日本が対抗できないインドの有力な貿易品目の一つであると言えよう。サウジアラビアのマスコミには欧米からインドに目を向ける「Look East」なる言葉も見受けられるほどである。

 またインドはサウジアラビアの他にもカタール或いはイランの天然ガスにも触手を伸ばしている。カタールとは既に2004年から年間5百万トンのLNG輸入が始まっており、昨年4月にはカタールのハマド国王が訪印、今回のサウジアラビアと同様の戦略的パートナーシップ協定を締結している(2005/4/17 Gulf Times)。またイランとはパキスタンを経由したガスパイプライン建設計画を協議中である。ただしパイプライン建設については、永年にわたり犬猿の仲であったパキスタンとの関係改善が前提であり、さらに米国がイランの核疑惑問題をとらえてインドを強く牽制しており、外交的な課題が多いのも事実である(本ブログ「イランの石油・ガスを巡るインドと日本のプロジェクトの行方(2)」参照)。

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深まるサウジアラビアと中国の関係―エネルギー協力協定に調印

2006-01-25 | OPECの動向

(1/24 Arab News他)中国を訪問中のサウジアラビアのアブダッラー国王は、包括的なエネルギー協力協定など中国側と5つの協定を締結し、次の目的地インドに向かった。アブダッラー国王は皇太子時代に中国を訪問しているが、サウジアラビア国王が中国を訪問するのは1990年に外交関係を樹立して以来初めてであり、また昨年8月に国王に即位して最初の外遊先が中国となった。中国側はサウジアラビアが中国を重視している現われであると最大限の歓迎の意を表明している。また中国の旧正月(29日)及びイスラム暦新年(31日)と言う絶妙のタイミングであり、サウジアラビアの巧みな外交戦略もうかがわれる。 国王の随行団は、サウド外相、ナイミ石油相を含む6人の閣僚のほか、多数のビジネスマンなど総勢250人にのぼる。

 「石油、天然ガス及び鉱物資源に関する協力協定」は、ナイミ石油相とMa Kai中国国家開発委員会議長が調印した。ナイミ石油相は協定が包括的なものであり、具体的な案件は個々に取り扱う、と説明しているが、既に中国はサウジアラビアのルブアルハリ砂漠で天然ガスの探鉱作業を行っており(Gas Initiative計画)、一方、サウジ側もアラムコがSinopec及びExxonMobilと共に35億ドルのFujian製油所拡張の合弁事業に調印しており、さらにQingdao北部の石化プラントへの出資を検討中と報じられている。

 経済が急速に発展している中国では、石油の需要は年率15%の勢いで増加しており、昨年は1.3億トンの原油を輸入している。サウジアラビアからの輸入は2001年の880万トンが昨年は2千万トンに急増し、今後も中国のサウジ原油輸入は拡大するものと思われる。

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再び値上がりする原油とOPECの動き

2006-01-21 | OPECの動向

 原油価格が再び騰勢を見せている。1/20のニューヨークWTI原油は1バレル68.8ドルとなり、昨年の史上最高値70.85ドルに近づき、ロンドンのBrent原油も昨年9月以来の高値66.43ドルとなった。また1月前半のOPECバスケット価格は56.82ドルであった。

 原油価格が再び値上がりしている背景は主要な産油国であるナイジェリアとイランの先行き不安感である。ナイジェリアでは産油地のデルタ地帯で反政府ゲリラが活発化しており、石油会社は一部外国人の引き揚げを始めている。ゲリラ側は石油施設に対する攻撃を示唆しており、OPEC第4位の生産量を誇るナイジェリアの石油生産がストップする恐れが出ている。一方イランについては核開発問題を巡って欧米先進国とイランが鋭く対立し、国連で経済制裁決議が採択される事態になればイラン原油の輸出制限になると考えられるためである。また需要サイドについては、本年も引き続き米国の景気持続と中国の景気拡大により世界の石油需要は伸びると見込まれている。

 世界の石油生産の35%を占めるOPECは、現行生産枠28百万B/Dの見直しの是非を含めて今月末に臨時総会を開くが、これに先立って昨年の石油生産実績と今年の需要見通しに関するレポートを発表した。 これによると昨年(2005年)の世界の石油需要は8,320万B/Dであり、2004年に比べ110万B/D(1.4%)の増加であり、一方、昨年12月のOPEC11カ国の生産量合計は2,982万B/Dであった。OPECは生産枠2,800万B/Dに対し約2百万B/D超過生産しているが、これは9月の臨時総会で合意された線に沿ったものである。価格については昨年のOPECバスケット年間平均価格は50.64ドルであり、前年に比べ40%の大幅な値上がりであった。

 今年の世界の石油需要を8,480万B/Dと見込んでいるが、これは昨年に比べ1.9%の増加である。特に中国の需要増は6%を見込んでおり増加量全体の4分の1を占めている。OPECレポートは、昨年同様今年も石油価格は不安定な様相を呈し、西アフリカ及び中東の地政学的緊張が高まり供給不安を抱えている、と指摘している。

 このような中でイランは、冬場を脱し石油需要の減退が見込まれるとの理由で生産枠を100万B/D削減すべきである、との論陣を張っている。IEAはOPEC同様今年の石油需要が昨年を上回ると予測し、産油国特にOPECに増産を求めている。世界の石油需給予測から見ればイランの主張はいかにも無理がある。しかし需要に見合う石油を欲している消費国の足元を見てイランは強気の姿勢である。イランは石油を武器に核開発問題で欧米、特に西欧先進国に揺さぶりをかけているようである。

  OPECの生産余力にも限界が見えており、新規油田開発など増産のための投資を行っているものの、効果を現すのは数年先のことである。今年の石油市況は昨年にも増して不安定さを増すようである。

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イラクの石油生産の現状と見通し

2006-01-17 | OPECの動向

 イラクのバグダッドで行われた米国高官(匿名)の記者会見によればイラクの石油生産の現状と見通し及び石油施設の復旧計画は以下の通りである。

 イラクの現在の石油生産は約230万B/Dであり、そのうち170万B/Dが輸出されている。目標は300万B/Dであり、生産増強の135件のプロジェクト(17億ドル規模)のうち22件が既に完了、102件が工事中、11件は今後2週間以内に発注される予定である。これまで十分な維持管理がされていなかった油井について最初の60本を改修し、その後増産による収入で160本を改修する予定である。(以上1/17付けGulf Daily News, Bahrainより)

  米国が侵攻する直前(2003年1月)のイラクの石油生産量は230万B/Dであった。米国は石油生産を湾岸戦争(1990-91年)以前の水準である350万B/Dに復旧することをイラク再建の最優先課題とした。そのためイラク侵攻後、直ちに南部油田地帯を制圧してテロによる破壊活動を防ぐと共に、バグダッド突入時には官庁の中で石油省を最初に占拠して世界第3位の埋蔵量とされるイラクの油田関連資料を押さえたほどである。

 しかしその後石油生産は当初の見込みを大幅に下回り、米国政府機関のEnergy Information Agency (EIA)の昨年12月のレポートではイラクの石油生産量は190万B/Dとしており(1/12, Khaleej Times)、湾岸戦争はおろかイラク戦争直前の水準にすら達していない。(上記米国高官の発言とIEAレポートにかなりの開きがあり、米高官発言の230万B/Dは水増しされている可能性が高い。)

 イラクの石油生産が復旧しない理由は二つある。その一つはイラク戦争後に多発している油田及びパイプラインに対するテロ活動である。2003年4月から今年1月5日までの記録に残る石油関連施設テロは290件に達している。またもう一つの理由はフセイン政権時代に石油生産施設に対する十分な補修が行われなかったことである。これは先進国が石油施設の補修部品を戦略的資材として禁輸したためである。(政権末期のOil for Foodの時代には必要最小限の部品輸出は認められていた)

 イラク解放後、米国及び日本を始めとする同盟国は、油田修復プロジェクトに名乗りを上げたが、治安が悪くなかなか手が出せなかった。漸く2004年末頃から動き始め、同年12月にカナダ(2004/12/17 Gulf Daily News)、翌年1月にイタリア(2005/1/16, Gulf Times)が支援に乗り出すとの報道が散見された。日本も4月に石油資源開発(4/27記者発表)が、また6月にはAOCホールディング(6/15記者発表)が、それぞれイラク石油省と技術協力協定を締結している。但しこれらの技術協力は治安の悪いイラク国内では無く、イラク石油省技術者を日本もしくは隣国ヨルダンで訓練するものである。

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中国海洋石油公司(CNOOC)によるナイジェリア油田買収 -そのリスクと胡散臭さ

2006-01-12 | 海外・国内石油企業の業績

  中国海洋石油公司(CNOOC)がナイジェリアのAkpo油田の45%の権益を23億ドルで買収した。Akpo油田は2000年に発見され原油・ガスの可採埋蔵量は20億バレルとされている。しかし同油田はナイジェリア沖合い200KM、水深1,100-1,700メートルの深海油田であり、CNOOCは買収額23億ドルのほかに開発費用としてさらに22.5億ドルを負担すると表明している。仏のTotal社がオペレーターとなって2008年の生産開始を目指しており、ピーク時の生産量は22.5万B/Dを見込んでいる。(ロイター電)

 経済成長が著しい中国は石油の輸入が急増しており、海外での安定したエネルギー供給源を確保するためCNOOCと中国国営石油(CNPC)の両社は世界中で石油利権を漁っている。CNOOCは昨年米国の石油企業Unocalの買収を計画したが米議会の反対により挫折した。一方ライバルの中国国営石油(CNPC)は、昨年PetroKazakhstan(カザフスタン)を買収している。石油・天然ガスの鉱区の買収と開発には巨額の費用とリスクが伴い、また海外での開発事業には政治的なリスクも少なくない。まして今回のような汚職が蔓延し、また民族紛争(ビアフラの悲劇など)を抱えたナイジェリアにおいて、しかも大深海の油田を開発するリスクはかなり大きなはずである。Akpo油田は当初インドも興味を示したが、余りにリスクが高いとして断念した経緯がある。しかしCNOOCは、オペレーターが油田開発の経験豊かなTotal社でありリスクは少ないと表明している。さらに石油1バレルに対する投資コストはAkpo油田が4.6ドルに対し、PetroKazakhstanの場合は7.3ドルであり、Akpo油田は非常に有利な案件である、と説明している。そこにはCNPCに対する剥き出しの対抗意識が垣間見られる。

 Akpo油田買収にはもう一つの暗部がありそうだ。それはCNOOCが利権を買収したSouth Atlantic Petroleumと言う企業である。CNOOCは相手企業の素性について明らかにしないが、同社の実権はナイジェリアのDanjuma国防相が握っている、と言われている。油田権益の買収には利権がつきもので有力政治家がからむことは周知の事実である。23億ドルのかなりの部分(或いは殆ど)がSouth Atlanticを通じてDanjuma国防相に流れると見て間違いないであろう。

 余談ではあるがオペレーターとなるTotal社もかなりダーティーな裏の顔を持った多国籍企業であり、仏の国営石油会社として政権のエネルギー戦略の一翼を担い、英米に対抗して世界で暗躍している。イラクの旧フセイン政権時代に同国の石油鉱区取得に積極的に動いており、フセイン政権崩壊後も中東での失地回復を虎視眈々と狙っている。中東の情勢不安で西アフリカの石油・天然ガスの開発が脚光を浴びているが、英国が旧宗主国のナイジェリアでも仏Total社は1995年と言う最後発組でありながら足場を築いている。但し後発組であるため利権鉱区も今回のようなリスクの高い大深海となる訳である。

 仏は植民地時代からアフリカに強い影響力を持っており、最近ではニジェールのウラン、ギニア湾の石油・天然ガスなどの天然資源に固執している。アフリカ大陸に暗躍するフランス人は「フランサフリック」と呼ばれ、アフリカを食いものにする悪徳外人の代名詞とすら言われる。Total社には仏諜報機関の元幹部も天下りしていると言われ、同社が諜報機関の一部との指摘もある。(フランソワ・ヴェルシャヴ著「フランサフリック」)

 今回のCNOOCのナイジェリア油田買収にはこのようにリスクと胡散臭さが付きまとっている。日本の政府或いは石油開発企業にとってはこのようなリスクと胡散臭さが付きまとう案件にはとても手が出せないし、また手を出すべきではないのだろう。

 

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インドが石油の戦略備蓄を導入

2006-01-08 | 海外・国内石油企業の業績

 インド政府が石油の戦略備蓄を正式に決定した。2015年までに総額25億ドルをかけて500万トン(約3,700万バレル)を国内3ヶ所に備蓄する計画である。備蓄量は15日分の消費量に相当する。

  2004年のインドの石油消費量は約260万B/Dであるが、過去10年の対前年増加率は6.1%の高い伸びを示している(BP統計、以下同じ)。一方、生産量は80万B/D前後で推移しているため、輸入依存率は年々上昇し70%近くに達している。インド経済は今後も成長を続けると見込まれるため、石油の輸入量はますます増大することは確実であり、インド政府は20年後の輸入依存率が85%になるとの見通しを示している。

 今回の決定は石油輸入の途絶等によるリスクを少しでも軽減するためのものである。同国はこの他にもエネルギーを安定的・持続的に確保するため、中東の石油・天然ガス産出国に対しさまざまな形でアプローチを行っている。例えばイランの天然ガスを輸入するため、パキスタンを経由する全長2,800KMのパイプライン建設を計画していることなどはその一例である(詳細は1/5付け本ブログ「イランとインドの天然ガスパイプライン」参照)。

 石油備蓄は1978年の第二次オイル・ショックの後、IEAの提唱で始まったものであるが、備蓄方式は(1)国家による備蓄、(2)法律により備蓄機関を設置する備蓄協会方式、及び(3)法律により民間企業に備蓄を義務づける方式、の3種類がある。方式は国によって異なり、米国は国家備蓄(SPR, Strategic Petroleum Reserve)、ヨーロッパは協会備蓄と民間備蓄の併用であり、日本の場合は国家備蓄と民間備蓄を併用している。日本の備蓄量は昨年10月末では国家備蓄90日、民間備蓄84日、合計174日分である(JOGMEC、石油天然ガス・金属鉱物資源機構のホームページによる)。因みに米国のSPRは世界最大の備蓄量7.3億バレルである。

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石連及び石油精製各社トップの年頭挨拶を読む

2006-01-07 | 今週のエネルギー関連新聞発表

  恒例の石油連盟(石連)会長及び各社社長の年頭挨拶が公表された。日本経済全体が上向き、経済3団体主催の賀詞交換会に出席した大企業トップは押しなべて景気の先行きに明るい見通しを持っているようだ。石油精製各社も原油価格高騰が業績に及ぼす影響を最小限におしとどめ3月期決算はまずまずの利益が予想されている。

 しかし石油を取り巻く環境は必ずしも楽観を許さず、新年の挨拶でも一層気を引き締めることを求めている。石連の渡会長は原油価格が55-60ドルの高止まりで推移するとした上で、石油業界の今年の課題として、量から質への転換の総仕上げを求め、また環境対策の推進を掲げている。また環境税の新設は見送られたものの道路特定財源の一般財源化に懸念を表明した。

 原油価格が高止まりするとの見通しは精製各社の社長にも共通した見方のようであり(出光興産、ジャパンエナジー)、また「量から質への転換」からさらに一歩踏み込んだ「質の向上」を掲げている(新日石、ジャパンエナジー)。そして法令遵守(コンプライアンス)、CSの向上など社会や顧客の眼を意識した社内の意識改革を訴えている。

 各社が置かれた固有の環境を踏まえたものとしては、昭和シェル石油トップは同社がシェル・グループの一員としての宿命で海外展開が制約されていることを踏まえ、国内マーケット密着営業を重要課題としている。また出光興産トップは同社の本年上場を控え準備作業の重要性を強調している。ジャパンエナジートップが目標の一つとして女性パワーの活用を取り上げているのが異色である。

 (各トップ年頭挨拶は「石油文化ホームページ」からご覧いただけます。)

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イランの石油・ガスをめぐる日本とインドのプロジェクトの行方(2)

2006-01-05 | 海外・国内石油企業の業績

(その1)「アザデガン油田の開発問題」

(その2)「イランとインドの天然ガスパイプライン」及び「むすび」

  昨年末にテヘランで2日間にわたりイラン・インドのエネルギー担当実務者レベルの会合が行われ、イランからパキスタンを経由してインドに至る全長2,800KM、総額80億ドル規模のパイプライン建設事業について合意に達した。イランのHosseinian副大臣はDow Jonesの取材に対し、2011-12年には天然ガスの搬送が始まるとの見通しを示した。輸入量はインド6千万立方米/日(以下CMD)、パキスタン3千万CMDの予定である。

  これに先立つ7月にはインド・パキスタンの二カ国協議がニューデリーで行われており、イラン-パキスタン-インドを結ぶ天然ガスパイプライン事業は着々と具体化に向かっている。インドとパキスタンはカシミール領有問題を巡ってこれまで幾度となく軍事衝突を繰り返してきたが、最近の両国関係は良好であり、特にパキスタン北部地震の復旧作業では相互の支配地域の自由往来が実現するなど、関係改善の機運が盛り上がっている。

  近年インドは目覚しい経済成長を遂げており、そのエネルギー需要を賄うため石油、天然ガスの輸入が急増している。BP統計で1994年と2004年を比較すると、1994年の石油と天然ガスの消費量は各々141万B/D、45百万CMDであったものが、2004年には256万B/D、88百万CMDである。10年間で石油、天然ガスともほぼ倍増しているのである。これに対して国内の生産量は1994年が石油71万B/D、天然ガス45百万CMDであったものが、2004年には石油82万B/D、天然ガス81百万CMDであり輸入の割合が高まっている。

   天然ガスについて見ると1994年には完全自給であったものが、2004年にはその一部を輸入が占めている。今後も国内経済の高度成長が続くことは間違いなく、アイヤール石油相は2025年の天然ガス需要が4億CMDに達する見込みであると述べている。既に液化天然ガス(LNG)として2004年にカタールから年5百万トンの輸入が始まっており、将来1千万トンまで引き上げられる予定である。インドはカタールとの更なる関係強化を目指しており、昨年4月にカタール首長がインドを訪問した際に両国は戦略的パートナーシップとなることに合意している(因みにカタールが仏製中古ミラージュ戦闘機12機をインドに売却すると言う契約も同時に行われている)。また、同年6月にはインドはイランともLNG輸入契約を締結した。これは年間5百万トンのLNGを2009年から25年間輸入(総額220億ドル)する大型契約である。

  そして今回のパイプラインにより2025年に4億CMDと予測される天然ガス需要に対処しようというのがインドの目論見である。インドが陸続きの他国から天然ガスをパイプラインで輸入することを検討し始めたのは新しいことではない。しかし近隣の天然ガス産出国はイランや中央アジアであり、パイプラインはパキスタン或いはアフガニスタンを通過しなければならない。特にパキスタンとは犬猿の仲であったためパイプライン構想は実現困難とされてきた。インドが巨額の投資を必要とするLNGとして輸入せざるを得ないのはこのためである。ところが最近インド-パキスタン関係が雪解けの気配を見せたことにより、パイプラインによるイランからの天然ガス輸入がにわかに現実味を帯びてきた。インドにとって千載一遇のチャンスが巡ってきたと言うべきであろう。

  しかしここにきて新たな障害が立ちはだかった。それは米国である。イランを「ならずもの国家」と断定する米国は核疑惑問題を取り上げ、国連を通じた国際的な経済制裁を強化している。このような米国から見るとイラン-パキスタン-インドのパイプライン敷設はイランに対する利敵行為と映る。昨年3月にインドを訪れた米国のライス国務長官も、インドがイランからエネルギーを輸入することには如何なる形であろうとも反対する、との強い警告を行っている。

むすび

 日本とインド両国にとってエネルギーの安定確保は至上命題であり、石油と天然ガスいずれも世界第二位の埋蔵量を誇るイランは経済的に最も重要な国の一つである。と同時に日本は極東アジアの安全保障問題を抱え、またインドもカシミール、アフガニスタン、中央アジア諸国の紛争等の問題があり、両国共米国との同盟関係は外交的な最優先課題である。

  このような中でインドは状況を慎重に見極めつつも自国の経済発展を最も重要な政策課題と位置づけ、そのためのエネルギー確保の一手段としてイランとのパイプライン建設実現に強い決意を見せている。日本としても腹を据えてアザデガン油田の開発に取り組む必要があろう。

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