川崎重工業は24日、世界初の液化水素の運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を報道陣に公開した。今年度後半にはオーストラリアで採掘した安価な石炭から製造した水素を液化し、神戸市へ運ぶ実証実験を開始。国境を越えた液化水素の導入は世界初の試みで、次世代のクリーンエネルギーである水素を低コストで大量輸送できるサプライチェーン(供給網)の構築に取り組む。(岡本祐大)

 運搬船は全長116メートル、総トン数は約8千トン。2030(令和12)年の商用化を目指している。川崎重工の担当者は「日本の技術を生かした簡単にまねできない製品だ」と述べた。

 実証実験には岩谷産業や電源開発、大手商社なども参画。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が支援する。

 豪州で採掘される安価な石炭「褐炭」をガス化して現地で水素を製造。マイナス253度に冷却し液体化することで体積を800分の1にし、大量輸送を目指す。一度に運べる液化水素は1250立方メートルで、水素を使う燃料電池車(FCV)1・5万台の燃料に相当する量という。

 サプライチェーンの構築に向け、神戸に世界初の液化水素荷役ターミナルを整備し、国内最大の貯蔵タンク(2500立方メートル)を設置した。商用化された際には近隣の工場や水素ステーションなどに供給する見通しだ。

 今回の実証実験で目指すのは、安価で安定的な供給態勢の確立だ。実証実験で用いる褐炭は、乾燥すると自然発火しやすく輸送が困難であるため、通常の石炭より安く、大量調達しやすい。

 現在、国内で製造した水素の供給コストは1立方メートルあたり約100円。経済産業省は今回の試みも含めて水素のサプライチェーンが構築され、国内の水素需要が増加することを前提とした場合、30年に30円への引き下げを掲げる。50年には20円以下と、液化天然ガス(LNG)などと同程度のコストにまで引き下げることを目標としている。

 今後の課題は、運搬船の大規模化だ。採算性を見込むには、輸送量も一度に16万立方メートル程度に引き上げなければならない。川崎重工は「世界標準となる技術を作りたい」としている。

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 燃焼時に二酸化炭素(CO2)を出さない水素エネルギーは、2050(令和32)年に温室効果ガス排出を実質的にゼロにする政府目標で「キーテクノロジー」に位置付けられた。政府は30年に最大300万トン、50年に2千万トン程度の導入を目指しており、製造時のCO2排出低減と低コストで安定した調達が課題だ。

 水素の製造には大きく分けて石炭や石油など化石燃料から取り出す方法と、水を電気分解して水素と酸素に分離する方法がある。

 化石燃料から取り出す場合はCO2が排出されるため、回収し地中に埋める手法などが研究されている。一方、再生可能エネルギーの電力で水を電気分解して作った水素は製造過程でCO2を排出せず、よりクリーンな水素とされる。いずれも低コスト化に向けた技術開発が課題だ。

 今回豪州から運ぶ水素は石炭のなかでも安価な褐炭から製造し、コストを抑える。将来的には発生したCO2は地中に埋める。

 国内でも水素製造は本格化。昨年3月、福島県浪江町に世界最大級の水素製造能力を持つ「福島水素エネルギー研究フィールド」が誕生した。太陽光発電で水を電気分解して水素を製造。1日の製造量は約150世帯の電力1カ月分を賄える規模という。